最前線で活動し続けるふたりが到達した場所 DJ KRUSH × ILL-BOSSTINOのコラボレーション・アルバム

DJ KRUSH   2026/09/02掲載
 DJ KRUSHとILL-BOSSTINOのふたりがついにタッグを組み、アルバム『XO』をリリースした。先日リリースされたばかりの『TOKY Ø HUM』をはじめとする近年のソロ作品とは一味違うDJ KRUSHのビートと、THA BLUE HERBやtha BOSS名義のソロ活動で培ってきたILL-BOSSTINOの円熟した言葉が正面からぶつかり合う重厚な作品だ。長いキャリアを持ちながら、現時点でも最前線で活動し続けるふたりが到達した場所とは一体どこなのか。あらためてふたりの出会いから、話を聞いた。


New Album
DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO
『XO』
※2026年8月5日(水)発売。
――まずいちばん最初、90年代におふたりが初めて互いを認識したところからあらためて伺ってもいいですか。
ILL-BOSSTINO「KRUSHさんが俺なんかより圧倒的に先行してたからね。俺らがTHA BLUE HERBを始めて、アナログ作って。それを、KRUSHさんの当時の担当者さんが札幌の人だったから、その人に話して。KRUSHさんが〈知恵の輪〉の12インチをかけてくれて。会うまでにはまだ時間がかかるけど、そこが音楽的な接点というか、縁というか、スタートだった」
DJ KRUSH「俺がソニー在籍だった当時、担当が札幌の人間で、BOSSと繋がってた。その彼がアナログ盤を俺に持ってきたわけよ。“地元のやつなんですけど、聴いてください”と言って。それでオッケーって聴いたらさ……それが元でここまで繋がってきたわけだ。〈知恵の輪〉には驚かされたよ。聴く側の人間の心をザワザワとさせるような、東京とは違うテイストのやつがいるんだと知った。それですごく気に入ったから、海外、日本問わず(DJで)かけまくった」
DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO/
――海外のオーディエンスの反応はどうでしたか?当時、日本語の曲がかかること自体、そもそもめずらしかったと思いますが。
DJ KRUSH「当然日本語はわからないわけだからね。それもあるからあの曲をかける時は、かけても違和感ないように上手にDJセットに入れていくわけだよ。俺たちだって英語も全部わかるわけじゃないけど、これはヤバい曲だっていう空気感というのはあるじゃない?そこに埋め込んでいく。あの曲は音もそうだし、BOSSのテンションもそうだし。なんせヴォーカルの意味がわからなくても音として入ってくるから……もう全然勝負できるなと。聴いた人が気になれば、あとで調べてくれるだろうしね」
――たしかに、リリックの言語が完全に理解できなくても、どういう内容を歌ってそうなのかっていうのは、声のテンションや声色だけでも伝わってくることがありますもんね。それはKRUSHさんのミックス作品の『CODE4109』(2001年)に入るより前ですよね?
DJ KRUSH「前だね。全然前。あれに収録したのは現場でひと通りかけ終わった後っていう時間軸だった」
DJ KRUSH
DJ KRUSH
――そんなふうにKRUSHさんが曲を「かけてくれている」という話が先にあって、その後に札幌のプレシャスホールのイベントがあるわけですね。
ILL-BOSSTINO「そうそう。KRUSHさんが俺らの曲をかけてくれてるっていうのはもう届いていた。それでそのイベントでライヴをやるのはどうだって話になって、俺らももちろんやるって答えた。俺たちのライヴが終わって、KRUSHさんも時間ギリギリまでプレイして。KRUSHさんの出番が最後だったから、終わったらフロアも明るくなって。KRUSHさんがそのままレコードを持ってホテルに帰るっていう、そのタイミングでちょっとだけしゃべった。そこが初対面」
――そこでどういう会話を?
ILL-BOSSTINO「KRUSHさんが“今度一緒に曲やろうよ”みたいに言ってくれて。それが最初の一言」
DJ KRUSH「俺はもう一緒にやりたくてしょうがなかったから(笑)。やる気満々だったよ」
ILL-BOSSTINO「よくあることだよね。今度やろうぜっていう。だけどあの頃の俺なんて、まだ札幌の人間しか知らないようなポジションだったし、もちろんその先へ行きたかった。自分たちでレコードは出したはいいけど、この先どうやっていけばいいんだろうっていう時だったから。98年の年末。そこにKRUSHさんが手を差し伸べてくれた。やろうよのあとに“俺、約束をちゃんと守るからさ”って付け加えてくれて。ほぼ会話もそれぐらいだったけど、俺にとってはその言葉をもらって年を越したっていう感じだった。来年はいよいよ俺たちも行くぞ、っていうひとつの兆しをもらって別れるみたいなね」
ILL-BOSSTINO
ILL-BOSSTINO
――本作の1曲目の「BUT EXTRA RAW」の最後でBOSSさんが言ってる話ですね。このアルバムを作るきっかけとなったここ数年の話かと思ったんですけど、おふたりの出会いにまで遡るんですね。
ILL-BOSSTINO「そうそう。年明けに、約束通りKRUSHさんから“流 -ryu-”のレコーディングのオファーが来て。それがちょうど、うちらが99年の5月2日に六本木で初めてライヴをやる前後だったんだ。だからそのあたりはKRUSHさんと密に会ってた」
DJ KRUSH「“流 -ryu-”は、DJ KRUSH、DJ HIDE、DJ SAKって3人のユニットだったからね。BOSSがやったトラックは、俺はやってなくて、SAKとHIDEの曲で。だけど俺はやっぱしピンで、BOSSとふたりでやりたかったからさ。それで次のアルバムの『漸 -ZEN-』でっていうことになって」
ILL-BOSSTINO「それが〈Candle Chant (A Tribute)〉になった」
――内容面でもおふたりにとっても重要な曲だと思いますが、当時のレコーディングのエピソードはありますか?
ILL-BOSSTINO「あの頃は今よりももっとラフだった。準備はできているとはいえ、今よりもまだ全然、感覚だけでやってる時代だったから。それがよかったともいえるけどね。いつも通り、そんなに数も録らずに、当時のHAL STUDIOで。アウトロもさらっと書いてパッと出すみたいな、そういうラフな感じだった」
DJ KRUSH「〈Candle Chant (A Tribute)〉は悲しげなメロディがはっきりしてて、ウワモノの旋律とドラムのみみたいなトラックで。ああいった曲調にしてはBPMが速いから、一瞬、逆に乗せづらいかなと思ったんだけど。でもそこに何も言わずきっちりあれだけの内容のリリックをはめてきて、自分の世界に持って行ってくれたから、やっぱりただ者じゃなかったなと思ったよ。曲の最後の“1ミリ”の話も、あれを言葉にできるのはスゴいよね。そんなに変化をつけてない、ワンループで引っ張るヒップホップの基本のようなビートだけど。BOSSのリリックがあったから最後まで引っ張れてる、大切な曲ですよ」
ILL-BOSSTINO「せっかくのKRUSHさんとの曲だから、もっとイケイケだったりハードなものをやりたいという気持ちもあったけどね。なかなかああいった形で人の死に接することもなかったし。自分にとっても大きなことだったから、それが書かせてくれた。当時29歳。人が亡くなるって結構ショッキングな経験だったし、それを受け止めて、曲としては大きくぶっ飛べたという感じだよね」
――その後、2015年のBOSSさんのソロ『IN THE NAME OF HIPHOP』での「LIVING IN THE FUTURE」の共演から11年という歳月を経て今回のアルバムに至るわけですが、何かきっかけがあったんでしょうか。
ILL-BOSSTINO「大きかったのは、俺がdj hondaさんとアルバムをやりきったことだね。その直後くらいに、次はもうKRUSHさんとやるしかないって思ってた。同じ日本でラップを続けている以上、しかも手の届くところで活躍している以上、このタイミングで挑戦するしかないって思った」
DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO/
――実際の作業が始まったのはいつ頃でしょう。
ILL-BOSSTINO「俺からお願いをした。去年の正月、東京でKRUSHさんと酒を飲みながらやりましょうとなってからのスタート。そこから仮歌を録るまで半年以上はかかったかな。一曲の共作なら完成は早いけど、アルバムとなれば15曲は作りたいし、全体の世界観を作り込む必要があるから、やるべきことがいっぱいあったんだ」
DJ KRUSH「誘われた時は一瞬迷ったんだよ。当時、俺は全然違う方向性……ベースミュージック寄りの音をやってたから。でも、BOSSのラップに衝撃を受けたあの頃の感覚は忘れてないし、今回はPCに“BOSS”というフォルダを作って、彼を目指して何十曲もトラックを作り溜めていった」
――やはりおふたりのアルバムということで聴き手がまず想像する音というのは、最初の1、2曲目のような、KRUSHさんの直近のソロ作を思わせる、攻撃的な、激しい曲だと思うんです。でもその感じで始まりつつも、4曲目と9曲目の2回のインタールードでサウンドや曲調も変化していく。だから勝手ながら“三章構成”になっているように聴こえたんです。第1章はオーディエンスが待ってるものに応える。でも5曲目から一気に世界が変わる。音でいったら、KRUSHさんがこんなにソウルフルな、ヒップホップな音を出してくるという。しかも長いキャリアのこの地点で、というのが本当に驚きで。それで何度も聴き込むうちに、やはりBOSSさんとの信頼関係によるものというか、“BOSSさんのこのリリックだから、このビートじゃなきゃいけなかったんだな”という必然性を感じるようになりました。だから今回どういったふうにしてこの形に至ったのかを伺いたくて。KRUSHさんのビートで驚くのは、たとえば「SAY WHAT? TAKE THAT」なんかブリブリのハードなダブステップ的ビートじゃないですか。だけどよく聴くと、BOSSさんのヴァースのうしろですごくいろいろな音が鳴ってて。
DJ KRUSH「鳴ってるよ(笑)」
――しかも、それがひとつのパターンではなく細かい展開がたくさんついていて、近年は『TRICKSTER』の頃からあらためてこだわられている、残響音の付け方や定位もスゴく丁寧というか。今回BACHLOGICさんのミックスも素晴らしいので、普通だったら埋もれちゃうはずの細かい音も全部聞こえる。KRUSHさんがこういった直球ヒップホップスタイルのビートをやっていること自体は意外なんですけど、一音一音をよく聴くと“間違いなくKRUSHさんの音”だと感じられる。
DJ KRUSH「そうなったのはシンプルにBOSSのラップがあるからじゃないかな。普通の単純なループで作ろうなんて思ってなかったし、もちろんそこにDJ KRUSHの主張も乗せたかった。でもあまりにも出すぎちゃうとラップの邪魔になる。メインはBOSSだと思ってたから、いかに詞を聴かせようかと。そこでできることはいっぱいあるけど、KRUSHを消すわけにもいかない。もともと俺がMUROとかとやってた時には、90年代のブーンバップがとても好きで、そこがルーツだったから。でも今同じことやってもしょうがない。だから自分自身に頼るしかなくて、BOSSの詞の世界を借りながら、今出せる自分を100出す。これまでの経験と技術を使って、絶妙な音をたくさん入れたり。自分の部屋でスゴく戦ったよ、いつも通り」
――そんなKRUSHさんのビートに乗ってくるBOSSさんのラップですが、まずはサウンドについての印象でいうと、これまで以上に声のトーンに繊細な緩急が付いているというか、声色の使い分けが目立つ場面がたくさんありました。
ILL-BOSSTINO「そこは曲の内容やビートのサウンドによってどうこうしようというよりも、もっと感覚的なものではある。感情を込めるからこそ、自然とそうなっていくというか」
――たとえばオープニングの「BUT EXTRA RAW」はオーディエンスでいっぱいのライヴフロアが目に浮かぶようですが、レコーディングの時はフロアのオーディエンスのことを頭に描きながらマイクの前に立ちますか?
ILL-BOSSTINO「もちろん。オーディエンスとのつながりはレコーディングの時も絶対にあると思ってる。だけど現場のフロアと向き合うのはまだはるか先なわけで、声を入れる時は、今回であればまずはKRUSHさんの音との対峙だよね。それしかなかった」
――そのKRUSHさんのビートは、作り方も90年代のようにレコードからシンプルなネタを抜いてループさせるというのとは違うわけですが、今回のような作り方の面白さっていうのは、どういったところにありましたか。
DJ KRUSH「ラッパーの世界観を理解して音を付けていく面白さだよね。今回はBOSSの後ろに“俺が”ちゃんと存在していたかったというか。ワンループのビートを遠くから投げるんじゃなくて、全曲通して背後でしっかりと構えて、言葉を邪魔せずにどう音を展開させるか」
ILL-BOSSTINO「そこにたどり着くために、トラックのやり取りは何往復もしたよ。仮歌を録ってからが本番というか、そこからさらに数ヵ月かけて詰めていった。KRUSHさんがトラックをためたフォルダから曲にするモノを俺が選んでいく時点で、ふたりの大きなビジョンはほぼズレてなかったけどね。あとはプロとして粛々といい曲にしていくだけだった」
DJ KRUSH/ILL-BOSSTINO/
――具体的にはリリックとビート、どっちが先だったんですか?
ILL-BOSSTINO「トラックのほうが圧倒的に先にあった。何十個ももらってたから。でも俺が仮歌を入れてから、完成するまでになんだかんだいって数ヵ月はかかってるし、やり取りも何往復もしてたから、どっちが先かっていうのはあまり関係なかったね。仮歌入れてから勝負が始まるっていう」
DJ KRUSH「まずは“これBOSS用かな”っていうフワフワした感じじゃなくて、明らかにBOSSを目指して何十曲もトラックを作っていった」
ILL-BOSSTINO「俺たちも意外だったのは、最後の〈WE ALL KNOW〉がいちばん最初にできた曲のひとつなんだよ」
DJ KRUSH「そうそう」
――そうなんですね!軽快で、これまでのKRUSHさんからはちょっと想像できないビートで驚きました。でもそこがいい意味でキャッチーで、BOSSさんの“またやろう”という言葉が心に沁みる形でアルバムを締めくくるという。
ILL-BOSSTINO「KRUSHさんのところへ行って聴かせてもらった時点で“もうこれは絶対やります”って。俺らもダークなのも好きだけど、それとは別にそもそも音楽好きだから。KRUSHさんもDJして、俺もライヴやってるから、ああいう曲をライヴの高揚感の中に投入したらどうなるかっていうのは容易に想像できるし」
DJ KRUSH「俺にしてもKRUSH POSSEの時にああいう曲はやってたんだよね。あれはあれでいい部分が絶対にある。俺のソロ作品では個人的にやってないだけで、自分の中では違和感はないよ。超メジャーな感じだけど、気持ちいいし単純にかっこいいねって盛り上がってたよ」
――2曲目の「SAY WHAT? TAKE THAT」は“信用”がテーマですよね。本作には、BOSSさんがかつて最初のレコードを出すところから始めて、徐々に認められてお客さんが増えていって、リリックもお客さんに向けたものになっていく、という過程も描かれていると思います。今あらためて考える、ラッパーの信用とはどういうものでしょうか?
BOSS「なんといっても、お金をもらってるからね。そこだと思うよ。お金をもらって、そのお客さんの満足度が期待と同じくらい、もしくは超えるものじゃなければ次は来てくれない。期待を超えるもの。それは単に楽しかったという感覚だけでもいいし。そしたらもう一回払ってみようこいつに、って思うわけで。そこはフェアなやり取り」
DJ KRUSH「俺も一緒。海外行った時に、やっぱり客に何か置いてこないと次はもうないから。DJ KRUSHとしても“フロアの信用”だよね。次また聴きたいな、って思わせる何かを置いてこれるか」
――本作でもBOSSさんのリリックは、基本的には一人称で自分のことを歌ってるんですけど、気がつくと視点が移動していて、“お客さんの誰か”とか“知り合いの誰か”の目線での話になっていたりしますよね。「DO NOT DISTURB」のリリックには、“単なる見世物と観客じゃないんだよ/これはそれぞれの日常を持ち寄ってる感覚”というラインがありますが、ライヴのフロアで一緒に場を作ったオーディエンスの日常がBOSSさんにフィードバックされて、それがまた作品となって生み出されてる感じがします。
ILL-BOSSTINO「自分の人生もなかなか面白いんだけど、人の数だけ面白い人生がある。みんなそれぞれいろいろあるから。そこは“サンプリング”と言ってもいいけど、彼らの興味深いエピソードとかハプニングとかを歌う。誰かのことを仮に歌えば、それと似たような経験をしてる人たちもいっぱいいるし、そうやって共感が増えていく。最初に始めた時は自分の一人称でしか歌うことなかったけど、ライヴでいろんな人に会うし、各地に友達もいる。ただ忘れていくにはもったいないっていうような出来事を取り込んで、いろいろな曲の中に集めていく。それはリリックを書いていくうえでは普通のことだと思うよ」
――今作は15曲入りのアルバムで、最後の5曲については少しずつ聴き込むうちに内容が入ってくるような、BOSSさんのフックの言葉は削ぎ落とされてシンプルなんですけど、すぐには理解できない曲として差し出されているような印象を受けました。それぞれの曲も長さについても、今はどんどん短くなる時代ですけど、BOSSさんはしっかり3つのヴァースあるものが多いですよね。今作でも「BREAKING GOOD」や「WIZDAMN」といった曲では、サードヴァースですごいところに連れて行ってくれる感じが、昔から変わらないと思って聴きました。
ILL-BOSSTINO「それまでに10曲積み上げてきて、最後の5曲はこの作品をアルバムとして成立させるためにいちばん肝になる部分だと思ってる。リリックの展開についていえば、ヴァースを書き進めるうちに自然とそうなっていく。後になってみるとどう書いたか覚えてないくらいのものもあるけどね」
DJ KRUSH「そのBOSSの長いリリックにKRUSHのビートを長く味わうっていうのは、今の時代にあえて必要な場所なんだと思ってるよ。アルバム全体の流れや構造はBOSSに任せたけど、インタールードの挟み方も絶妙で、聴き終わったあとにシンプルに“いいな”と思える形になったよね」
DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO/
――今回「BREAKING GOOD」がとくに印象的で、ヒップホップの楽曲にまだこんな可能性があったのかと驚きました。リリックにもスティーヴィー・ワンダーやカーティス・メイフィールドの名前が出て、それと呼応するようにゆったりしたギターのリフや、ウワモノもBOSSさんの広い視線とシンクロしているようで、ビートとリリックの一体感がスゴいですね。
ILL-BOSSTINO「リリックの内容が深刻だから、あんまりダークな音にはしたくなかった。シリアスな内容にダークな音を合わせる作り方は、若い頃はよくやってたけどね。でも今の世の中の深刻さは本当にリアルなものだから、BPMも落として切迫感なくゆっくり語れるようなイメージをKRUSHさんに伝えて、歌を入れてからさらに構成を詰めていった」
DJ KRUSH「BOSSの意向を察しながら、ここはピアノを外そうか、花火の音を薄く入れようかというふうに細かいニュアンスを詰めていった。だいたい同じものが見えたと思っても感性は人それぞれのところもあるから、そこを一致させるのがすごく大事で。妥協なく“これだ”っていうお互いの一致する点を探していった」
――その「BREAKING GOOD」と「(WE'RE) PAY DREAM BELIEVER」が政治性もある曲になっています。これまでも「MISSION POSSIBLE」などで米軍基地について歌ってこられましたが、今回のやり方は、自分の考えを示すというよりも、現状を淡々とさまざまな視点から見せていますよね。
ILL-BOSSTINO「今までそういった曲はずっと作り続けてきたんだけど、“自分はこう思うんだ”から出発して、“わかってないやつはダメだ”って線引きにもつながりかねないやり方だった。それが表現の強さだと思ってやってきたんだけど、長くやってくると、方法はそれしかないのかって考える。とくに今は、ひとつの意見を言うだけですぐに立場を決められてしまう世の中。でも俺はもっと複雑な人間だし、みんなもそうだと思う。だから世の中を歌うにしても今までとは違った方法を模索してた。この曲にフックで参加してもらってる曽我部(恵一)くんとも話してたんだけど、戦争反対と言い切るカタルシスとは違った世界観というか。閉塞感をそのまま置いておく形で留めてるのは、自分的に新しい表現だなと思う」
――この曲の曽我部さんのフックもそうですし、J-REXXXさんの「DO NOT DISTURB」や「DIAMOND」は日本語の曲を引用する日本のヒップホップの形だなって思いました。
ILL-BOSSTINO「あまり意図はしてなかったけど、たしかに言われてみればそうかもしれない」
――ほかにもO.C.の「Born 2 Live」やナズの『Illmatic』といった90年代のヒップホップクラシックへの言及もあったり、もちろんKRUSHさんのビートがあらためてヒップホップを強く感じさせる場面が多くあります。この『XO』という地点に今回辿り着いたおふたりにとって、“今自分がやるヒップホップ”とはどういうものなんでしょう?
ILL-BOSSTINO「ヒップホップってこういうもんだってしゃべるやつもいるけど、俺は違うよ。俺は作品でやる人なんで。それ以上補足することはない。この作品がまさにそれってことだ」
DJ KRUSH「もちろんヒップホップが根っこというのは、このアルバムも一緒。DJ KRUSHとして作ってるから。『TOKY Ø HUM』みたいな音を出そうが、今回BOSSと作ったものも、ルーツはヒップホップ。単なる聞こえ方じゃなくて、自分をどれだけ広げられるか。最初に作り始めた時からアメリカの真似はしたくなかったし、失礼だと思った。だから未だにいろいろな枝を伸ばしながら探してる」
DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO/
――そのKRUSHさんの『TOKY Ø HUM』のお話も伺いたいのですが、タイトルは“ハムノイズ”の“ハム”ですか。
DJ KRUSH「そう、ノイズとか鼓動とかっていうニュアンス。造語にしてひとつにまとめたかった。これまでアルバム14枚出してるけど、海外を含めた大きな視線でしか見れてなかった。だから今回はあえて自分の住んでる東京の姿、今はインバウンドで外国の方も多いけど、彼らに普通は見えない街の姿も見せたいということで。中毒性のあるダークなサウンドスケープにプラスして、90年代のブーンバップが持つリズムも入れつつね。太陽をさんさんと浴びて砂浜で見る世界じゃなくて、マンホールから覗く東京」
――たとえば「CHILDRIFT」のまるで生きているような金属音だったり、「CRYTERRA」の水と機械音の混ざり合いだったり、非常に有機的なサウンドになっているという印象を受けました。もちろん現代的な都市でありながら、あくまでも人間が住んでいるTOKYOという場所が描かれているような。
DJ KRUSH「そうだね。そういった都市のサウンドを聴かせるために、今回はそれぞれの音の距離感とか配置も今まで以上に考えた。全体的には音数は少ないと思ってるんだけど、押し引き、抜き差しがスゴくある」
――そういった音との距離感とか空間ということで言えば、「TOKY Ø HUM」の途中のブレイクで鐘の音が入ってくるところが、宗教的体験のようだというか……。真夏の暑い寺でお坊さんのお経と木魚と鈴の音を聞きながらゾーンに入っていく、個人的な体験を思い起こしました。音が自分の過去の出来事とリンクして、映像が浮かぶような体験というのでしょうか。
DJ KRUSH「インストに関しては俺の十八番だからね。しゃべってるつもりでやってるし、ラップしてるつもりでトラックを作ってる。景色を見せたいんだよね。もっとリアルに、立体的に絵が見えるように。左から右に飛び去っていった、わけわかんない音が何かしらを見せてくれるとかさ(笑)。そういうのをもっとフロアで聞かせたい」
――景色といえば、今回ELIMさんを招いた「大鳥 -OoKARAS- feat. ELIM」のMVもユニークですが、どのような経緯で一緒にやることに?
DJ KRUSH「ライヴの後に音源をもらったんだけど、聴いたらすごくカッコよくてさ。それでやっぱりBOSSの時と同じように、自分のセットでかけてたんだよ。いいものがあると、紹介したくてしょうがないんだ。それで一緒にやることになったんだけど、彼は映像で賞も取ってるほどで、今回のMVも彼がやってくれた。世界観が独特ですごい面白くて」
――アルバムを締めくくる「SCARPULS」も非常に印象的な一曲です。世の中の流行に関係なくKRUSHさんの“好き”が詰まっているというか。アップテンポのドラムに短いベースの刻み方も最近では聞かないスタイルだし、今作で重要な働きをしているピアノの旋律が最初と最後に抑制的に出てきて、その後にEDM的なオーディエンスを煽るクラップのリズムまで出てくるという。
DJ KRUSH「よく聴いてくれてありがとう(笑)。ピアノのメロディに関しては、放っておくと叙情的になりすぎるのを自覚してるから、抑制はかなり意識したよ。さっと引くような不自然じゃないコントロールをね。あとはローの鳴り方にしても、今回は濁らないよう意識した。100kHz、200kHz辺りがぐしゃっとならずに、しっかりと聞こえるようにね」
――制作環境についても伺いたいです。
DJ KRUSH「ビートの制作環境は今までとほとんど一緒。Ableton Liveと、Wavesのプラグインと。それで『XO』も全部作ってる。今回ミックスはHAL STUDIO時代の三好さんのアシスタントだった山崎寛晃さんにお願いした。長年三好さんとのやり取りのあいだに入って、俺の裸の音を全部知ってるから、信頼して任せられた。マスタリングもUKの信頼できる人間に頼んで。今は家で何でもできる時代だけど、現場でドワーンって鳴った時、やっぱり海外の音と並べてかけた時に負けるので悔しい思いもあって。だからミックスもマスタリングも一から考え直して徹底的に詰めたよ」
――最後に、これからおふたりのライヴもあるかと思いますが、『XO』の曲の再現ということになりそうですか。
ILL-BOSSTINO「ライヴはまずは年内2ヵ所、東京と大阪。内容はまあいろいろ。じっくりやらせてもらうよ」
DJ KRUSH「東京はすぐに完売したって聞いてる。もしかしたらほかの場所でもやれるかもしれないから待っててよ」
――楽しみにしてます。今日は本当にありがとうございました。

取材・文/吉田雅史
撮影/斎藤大嗣

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