2015年にスタートした、柚木麻子と朝井リョウによるCDジャーナルの連載『ハロプロの行間を徘徊する』。その後、タイトルも『流れる雲に飛び乗ってハロプロを見てみたい』に変わり、でか美ちゃんが加わり、10年続いてきた連載が50万字を超える一冊の本になりました。
『柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう』には、これまでの連載をほぼコンプリートして収録。3人の10年間の変化はもちろん、ハロプロをめぐるさまざまな出来事や、その時々の3人の言葉が詰め込まれています。
今回は、そんな50万字の本の「まえがき」を特別公開。連載はどのように始まり、どんなふうに10年間続いてきたのか。3人が本書の読みどころとともに振り返ります。

『柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう』書影
朝井「『柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう』完成いたしました!連載が10周年を迎え書籍化となったわけですが、このボリュームなので、まず全体像をざっくり説明しておこうと思います。そもそもの始まりは2014年のCDジャーナルムック『ハロー!プロジェクト COMPLETE ALBUM BOOK』に掲載された柚木さんと私の単発の対談でした」
柚木「そうでした」
朝井「そこから1年半後、2015年にCDジャーナルで『ハロプロの行間を徘徊する』というタイトルで連載が始まります。当時は隔月で、柚木さんとふたり体制。歌詞を中心にハロプロを勝手に分析する内容で、2019年に一旦終了しています。なぜかというと、ふたりで掘り起こせる畑は全部耕したから」
柚木「そうですね。初期、やっぱりすごいです」
朝井「初期の熱量たるや」
柚木「熱量はすごいけど、愚かでもあるし、間違ってもいる。でも読み物として読ませます。読めちゃうから、原稿を直そうかどうか、悩んだところでもあるんですけど」
でか美「パッションがすごいと思います」
柚木「若かったよね」
朝井「若さゆえのなにかが炸裂していた。あの熱量を2ヵ月に一回やってたんだよ」
柚木「深夜番組みたいだよ」
朝井「当時はハロプロの最新情報を追うというよりは、柚木さんと私のあらゆる分野への興味関心がまず先にあって、それについて毎回『じゃあこの曲の話をすべきなんじゃないか』というふうに選曲していました。なので、この本の前半部分は、ハロプロにくわしくない人でも楽しめるのではないか、と思います」
柚木「ちゃんとやってたよ。だけど、ふたりは今ほどちゃんとしていなかった」
朝井「人間としてね」
柚木「最低じゃないかってぐらい(笑)。ただ、読み物としては面白かったけど」
でか美「読み直してみても面白かったですよ」
朝井「そういった人間的な欠陥を命がけで修正した原稿がたくさん載っているのが2019年までのページということになります。書籍化において、諸事情により未掲載の回もありますが、ほぼコンプリートされています。そして中盤以降は、連載タイトルの変更やCDジャーナル季刊化を経て、でか美さんが加わった3人体制に」
でか美「私の合流以降、歌詞考察をそこまでしなくなっていて。でも、それっていいのかな。ここまで積み上げてきたものに私が突然入ってきて魅力を損なってないのかなっていう感じもあって、2期メンバーの気持ちがすごくわかりました」
柚木「それはでか美ちゃんのせいじゃなくて、私たちがあの頃、若くて暇だったからだよ。つんく♂さんの歌詞についてふたりともものすごいキーキー言ってて」
でか美「私が入ってきて、もっと現場の話をしていこうってなりましたよね」
朝井「そう。なので中盤以降は、コンセプトを決めてから分析する曲を選ぶのではなく、その時その時の最新情報を語る形式になっています。あと、そのあたりから、意外にもハロメン本人たちの目に触れているということにも気づき始めた。それもテイストの変化に影響していると思う」
柚木「それで我々はおとなしくなったんだよね。でか美ちゃんのせいじゃないの」
朝井「でか美さんは間違いなく、この連載を延命をしてくれた方です。ふたりでやってた時なんて、やけっぱちでただカラオケをする最低な回もあった」
でか美「あの回、今読んでもやばかった」
柚木「でか美ちゃん来なかったら、あのままずっとカラオケが続いてたよ」
でか美「せめてふたりが歌って、ふたりがしゃべってるならいいけど、ライターさんやカメラマンさんまで普通に歌い出して」
柚木「雑誌って1ページ1ページにお金がかかってるのにね」
でか美「私もスタッフのみなさん大好きだから楽しいんだけど、隙あらばスタッフも出そうとするから、私はある一定の時期から、読者にとって知らないおじさんを出すのはやめようって言って」
朝井「でか美さんがこの連載唯一の客観性。そして忘れちゃいけないのがゲスト回! まず、なんといってもつんく♂さんが出てくださいました。当時はふたり体制だったんだけど、読み返してみてびっくり。我々、本当にまったくつんく♂さんと対話できてない」
柚木「あのね、あのね、教えて、教えてってずっと言ってる」
朝井「我々の疑問につんく♂さんが答えてくれてるのに、それには反応せずすぐ別のボールを投げつけて。そういう感じで、ゲスト回という味変もあります。この本、時系列順に読むと、同じような話が続くゾーンがあったり、発言のあまりの一貫性のなさに辟易したりもすると思うので、気軽に味変しながら楽しんでいただきたいです」
でか美「気になるところから読むのもいいし、最新から、つまり本でいったら後ろから遡っても面白いですよね」
朝井「そうそう。最終盤に掲載されている野中美希さんゲスト回から読む方も多いはず」
でか美「ついにハロプロからご本人が登場という」
朝井「そう! なんとこの本の最後には、書籍化スペシャルということで小田さくらさんにもご登場いただいております! そんなご褒美がゴールにあると思って、走り切っていただきたい!」
でか美「これで読もうかなって思ってもらえるかわかんないですけど、小田さんゲスト回で私は初めて泣きました」
朝井「『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン4で初めてさっしー(指原莉乃)が泣いたように、ついにでか美さんが泣いた回です」
でか美「会えて泣く、じゃなくて、小田さくらさんの言葉で泣くっていう。ふたりのほうが大人なんで我慢してただけで、油断したらみんな泣いちゃう空気感ありましたよね」
朝井「すさまじい時間でした。あと私、毎回撮った写真も結構味変になってると思うんだよね。10年前からの変遷がわかるの」
柚木「おなかに子供もいる時やつわりがあった時もやってて、写真を見るとどんどんおなかが大きくなっていってるの」
朝井「コロナ禍でリモート写真になったりね。写真を見返すだけでも時代の変化がわかる」
でか美「こだわってやってますよね。でも、自分で言いますけど、私が合流してからのほうが気合入ってると思います」
朝井「それは間違いない!」
でか美「ふたりが服にほんとに無頓着で。しわしわの服で来たり、ありえない色の組み合わせで来たり。たとえば、3人でお揃いのTシャツを着ようとなった時に、『下はなんでもいい?』って言ってて、そんな上半身だけきっかり写るわけないのに、すごい色のパンツはいてきて、『写真の調和乱れるから、柚木さん私のデニムはいてください』みたいなことがあったり」
柚木「そんなこと考えたことなかったよ」
朝井「我々、自由という言葉を本当に自由だと受け取るから」
でか美「服装自由って言って、カジュアルな格好で式典行って恥かくパターンじゃないですか。だからちょっと私は自分をほめるところがあるとしたら……」
朝井「ほめて! 自分を! でか美さん!」
でか美「撮影がある時に、じゃあこういう持ち物は必要ですよねとか、こういう服で揃えたほうがいいんじゃないですかっていうのをちゃんと言えてるかなと思います。だから逆に振り返ると、おふたり時代の時に、朝井さんがパンツに財布入れっぱなしでポケットぱんぱんにして写ってる写真があって」
柚木「最悪だ」
朝井「ふふ。私が好きなのは、オーディションの最終選考に残った子っぽく、赤羽橋駅から歩いてくる写真。あれツボ。あと、すべての回に書き下ろした、現在の私たちの一言コメントも読みどころだよね」
柚木「正気になってからの我々が書いたものです」
朝井「これも本当に毎回でか美さんがキュッと締めてくれている」
でか美「順番的におふたりのコメントを読んで書いてるからなんですけどね。(ゲラを見ながら)にしても、ふたりがシンプルに若くて可愛い、マジで」
朝井「青春の記録だよね~」
柚木「『青春Night』(モーニング娘。'19)だね」
朝井「“私の人生 エンジョイ!!”」
柚木「私、よくハロプロの歌詞を読んで、『若くて不満をいっぱい持ってて、なにもかもムカつくんだね』って親みたいな顔で言ってたけど、自分たちがそうだったんだよね」
朝井「毎回ワーワー不満垂れ流して。この連載でデトックスしてたんだろうな」
柚木「なるほどね。2ヵ月に一回は朝井に会えるしな、みたいな」
朝井「我々の仕事歴でも、多分もっとも仕事という意識が薄かったのがこの連載だよ」
柚木「下調べもなんにもせず、ワーってしゃべれたということなんだよね」
朝井「それって豊かさでもあるよね。本当に人として終わってる発言も多かったけど」
柚木「豊かだったね」
でか美「今、我々はまともになったんだ、みたいな感じで話してますけど、これも5年後には最悪になっているかもしれないですしね」
柚木「どんどん常識って変わるし」
朝井「そうだよ。アイドル業界の構造への目線も容赦なく変わっていくでしょう」
でか美「変わると思う」
柚木「だから正直、この本って結構デンジャーだと思う部分もあるけど、でも今たとえば批判されてることも、もしかしたら正しいかもしれないという目はいつも持っていたいですよね」
朝井「本当にそう思います。今正しいと思っていることが間違ってる可能性は大いにあるし、逆に今間違ってるって責められていることが、じつは声高に叫んでよかったことだったってわかることもある。そういうものの記録にもなってるかもしれない」
でか美「歴史的資料ですね」
朝井「にしては改ざんしましたけどね(笑)。あとみなさまにあらためてお伝えしたいのは、これは私たちにお金が入る本ではないということです」
でか美「そうです。ここ重要です」
朝井「著者印税の半分はCDジャーナルの制作費、つまりハロプロのインタビューもたくさん載っている雑誌の制作費になって、もう半分は国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に寄付されます。ハロプロを使って私腹を肥やそうとしているわけではないんです」
でか美「これはもちろん、ハロヲタYouTuberの方などの活動を否定する姿勢でもありません。自分たちはハロプロのおかげで楽しく生きられてるから、CDジャーナルが続いていくことがいちばんということなんです。だから3人の収益にはしないっていうのを決めたうえで、それだったら書籍化しますという話になったんです」
朝井「そのとおりです」
でか美「この本はハロプロのファンの方で読んでくださる方がわりと大半だと思いますけど、この本を読めば読むほど、CDジャーナルが続き、南波一海による深掘りインタビューが続く可能性が高まるんです」
朝井「南波さんの健康にも寄与することができます」
でか美「CDジャーナルのインタビューってほかにない話が絶対にあって、レビューもちゃんとしてるし、音楽総合情報誌としてめちゃくちゃすごいって思ってるんですよ」
柚木「山崎まどか先生と長谷川町蔵さんの連載もあります」
朝井「なんたって『ジャーナル』だもん。新聞なんだよ。続いてほしい」
柚木「言わば、文化資本への投資です」
朝井「最高の言い換えをありがとう。ということで、50万字雑談のはじまりはじまり~!」
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