mouse on the keys、“エモーション”が息づく『an anxious object』を発表!

mouse on the keys   2009/07/16掲載
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 “言葉が見つからない”……。mouse on the keysについて語ろうとすると、いつもこの言葉に帰結する。しかしながら、彼らが投げかけてくる“情報”について考えることは、不思議とストレスとなることはなく、続々と新たな楽しみを波紋のように作り出していく。東京のポスト・ロック・シーンで活動するバンドであることは間違いないが、その中でもひときわ異彩を放っているmotk。“ポスト・ハードコア”のボキャブラリーでは語りきれない一方で、エクストリーム・ミュージックの果てともいうべき“エモーション”が、ドラムとピアノを主軸とした彼らの美しいメロディと人間が演奏しているとは考えたくないような、激しい変拍子の渦にひっそりと息づく最新作『an anxious object』について、語ってもらった。


――1stフル・アルバム『an anxious object』がついに完成しましたね。おめでとうございます。レコーディングはいつごろからスタートしたんでしょうか?
清田 敦(p、key) 「今年の3月から前作のミニ・アルバム『sezession』と同じスタジオで、録音は9日間。日をあけてミックスして、トータル2週間で完成しました」
川崎 昭(ds、p) 「昨年末に、ライヴですでに演奏していた曲をレコーディングしようと計画をしていたんですが、さらにインパクトのある曲を作ってから、改めてレコーディングしたいと思ったので、今年の3月になりました」
――motkのスタート当初はやはり川崎さんのリーダー・バンドとして、リーダーの呼びかけにメンバーが応えるという構図があったと聞いています。本作では以前よりも川崎さんの“やりたいこと”が浸透して、音楽の細部やアートワークにちゃんと結実したんだなあという印象がありました。何か具体的な変化はありましたか?
川崎 「今回のアルバムで新留(新留大介/p、key)を加えた3人編成のスタイルが形になったと思います。最初は僕と清田の2人組としてスタートしたけれども、この1年8ヵ月の間、紆余曲折があり、ようやく落ち着きました。2人から3人になった理由としては、ドラムと鍵盤の同時演奏に限界を感じたから。技術的な話をすると、片手でドラムを演奏すると16ビートが叩けないからです」
清田 「ドラムと鍵盤を川崎さんが同時に演奏することは、無理を承知でやるから、という話だったので、当時は物理的に無理だとかは考えていませんでした」
川崎 「でも、そのスタイルでは曲の幅が広がらないってことに気がついてしまって。僕がドラムに徹して、新留にキーボードを弾いてもらったら形になるな、という方法を試した曲が〈最後の晩餐〉だった」
――前作は川崎さんが打ち込みで作曲を行なって、それを再現する手法だったとのことですが、曲作りの方法に関して変化はありましたか?
川崎 「これまで通り、曲作りのベーシックな部分はPCを使って僕が作っています。でも演奏しやすさとか、バランスはそれぞれにゆだねることで、2人の意見が反映されて バンドらしく変化してきた。実際に演奏する人間が考えて音を発しないと機械のようになってしまうから、もっと深く音に関して2人に食い込んできて欲しいと思っていたことに制作中に気がつきました。実際、メキメキと清田と新留の腕があがってきていて、清田じゃないと弾けないフレーズや、正確さだったり。新留のベース・ラインだったり、バンドならではの醍醐味、3人の中で曲が育っていく感じが生まれた。今もその流れが続いていて、続けていくのが面白い。

 それはバンドに対しての意識という点でも同じで、表面的なことだけれども、渚音楽祭に昨年出演した時に、スーツを着るのをやめたら全員バラバラの服を着ていて。それぞれ違うことを考えていたんだ!ってことが目に見えてはっきりして。嫌になってしまった(笑)。

 それで意識の統一を図るために話し合いをして、motkをどういう風に良くしていこうかと改めて考え直した。motkの清田であり、新留であることをこれまで以上にそれぞれが考えるようになって。良いものを作ろうという気持ちが同じ方向を向いて。これがバンドとしての成長だと思っています」
――前作のリリース・ツアー(2008年1月)の時はVJがいて、映像と音をリンクさせるということを課題にしていたと思います。メンバー・チェンジもあり、結果的にはVJを担うメンバーは現在いないようですが……。
川崎 「VJが第三者的にいるポジションが凄く嫌で。楽器を演奏するように映像を操作して、映像をまるでギターのリフのように流していくような見せ方をやりたかったんだけど、どうもうまくいかなかった。実現するには映像の素材、コンセプトから何を流すかということまで曲を作る、練習することと一緒につめていかなくてはならない。その方がバンドのカラーというか世界観がより良く表現できると考えていたんです。だけど納得のいくクオリティをキープできなかったんですね。

 気がついたのは、映像だけではなく……僕らは音楽に徹して、コンセプト・世界観はその分野のスペシャリストに任せてその感性にゆだねた方がいいのではないかと。常に新鮮にやるには、新鮮な組み合わせが必要だと思った結果です。このアルバムは、テキスト、アートワーク、写真、PVそれぞれ信頼できるスペシャリストに任せて、とても納得ができるものになりました」
――このアルバムのタイトルやアートワークからはギリシャ神話の登場人物の名や、“アン・アンキシャス・オブジェクト”や“ダーティ・リアリズム”といった現代芸術/建築を連想させる言葉が拾えますが……。
川崎 「アルバム・タイトルの“an anxious object”は東京のことを指していますが、元々は僕らmotkのことを指していました。というのは、結成当初、ある人に“motkはアート臭いね”と言われたことがあって。ちょっと馬鹿にされたような感じだったので頭に来たんですけど、実際アートが好きでそういうテイストを含めてライヴしていたので、言われても仕方がないなとも思いつつ、あることに気づかされてしまったんです。そもそも僕はアートっていう概念がわかってなかったんだと。

 それからアートとは何かについての本を読むようになって、“an anxious object”って言葉に出会ったんです。この言葉は、ハロルド・ローゼンバーグ(美術評論家)が述べたもので、60年代の“アート”の氾濫に対し、芸術がもはや傑作かゴミなのかわからなくなってしまったこと、そういった作品群を“an anxious object(気がかりな物体)”といったわけです。そこで“あー、アートくさい僕らこそ気がかりな物体じゃないか”と思って。そこから発展して、僕らの住む“東京”こそ気がかりな物体だな、ということに行き着いて、タイトルとコンセプトにしたんです」
――東京はどう気がかりなんでしょうか?“アンキシャス”という単語からは脆さや不安定なイメージを受けますが、東京が刺激的だからという理由にもなり得ますよね?
川崎 「今の東京はどうして出来たのか?とか、ビルは西洋のスタイルで建ってるけど、さまざまに形を変えて東京や大阪といった独特の都市を形作っていますよね。でも、どうしてこういう風になったかっていう歴史を僕らは知らない。知らなくても生活に支障はないけれども、ふと考えるとその成り立ちがとても気がかりで。住んでいる場所である東京が、僕らに影響を及ぼしていることは確実だと考えて。

 話は飛躍するように聞こえるかもしれないけど、バンドをやっていると西洋のアーティストを目標にしてやっていく。それはもう単純にかっこいいからそうするわけで。……でもやっぱり越えられないものがある。それは何なのかと考えた時に、僕らがいる場所、個々で生きているってことを考えながら発信していないんじゃないのかなと思って。

 これは、東京の街の成り立ちと僕の音楽は一緒なのかな、と……。バンド活動も今まではコピーだけできちゃったのかな、と思って。motkを始めたきっかけというのも、独自のものがやりたい、海外のバンドにも負けないくらいのクオリティで西洋人にはない感覚でやりたいという思いがあって。僕らが西洋の音楽から影響を受けていることは何の疑いもないし、親の世代はビートルズを聴き、僕らも民謡とか、日本の伝統芸能とのほうが関係性が希薄でナパーム・デスのほうがむしろ身近なんです。

 津軽三味線を習いにいって、ハードコア・ドラムとぶつけるか……なんて昔は考えたけど、それは最初から僕らの生活には無いもので、(図式を)ひっくり返すとアメリカのバンドをまねるのと同じだと思うので、僕らの根ざしている都市に意識をおいてみた」
――それは例えばハードコア・パンクが日本に入ってきたら、独特のパンク文化に成長したような意味でのローカライズを指すんでしょうか? 3人の中にある、土壌の中に種が落ちて育って、花が咲けばいいっていうようなニュアンスですか?
川崎 「それもあるし、自分たちを通して日本を客観的にみられるようにしたいということだったり、今住んでいる場所で考えた……自分たちの解釈でかっこいいことをやりたいと考えていることになるのかな。映像のコンセプトで悩んで行き着いたのがここ。僕らがここに住んでいるという事実があるから、これをモチーフにしようということです」
――たとえば、曲のタイトルで「seiren」は、“精錬”とも受け取れるのかな、なんて深読みする余地もありますね。
川崎 「〈seiren〉はギリシャ神話のサイレンの語源で、東京の中で鳴っているサイレンというのは……」
清田 「この曲は女性じゃないかって言う話になって。ギリシャ神話から借りてきた」
川崎 「イメージでつけた曲なんだけど、サイレンの語源でもある“seiren”は事故や危険のサインでもあり、東京にいて僕らを惑わす妖しい女であって。同じギリシャ神話の言葉である〈ouroboros〉も、曲の構成がループしてる感じだから、永遠に続いていく閉じられた円で……」
――循環なんですか。ウロボロスは“∞”の由来にもなっているので、無限大なのかなと解釈していました。最後が“∞=infinity”で終わるのはとても美しいな、と思っていました。
新留 「曲を作ったあとにタイトルをつける作業があるので、いろいろな意味があっていいんじゃないかな。はじめに言葉ありきではなくて、イメージを音にして、さらに言葉で肉付けしていくというか」
川崎 「あと、〈spectres de mouse〉は……ジャック・デリタ(仏の哲学者)の本、『マルクスの亡霊たち』からの引用です。“spectres de”まではフランス語ですけど、“mouse”は英語。フランス人に怒られるかもしれないけども。意味は、motkが言うところの亡霊たちという感じです」
――コンセプチュアルな作品を作っていますが、聴く人に疑問が残った方がいいということ?
新留 「特定のイメージだけを導かれないような、いろんな含みをわざと持たせています」
川崎 「コンセプチュアルだけど、“わからないから、知りたいな”というアルバムです。たとえばライナーのテキストは読んでもらってもいいし、読まずに勝手な妄想をしてもらってもいいし。音だけ聴けばいいというのは真実なんだけれども、言葉ならではの表現の仕方もあって、さまざまな提案をこちらからも投げかけたいというのがmotkです」
――motkがこの3人だから出来たこととして、やはりドラムが入っていない「dirty realism」はとても重要ですね。
川崎 「この曲は3人でピアノを弾いています。こういうことは前からやりたかった。ピアノだけでも作れるっていうのが今回のレコーディングでわかったから、いつかピアノだけのアルバムも可能かなと思います。今回この曲が入れられたことはすごい発見だった」
――今回のPV「spectres de mouse」は「最後の晩餐」のものとは随分違いますね。モノクロがカラーになったという色の印象というよりは、ライヴと同じようにスクリーンに投影される映像が鍵盤やドラムに写りこんだように重なっているのがとても生々しくて、これまでのmotkと違うな、という印象です。
川崎 「監督は初代VJでもあるミッチくん(サイゴウミチノリ)にお願いしました。それは〈最後の晩餐〉と一緒です。今回は、異質な、無機質な感じとフェティッシュさを映像で出しつつ、全身ラバースーツを着て演奏してるという現実的なバカバカしさが同居しててかっこいいですよね。このフェティッシュな感じが、すべてではないですけど東京のイメージに通じると思うんです。ほんとミッチくんはセンスの良い変態だと思いますよ」






取材・文/服部真由子(2009年7月)



“an anxious object” tour
●仙台/8月30日(日)FLYING STUDIO
Open 18 : 00 Star t 18 : 30 w/ TBA

●京都/9月4日(金)KYOTO MUSE
Open 18 : 30 Star t 19: 00 w/dry river string、TBA

●名古屋/9月6日(日)池下CLUB UPSET
Open 18 : 00 Star t 18 : 30 w/dry river string、TBA

●東京/9月10日(木)渋谷O -EAST
Open 18 : 30 Star t 19: 00 w/ toe, envy
Total Information:SMASH 03 -3444 -6751



NEUTRAL NATION 09
-West Field- [Neutral Garden]
大阪/7月17日(金)名村造船所跡地
STUDIO PARTITA
w/Mice Parade, LITTLE TEMPO, toe, サカナクション, AFNICA, ALTZ, etc



forget me not presents
Reason For Being
香川/7月18日(土)高松RINZIN
w/NAMiDA, forget me not , etc



NAMiDA presents [MUSiCK # 0]
徳島/7月19日(日)銀座CROWBAR
w/NAMiDA, Melt -Banana, forget me not , yamano hiroyuki



インストア・ライヴ
東京/8月1日(土)タワーレコード渋谷店B1 STAGE ONE



ROOCS'09
東京/8月23日(日)東京キネマ倶楽部
w/PEST (ninja tune) , 近藤房之助The D-Tool s guest. 梅津和時(Sax),
Inoue Kaoru, メメ, etc
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