十影とULTRA-VYBEによるマイク・パフォーマンス・プロジェクト『ULTRA SMASH』誕生

十影   2026/01/12掲載
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 リリースアーティストとして20年以上のキャリアを誇り、昨年12月には最新作『NEW TOKA'S LIFE』を発表したラッパー、十影。彼がULTRA-VYBEとタッグを組み、ディレクションおよびプロデュースを担うプロジェクト『ULTRA SMASH』を立ち上げた。
 本プロジェクトは、ニュー・カマーから中堅、ベテランまで世代を横断したアーティストが参加し、毎週1曲ずつ新録曲を配信。あわせてパフォーマンス・ビデオも公開していくという試みだ。1月12日のスタート回にはHanemiiが登場し、以降は初顔合わせのタッグ曲なども含め、バラエティ豊かな作品がリリースされていく。本稿では、『ULTRA SMASH』に込めた狙いや今後の展望について、十影に話を訊いた。
――まず、今回の「ULTRA SMASH」というプロジェクトをスタートされたきっかけを教えてください。
 「ここ数年で、ラッパー人口は爆発的に増えてると思うんです。自分がラップを始めた30年ぐらい前は、まだプレイヤー自体が少なかったし、音源も全然少なかった。だからほぼすべてのリリースを追うことはギリギリ可能だったけど、いまは絶対に不可能なぐらいその量が増えていて。数字的に見ても、『RAPSTAR』に6000人以上の応募(注:2025年放送分は公式発表は6780人)があるということは、その世代だけでも何倍もラッパーはいるわけですよ。そしてシーンには『RAPSTAR』に出るようなニュー・カマーだけじゃなくて、キャリアを重ねたアーティストも数多くいる。でも、そうやって規模が大きくなったからこそ、注目を集めることがすごく難しくなっているとも思うんです」
――リリースの量の増加や、リリースの形態の変化によって、ピックアップすることもされることも、ハードルが高くなっていますね。
 「僕がラップを始めた頃はiPhoneもiPodもなかったし、カセットテープからやっとMDになった頃で。DTMなんて周りでは誰もやってなかったから、音源を録ることも、聴かせることすら大変だった。だけどいまは自宅でレコーディングして、自分でミックスして、配信でそのまま出せるようになってるし、それを聴かせる方法や広める方法はたくさんある。でも逆にその方法が多様すぎて、リスナーがそこにたどり着くまでが大変。だからこそ、世に出ていない才能やアーティストを拾い上げることができるようなコンテンツ、日の目を浴びることができる場所が必要だと感じていたんですよね。その意味でも、この『ULTRA SMASH』は、いわゆる若手をフックアップするようなアプローチがメインではなくて、“楽曲を作る”という素晴らしい才能を持ってる人なら、どんな世代でも参加ができるようなコンテンツにしたいと思っていて」
十影
――シーンを長く見てきた立場だからこそ抱く感情も、そこには影響していますか?
 「僕自身、10代から30年近くヒップホップ・シーンにいて、俺よりラップが上手いやつ、才能があるやつをたくさん見てきた。そこには、時代の流れや状況に恵まれなくて、辞めていったやつも少なくなかった。もしその時に『ULTRA SMASH』のようなコンテンツがあったら、もしかしたら歴史は変わってたのかなとも思うんですよね。いろんな経験してきて、昔の音源の重みも、いまの利便性もわかった上で、メリットもデメリットも理解した上で、それらをすり合わせるような動きができればなと。同時に、若いラッパーを聴く人と、ベテランのラッパーを聴く人が分かれてきているんだとしたら、その両方を分け隔てなく聴く機会を作りたいと思うし、そこから“スマッシュヒット”は生まれると思うんですよね」
――今回はいわゆる即興やフリースタイルではなく、“楽曲として構築されたもの”が全体の軸になるそうですね。
 「そうですね。現状では7〜8組のトラックメイカーがこのプロジェクトに参加していて、その提供トラックをラッパーに選択してもらったり、僕のほうでトラックやテーマを選んでアーティストにぶつけることで化学反応を起こすような構成を進めています」
――アーティストの選定は、どのような経緯で行なわれているのでしょうか。
 「僕は“トカバナナ”というバナナジュースの店をやってて、フードトラックで移動販売もやってるんです。そうすると“音源を聴いてください”とか“ラップやってて”と直接訪ねてきてくれるラッパーも多くて。多分、世の中のおっさんラッパーでいちばん気軽に会えるのが俺なんです(笑)。そこで面白いラッパーやアーティストに出会うことは多いんだけど、たとえば自分のアルバムに入ってもらってフックアップするとか、コラボするとかっていうのは、正直キャパオーバーになっていて。友達のラッパーや関係者に紹介するにも限界がある。だけど、こういうコンテンツがあれば、“こういう面白いラッパーがいる”っていうのが、もっと伝わりやすく、わかりやすくなると思ったんですね」
――その意味では、十影さんがキュレーションするという側面も強いんですね。
 「現状はそうですね。自分は中間管理職みたいな世代にあたると思うんですよ。雷や“さんピンCAMP”勢がストリートの第一世代だとしたら、その次にNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDや妄走族の世代がいて、その次の世代が僕の所属するLUCK ENDのような年代だと思う。先輩たちがシーンを牽引してきたのも見たし、自分たちが同じように現役としてシーンを引っ張った時期もあるし、日本語ラップ冬の時代やMCバトル・ブーム、いまの進行形のヒップホップもすべて見てきて。その中で、自分と同世代でこういうコンテンツを作ってる人間はまだいないはずなんですよね」
――オーディションやイベントではなく、新曲音源と映像の配信を軸にしたコンテンツですね。
 「そうですね。Ryuzoくんが立ち上げた『RAPSTAR』とも、YZERRの『FORCE Festival』とも違う形というか。JNKMNにも言われたんですよ。“全部の世代をカヴァーできるようなプロジェクトはないよね。十影くんは渋谷でずっとシーンを見てきたんだから、それを立ち上げるには適役なんじゃないの?”って。その言葉も後押しになりました」
――コンセプトに掲げられている“レベル・ミュージックの素晴らしさを世に。”という言葉には、どのような意図が込められていますか?
 「やりたいこと、できること、長所、思想……それらを全部くっつけて、“その人の言いたいこと”をかならず込めてもらう、というイメージです。それがレベル・ミュージックの面白みや強みだと思うんです。自分が関わるプロジェクトなので、ハードなストリートみたいなものばかりになると思う人もいるかもしれないけど、まったくそんなことはなくて。今回のプロジェクトの中では、めちゃくちゃハードなことも、恋愛ソングも、政治的なことを歌うやつもいる。性別もバックグラウンドも関係なく、その人の考えるメッセージを発信できるのが、レベルミュージックであり、ヒップホップだと思うんです」
――これから配信される予定の曲も拝聴しましたが、その構成は非常にバラエティ豊かでした。一方、政治的な内容を歌う曲の中では、僕の基準ではヘイトにあたるワードを含んでいたり、僕が考える“レベル”とは相容れない曲もありました。ただ、そういう場があること自体は否定するべきではないとも思うし、ここからさまざまな広がりは生まれるのかなとも感じました。
 「いろんなことを歌うのがレベル・ミュージックだとは思うし、そこで各自の考え方が出ることがいいと思うんです。同時に、思想がまったく違う同士を組み合わせたらどうなるのかな、とかそういう部分にも興味が湧いていて。本当にいろんな畑から、それぞれが“これがリアルヒップホップだ”と思うものを出したい。だから、長いスパンで見てもらえると、偏らないことがわかってもらえると思うし、面白いコンテンツになると思うんですよね。その中で、お互いの畑からファンが行き来してくれたらいいなって思ってます」
――“組み合わせ”というお話がありましたが、曲によってはアーティスト同士がコラボする楽曲も制作されるそうですね。
 「もともと仲がいいラッパー同士の組み合わせもあれば、このプロジェクトで初コラボ、もっと言えば映像のシューティングで完全に初対面の人もいます。たとえば“長期服役経験がある2人”というコラボもあるんです。その経験から折り合うこともあるだろうし、ぶつかったときの表現も形にしたいと思って。あと“眠れる獅子を起こす”という計画もあります。自分と同年代とか、30代なかばぐらいのアーティストで、以前は注目されていたのに、ちょっと活動が停滞したり、いろんな事情で動きにくくなったラッパーも少なくないんです。ただ、いまのシーンのスピードからすると、5年動いてなかったら完全に過去の人というか、存在すら若い子には知られなくなってしまう人もいる。そういう眠れる獅子も参加してもらうことで、あらためて注目される機会を作りたいという気持ちもあります」
――ラインナップの中には、ヒップホップ・リスナーには名の通ったベテランのラッパーもいれば、不勉強ながらお名前を存じ上げないラッパーもいました。
 「何曲かしか出してないとか、ライヴは数回しかやってないというラッパーもいますから、ここで存在を知るラッパーも多いと思います。現状は20曲ぐらい、約半年分ぐらいの楽曲が揃っているんですけど、ニュー・カマー、中堅、ベテランとバランスよく参加してもらえてると思います。そのほぼすべての制作を僕がやっているので、現状は関東近郊の、物理的にも僕の手の届く範囲のアーティストが中心になっているんですが、今後しっかりと軌道に乗れば、その範囲を全国に広げていきたいと思います」
Hanemii
Hanemii
――このプロジェクトの幕開けとなる1月12日配信分には、Hanemiiさんが登場します。『RAPSTAR』にも応募されたラッパーですが、彼女をトップバッターに据えた理由は?
 「彼女は曲を作る才能に秀でてるし、カリスマ性があるというのが最大の理由です。そして忖度しないコンテンツにしたかったというのもあります」
――というと?
 「自分と同年代や年下の売れているラッパー、そして、いわゆるレジェンドのラッパーともコネクションがあるし、お願いすれば御祝儀代わりに快諾してくれるひともいるとは思ったんです。でも、そこで“十影の人脈プロジェクトか”と思われるのは単純に嫌だったし、男のベテラン・ラッパーでスタートしちゃうと、そこにも意味合いが生まれちゃうのかなと。それは可能性を狭めることになるし、カラーがつくことになってしまう。それで、プロジェクトのトップバッターに、いまからガンガンにシーンをのし上がってく、フレッシュな若手の女性ラッパーを据えることで、バラエティ豊かな、クオリティの高いアーティストがどんどん登場するプロジェクトであることを証明したかった。それがこのプロジェクトは誰もが平等にチャンスがあるんだということのメッセージにもなってほしいし、そこでみんなが興味を持ってくれるんじゃないかな」
――彼女の楽曲にはディレクションをしましたか?
 「ほぼしていないです。彼女はこの先、絶対にスターになるのが見えてるし、新しいジャンルみたいな子なんで、そこでも可能性を狭めたくなかった。逆に、これまでにいろんな作品を出している人に関しては、こういうアプローチをしてほしいというお願いはしていますね。そこでも作品の可能性を広げたい」
――今回の動画は“MV”ではなく、“マイクパフォーマンス”が軸になっているそうですね。
 「一発撮りに近いし、生々しい感じになっていると思います。パフォーマンスの内容も、仲間連れのやつもいるし、小道具を持ってきたり、逆にマイクだけっていうのもあって。“このパフォーマンス動画で一気に行ったね”“ここからスマッシュヒットしたね”みたいに将来言えるようになったら面白いですよね」
――十影さんの考える“スマッシュヒット”とは?
 「再生回数や売上も大事だけど、自分の考えるスマッシュヒットは、“その曲が誰かの心に刺さるかどうか”ですね。久しぶりに聴いた瞬間に、その当時の景色や空気がフラッシュバックするような、リスナーの人生と結びつくような音楽こそ、スマッシュヒットだと思う。誰かと手をつないで歩いた記憶とか、いまは乗り越えられたけどすごくつらい思い出だったり、良い意味でも悪い意味でも聴いた瞬間にフラッシュバックするような、一生残るような音楽は誰しもあると思うんですよね。だからこそ『ULTRA SMASH』でも、その人の心に楔を打てるような一曲を、一つでも多く生み出すことが目標ですね。5年後、10年後に聴き返したときに、感情が一気に立ち上がるような音楽を残したい」
――このプロジェクトはどのような予想図を描いていますか?
 「才能が埋もれずに循環していく仕組みを作りたいですね。同時に、東北には東北のスタイル、九州には九州の文脈があるように、それぞれの土地で、その土地の人が主体となって動いてる構造があると思うんです。だからこそ、日本各地に『ULTRA SMASH』の拠点だったり、協力者を作っていきたい。自分はこのコンテンツにしがみついて、金を稼ぎたいとか、権力を得たいとか、そういう気持ちはまったくない。ただひたすら、才能ある人間が次々と表に出ていくための土台を作りたいだけなんですよ。だから、このシステム自体を共有して、“手の届きにくい場所”にいる才能がどんどん出てこられるようになることが本望ですね」

取材・文/高木“JET”晋一郎
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