[こちらハイレゾ商會]第70回 “エルトン・ジョンのテーマ・パーク”に来たように楽しめるサントラ
掲載日:2019年8月14日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから牧野さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は8月21日(水)の「ROCK'N'POPS NOW」から。

こちらハイレゾ商會
第70回 “エルトン・ジョンのテーマ・パーク”に来たように楽しめるサントラ
絵と文 / 牧野良幸
エルトン・ジョンの半生を綴った映画『ロケットマン』が、いよいよ8月下旬に公開されるが、いち早くオリジナル・サウンドトラックがハイレゾで配信になったので聴いてみた。ハイレゾはflacとMQAである。
サントラに使われているのは当然エルトン・ジョンの楽曲であるが、エルトン自身の音源が使われるのではない。映画用に新たに録音されたものである。そのヴォーカルを、なんと主演を務めるタロン・エガートン本人が歌っている。これが結構サマになっていて、容姿のソックリ度も含めて、ベスト・パフォーマンスではないかと思う。
サントラの選曲も製作者のこだわりが感じられるものだ。「ロックンロール・マドンナ」「過ぎし日のアモリーナ」「ハーキュリーズ(ヘラクレス)」といった、かなり地味な曲(しかし素晴らしい曲)を掘り出してきている。コアなファンでさえ驚く選曲だろう。もちろん「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」や「クロコダイル・ロック」などの代表曲も含まれるから、全体のバランスは申し分ない。
サントラの曲は大きくわけて、エルトン・ジョンの原曲を忠実に再現したものと、原曲のイメージは残しつつも新しいアレンジを加えたものに分かれる。
原曲を忠実に再現したと思われるのは「人生の壁」「パイロットにつれていって」などで、“完コピ”に近い仕上がり。あのポール・バックマスターによるアレンジも再現しているのだから、ファンにはたまらない。
タロン・エガートンも役者とは思えない熱唱を聞かせる。僕もまさか「人生の壁」のような大曲を、映画俳優が歌いこなす日が来るとは思いもしなかった。
他の曲でもタロン・エガートンの“成り切り”は徹底している。「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」ではレコードでのエルトンの細かい歌い方まで真似しているように感じられて、“ここまでしてくれて、ありがとう”と言いたくなったほどだ。
ここ数年エルトン・ジョンの名バラードとして取り上げられる機会が多くなった「可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)」にいたっては、原曲と同じくらいエガートン・ヴァージョンでも盛り上がり、聴く者を興奮させる。「ロックンロール・マドンナ」のように“完コピ”を超えて原曲以上にノリノリになったナンバーもある。
その一方でサントラには、原曲のイメージを残しつつ新しいアレンジを加えた曲も多い。さじ加減は曲によってさまざまだ。映画のシーンが目に浮かぶようなアレンジもある。
その中で気に入ったものを一つあげるなら「ロケットマン」だ。エンディングでロケットの上昇する効果音が、まるでビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のオーケストラの上昇を思わせる迫力だった。
そういえば、このサントラのプロデュースは近年ビートルズの新ミックスを手がけているジャイルズ・マーティンだ。どうりで原曲へのリスペクトを含んだ仕事ぶりに、ビートルズの新ミックスに通じるものを感じたわけだ。「クロコダイル・ロック」や「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」「僕の瞳に小さな太陽」なども、スタートは原曲から大きく離れたアレンジでも、最後はエルトン・ジョンの曲として落とし込んでいくのだからたいしたものだと思う。
ハイレゾでの聴きどころには「ハーキュリーズ(ヘラクレス)」があげられるだろうか。音数が少ないぶん、メリハリのあるバンド・サウンドが解像度よく現れる。原曲はエルトン・ジョンのアルバムとしては、それまで以上にハイファイになった『ホンキー・シャトー』に収められるが、その“21世紀版”というような音だ。あと「悲しみのバラード」でクローズアップされるヴォーカルも、ハイレゾの表現力が生かされるところかもしれない。
エルトンのファンへの最大のプレゼントになるのが、エルトン・ジョンとタロン・エガートンの共演による新曲「(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン」だ。ちょっとモータウン風で、かの「フィラデルフィア・フリーダム」を思わせるノリがたまらない。それにしても最後にエルトン・ジョンのヴォーカルが出てくるとやはりアルバムがしまる。この曲は映画のエンドロールで流れるらしい。
ということで『ロケットマン』のサントラは、タロン・エガートンのヴォーカル、完コピ曲、新アレンジなど、いろいろに楽しめて、さながら“エルトン・ジョンのテーマ・パーク”に来たようなアルバムだ。これらの楽曲がどう使われるか、映画を観るのが楽しみである。



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