大阪を拠点に活動するラッパー/ビートメイカーのJambo Lacquerが、ニュー・アルバム『TABIJI』をリリースした。前作『DUH MOMENT』に続く本作は、旅をテーマに据えながら、これまで各地で出会ってきた人々との縁や、自身の歩みそのものを映し出した作品だ。盟友・前田和彦との共同制作を軸に、KenTやDJ Mitsu the Beats、LIBROらが参加。ブラジル音楽などの要素も吸収しながら、温かく開かれたサウンドを鳴らしている。また、7月5日には東京・WWW Xにてキャリア初となるワンマンライブ〈BOMJAROOM〉を開催予定だ。10年以上にわたって自分のペースで旅を続けてきたJambo Lacquerは、今どのような景色を見ているのか。アルバム『TABIJI』に込めた想いから、初ワンマンへの展望まで話を聞いた。
New Album
Jambo Lacquer
『TABIJI』(BSVB-0001/CD、2026年7月15日(水)リリース)(BSVB-0002/CASSETTE、2026年7月15日(水)リリース)(BSVB-1202/2LP、2026年9月16日(水)リリース)――前作『DUH MOMENT』から1年ぶりのアルバムですね。制作を始めたのはいつ頃だったのでしょうか。
「この1年間で制作してきました。『DUH MOMENT』は、それまでシングルで発表してきた曲も含めた総集編のような側面があって、古い曲から新しい曲まで収録していたんですよ。でも今回は、新しく作った曲だけでアルバムにしたいと思って。それと、自分のワンマンライヴをやりたいという思いもあったんです。実は2~3年前くらいから、今回のタイミングでワンマンをやろうと決めていて、それに向けて制作してきたというのもありますね」
――今回のタイミングでワンマンライヴをやりたいと思ったのは、なぜですか?
「自分はこれまでいろんな場所に呼んでいただいて、各地でライヴをさせてもらってきたんです。その中で、ワンマンライヴというものはずっと頭の片隅にはあったんですけど、なかなか実行に移せないまま活動を続けてきて。そんな中で、ひとつの節目として挑戦してみたいなと思った。ワンマンだと1時間半くらいの長尺になるじゃないですか。自分だけの時間で、そのくらいのパフォーマンスをやってみたいという気持ちが出てきて」
――ワンマンについては地元の大阪でやるアイディアもあったと思うんですが、東京・WWW Xを選ばれたのはなぜでしょう?
「幼なじみの仲間たちと続けてきた(クルーの)WARAJIで、今年の4月にGAKUDAN WARAJIというライヴを開催したんです。僕とチプルソとブギ丸の3人を中心にしたステージで。それは大阪だったんですが、日頃から各地をまわらせてもらう中で、関東でやってみるのもいいんじゃないかなと思ったんですよ。でも、わりと思いつきに近かったかもしれない」
――最近の若手ラッパーだと、WWWやWWW Xでワンマンをやることをひとつのマイルストーンに置いている人も多いですよね。一方で、Jamboさんのキャリアで、ここに来てWWW Xで初ワンマンというのは、また違った良さがあるなと思いました。素敵だなと。
「確かにそうですよね。キャリアだけを見ると珍しいかも。初めてなんですか?と驚かれることもありますし。ただ、自分としてはそこまで深く考えていたわけではないかもしれない(笑)」
――そのワンマンの前にぶつけてきたアルバムですが、すごくまっすぐな作品だと思いました。トラックも、奇をてらうというより真正面から良いビートを追求している印象を受けた。すごく誠実なアルバムですね。
「あぁ、それはうれしいですね。ありがとうございます」
――温かさがあって、そこはJamboさんらしさかもしれない。これまで以上にまっすぐなアルバムだと感じました。
「確かに、“こういうトラックを入れよう”とか“最近のトレンドを取り入れよう”とか“いろんな要素を混ぜよう”とか、そういう発想はなくて。いつも通り、自分の感覚だけで作っていたので、そう言ってもらえるのはすごくうれしいです。今回初めて、KenTくんに参加してもらってホーンの演奏を入れたんですよ。生演奏を入れてもらうというのは自分がこれまでプロデュースしてきた作品ではあまりなかったことなので、それも大きいかもしれないです。曲を組み立てていく過程で、ここにホーンが欲しいなと思って声をかけました」
――WARAJIの皆さんと服部緑地野外音楽堂で毎年開催されている〈エアコン〉(AIR CONTROLLER)も、巨大ヒップホップイベントとしてすっかり風物詩になってますよね。ああいう場を通じて、ミュージシャンとの繋がりも増えてきたんじゃないですか?
「それはありますね。エアコンは、自分たちが各地へ行きながら出会った人たちを呼ぶ場でもあるんですけど、それだけじゃなくて、“自分たちが出会いたい人を呼ぶ”というコンセプトもあるんです。だから、あの場を通じて本当にいろんな人と交流できる。やっていて良かったなと思います。だからこそ、遠方からわざわざ遊びに来てくれるお客さんもたくさんいて。本当にありがたいなと思ってますね」
――今回のアルバム・タイトルが『TABIJI』ですけど、先ほどおっしゃっていた、いろいろな場所をまわる中での出会いや、そこで見聞きしたものをアルバムに込めていくような背景もあったのでしょうか。
「ありました。もともと、10年前に出した『SETTINGOFF』というアルバムも、自分の中では旅をテーマに作っていたんですよ。僕は、そもそも音楽自体が旅をするものだという感覚があるんです。時代を超えて、レコードなどいろいろな媒体を通じて音が広がっていく。そうやって人と人もつながっていく。音楽をやり続ける中で、“旅”というテーマはずっと自分の中にあります。だから、10年前も旅をテーマに作ってはいたんですけど、でもそこから時間が流れて、そんなに簡単に終わる旅ではなかったねって思ってる。今もまだ旅の途中なんだなという感覚が、自分の中ですごく感慨深いものとして生まれてきました。まだ旅路にいるんだなと。ゴールはあるようでないようなものなんですけどね。それは誰にでも当てはまることだと思ったので、タイトルは『TABIJI』にしようと決めた。だから、“最近、旅についてのアルバムを作りました”というよりは、ずっと旅の中にいる感覚」
――そこで言う“旅の中にいる感覚”とは、どういうものなんでしょうか。音楽の世界はやればやるほど深い旅路のようだ、という意味なのか。それとも、ビートメイカー/MCとして、まだまだ成長途中だという意味の長い旅路なのか。あるいは、また別の意味があるのでしょうか。
「人生、ですかね。自分が音楽という旅をしていく中で、関わるメンバーも変わっていったりするじゃないですか。もちろん、幼なじみのWARAJIのメンバーは今も一緒にやってるので、ずっと会っている存在ではある。ただ、それ以外でも、音楽を続けていく中では関わる人が変わったり、新しい出会いがあったり、離れていく人がいたり、いなくなってしまった人もいたりする。そういう出会いと別れをずっと繰り返しているわけですよ。LIFEとして、関わっていく人や自分が聴いていく音楽、そういうものが少しずつ変化し続けていく。昔の自分と比べても、考え方が少しずつ変わっているし、それが止まらずに続いていくのが理想だなとも思う。そういったことを全てまとめて、旅だなと思います。でもそういうことって、昔は考えてなかった」
――10年前の『SETTINGOFF』も旅がテーマだったけれど、今の旅は当時とはまた全然違うと。
「初期衝動でやっていた頃は、“旅に出るぞ”という感じだった。旅に出ることそのものにすごくワクワクしていて、そのパッションでみんなと音楽を始めた。でも、いざ旅を続けていく中で、みんなそれぞれいろんな景色を見ているんだなと感じるようになったんですよ。だから、誰にでも当てはまる“旅路”。として今作は作っていきました」
――10年間の重みを感じますね。たとえば今作で、旅に出たばかりの昔の自分だったらこのアプローチはできなかったけど今だからできた、と思うところはありますか?
「昔の自分と比べると、躊躇なく歌うようになっているなと感じます。もともと、ラップすることも歌うこともすごく好きだったんですよ。人から“歌とラップの両方をやってるよね”と言われることもあったし、でも最近はそこがよりはっきりしてきた。昔より、考えずに自然体でできるようになりました」
――世の中的にも、ラッパーが歌うスタイルが自然に受け止められるようになってきた背景がありますね。
「自分の中でも、迷いがなくなってきました。ここは歌で表現したいと思ったら歌うし、ここはラップだと思ったらラップする。そのあたりは、初期衝動でやっていた頃と比べて変わってきていると思います」
――今作の制作において、客観的に振り返ってみたときに、影響を受けているのかもしれないと感じる音楽はありますか?
「たとえばピアノだけの音源とかギターだけの音源とか、むしろヒップホップではない音楽を聴いている時のほうが、曲のイメージが湧くことは多いですね。友達や仲間、自分の好きなアーティストが新しい作品を出したらもちろんすぐ聴きますけど、自分からヒップホップを掘って聴くというよりは、最近はそれ以外の音楽を掘り下げることが多い。ジャズやラテンだったり、いろんなジャンルのリズムを聴きます。あとは音色です。いろいろな音色を探していくこともあります。もともとダンスもやっていたし、ファンク・ミュージックもすごく好き。生演奏のファンクばかり聴く時期もある。モードによって、そのとき聴く音楽は変わりますね。ただ、曲を作るうえでのインスピレーションは、ジャズを聴いているときに湧くことが多いかもしれない」
――生楽器を入れようという発想も、ジャズの影響があったのでしょうか。
「うーん、どうですかね。生楽器もいろんなジャンルで使われているので。あと、今回はピアノ。一緒に楽曲を制作している前田和彦さんのピアノもそうなんですけど、やっぱりその人から出てくるフレーズというのがあるじゃないですか。今は生楽器のフリーサンプルも含めて、無数にサンプルがある時代。それを使って楽曲を作るのも面白いんですけど、やっぱり実際に会って話して、一緒にいろんな音楽を聴きながら弾いてもらうのがすごく楽しい。ミュージシャンの方々から、どれだけその人ならではのものを引き出せるか」
――前田さんと実際に曲を作るときは、どういうふうに進んでいくんですか?
「前田さんも本当に音楽が大好きで。いつもお互いの好きな楽曲を聴かせ合って、“これいいですよね”“あれいいですね”と話しながら、そういう時間を何度も重ねていく。そういったラリーを何回も交わしたあとに、“じゃあ、こういうムードとこういうムードを混ぜたらどうなりますかね”と話していくんですよ。それまでに聴かせ合ってきた音楽や会話の中でフィーリングが合ってきているから、自分が思っていた100点以上のものが返ってくる。弾いてくださっている前田さん自身も楽しんでやってくれてます」
――「こういうムードとこういうムードを混ぜたらどうなりますか?」という相談になるんですね。
「“こういうのを弾いてください”と具体的にお願いすることもないわけではないんですけど、それがはっきりしすぎている時ほど難しくなる。たとえば“この曲みたいな感じで弾いてもらえませんか”と持っていくと、その曲を超えられない感覚があるんですよ。だから、題材を少し変える。あえて全然違う曲を聴かせて、自分がやってもらいたい雰囲気をつかんでもらうというか」
――想像力の余白があった方が、可能性が引き出されるのかもしれない。今回、前田さんと具体的に聴かせ合った曲はありますか?
「たとえば〈TEYUUKA〉という曲は、ブラジル音楽の話をしていました。自分の好きなブラジル音楽を前田さんに聴いてもらいながら、前田さんからも“こういうものもあるよ”と、おすすめのブラジル音楽をいろいろ聴かせてもらって。お互いさんざん聴かせあった後に、今度は日本の歌謡曲の話になったんです。たとえば荒井由美さんとかもそうなんですけど、歌謡曲のメロディラインとブラジル音楽って合いますよね!という話をしていて」
――へぇ!
「それで“さっきのブラジル音楽っぽいフレーズをもう一回弾いてもらっていいですか”とお願いして、前田さんが弾いてくれる。その上に、自分が思う歌謡曲っぽいメロディを適当に入れてみると、“いいね!”となる。〈TEYUUKA〉はまさにそういう曲です。“混ぜる”という言い方が合っているかはわからないですけど、ブラジルならブラジルだけを掘り下げていくというよりは、“ブラジルと日本の歌謡曲を組み合わせたら面白くなりそうですよね”といった話をしながら作っていった。そういう意味では、実験的なのかもしれないです。自分たちも想像していなかったゴールを目指すというか」
――今回、リリックを書く作業はスムーズでした?
「自分は普段、すごくハイペースでリリックを書くタイプではないんです。ただ、前作の『DUH MOMENT』を作っていた流れがあったので、ラップを書くモードが抜ける前に、今回の『TABIJI』の制作に入ることができたのは良かった。そういう意味では、書くモードを前作から継続できていたので、いつもより早く書けたのかもしれないです。基本的に僕は、ビートを作り出すとラップを書かなくなるんです。逆にラップを書き出すと、ビートは一旦並行して作らなくなる。両方にそれぞれ集中できたので、今回はそのターンがうまくいった気がします」
――先ほどちらっと伺った、ワンマンライヴについても詳しく知りたいです。7月5日(日)に予定されていますが、アルバムにあった通り、ライヴでも生演奏が入るんですか?
「そうです。前田和彦さんと、KenT、あとは音源にも何曲かスクラッチを入れてくれているDJ MO-RI。その3人と僕の4人編成になると思います。僕が鳴らすビートと、前田和彦さんの鍵盤、KenTが吹いてくれるホーン。その生の音を一緒に体感してほしくて。初めての構成なので、すごくワクワクしています」
――いわゆる“コックピット”スタイルだけではない形も試すと。
「当日コックピットもあるんですけど、それだけではなく、そこに生音、生楽器が入る編成で組み立てています。あと、Olive OilさんとSweet Williamくんも呼んでて。自分がワンマンをするなら、ゲストとしてまずビートメイカーを呼びたいという構想がもともとあったから。Olive OilさんとはOIL LACQUERとして作ってきた曲がたくさんありますし、Sweet Williamくんとも一緒に作っている曲がたくさんある。だから、出演してもらいながらセッションする形でやれたら楽しいだろうなと思って組みました。マイクを持って出てきてもらうゲストとはまた違う楽しさがあるし、緊張感もある。本人同士でライヴの場で再現する機会はなかなかないので、それを一晩に凝縮するのは、今回の大きなテーマだと思っています」
――確かに、ワンマンライヴでラッパーをゲストに呼ぶことはよくありますけど、ビートメイカーを呼ぶというアイディアはあまりないですね。有名なビートメイカーでも、意外と顔を知らなかったりするし。
「ですよね。そういう意味でも、いい機会になればいいなと」
――ヒップホップシーンって、入れ替わりがすごく激しいじゃないですか。どんどん若い人が出てくる中で、10年続けられる人がどれくらいいるんだろう、という世界。そういった中で、Jamboさんのような存在はすごく貴重だと思います。モチベーションはどこから湧いてきているのでしょうか?
「今回初めてワンマンをすることもそうなんですけど、自分のラップの内容って、結構自分に対して言っていることが多いんですよ。日常を送っていく中で、いろいろなことがあるじゃないですか。その中で、自分自身に対して思うことを書くケースが自分のラップでは特に多い。それって、自分なりにどう成長できるかってことなんだと思います。ライヴ会場で“いつも聴いています”と言ってもらえることもあって、それは本当にありがたいなと思っています。ただ、自分にとって音楽は、自分が自分でいるためにやるものなんです。その結果、音楽によって誰かの背中を押せた、と言ってもらえることもある。アルバムを出してライヴで各地をまわっていくことは、稼業というか、ずっと続いていくことだと思ってます。ただ、人前に立ってライヴをしていく以上、自分の中で成長できるポイントを作っていかないといけない。それは、自分の好きな先輩アーティストを見ていてもすごく感じますし、逆に今は若い子たちからも感じさせてもらう機会がある」
――音楽の旅に出始めた頃、10年後も音楽をやっていると思ってましたか?
「なんとなく思ってました。“いつまでやろう”とか、“ここまで売れなかったらやめよう”とか、そういう感覚ではなかったです。これはずっとやることだろうなと自分では思っていた。結果として今も続けられていることは、本当にありがたいですし、感謝しかないです。唯一自然に続けてこられたことなのかな、という気もする」
Jambo Lacquer
「NEWVERSE feat. Kazuhiko Maeda」
https://ultravybe.lnk.to/newverse――ちなみに、今回はアートワークもご自身で?
「そうなんです、シングルもアルバムのジャケットも全部自分で作りました。WARAJIのメンバーにもアートワークを作れる仲間はいるんですけど、みんな多忙な時期でもあったので、自分でやってみようかなと。慣れてないので、今訊かれてちょっとドキッとしました(笑)。最終的に入稿する際、デザインとして手伝ってくれた友達はいるんですけど、アートワーク自体は僕が決めて作りましたね」
――ビートメイクやMCだけでなく、アートワークも!コンスタントにアルバムをリリースして、10年経って初のワンマンライヴ。自分のやりたい音楽を継続していて、地元の仲間たちとフェスも続けている。めちゃくちゃかっこいいですよね。Jamboさんみたいな人が全国各地にいること自体が、今のヒップホップシーンの豊かさを証明していると思います。
「いやいや。そういう風に言ってもらえて、とても光栄ですね。ありがとうございます」
取材・文/つやちゃん
撮影/Ryusaku (faction studio)
〈Jambo Lacquer - ONEMAN LIVE "BOMJAROOM"〉2026年7月5日(日) 開場 18:00 / 開演 19:00
東京 WWW X
料金:先行早割 5,500(消費税込、D代別) / 通常 6,000(消費税込、D代別)
https://eplus.jp/jambo-lacquer/