e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [注目タイトル Pick Up] 幅広い興味や視点をルーツにキレッキレの演奏を聞かせるデンマーク弦楽四重奏団 / リック・オケイセックよ安らかに
掲載日:2019年9月24日
はてなブックマークに追加

高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は10月2日(水)の「ROCK'N'POPS NOW」から。

注目タイトル Pick Up
幅広い興味や視点をルーツにキレッキレの演奏を聞かせるデンマーク弦楽四重奏団
文/長谷川教通




 いま世界的に注目されているデンマーク弦楽四重奏団。デビューは2002年だが、そのときメンバーはまだ10代の若者たち。デンマークの偉大な作曲家カール・ニールセンの弦楽四重奏曲でDACAPOレーベルにデビューしたときは“Young Danish String Quartet”と表記されていたぐらい。現在はメンバーもすっかり髭面のスカンジナビア人に成長している。彼らはスカンジナビアの作曲家や現代作品へのアプローチはもちろんだが、ベートーヴェンやモーツァルトなどオーソドックスな作品を探求する一方で、トラディショナルな音楽への愛着にも深いものがあって、そうした幅広い興味や視点が彼らの音楽のルーツになっているに違いない。
 『Wood Works』はデンマークのレーベルDACAPOからリリースされた2013年の録音で、デンマークのトラディショナルなメロディをモダンなサウンドにアレンジして注目を浴びたアルバムだ。スカンジナビアやアイルランドのメロディに共通する懐かしくて癒しの音楽に包み込まれ、民族楽器のフィドルやハーディングフェーレのような雰囲気も味わえる。『Last Leaf』はECMレーベルの録音で、スウェーデンやフェロー諸島に伝わるメロディも加わって、よりスタイリッシュな仕上がりになっている。古いものを伝統的なスタイルで継承するのもいいけれど、彼らが奏でる現代の感覚でアレンジしたメロディはまったく古びていないし、それどころかときにはミニマル・ミュージックに通じる要素さえ感じさせられる。こういう継承の在り方も素敵だ。
 こうしたアプローチの一方で、彼らの本領発揮が『Prism 機戞Prism 供戮搬海ECMレーベルへのプロジェクトだ。ベートーヴェンを中心に置き、バッハから近現代まで振り子のように俯瞰するというコンセプト。それにしても果敢だなと思わせるのは作品の選び方で、ベートーヴェンではあえて後期の作品127と130、ショスタコーヴィチではなんと問題作の第15番を演奏する。彼が亡くなる前年の作品で、6つの楽章にはそれぞれ「エレジー」、「セレナード」、「間奏曲」、「ノクターン」、「葬送行進曲」、「エピローグ」と標題がつけられており、しかもすべての楽章がアダージョで切れ目なく演奏する。このような特異な構成であり、誰にも献呈されていないことから、作曲者自身に捧げた葬送の音楽だとか、過去の暗黒や死への恐怖といったイメージでとらえられがち。けれども、彼らの演奏からは難解さや暗さといった先入観を払拭する音楽が聴こえる。キレッキレのボウイングから繰り出される透明な響きと先鋭で鮮やかなフレージングは、それまでショスタコーヴィチを束縛してきた苦難や既成概念から解放された先に見えていたはずの異次元の音楽と、それを希求する音楽家の情熱を描き出そうとするアプローチであり、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲にも通じるもの……4人の奏者はそれを見出しているのだ。


 長年クラシック音楽に親しむオールド・ファンの中でもイギリス音楽を好む人は少数派かもしれない。エルガーやディーリアスならかなりポピュラーになってきたものの、スタンフォードやアーノルド、フィンジ、アイアランド、ホロヴィッツ(ジョーゼフ)となると……。いやいや、ぜひ聴いてみてほしい。クラリネットのディミトリ・ラスル=カレイエヴはスイス・ロマンド管弦楽団の首席奏者。1984年のモスクワ生まれだが、2002年からイギリス王立音楽アカデミーに学び、2010年にはパリで開催されたドビュッシー国際クラリネットコンクールで優勝している。イギリス、フィンランド、そしてスイスと、オーケストラ奏者としての経験も豊かで、もうロシア生まれがどうのなんて先入観は関係ない。最初の一音を聴いて“あれっ、厚みのある響きだなー”と思う。どうやらヴーリッツァーを吹いているらしい。クラファンならクランポンやセルマーとはひと味違うドイツ管の音色だとすぐにわかるはず。もちろんどちらが良いとか、そういう意味ではない。
 イギリスの近現代クラリネット音楽。こんなアルバムは世界を探してもめったにないだろう。よくぞ思い切ったプログラムを組んでくれました! ピアノはジュネーヴを拠点に活動するサヤ・ハシノ(橋野紗綾)で、このピアノが巧い。東京藝大を卒業後、ジュネーヴ音楽大学で学び、ピアノからオルガン、チェンバロまで弾きこなすオールラウンダーで、ソロやアンサンブルはもちろん後進の指導にも積極的にかかわる。ラスル=カレイエヴとのデュオを聴けば、アンサンブルのパートナーとして多くの奏者から信頼される理由が伝わってくる。
 フィンジの「5つのバガテル」は、いかにもイギリスらしい旋律と田園の空気を感じさせる響き。クラリネットの語りかけにピアノが寄り添うように応える。そのやりとりを聴いていると心の中に懐かしい想いがわいてくる。アイアランドの「幻想的ソナタ」で聴かせるクラリネットの高音域の美しさ。ここでもピアノとの絡みが絶妙で、思わず“巧いなー”と感心してしまう。アーノルドのソナタは輝かしく張りのあるクラリネットの音色がいつまでも耳に残る。2017年7月9〜10日、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールで収録。ハイレゾならではの鮮度の高いサウンドが愉しめる。



 クラウディオ・アバド亡き後、2016年から音楽監督に就いたリッカルド・シャイーのもと、ルツェルン祝祭管弦楽団は活発な活動を展開している。ファースト・アルバムでは、ストラヴィンスキーの「春の祭典」と世界初録音の「葬送の歌」をはじめとした初期の作品を取り上げてリスナーを唸らせた。“これぞヴィルトゥオーゾ・オーケストラの機動力!”と思わせる、彼らの発する音のエネルギーのすさまじさ。まるでリミッターを外したかのようなダイナミックレンジの広さなのだ。シャイーは安易にテンポを上げてオケを煽り立てたりはしない。むしろ、ゆったりと大きく構え、その中でオケのメンバーそれぞれの自発性を引き出そうとする。とくに木管楽器の弾き手たちの歌い口がとびきりで、抑揚の付け方が自在。互いに聴き合いながら巧みに抑揚を付けていく。そこへパワフルな金管セクションが鳴り響き、弦セクションの分厚く切れ味鋭い響きが重なって、そのスケールの大きさと圧倒的な音圧感は、数ある“ハルサイ”の録音の中でも最上位だろう。ルツェルンのカルチャー・コングレスセンターでの録音は、ホール全体の響きよりもオケが発する生々しい音が奔流となって伝わってきて、そのダイレクト感が聴き手を圧倒するのだ。
 そしてセカンド・アルバムではR.シュトラウスだ。“ええっ?”と意外に思った音楽ファンもいたのではないだろうか。なぜって、アバド時代はマーラーやブルックナーをプログラムの中心に据えて気心の知れた腕利きたちとの精緻で純度の高い演奏を繰り広げていたが、後期ロマン派の雄、R.シュトラウスは……そうなのだ、シャイーはストラヴィンスキーやR.シュトラウスなど、これまでルツェルン祝祭管弦楽団があまり演奏してこなかった作品を取り上げて、新たな進化を遂げようと果敢に挑戦しているのだ。「ツァラトゥストラはかく語りき」のあまりに有名な冒頭の約2分間。オルガンの低音から始まって金管、弦、打楽器と、グングンとパワーを上げていくオケのすごさ。2017年の来日公演でも、サントリーホールやミューザ川崎シンフォニーホール、京都コンサートホールで、アルバムに収録された作品と同じプログラムを演奏しているので、その圧倒的なサウンドに驚嘆した音楽ファンも少なくないだろう。
 録音で気がつくのは、まずダイナミックレンジの広大さ。アクセルを踏めばいっきに吹き上がるようなパワーと音圧感。それなのに細部の動きも明瞭で、左右いっぱいのステレオ音場に各楽器がクリアに定位する。鮮烈な録音なのに、ヴァイオリン群の高音域がメタリックになるどころか、あくまで艶を失わない。音楽ファンはもちろん、オーディオ好きにとっても必携の音源と言えるだろう。


 フィンランドのヴァイオリニスト、Eriikka Maalismaa。日本ではほとんど知られていない。エリーッカ・マーリスマーと読むらしい。こういうマイナー・レーベルの中でもキラッと輝くアルバムに出会うのもハイレゾ音源探しの愉しいところ。シューマンのヴァイオリン・ソナタって、以前は第1番と第2番が知られていたが、ここでは第3番も演奏されているのが嬉しい。じつは、1853年に友人であるブラームスとディートリヒとともに共作した「F.A.E.ソナタ」という作品があって、シューマンは第2楽章と第3楽章を作曲したのだが、後に新たに2つの楽章を作曲し、それを第1、2楽章とし、「F.A.E.ソナタ」に含まれる自身で作曲した楽章を第3楽章、第4楽章に転用して「ヴァイオリン・ソナタ第3番」としたのだった。しかし、その後はあまり注目されることもなかったのだが、最近になってようやく全曲演奏されるようになってきた作品だ。
 ほかの2曲の作曲は1851年。いずれもシューマン晩年の作品に特有の屈折した心情が絡み合った孤独感と仄暗い雰囲気が漂っていて、それが魅力でもあり、その一方でとっつきにくさにもつながっているわけだが、エリーッカ・マーリスマーとエミル・ホルムストレムのデュオは、頭でっかちな理屈っぽさとは一線を画した清新なアプローチがいい。精神的に病んでいたとはいえシューマンが音楽に投入した情熱と創造性はいささかも衰えていない。現代音楽にも積極的に取り組むヴァイオリニストらしく、ビブラートは控えめにしたストレートな奏法で、小気味よく冴えた音色でエネルギッシュに音楽を進めている。彼女は19世紀末から20世紀初頭に音楽に焦点を当てたアンサンブルや、ウィーンの古典から21世紀までのピアノ・トリオや弦楽アンサンブルなど、さまざまなプロジェクトに参加しているが、中でもホルムストレムとのデュオは活動のコアになっており、互いの音楽性を主張し合いながらエキサイティングな掛け合いを聴かせてくれる。


 オンド・マルトノという楽器。メシアンのトゥーランガリラ交響曲を聴いたことがある人なら、あの不思議な音色を知っているだろう。いまから約100年前にフランス人のモーリス・マルトノという電気技師によって発明された電子楽器だ。彼はチェロも弾いたらしい。当時はロシアでテルミンと呼ばれる電子楽器が発明されており、これは空間に手をかざしてその位置によって音の高さと音量を可変するという魔法のような楽器。静電容量の変化によって電気的な発信周波数を可変する。オンド・マルトノも、初期の段階ではテルミンに似たものだったようだが、その後の改良・進化で1935年頃には現在の構造とデザインができあがったと思われる。小型のオルガンのような本体に鍵盤があり、その前にワイヤーが張ってある。奏法としては2通りあって、一つは鍵盤を弾く方法、もう一つはワイヤーをスライドさせて一音一音を区切ることなく流れるように音の高さを上げ下げする。グリッサンド奏法のようなものだが、もっと滑らかで“ウィーン、グワーン……”といった感じ。本体の周囲には大小の特殊なスピーカーが配置され、これらを巧みに操ってミステリアスな音の世界を創り出すのだ。
 演奏は大矢素子。東京藝大大学院からパリ国立高等音楽院に学び、オンド・マルトノ科を首席で卒業し、この楽器のスペシャリストとして活躍している。オンド・マルトノのソロアルバムがDSF11.2MHzのハイレゾ音源で聴けるのだから嬉しい。グリッサンドを駆使した池辺晋一郎の「熱伝導率」、有名なトリスタン・ミュライユの「ガラスの虎」では強烈な衝撃音と持続音、そして高音域の信号音が交錯する近未来的なサウンド。坂本龍一も「Rebirth 2」と「パロリブル」の2曲。静かに流れる時間の中に漂う響きと震えるようなメロディは、シンセサイザーとは似て非なる音世界。発音するスピーカー自体にもさまざまな工夫が施されており、電子楽器とアナログ的な要素が融合しているところがオンリー・ワンの楽器ならではの魅力になっている。
 再生時には少しだけ音量を上げて聴いてみてほしい。リスナーの周りに、まるで3次元音源のような空間が現出する。2ch的な定位感とはまるで別物の空間表現こそが、オンド・マルトノの特長であるとともに、それをとらえるDSF11.2MHzの桁外れな情報量の多さが作り出す効果に違いない。ヘッドフォンで聴いても、空間から音が降り注ぐような感覚が味わえる。

リック・オケイセックよ安らかに
文/國枝志郎

 YOSHIKA。実は2018年1月に5曲入りのミニ・アルバム『About a Beautiful Mistake』がハイレゾ(48kHz/24bit)で配信されたときにちょっと気になっていたのである。YOSHIKAは1983年、横浜生まれ。11歳からカナダに1年半、17歳の時にアメリカに2年半の海外在住経験を経て、帰国後にアル・クーパーの名曲をカヴァーした「JOLIE」が2002〜2003年のSONY Cyber-ShotのTV-CMに起用されて注目を集めたことは今でもよく覚えているし、その後m-floのヴォーカリストとして『m-flo loves YOSHIKA』名義でシングル「let go」をリリース、これはm-floにとっても代表曲のひとつとなった。その後メジャーに移籍してアルバムをリリースしたりして活躍するも、結婚と出産を機に一時活動休止。出産を経たあとは“メロウ・フォーク”を標榜して順調にライヴやリリースを重ねていったが、YOSHIKAにとっての転機は2015年、Origami Production(Ovallのリーダー/ベーシストShingo Suzuki、RHYMESTERなどのプロデュースでも活躍するSWING-O a.k.a. 45など)のプロデュースによるアルバム『YOSHIKA』をリリースしたことだった。それから3年。2018年にリリースしたミニ・アルバム『About a Beautiful Mistake』は、全曲英詞によるオルタナティヴR&B、というかいわゆる“チルウェイヴ”の路線にスライドしていくさまを聴かせる作品となっていて聴き手を驚かせたのだった。実は僕はm-floとの作品以降、YOSHIKAの誠実なリスナーではなかったので、これが同じシンガーの作品? と面食らったことも事実である。しかし、この音楽の質感には抗い難い魅力があった。あれから1年以上の時を経て、ここに登場したミニ・アルバム『こんな暗闇の中で』は、さらに進化したYOSHIKAのチルな世界を覗くことができる。1曲目の「Heart Beat」からすでにビートの力強さで驚かされ、またタイトル・トラックは深い残響と淡いコーラスを伴ったギターとYOSHIKAのヴォーカルによる彼岸音響だ。控えめながらも凝ったリズムが素晴らしい5曲目「Help」など、いずれもYOSHIKA自身の作詞作曲によるものだが、彼女はまた本作ではProducer / Songwriter / Performer / Recording Engineerとしてクレジットされてもいる。そしてまた特筆すべきは、曲によって全部違うミキシング・エンジニアを起用していること。ハイレゾに造詣の深いエンジニア、奥田泰次や、ROVOのメンバーとしても活躍する益子樹など、当欄でもしばしば登場してきたすばらしいエンジニアが、このディープなハイレゾ音響(48kHz/24bit)の誕生に大きな力となっていることは間違いないだろう。この秋はこの音に浸って過ごしたい。


 1978年に結成され、ポストパンク、ニューウェイヴ、ネオ・サイケデリア……それらすべての称号において最高のポジションを獲得したリヴァプールのバンド、エコー&ザ・バニーメンのジョン・ピール・セッションにおけるスタジオ・ライヴ音源が一気にハイレゾ(96kHz/24bit)で登場してきた! これは事件でしょう。UKロック・ファンなら知らない人はいないと思いますが念のため書いておきますと、ジョン・ピールとはイギリスの放送局BBCの名物DJであり、1960年代から2000年代にかけて英国ロック〜ポップを有名無名ベテラン若手を問わずみずからの番組で紹介し続けてきた最重要人物である。彼の番組で行なわれたセッションは“ジョン・ピール・セッション”シリーズとして多くがStrange FruitレーベルからLP/CD化され、それらはすべてがブリティッシュ・ロックの歴史を語るにあたって絶対に欠かせない貴重な資料となっている。エコー&ザ・バニーメンのピール・セッションのLP/CDは88年に1枚4曲入りでリリースされていたが、これはバニーメンにとって最初のピール・セッション・レコーディングであったもの(1979年8月録音)。今回リリースされるこのアルバムは、その4曲を冒頭に17曲(80年5月、11月、82年1月、83年6月のセッションから)を追加収録、トータル21曲という大ヴォリュームのアルバムだ。バンドそのものは21世紀になっても活動を続けたが、彼らの全盛期はやはり80年代半ばまでであったから、このセッションにはその全盛期の音源が記録されているわけであり、実際聴いてみてもその思いはより強くなるいっぽうだ。すでにリリース済みの冒頭4曲は、バンドの由来となったドラムマシーン“Echo”が活躍中のもので、パーカッションとキーボードを同じリヴァプールのバンド、ティアドロップ・エクスプローズのデイヴ・バルフがプレイしている。5曲目以降は、ドラマーとしてピート・デフレイタスが参加してラインナップが完成して以降のものであり、やはりこちらは完成度が段違いだ。エコー&ザ・バニーメンのオリジナル・アルバムはまだハイレゾ化されていないため、このセッション・ライヴのハイレゾはこのバンドの音楽的な深みを垣間見させてくれるという意味で非常に貴重なものと言えるだろう。とくにこのバンドにおける各種のパーカッション類(マリンバや民族打楽器が多用されている)の絡みがハイレゾでより一層効果的に響くさまは圧巻だ。ああ、それにしてもほんと、最高にかっこいいバンドだったよなあ(溜息)。


 夏の終わりにシュガプラからのうれしい便り第2弾が! 2018年7月に18年ぶりの新作『headlights』をハイレゾ・リリースして僕らを驚喜させたオガワシンイチとショウヤマチナツによるユニット、sugar plant。2018年の夏を彩ってくれたあの素晴らしいアルバムから1年。またしても彼らはスペシャルなアルバムをハイレゾ(48kHz/24bit)で届けてくれたのだ。
 といっても、実はこのアルバムは初出ではない。94年リリースの『hinding place』から2018年リリースの『headlights』まで25年の歴史を振り返り、sugar plantのキャリアを総括するべく2019年4月に新代田Feverで行なわれたワンマン・ライヴにおいて、入場者全員に『headlights』収録曲のうち6曲をオガワシンイチ自身がDub MixしたCD-R『another headlights』が配られていたのである。残念なことに所用で行けず、このDub Mixを入手できなかった僕は、“『another headlights』は(2019年)5月中に配信でリリース予定”という情報をゲット。以来首を長くして待っていたのだった。しかし、5月が終わり、長い長い梅雨の6月もすぎ、恐ろしいほど暑い7月と8月を通過してもなお、その便りは届かなかった……(涙)。もうあきらめかけていたところ、9月になって、ついに、ついに来たぁぁぁぁぁぁ(ディレイ)。幻になりかけていたこのダブ・アルバムがついにハイレゾ(48kHz/24bit)リリースと相成った!
 オリジナル・アルバム8曲から、ダブ・ミックスが施されたのは6曲。どうせなら全曲やってほしかったとも思うけどぜいたくは言うまい。オリジナル・アルバムもトロトロに蕩けそうな楽園メロウ・チルアウト・ナンバーばかりだったけど、さすがのダブ・アルバム。もうとにかくこれは聴く人をダメ人間にさせてしまいそうなほどトロットロなわけです。オリジナルに入っているベン・ワット(エヴリシング・バット・ザ・ガール)のソロ「ノース・マリン・ドライヴ」のカヴァーがもうそもそもトロットロでしたが、そのダブ・ヴァージョン「north marine dub」がとりわけヤバい。もう危険性、中毒性があるともいえるほど極楽音響工作です。ああ、できればこれはクッソ暑い真夏の太陽の下で昼間からビールかワイン飲みながら聴きたかったな……来年試してみよう(笑)。


 どうもハイレゾというものに入れ込むようになってから僕はCDジャケットなどの“アートワーク”にあまり興味を示さなくなってしまった。とにかく“音”だけに集中したくなるし、ジャケットはおろか、アーティスト名も曲名もわからないものをカンで手当たり次第に聴いて、おっこれいいじゃん! となることが増えているわけ。実はこのTOOLというバンドも、すいません、名前だけは知っていたものの、音は聴いたことがなかったのです。2006年のアルバム『10,000デイズ』は全米チャート初登場1位に輝いたそうですね。で、本作はじつに13年ぶりとなるオリジナル・アルバムであるとのこと。聴きながらあるインタビューを読んでいたら、どうもこのバンドはアートワークにものすごい手間をかけていることで有名らしい。このアルバムも、“HDスクリーンやスピーカーが付属している前代未聞のアートワーク”ということが書かれていて、スピーカーが付属するアートワークってなに(笑)って思っちゃったんですけど、いやそれよりこの音楽のほうがすごすぎてそういう情報はうっちゃったまま聴き続けています。びっくりするのが1曲目から演奏時間10分超えなんですよ。2曲目はもっと長くて11分以上にわたってクソヘヴィな轟音が響き続けるんだけど、3曲目がいきなりアナログ・シンセだけのヘンテコ(すいません)音響が2分ちょっと続くという……。で、次はまたしても12分超え(笑)。次が3分、次が13分と、もう普通のロックの演奏時間じゃないだろこれ的な感じでアルバムが進行していくわけです。とにかく音に込められた情報量があまりにもロックというものからはみ出すぎてて……最高です。とにかくすべてが規格外。しかもですよ、これCDは限定ですが特殊パッケージ(4インチ・サイズのHD液晶スクリーン付きの動画プレーヤーが搭載されており、ここでしか見られない限定映像が収録されている。充電ケーブル、2ワット・スピーカー、36ページのブックレットも付いているとのこと)はお値段1万円超えのもよう。なんですが配信はですね、CD7曲に対して10曲入り、プレイタイム87分。しかもハイレゾは96kHz/24bitという、ロックものとしてはなかなかのハイスペック。やはりハイレゾ好きとしてはアートワークはこの際おいといてこの曰く言い難い音響工作に身を任せてみたいところなのです。


 リック・オケイセックが亡くなった。享年75歳だった。リック・オケイセックは1949年3月23日にメリーランド州ボルティモア生まれ。10代の頃にオハイオ州クリーヴランドに移住している。ここでベーシスト/シンガーのベンジャミン・オールと出会い、ミルクウッド、キャップン・スウィングといったバンドでコラボレーションを行なったあと、1976年にギタリストのエリオット・イーストン、キーボーディストのグレッグ・ホークス、ドラマーのデヴィッド・ロビンソンとカーズを結成した。カーズはニューウェイヴ・バンドとしてメジャーのエレクトラから『錯乱のドライブ(The Cars)』(1978年)、『キャンディ・オーに捧ぐ(Candy-O)』(1979年)、『パノラマ(Panorama)』(1980年)、『シェイク・イット・アップ(Shake It Up)』(1981年)、『ハートビート・シティ(Heartbeat City)』(1984年)、『ドア・トゥ・ドア/Door to Door』(1987年)という6枚のアルバムを発表、成功を収めたが、『ドア・トゥ・ドア』発表後に解散。その後2010年には再結成し、アルバム『ムーヴ・ライク・ディス』を発表しているが、やはりカーズとしての最盛期はエレクトラ時代の6枚だろう。50〜60年代ふうのキッチュさやガレージ感がアメリカのニューウェイヴ・バンドの場合はもともと体に染みついていて、その地に足のついた感じがニューウェイヴとしてはUKのそれと違ってちょっとダサくて(モダン・ポップ期のユートピアやホール&オーツにもそういうところがある)、それがまたいい味を出していたわけです。人気としてはベンジャミン・オールのほうが女の子受けはよかったと思うけど(笑)、すらっとした長身で、日本で言えば鮎川誠をほうふつさせるルックスのリック・オケイセックはやはり目立つ存在だった。
 エレクトラ時代の6枚のアルバムは、うれしいことに2016年にリック・オケイセックの監修のもとリマスターされてハイレゾ配信もばっちり行なわれているので、リックの偉業をしのぶ意味でもここで聴いておくのは悪くないだろう。バラ売りもされているけれど、ぜひここは6枚60曲が一気に聴けるこのコンプリート盤で、できれば最高音質の192kHz/24bitで聴いていただきたいと思う。リック・オケイセックよ安らかに。

弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015
Copyright © ONGAKU SHUPPANSHA Co.,Ltd. All Rights Reserved.