DJ KRUSHとILL-BOSSTINOのふたりがついにタッグを組み、アルバム『XO』をリリースした。先日リリースされたばかりの『TOKY Ø HUM』をはじめとする近年のソロ作品とは一味違うDJ KRUSHのビートと、THA BLUE HERBやtha BOSS名義のソロ活動で培ってきたILL-BOSSTINOの円熟した言葉が正面からぶつかり合う重厚な作品だ。長いキャリアを持ちながら、現時点でも最前線で活動し続けるふたりが到達した場所とは一体どこなのか。あらためてふたりの出会いから、話を聞いた。
New Album DJ KRUSH × ILL-BOSSTINO 『XO』 ※2026年8月5日(水)発売。
ILL-BOSSTINO「KRUSHさんが俺なんかより圧倒的に先行してたからね。俺らがTHA BLUE HERBを始めて、アナログ作って。それを、KRUSHさんの当時の担当者さんが札幌の人だったから、その人に話して。KRUSHさんが〈知恵の輪〉の12インチをかけてくれて。会うまでにはまだ時間がかかるけど、そこが音楽的な接点というか、縁というか、スタートだった」
DJ KRUSH「俺がソニー在籍だった当時、担当が札幌の人間で、BOSSと繋がってた。その彼がアナログ盤を俺に持ってきたわけよ。“地元のやつなんですけど、聴いてください”と言って。それでオッケーって聴いたらさ……それが元でここまで繋がってきたわけだ。〈知恵の輪〉には驚かされたよ。聴く側の人間の心をザワザワとさせるような、東京とは違うテイストのやつがいるんだと知った。それですごく気に入ったから、海外、日本問わず(DJで)かけまくった」
DJ KRUSH「当然日本語はわからないわけだからね。それもあるからあの曲をかける時は、かけても違和感ないように上手にDJセットに入れていくわけだよ。俺たちだって英語も全部わかるわけじゃないけど、これはヤバい曲だっていう空気感というのはあるじゃない?そこに埋め込んでいく。あの曲は音もそうだし、BOSSのテンションもそうだし。なんせヴォーカルの意味がわからなくても音として入ってくるから……もう全然勝負できるなと。聴いた人が気になれば、あとで調べてくれるだろうしね」
DJ KRUSH「〈Candle Chant (A Tribute)〉は悲しげなメロディがはっきりしてて、ウワモノの旋律とドラムのみみたいなトラックで。ああいった曲調にしてはBPMが速いから、一瞬、逆に乗せづらいかなと思ったんだけど。でもそこに何も言わずきっちりあれだけの内容のリリックをはめてきて、自分の世界に持って行ってくれたから、やっぱりただ者じゃなかったなと思ったよ。曲の最後の“1ミリ”の話も、あれを言葉にできるのはスゴいよね。そんなに変化をつけてない、ワンループで引っ張るヒップホップの基本のようなビートだけど。BOSSのリリックがあったから最後まで引っ張れてる、大切な曲ですよ」
DJ KRUSH「誘われた時は一瞬迷ったんだよ。当時、俺は全然違う方向性……ベースミュージック寄りの音をやってたから。でも、BOSSのラップに衝撃を受けたあの頃の感覚は忘れてないし、今回はPCに“BOSS”というフォルダを作って、彼を目指して何十曲もトラックを作り溜めていった」
――やはりおふたりのアルバムということで聴き手がまず想像する音というのは、最初の1、2曲目のような、KRUSHさんの直近のソロ作を思わせる、攻撃的な、激しい曲だと思うんです。でもその感じで始まりつつも、4曲目と9曲目の2回のインタールードでサウンドや曲調も変化していく。だから勝手ながら“三章構成”になっているように聴こえたんです。第1章はオーディエンスが待ってるものに応える。でも5曲目から一気に世界が変わる。音でいったら、KRUSHさんがこんなにソウルフルな、ヒップホップな音を出してくるという。しかも長いキャリアのこの地点で、というのが本当に驚きで。それで何度も聴き込むうちに、やはりBOSSさんとの信頼関係によるものというか、“BOSSさんのこのリリックだから、このビートじゃなきゃいけなかったんだな”という必然性を感じるようになりました。だから今回どういったふうにしてこの形に至ったのかを伺いたくて。KRUSHさんのビートで驚くのは、たとえば「SAY WHAT? TAKE THAT」なんかブリブリのハードなダブステップ的ビートじゃないですか。だけどよく聴くと、BOSSさんのヴァースのうしろですごくいろいろな音が鳴ってて。
DJ KRUSH「そうなったのはシンプルにBOSSのラップがあるからじゃないかな。普通の単純なループで作ろうなんて思ってなかったし、もちろんそこにDJ KRUSHの主張も乗せたかった。でもあまりにも出すぎちゃうとラップの邪魔になる。メインはBOSSだと思ってたから、いかに詞を聴かせようかと。そこでできることはいっぱいあるけど、KRUSHを消すわけにもいかない。もともと俺がMUROとかとやってた時には、90年代のブーンバップがとても好きで、そこがルーツだったから。でも今同じことやってもしょうがない。だから自分自身に頼るしかなくて、BOSSの詞の世界を借りながら、今出せる自分を100出す。これまでの経験と技術を使って、絶妙な音をたくさん入れたり。自分の部屋でスゴく戦ったよ、いつも通り」
DJ KRUSH「俺にしてもKRUSH POSSEの時にああいう曲はやってたんだよね。あれはあれでいい部分が絶対にある。俺のソロ作品では個人的にやってないだけで、自分の中では違和感はないよ。超メジャーな感じだけど、気持ちいいし単純にかっこいいねって盛り上がってたよ」
――2曲目の「SAY WHAT? TAKE THAT」は“信用”がテーマですよね。本作には、BOSSさんがかつて最初のレコードを出すところから始めて、徐々に認められてお客さんが増えていって、リリックもお客さんに向けたものになっていく、という過程も描かれていると思います。今あらためて考える、ラッパーの信用とはどういうものでしょうか?
DJ KRUSH「俺も一緒。海外行った時に、やっぱり客に何か置いてこないと次はもうないから。DJ KRUSHとしても“フロアの信用”だよね。次また聴きたいな、って思わせる何かを置いてこれるか」
――本作でもBOSSさんのリリックは、基本的には一人称で自分のことを歌ってるんですけど、気がつくと視点が移動していて、“お客さんの誰か”とか“知り合いの誰か”の目線での話になっていたりしますよね。「DO NOT DISTURB」のリリックには、“単なる見世物と観客じゃないんだよ/これはそれぞれの日常を持ち寄ってる感覚”というラインがありますが、ライヴのフロアで一緒に場を作ったオーディエンスの日常がBOSSさんにフィードバックされて、それがまた作品となって生み出されてる感じがします。
DJ KRUSH「BOSSの意向を察しながら、ここはピアノを外そうか、花火の音を薄く入れようかというふうに細かいニュアンスを詰めていった。だいたい同じものが見えたと思っても感性は人それぞれのところもあるから、そこを一致させるのがすごく大事で。妥協なく“これだ”っていうお互いの一致する点を探していった」
DJ KRUSH「もちろんヒップホップが根っこというのは、このアルバムも一緒。DJ KRUSHとして作ってるから。『TOKY Ø HUM』みたいな音を出そうが、今回BOSSと作ったものも、ルーツはヒップホップ。単なる聞こえ方じゃなくて、自分をどれだけ広げられるか。最初に作り始めた時からアメリカの真似はしたくなかったし、失礼だと思った。だから未だにいろいろな枝を伸ばしながら探してる」
DJ KRUSH「そう、ノイズとか鼓動とかっていうニュアンス。造語にしてひとつにまとめたかった。これまでアルバム14枚出してるけど、海外を含めた大きな視線でしか見れてなかった。だから今回はあえて自分の住んでる東京の姿、今はインバウンドで外国の方も多いけど、彼らに普通は見えない街の姿も見せたいということで。中毒性のあるダークなサウンドスケープにプラスして、90年代のブーンバップが持つリズムも入れつつね。太陽をさんさんと浴びて砂浜で見る世界じゃなくて、マンホールから覗く東京」
DJ KRUSH「インストに関しては俺の十八番だからね。しゃべってるつもりでやってるし、ラップしてるつもりでトラックを作ってる。景色を見せたいんだよね。もっとリアルに、立体的に絵が見えるように。左から右に飛び去っていった、わけわかんない音が何かしらを見せてくれるとかさ(笑)。そういうのをもっとフロアで聞かせたい」
DJ KRUSH「ライヴの後に音源をもらったんだけど、聴いたらすごくカッコよくてさ。それでやっぱりBOSSの時と同じように、自分のセットでかけてたんだよ。いいものがあると、紹介したくてしょうがないんだ。それで一緒にやることになったんだけど、彼は映像で賞も取ってるほどで、今回のMVも彼がやってくれた。世界観が独特ですごい面白くて」
DJ KRUSH「よく聴いてくれてありがとう(笑)。ピアノのメロディに関しては、放っておくと叙情的になりすぎるのを自覚してるから、抑制はかなり意識したよ。さっと引くような不自然じゃないコントロールをね。あとはローの鳴り方にしても、今回は濁らないよう意識した。100kHz、200kHz辺りがぐしゃっとならずに、しっかりと聞こえるようにね」
――制作環境についても伺いたいです。
DJ KRUSH「ビートの制作環境は今までとほとんど一緒。Ableton Liveと、Wavesのプラグインと。それで『XO』も全部作ってる。今回ミックスはHAL STUDIO時代の三好さんのアシスタントだった山崎寛晃さんにお願いした。長年三好さんとのやり取りのあいだに入って、俺の裸の音を全部知ってるから、信頼して任せられた。マスタリングもUKの信頼できる人間に頼んで。今は家で何でもできる時代だけど、現場でドワーンって鳴った時、やっぱり海外の音と並べてかけた時に負けるので悔しい思いもあって。だからミックスもマスタリングも一から考え直して徹底的に詰めたよ」