ノルウェー産アニメーション映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』で、まさかの“精子役”として声優デビューを果たしたラランドのニシダ。その異色すぎる役どころは話題性だけでなく、作品の世界観を支える重要な存在でもある。初挑戦の裏側と、声だけで演じる難しさ、その役作りについても聞いてみた。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』('24ノルウェー)
配給:シンカ
新宿ピカデリーほか全国劇場にて絶賛上映中
2024(C)74 ENTERTAINMENT AS
https://synca.jp/spermageddon/――今回の吹き替えのオファーがきたとき、率直にどう思ったかお聞かせください。
「やっぱり最初はウソかと思いますよね(笑)。精子の声優ってね……聞いたことないですから。マネージャーも、声優の仕事がきたということよりも、精子の声優ということで変にテンションが上がっていたので、ウソだろ? と(笑)。ただ、これはふたつ返事でしたよ。精子の声優ができることなんてなかなかないので、すぐに受けよう思いました」
――ストーリーについて、どう感じましたか?
「台本を先に見たんですけど、精子が主人公ということでかなりボケっぽいのかなと思っていたら、そういう面もありつつ、人間側のカップルがいて、そのなかで精子たちが受精を目指して頑張っていて、という二軸で進んでいくんですよね。ストーリーは想像以上にハラハラするような展開で、映画としてすごくおもしろいなと思いました」
――吹き替えの仕事自体は興味があったのでしょうか。
「声優というお仕事は、いつかやりたいなとは思ってました。ドラマとか映画とか、役者としてのお仕事はたまにいただくんですけど、声優はほんとうに初めてだったので、やってみたいなと思ってましたけど、やっぱり難しかったです」
――演じるという点でこれまでとは違いましたか?
「舞台とかドラマに比べたら、だいぶ難しかったです。台本にセリフは書いてあるんですけど、最初に声を当てるときに言われたのが、このキャラクターが、たとえば力んでいるみたいな顔をしてたら、そういう声を出してくださいね、ということだったんです。そこは台本には書いていない部分ので、自分で埋めなきゃいけないんだと知って。いままで経験したことがなかったので、そこは考えました。セリフがあるところよりも、ないところのほうがとくに大変という。そもそも精子っぽい声ってなんなんだろうというのもありますよね(笑)」
――精子が力む声を知らないですからね(笑)。
「映像を見たらキャラクターはすごく可愛らしいですし、ちょっと引っ込み思案のあまり前に出られないタイプなんですよね。当日、スタジオに行ってやってみて、なんとなくこんな感じかなというのを固めていった感じです」
――強烈なインパクトのセリフがいくつも出てきて思わず爆笑してしまったのですが、さらりと演じられているのが最高でした。
「ゲームのタイトルがすごいですよね! 語呂合わせがよくあんなにうまいこといくなと思いました。精子がそんなゲームしてるんだっていう驚きもありますし(笑)。現場ではあああいう言葉を真面目にアテレコしてましたけど、その状況は冷静に考えるとかなり変ですよね。いまのはちょっと尺からあふれちゃったので、もう一回、みたいなのを何回もやったり。ゲームのところはとくに早口で何回も言いました。いろんな大人に観られているなか、あんなに大きい声であんな言葉を言うことはきっともうないです」
――もしその現場にいたら笑ってしまいそうです(笑)。
「台本を読んだ時点で笑い終わっていたので、本番は笑わずにやれました(笑)。笑えると言えば、コーンのシーンがあるじゃないですか。べつに普段から食べたりしてますけど、あんな絶望的なコーンはないですよね(笑)。なにをどう間違ったんだと思うけど、あれはおもしろかったですね」
――ストーリーは見てのお楽しみですが、精子たちはとんでもない冒険を繰り広げます。
「そのルートから行こうとするのか、という。最初に主人公のシメンくんが射精されるまでの流れからすごくおもしろいですよね。警報が鳴って、精子たちが砲台みたいなところに集まって、カウパーでぬるぬるにして、発射されるまでのディテールが全部楽しかったです。アイアンマンみたいなやつとかもいて。アイアンマンみたいな精子ってなんだよってことですけど(笑)。発射されたあとのスタート地点がすごくて、そんなのありえるの? って思いますけど、そこから受精できるのかどうかというストーリーテリングの見事さはあります」
――完成をご覧になっての感想はいかがでしょうか。
「じつはアテレコは自分が最初だったんですよ」
――そうだったんですね!
「もともとの言葉は入っていて、日本語は誰の声も入ってない状態で。一緒に冒険する女の子っぽい精子のカミラはノルウェーの言葉で喋っていて、それに自分が日本語で返すという流れだったんです。みなさんがどれくらいのテンション感になるのかもわからないので不安だったんですけど、プロの人と一緒だと緊張してしまうと思うので、それはそれでよかったのかもしれないです。まわりの人の声と合うのかなと少し心配しましたけど、完成版を見たら、ひとりで録り終えたときの不安に比べるとちゃんとひとつのアニメーションの世界になっているなと感じました」
――ちなみにどのくらいの時間がかかったのでしょうか?
「3時間くらいだったと思います。こんなに早く進むんだと思いました。最初は慣れるまでうまくいかないこともあったんですけど、ある程度いくとスッスッと進むので、それもそれで不安でした。監督から"いただきました!"がどんどん出るので、ここ一回しか言ってないのに大丈夫なのかなと思うくらいで。監督の手腕がさすがでした」
――ニシダさんの演技も素晴らしかったです。少し控えめなキャラクターがハマっていて。
――吹き替えならではの見どころはどんなところでしょう?
「やっぱり字を追わなくていいのはデカいですよね。しかも、体内のことなので難しい漢字も多いですし。"膣内射精"なんてかなり角ばった文字ですから(笑)。"膣"はすごく画数が多くて難しい(笑)。となると、吹き替えも観てほしいです。自分がやっているからというのもありますけど、とにかく大橋彩香さんがすごいんです。キャラがほんとうに喋っているようで。自分も頑張りましたけど、プロの声優の方のスキルはまったく違いますね」
――ご自身で演じられたからこそ見えることもありましたか?
「まさにそうです。以前からアニメが好きで、海外の3Dアニメーションもよく観てましたけど、声優の人のすごさというのは、自分でやってみてあらためてわかりました。画面を見ながら自由度のある芝居をしているんだと初めて気がつきました。さっき言ったような、セリフになっていないようなところをその場のインスピレーションでやられたり、こんなに難しいことをみなさんやっているんだとわかって、驚きました。声優さんって、たとえば声が綺麗とか、特徴があるとか、いろんな振れ幅があるとか、声色に注目しがちですけど、ほんとうにすごいのは芝居なんだなと。大橋さんだけじゃなくて、みなさん芝居が上手なんだというところに思い至りました」
――この作品をどんな方にご覧いただきたいと思いますか?
「PG-12なんですよね。保護者同伴だったら子供でも観られるという。でも、親同伴ではどうなんですかね(笑)。年齢的には中学生以上で、友だちと行くのが楽しいだろうなと。ただ、ストーリーがよくできているので、どんな人が観てもおもしろいとは思いますよ。いろんな人に見てほしいけど、まだ仲良くなっていないひととデートで行ったりしたら気まずくなるとは思います(笑)」
取材・文/南波一海
撮影/竹之内祐幸