e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會]第72回 ビートルズ『アビイ・ロード』50周年、新ミックスのハイレゾは“換骨奪胎”の音
掲載日:2019年10月8日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから牧野さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は10月16日(水)の「ROCK'N'POPS NOW」から。

こちらハイレゾ商會
第72回 ビートルズ『アビイ・ロード』50周年、新ミックスのハイレゾは“換骨奪胎”の音
絵と文 / 牧野良幸
ビートルズの『アビイ・ロード』が発売50周年として、ジャイルズ・マーティンによる2019ステレオ・ミックスが制作された。ハイレゾでも配信され、通常盤とスーパー・デラックス・エディションの2種類がそれぞれflac(96kHz/24bit)とMQA(96kHz/24bit)で用意されている。ついに『アビイ・ロード』も新時代に突入である。
ハイレゾの話の前に、僕がビートルズを聴く時に愛聴しているソフトを挙げてみると、『プリーズ・プリーズ・ミー』から『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』まではアナログ・レコードのモノラル盤(2011年の『MONO LP BOX』)をまず第一に聴いている。ここまでのアルバムはやはりオリジナルのモノラルが素晴らしいと思うからだ。
それ以降では『イエロー・サブマリン』はほとんど聴かないので特にこだわりはないが、『アビイ・ロード』と『レット・イット・ビー』はアナログ・レコードでもCDでもなく、2009年のリマスター時に出た『ザ・ビートルズ・USB』のハイレゾで聴くことを好んでいた。ステレオ録音で発表された両アルバムは44.1kHz/24bitというスペックでも、太くアナログ・ライクな音に感じられて気に入っていたのだ。
そんなわけで今回の2019ステレオ・ミックスが、『ザ・ビートルズ・USB』の『アビイ・ロード』とどれだけ違うか、ちょっと心配ではあった。なにせジャイルズ・マーティンはオリジナルの雰囲気を尊重したミックスをする人なので(そこがいいのだが)、ハイレゾ同士ならあまり差を感じないのでは、と思ったのだ。
しかしそれは杞憂だった。ちょっと聴いたぶんにはオリジナルどおり“60年代末のステレオ”のような音場だけれど、音質がかなり違う。やはりミックスまで遡って最新技術で作り直すと、換骨奪胎と言うか、アナログ・レコードや『ザ・ビートルズ・USB』の『アビイ・ロード』とは違うものに生まれ変わったと思う。
全体的に密度の濃い音になった。高域はより繊細に、中域はより豊かに。そして低域も厚い。
音の出方もスピード感があり、かつ滑らかだ。たとえば「サムシング」のストリングスやオルガンも滑るように流れ出る。この滑らかさはアナログ録音であることさえ忘れさせる。もう一つのジョージの曲「ヒア・カムズ・ザ・サン」はLPより先にドーナッツ盤で聴いてきたせいか、どんなソフトで聴いてもアナログのザラついた音質を思い浮かべていたが、今回の2019ステレオ・ミックスでついにドーナッツ盤が頭から消えた。
さらに印象に残ったのが空気感である。たとえば「オー!ダーリン」のボールのヴォーカル。ヴォーカルだけが裸となる最初の入りでは、アビイ・ロード・スタジオの空間まで切り取ってきたかのような空気感。これには息を飲んだ。同じ空気感は「アイ・ウォント・ユー」でのジョンのヴォーカルにも言えて、この空気感が漂うだけで、今ここで歌っているかのような臨場感が出る。こうなると「アイ・ウォント・ユー」は他の部分の音質の変化も含めて、オリジナルよりも風通しのいい曲に感じられて新鮮だった。
LPでB面にあたる曲では、「ビコーズ」や「サン・キング」でのコーラスの広がりと美しさも特筆すべきところだろう。これこそハイレゾならでは、かもしれない。その柔らかいコーラスの中に、重いベースが刻印のごとく刻まれていくところもいい。ここから始まる怒涛のメドレーも、オリジナルではバンド・サウンド風であったのが、新ミックスでは厚みが出た分、LP時代のA面に劣らぬ重厚さを帯びたメドレーになった気がする。
他にもリンゴのドラミングの妙がさらに際立つようになったり、「オクトパス・ガーデン」の“泡の音”や「サン・キング」の“虫の音”など、今まで控え目だった音がよく聞こえたりと、細かく探っていけばいろいろな発見があるだろう。
『アビイ・ロード』のオリジナルには何の不満もなかったけれど、こうして2019ステレオ・ミックスを聴いてみると、やはりこちらを聴きたくなる。これまでアナログ・レコードや『ザ・ビートルズ・USB』の『アビイ・ロード』をいい音で再生してくれた僕のオーディオ・システムも、2019ステレオ・ミックスのハイレゾの方が潜在能力を100%引き出しているようで、生き生きと鳴っているのがわかる。これは10年くらいは聴き続けられるなと思った。
最後にスーパー・デラックス・エディションに収録されているボーナス・トラックにも触れてみたい。
興味深いものばかりだが、中でも「ザ・ロング・ワン」が嬉しかった。「ハー・マジェスティ」が「ミーン・ミスター・マスタード」と「ポリシーン・パン」の間に入っている試作段階のテープ。完成されたアルバムではラストに取って付けたように出てくる「ハー・マジェスティ」の成り立ちは、ビートルズ・ファンなら知識としては知っていたものの、今回初めて耳にできた。これは50年間『アビイ・ロード』を聴いてきたご褒美と思いたい(僕の場合は1972年からだから47年間だが)。
あとジョンの声がライヴ演奏かのように生々しい「カム・トゥゲザー(テイク5)」(途中までだが)や、「サムシング」の美しいストリングス・オンリーのトラックもいい。ハイレゾで聴くと最近の録音のように鮮明で50年の歳月を感じないほどである。
ただポールがメリー・ホブキンに提供した「グッドバイ」のホーム・デモ。これだけは聴いた途端に60年代に引き戻されてしまった。いくらハイレゾでも、曲に封印された時代の息吹まで消すことはできない、それもまた事実だ。




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