【中島正夫 interview】 多彩な音楽経験が結晶した 伝統と革新のブラームス

中島正夫/中島政雄   2010/08/03掲載
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 ポーランドのヴラツワフのオーケストラを振ったブラームスの交響曲第1番で、指揮者としてCDデビューを果たした中島正夫。クラシック畑では未知の名であるに違いない。だが彼の経歴を知れば、それが看過できぬ一枚であることに気付かされるだろう。
 中島は、16歳からジャズ・ピアニストとして活動。グレン・ミラー・オーケストラエルヴィン・ジョーンズピーナッツ・ハッコールー・タバキンリー・コニッツゲイリー・フォスターランディ・ブレッカーロビン・ケニヤッタコーネル・デュプリー、そしてエディ・ゴメスら多数の大物たちと共演し、プロデューサーや作・編曲家としても活躍してきたキャリア豊富なベテラン音楽家である。その彼が、ジャズでの活動と並行した長い研鑽の末に送り出したのが、このブラームスなのだ。
 画期的ともいえる指揮者デビューに至る過程や、今回の録音について話を伺った。



撮影:高木あつ子
――ジャズ・ピアニストとしての活動がお忙しい中、指揮はいつ、どのように学ばれたのですか?
中島正夫(以下、同) 「20代のとき、最初は若杉弘さんの門を叩き、数年後アレンジの仕事でご一緒した黛敏郎さんから桐朋学園の高階正光先生を紹介していただきました。ただ、当時はジャズの仕事がたけなわであまり通えず……40歳を前に桐朋学園に入り直し、あらためて師事しました。以来レッスンは約20年続いています」
――これまでは、どのようなところで指揮をされていたのですか?
「主にレコード会社のスタジオのオーケストラです。自分の作・編曲ものが中心ですが、ガーシュウィンの〈ラプソディ・イン・ブルー〉なども手がけました。また、指揮者の榊原栄さんと知り合い、彼が集めた新日本フィルハーモニー交響楽団のメンバーが中心となったオーケストラや、音大OBの合同オーケストラなども指揮しています」


――今回、ブラームスの録音が実現した経緯は?
「あるきっかけでフリードマン・エンゲルブレヒト(ウィーン・フィルベルリン・フィルなどヨーロッパの主要オーケストラや、ギドン・クレーメルのアルバムなどを手がけたレコーディング・プロデューサー)と知り合い、ベルリンのテルデックス・スタジオで、今回同時にリリースしたジャズ・アルバムの一部を録音しました。その際に“オーケストラを振りたいけど、何かアイディアはないかな?”と聞いたところ、しばらくして“こういうオーケストラがあるけど、どう?”との連絡がきたのです。それがポーランドのヴラツワフ・スコア・オーケストラでした。ヴラツワフは、かつて長くドイツに属してブレスラウと呼ばれ、ブラームスから〈大学祝典序曲〉を贈られた大学がある街。そこに車で4時間のベルリンから機材を持ち込み、1週間滞在して録音しました」
――CDを聴くと、中音が充実して底光りのするドイツ的なサウンドが印象的です。実際に指揮された感触はいかがでしたか?


「最初に振ったとき、さほど力んでいないのに、相当な音圧がかえってくるんです。“しめた! これならいける”と思いましたね。ドイツの古く柔らかな、スレていない音。それでいてロシア流の戦闘的なノリも持ち合わせていました。録音したのが木のホールで、そこも抜群の響きでした」
――最初の録音にブラームスの交響曲第1番を選ばれた理由は?
「まずはドイツものを、と。ベートーヴェンの交響曲は全曲勉強しましたが、ヘタにやるのは危険ですし、モーツァルトはもっと難しい。そこでブラームス。最初は第4番も考えましたが、最終的には構成が明確な第1番を選びました」
――今回は同時に、ジャズ・ピアノのアルバム『Suona Tigre』もリリースされましたね?
「ジャズ・ベーシストの最高峰、エディ・ゴメスとのデュオと、スタンダード・ナンバーのソロを収めたアルバムです。1989年に来日したエディと録音して眠らせていた音源に、今回ベルリンで収録したソロを加えたもので、ブルーノートレーベル流のオン・マイクではなく、クラシックのピアノと同じ録り方なのが特徴です」
――中島さんは、著名な作曲家の間宮芳生や、ウィーン三羽烏の一人であるクラシックの世界的ピアニスト、イェルク・デームスにも師事されたそうですね。
「間宮先生には、30代後半に桐朋学園で師事しました。また、間宮先生のドラマ音楽の録音でピアノを弾いたりもしています。デームスには、年に3回ほど日本で行なっていたマスタークラスで5年間学びました。彼はとにかく運指に厳しい。親分肌ではありますが、あんなに怖い人だとは思いませんでした(笑)」
――このブラームスは、多彩な音楽経験が反映された録音なのですね。では最後に、今後チャレンジしたい作品は?
ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』『春の祭典』などをやりたいですね。ストラヴィンスキーのスコアを見ると、20世紀初頭の作品なのにジャズの手法が彼独自のやりかたで取り込み交錯している。その点がすごいと思います」
――それもぜひ耳にしたいですね。本日はどうもありがとうございました。



Nakajima


取材・文/柴田克彦(2010年6月)
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