【CDJ楽器研究所】 山びこ効果を作り出すエフェクター、ディレイ&エコー

2008/02/20掲載
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ダブやポスト・ロックなどの世界ではなくてはならないエフェクターであり、ロック・ポップスの世界でも多くのミュージシャンやエンジニアに使用される空間系エフェクター「ディレイ」。“山びこ効果”とも呼ばれるその効果は、「エコー」と瓜二つ。では、ディレイとはいったい何なのか? エコーとは何が違うのか? それでは、少しずつ紐解いてみましょう。これを知れば音楽の楽しみも広がるはず。
 一般的に“山びこ効果”と呼ばれることが多いエフェクトの「ディレイ」「エコー」。両方とも同じような効果を持ち、その違いがわからないという人も多いと思います。結論から言うと、この2つのエフェクターの効果は実はほぼ一緒で、ともに入力された音が遅れて返ってくる効果を用いたエフェクターになります。厳密に言えば違いがあるのかもしれませんが、効果を発生させる機材(その方法)からその音の微妙な違いが起きると考えていいかもしれません。それでは、ディレイとエコーを説明していきましょう。


■テープエコー

 磁気テープに録音した音を再生して、山びこ効果を生み出すテープエコーは、録音用・再生用・消去用の3種類のヘッドを搭載した装置で効果を発生させるもの。仕組みは、録音ヘッドによって録音された音を再生ヘッドにて再生し、そこから出力された音をもう一度録音ヘッドにて入力することで音を繰り返させ、山びこ効果を生み出していくというものになります。ディレイ・タイムの変化などは、テープの回転速度や録音ヘッドと再生ヘッド(複数個あるものもあり)の距離を調整して行ないます。また、回転ムラなどによるスピードの不安定さから生じる微妙なピッチのずれが生じたりもするのですが、これが逆に、テープエコーの音の特徴のひとつとして考えられるようになりました。エンドレスのテープを使用すれば永遠に音が続く効果を作り出すことができたのも、特徴のひとつですね。ただ、テープエコーはテープによる再生方式のため、テープの劣化やヘッドの汚れなどメンテナンス面でのデメリットもありました。

■アナログ・ディレイ

 そんなテープエコーに代わって使用されることが多くなっていったものが、アナログ・ディレイになります。磁気テープの代わりにBBD(Bucket Brigade Device)というアナログ遅延素子を用いたアナログ・ディレイは、BBDによって名の通りにバケツリレーのように音を伝達させて出力していくものでした。つまり、信号を遅らせる回路を数珠つなぎにして、原音との遅れを作り出しディレイ効果を出していたのです。こちらはテープエコーのような劣化などはもちろんなく、操作性も安定はしているのですが、ノイズなどの問題があったため、PAなどで用いられることはあまりありませんでした。ただ、アナログ特有の温かみのある音と、テープエコーではヘッドなどの構造上不可能だったショート・ディレイが演奏可能ということもあり、数多くのミュージシャンに愛用されました。しかし、BBD(アナログ遅延素子)の製造が衰退していくとともに、アナログ・ディレイも衰退の道を辿っていきます。

■デジタル・ディレイ

 デジタル・ディレイは音の劣化が少なく、原音に近い音が響くのが特徴。入力した音(サンプリングした原音)をデータに変換したのち、設定した時間にあわせ再びアナログ出力して効果を生み出すものになります。デジタル処理になったことで、ディレイ・タイムの緻密かつ正確な設定なども可能になり、ロング・ディレイや逆回転奏法なども可能になりました。また、音がクリアで安定しているため、スタジオやPAでも使用されるようになっていきました(80年代に生産されたKORGのSDD-2000ローランドのSDE-3000などは今でもスタジオなどで愛用されるなど、名機として語り継がれています)。ただ、初期のデジタル・ディレイでは、テープエコーやアナログ・ディレイのように繰り返しで起きる自然な音の劣化がなく、ディレイ音がクリアなまま繰り返されることもあり、若干の不自然さを伴っていたこともありました(現在ではパラメーターの操作で処理が可能)。今ではBOSSをはじめとするメーカーからコンパクト・エフェクターも数多く発売されているので、持っている方もいるのでは?

 ここから、テープが持つアナログの独特な質感を求めるならテープエコー、音の温かみを求めながらも安定性を求めるならばアナログ・ディレイ、緻密かつクリアな音やロング・ディレイなどを求めるならデジタル・ディレイという選択肢が生まれ、ミュージシャンそれぞれが自分の趣向性にあったものをチョイス出来るようになったわけです。

 そんなディレイやエコーは、音に厚みを持たせる、広がりを持たせる、バックの音にヴォーカルをなじませるなど、空間処理を行なうエフェクターとして使用されます。ギタリストが音色を作るのに使用するのはもちろん、ヴォーカル、レコーディング作業でも使用され、どのスタジオにも常備されているといってもいいでしょう。また、コーラスフランジャーピッチ・シフターなどのエフェクターも、ディレイの原理を生かしたエフェクターなので、ディレイなくしては生まれなかったもの。つまり、空間系エフェクターの基本軸となるものがディレイと考えることもできるのです。




 さて、ディレイを駆使しているアーティストを挙げていくと、やはりU2エッジがその代表格ではないでしょうか。「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)」(アルバム『ヨシュア・トゥリー』収録)のイントロや「プライド」(アルバム『焔』収録)などで聴けるそのギター・サウンドは、ディレイがどんなものなのかを理解するのに最適な楽曲ではないでしょうか。 エッジのギター・サウンドはディレイなくしてはあり得ないものになっているので、U2の楽曲でディレイ・サウンドを探ってみるのもいいかもしれませんね。他にもブライアン・メイロバート・フリップマニュエル・ゲッチングなどもディレイを駆使するアーティストとして挙げられるでしょう。

 日本ではディレイというとヴィジュアル系バンドのギター・ソロやフレーズなどがすぐに思い出されますが、プロデューサーやエンジニアとしても活躍する石田ショーキチが、スクーデリア・エレクトロ在籍時に発表した「Rock'n roll missing」やソロ・アルバム『love your life』に収録された「slow ride」のイントロで印象的なディレイ・サウンドを奏でています。また、テクノの世界でもディレイは使用されることが多く、レイ・ハラカミなどもディレイを多く活用するアーティストの一人として挙げられます。

 ロック、ポップス、テクノ、ダブ……。あらゆる音楽で使用されるこのディレイ。どこで使われているかを考えながら音楽を聴いてみると、より音空間が広がり、聴こえ方も変わってくるかもしれません。耳を澄まして聴いてみれば、いたるところでそのエフェクト効果を感じることができるはずです。音楽の余白部分がどのような余韻で埋まっていくのか。楽器や歌声とどのように絡み合って鳴っているのか。それを感じることができれば、音楽の世界がより深いものになります。奥深いディレイの世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
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