e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [注目タイトル Pick Up] デビュー曲から最新曲まで、ユーミンの423曲が一気にハイレゾ化! / クラシカルとモダン、ふたつが背中合わせになった東京芸術劇場のオルガンをハイスペックで
掲載日:2019年10月21日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は11月4日(月・祝)の「J-POP NOW」から。

注目タイトル Pick Up
デビュー曲から最新曲まで、ユーミンの423曲が一気にハイレゾ化!

 いやあ、これは今月いちばん驚かされましたね。配信された日にちなんで9・18事件と呼んでもいいんじゃないでしょうか。72年に荒井由実としてデビュー、76年に結婚して松任谷姓を名乗り、以後日本を代表するシンガー・ソングライターとして現在に至るまで第一線で活躍するユーミンのカタログ、その曲数なんと423曲が一気にハイレゾで配信されたのですから。423曲ですよ、432曲。しかもオリジナル・アルバム(38タイトルあります)だけじゃないんです。なんと1972年のデビュー・シングル「返事はいらない」から、この9月18日に発表された最新シングル「深海の街」(現在オンエア中のテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のエンディング・テーマ曲)まで全46タイトルものシングルまで一気に配信。それプラス! キャリアがあるアーティストですから当然ベスト盤なんかもあるわけで、ベスト・アルバム/セルフ・カヴァー・アルバムが8タイトル配信されてます。さて、これだけの曲数が一気に配信されるとどうなるかというと……配信サイトのページがユーミンによって占拠されるわけですよ。上から下までずらっと……スクロールしてもスクロールしてもユーミンなわけですよ。ジャックユアボディ! こういうカタログもののリマスターって、一気に出さずに数タイトルずつ何ヵ月かにわけて出すことが多いんですが、逆にこういうふうに膨大なカタログを一気に市場に出すと、それだけですごいプロモーションになるんだなとあらためて感服しました。ユーミンのシングルってこんなにあるんだ! とか、ベスト盤も周年ごとに作られていたり、ほかのアーティストのために書いた曲のセルフ・カヴァー・アルバムがあったりと多彩だなあとか、ついWikipediaでユーミンについて調べ始めてしまったりと、まあとにかくこれはハイレゾにおける偉業と言っていいんじゃないでしょうか。音については著名エンジニア、GO HOTODAがすべてのマスタリングを手がけていますが、アナログ時代から最新のプロトゥールズによるデジタルレコーディングまで、さまざまなフォーマットやスペックで残されたマスターをすべて96kHz/24bitのハイレゾ音源化、しかもそれを一気に配信するというのはHOTODA氏にとっても大きなチャレンジだったに違いありません。e-onkyoのサイトに、このリマスターに関するHOTODA氏と松任谷正隆氏の対談が掲載されていますので、ぜひそれを読んでいただきたいと思いますが、HOTODA氏が「うまくいった」と語る『NO SIDE』(1984年)は、やはりぜひご一聴いただきたいと思いつつ、私としてはやはり細野晴臣をはじめとするキャラメル・ママをバックに従えたファースト・アルバム『ひこうき雲』をセレクトたいと思います。原点にしてここまで完成された世界を聴かせるユーミンはやっぱりすごいなという月並みな感想しか出てこないのがもどかしいくらいですが。


 ユーミンに続いてこれはまたとても驚かされ、また最高に喜ばしいハイレゾ・リマスターのリリースだ。プリファブ・スプラウトは1982年にイギリスのニューキャッスルで結成され、ソングライターであり、ヴォーカリストであり、ギタリストでもあるパディ・マクアルーンを中心に清涼だがちょっとどこか不思議な捩れを持った佳曲を生み出してきたユニット。もっとも現在はパディの実の弟であるマーティを含むオリジナル・メンバーの全員がバンドを離れ、実質的にパディのソロ・ユニットとなっている。1984年に発表されたファースト・アルバム『スウーン』(卒倒、の意)から、2013年に発表された現時点での最新作『クリムゾン/レッド』まで、9枚のオリジナル・アルバムを発表しているプリファブ・スプラウトの音楽は、基本的にアナログな質感を持ちつつも、いっぽうで一筋縄ではいかない楽曲構成や音響工作的な響きを聞かせていた。もともとパディのソロ・アルバムとして2003年に発表され、2019年初頭に突然プリファブ・スプラウト名義で10枚目の作品としてリイシューされた『アイ・トロール・ザ・メガヘルツ』などに顕著にうかがえるハードディスク・レコーディング的なテクニックはまさにプリファブ・スプラウトがたんなるアコースティック・ポップ・ユニットではないことを示している。このリイシューされたプリファブ・スプラウト版『アイ・トロール・ザ・メガヘルツ』は、プリファブ・スプラウトにとって初のハイレゾ・リリース(44.1kHz/24bit)となった。実はセカンド・アルバム『スティーヴ・マックイーン』のリマスターがアコースティック・ディスク付き2枚組で2007年にリリースされていて、そのアコースティック・ディスクのみが2019年4月にレコードストアデイのためにアナログでリリースされた際、あわせてハイレゾが出ないかなと夢想したもののそれは果たされないままだった。だが同じころ、プリファブ・スプラウトの新しいアルバム『Femmes Mythologiques』が2019年9月にリリースされる予定であり、同時にカタログのリマスター・アナログ盤のリリースも予定されているというニュースが出て、これはもしかしたらハイレゾ来るかもとひそかに期待していたら、やはり来た! まずは9月にデビュー・アルバム『スウーン』を含む3枚のオリジナル・アルバムと、新曲を含むベスト・アルバムの4枚がハイレゾ(44.1kHz/24bit)でめでたくお目見え! アルバムの発売順じゃないのがちょっと不思議ではあるんだけど、10月には残りのオリジナル・アルバム(ただし2001年の『ガンマン・アンド・アザー・ストーリーズ』はレーベルが違うということもあって現時点では予定なし)もアナログとハイレゾで出ることが決まっているので、みなさん小遣い貯めといてください。第一弾の4枚では、トーマス・ドルビーのプロデュースによる1990年発表の5作目『ヨルダン:ザ・カムバック』を推薦しておこう。デジタルとアナログがハイレゾ領域でせめぎ合う楽園音響がたっぷり楽しめる。


 デトロイト・テクノのみならず、フルオーケストラとの共演作や映画のサウンドトラックにまで手を広げ、電子音楽のパイオニアとして今や並ぶもののないポジションを獲得したエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、ジェフ・ミルズ。活動歴は長く、リリースも相当数あるけれど、クラブトラックの常としてなかなかハイレゾにまで手が回っていない(というかあまり興味ない?)観があったわけだが、ようやく2017年末にハイレゾリリースも行なわれたアルバム『Planets』はしかし、オーケストラとミルズのエレクトロニクスの共演作であり、ミルズの真骨頂であるハードコアなミニマル・トラックはやはりほとんどアナログディスクのリリースにとどまっていた。もちろんこの『Planets』は、21世紀に入ってクラブ・トラックだけではなく、オーケストラとの共演や映画のサウンドトラックなどでさまざまな異種格闘技的セッションに果敢にトライしてきたミルズにとって、ひとつの究極を提示したエポックメイキングな作品であることは間違いなかったのは確かなのだけど……。その後2018年9月にはミルズにとってふたつの重要なリリースがあった。ひとつはアフロビートの巨人ドラマー、トニー・アレンとの共同作品『Tomorrow Comes The Harvest』をBLUE NOTEレーベルから、そしてもうひとつはBuffalo Daughterの大野由美子、ジャズ・ベーシストの日野賢二、デトロイト・テクノ界有数のユニット、ロス・ヘルマノスのキーボーディストであるジェラルド・ミッチェルという日米のオールスター・ユニット、スパイラル・デラックスによるミニ・アルバム『Voodoo Magic』である。前者は日本の配信サイトでもハイレゾ(44.1kHz/24bit)で手に入るが、後者の高音質音源は今のところBandcampでしか手に入らないようだ。しかし、これらはいずれにせよクラブ・トラックとは違う、ある種のリスニング・ミュージックである。しかし! 今回ミルズのソロとしてはふたつめのハイレゾ・リリースとなる『SIGHT SOUND AND SPACE』は、彼の代表曲のひとつである「The Bells」をはじめとして、ミルズのクラブ・トラックを初めてハイレゾ(44.1kHz/24bit)で楽しめる作品であり、データでプレイするDJにとってもこれはかなりうれしいリリースではなかろうか。ちなみに本作は基本的には過去の作品からミルズ自身によってピックアップされたコンピレーション・アルバムである。フィジカルCDは3枚組で、それぞれディスクごとに“SIGHT/視覚”“SOUND/聴覚”“SPACE/空間”がテーマとなっている。CDは42曲収録だが、この配信版はその中から27曲がセレクトされている。残念ながらCDには4曲収録されている未発表曲が配信には含まれておらず残念ではあるけれど、深夜の真っ暗なクラブで死ぬほど聴いた「The Bells」や「Growth」がハイレゾで聴けるのだから贅沢は言わないでおきましょう。


 このジャケットを見て心臓が止まりそうになった元ネオアコファンはけっこう多いと思うんだけど。実はこの僕がそうだったんですがね(笑)。いや、さすがにこれはびっくりするでしょう。だってこのジャケットは、スティーヴン“ティンティン”ダフィ率いるライラック・タイムの記念すべきファースト・アルバム『The Lilac Time』(1987年)のジャケットとまったく同じ……と思ったんだけどなーんか違うな……よーく見てみたら、そのファースト・アルバムのジャケットは写真なんだけど、それを絵にした、というか最近流行のアプリで写真を絵画化するやつあるでしょ? あんな感じでやったのかな、という風情。それにしてもこのジャケットは大胆というか手抜きというか(笑)。まあでも、これは一種の原点回帰と前向きに捉えたくなる、派手ではないけどじっくりしみるような佳作に仕上がっているのでOKでしょう。スティーヴン・ダフィ。イギリスはバーミンガム生まれで、19歳のときにジョン・テイラーとニック・ローズという青年に出会い、彼らがスタートさせたバンドのヴォーカリストになります。このふたりの名前に見覚えあるでしょう? そうです。80年代にイギリスで大ヒットを飛ばしたデュラン・デュランのオリジナル・メンバーです。しかしダフィはわずか半年でバンドを脱退し、みずからのバンド、サブタレイニアン・ホークスを結成し、くらーいネオサイケな音楽を演るようになります。しかしこのバンドもすぐに解散し、彼はスティーヴン“ティンティン“ダフィと名乗ってこんどはなぜかエレクトリック・ポップに手を出します。これはそこそこの成功を収め、そのルックスの良さも手伝って彼はアイドル的なポジションを獲得しますが、運が悪いことに、彼のニックネームの“ティンティン”が、『タンタンの冒険』の漫画家から訴えられて使用不可となってしまい、この名義も没に。その後なぜかダンス・ミュージックをちらっとやったあとに、兄のニック・ダフィらとアコースティック・ユニット、ライラック・タイムをスタートさせるのです。87年といえば日本でもネオアコブームが起きていましたから、その流れでこのライラック・タイムのファーストはけっこう評価が高かったと記憶しています。ライラック・タイムは91年に活動休止した後、99年に再始動して地道な活動を続けています。2015年以来のリリースとなるこのアルバムは、ダフィの原点回帰宣言なのでしょうか。それにしてもこのアルバムのフォーキーで素朴な響きは、ハイレゾ(96kHz/24bitというなかなかのハイスペック)との親和性が高いと感じます。秋から冬にかけてのサウンドトラックとして最適な一枚と言えましょう。できればあわせてファーストもハイレゾ化してくれないかな……。



 最近ちょいとポップ系のDSDでいいやつが少ないかなあと思っていたところに飛び込んできたこのピアノ・ソロ。高木里代子と言えば、2016年にメジャーから扇動的とも言える(笑)ジャケットで攻めたアルバム出していて話題になっていたアーティストだけど、実はその前年の2015年1月にHD Impression LLCからリリースしていたピアノ・ソロ・アルバム「Salone」は、PCM、DSD5.6のほか、5.1マルチチャンネル配信、そしてそれに加えてヘッドフォンリスニングに最適化されたHPLヴァージョンの配信まで行っていて、当時僕はその点で注目していたアーティストだったのだ。慶應大学在籍中からジャズ・ピアノを弾きはじめ、その後ハウス・ミュージックに傾倒してDJとインナーシティ・ジャズ・オーケストラというユニットを組んで活動もしていたということで、この「Salone」は、そのクラブ的な要素の強い前半とよりジャズっぽいピアノ・ソロの後半がいいぐあいにコントラストを感じさせるものだった。こじんまりとしたホール「サローネ・フォンタナ」でのライヴ録音ということもあいまって、全体が一貫した流れを感じさせるところも素晴らしいなと思ったものである。その後例のメジャーからのアルバム(こちらはエレクトリックを多用した前衛的かつクラブサウンド的なサウンドメイクだった。そして配信は48kHz/24bitのPCM音源のみ)を経て、「Salone」の続編として2017年3月に「Dream of You〜Salone II」を同じくHD Impression LLCからリリース。このアルバムもまたPCM、DSD、マルチチャンネル、HPLという多フォーマットで配信され、高木里代子というアーティストの多様性をいっそう聴き手に深く印象づけたのである。そして今回リリースされたHD Impression LLCからの新作「Resonance」は、録音場所を群馬のTAGO STUDIOに移し、そこにあるイタリアのピアノの銘品、FAZIOLI(ファツィオリ)をじっくりと鳴らして録音された。マイルス・デイヴィスも愛奏した「いつか王子様が」で始まり、スタンダードを中心としてこれまでより音数を減らしてじっくりと音楽と向き合うような響きが耳に大変心地よく響く。今回もPCM、DSD、マルチチャンネル、HPLとひととおり揃えられているのもハイレゾマニアとしてはうれしいところだし、毎回これだけ手間をかけて音源を準備してくれるその心意気には感服するしかない。僕らは今、この音楽に浸るべきだと思う。

クラシカルとモダン、ふたつが背中合わせになった東京芸術劇場のオルガンをハイスペックで
文/長谷川教通

 東京・池袋にある東京芸術劇場のコンサートホールに備えられたオルガンは、パイプ数が約9,000本という威容を誇るが、さらに特徴的なのが2種類のオルガンが背中合わせに配置され、これが回転式となっていてクラシカルなデザインとモダンなデザインを切り換えることができる。クラシカルなオルガンはルネサンスとバロック、モダンなデザインのほうは現代的なオルガンというふうに、演奏する作品の時代や性格に合わせて使い分けるのだ。これが芸術劇場のオルガンの特長となっている。
 このオルガンの魅力をDSD11.2MHzというハイスペックで収録したのが『超絶サウンド!芸劇オルガン』だ。東京芸術劇場とキングレコードの制作プロジェクトやオルガニストの紹介、さらには録音の様子などのレポートがe-onkyo musicのサイトで連載されているので、興味のある方はぜひ読んでほしい。
 サイトではDSF11.2MHz/1bitのほかに、DSF5.6MHz/1bit、192kHz/24bitのWAVおよびflacの音源がアップされているが、できればDSF11.2MHz/1bitで聴いてほしい。『超絶サウンド!』と謳うなら、まずはバッハの「トッカータとフーガニ短調」など迫力のサウンド……などと思い浮かべてしまうが、このアルバムのコンセプトはまったく違う。収録されている作品を見れば「えっ、これ誰?」と、知らない作曲家の名前がズラリ。芸術劇場副オルガニスト川越聡子の弾くヨハン・カスパール・ケルルはバッハに先んじること約半世紀。ドイツバロック期を牽引したオルガニスト&作曲家で、現在ではほとんど演奏されないが、生前はもっとも高い評価を受けていた。「カッコウ」はオルガンの効果音も加わった愉しい曲。アントニ・ファン・ノールトは17世紀の中頃に活躍したオランダのオルガニストだ。続いて芸術劇場オルガニストの小林英之が、ヨハン・クリストフ・オーライやヨハン・ニコラウス・ハンフなど18世紀北ドイツの音楽を弾く。ここまではクラシカルなオルガンによる渋いながらも美しい響きがすばらしい。バッハの「前奏曲とフーガBWV544」では荘厳な響きがホールに鳴り渡る。
 後半はモダン・オルガンの登場で、副オルガニスト平井靖子がフランスバロックの大家フランソワ・クープランと19世紀フランス学派の伝統を受け継ぐレオン・ボエルマンの「ゴシック組曲」を弾く。リスナーはオルガンの色調が変わり、それにともなってホールの響きが華やかになったことに気づくだろう。
 このアルバムはいわゆるオルガン名曲集とはひと味違う。東京芸術劇場のオルガンの魅力を知ってほしいというオルガニストたちの想いがこもっている。重低音、圧倒的な音圧感といったイメージを払拭し、オルガン音楽がもつ時代性を反映させる多様な音色や響き、さまざまなパイプが奏でる質感、そして作品によって色合いを変えるホールの響きを徹底的に再現するためのDSD11.2による録音なのだ。再生する側には全帯域にわたるダイナミックレンジの余裕は言うまでもなく、繊細で濁りのない音色の再現性が求められる。恐るべきオーディオのチェック音源でもある。アルバム購入特典として、このオルガンの最低音と最高音、効果音が収録された音源が、3種類のフォーマットで用意されている。


 映画『アナと雪の女王』で透明感あふれる声を聴かせて一躍世界的に注目されるようになったノルウェーの女声コーラス「カントゥス」の最新アルバムだ。アルバム・タイトルの『Fryd』は英語では“Joy”の意味。それはクリスマスの喜びであり、聖母マリアへの愛であり、子どもたちを愛する母の姿もオーバーラップする。トラック4の「Glade jul」は「きよしこの夜」の旋律で知られているが、いわゆるクリスマス・キャロル集とは違って、北欧各地に根ざしたフォーク・ソングがたくさん歌われている。カントゥスのメンバー24人がグルッと円形になり、そこにフォーク・シンガーのソロやツィター、ツィンバロンなどの民族楽器を加え、多彩なサウンドに仕上げている。録音時の写真を見ると、円形の中央にガッチリとしたマイク・スタンドを立て、高さ3mくらいのところに水平のバーを3本取り付け、そこにコーラスを収録するためのマイクを放射状に複数本、その上方にアームを伸ばして4方向からハイト用のサウンドを収録する。さらにオルガンと民族楽器が左右に分かれて配置されており、それを収録するためのマイクも立てられている。オリジナルの録音フォーマットは352.8kHz/24bitのDXDで、2chからAuro-3Dにも対応できるように考えられている。
 ハイレゾ配信では、2Lレーベルらしく2chステレオ&5.1chサラウンドに対応し、フォーマットもWAV、flac、DSDと多様に揃えられているが、今回は192_24の5.1chで試聴した。オリジナルの352.8/24やDSD11.2/1bitにも惹かれるけれど、何といっても2Lレーベルのサラウンド音源への魅力には抗しがたいものがあって、実際にリアchからの音圧がかなり高く、円周の中央でコーラスの響きに囲まれるような感覚になる。それにしてもカントゥスのメンバーは、それぞれに個性的でありながら声を合わせるとまったく均一で透明なハーモニーを創り出す。まさに驚異的な声楽アンサンブルだと思う。2Lレーベルの録音ではあまりに声が生々しくてビリビリとするアルバムもあるが、この録音はとても自然に録られている。コーラスとマイクの距離が3mくらいはあると思われるのに非常にクリア。録音場所はノルウェーのトロンハイムにある教会で、規模はそれほど大きくないので天井からの反射音の時間差は小さい。だから大聖堂で録った録音のような残響が作り出す神々しさではなく、とても親密感のある愉しげな音響空間が描かれている。高音質を誇る2Lレーベルの中でも最上級の録音だろう。今年のクリスマスは街の喧騒を離れて、カントゥスの素敵なアンサンブルを聴きながら過ごしてみたい。


 大島妙子の弾くドメニコ・スカルラッティのソナタ集。何という美しくて軽やかなタッチだろうか。しかも活き活きとした音楽で聴き手に語りかけてくる。ドメニコ・スカルラッティは有名な作曲家アレッサンドロの息子として1685年にナポリで生まれた。1719年にリスボンへ渡り、ポルトガル王ジョアン5世から王室礼拝堂の音楽監督に任命されている。さらにマリア・バルバラ王女の音楽教師をもつとめる。スカルラッティは生涯にわたって555曲の鍵盤楽器用ソナタを残しているが、それらは彼女のための練習曲として書かれ、とくに初期の作品は幼い王女に合わせて技術的に易しくなっていると言われる。ただ、自筆譜が失われており、正確な作曲順などはわかっていない。ほとんどの作品が単一楽章で書かれており、それぞれの曲が多彩な個性を持ち、演奏者にとっても興味深い作品群なのだ。王女がスペイン王家のフェルナンド皇太子と結婚してマドリードへ移ると、スカルラッティも付き従い、1757年にマドリードで没している。
 スカルラッティの演奏ではホロヴィッツやチッコリーニなど最高の技術を誇ったピアニストにも好まれるから面白い。「フナに始まりフナに終わる」ということわざを思い出す。シンプルなのに奥が深い。その真価を極めるのは至難の業なのかもしれない。このアルバムで演奏する大島妙子は、ドイツのフライブルク音楽大学演奏家コースとソリストコースを最優秀で卒業。現在はスイスを拠点にヨーロッパ演奏を行い、またベルン音楽院で教えていて、日本にでも演奏会や公開レッスンなどを行っている。『D.スカルラッティ:ソナタ集』は、彼女にとって日本での初アルバムとなる。
 じっくりと時間をかけて地道に研究を重ね、それを表現に反映させる。彼女の音楽に取り組む姿勢は、おそらくエディット・ピピト・アクセンフェルトに学んだことが影響しているのではないだろうか。けっして派手なパフォーマンスではないけれど、気取ることのない自然さの中にキラッと輝く気品があって、それが聴き手を優しい気持ちにさせてくれる。このような演奏をとても大切にしたいと思う。


 ヴァイオリンの大御所アンネ=ゾフィー・ムターが、これまた映画界のレジェンド、ジョン・ウィリアムズとコラボレーション……何という豪華な組み合わせだろうか。まだ10代のころ「スター・ウォーズ」の曲に夢中になった記憶があるというムター。ジョン・ウィリアムズの書いた作品を演奏したいという希望を温めていたのだろう。2017年のタングルウッド音楽祭で、彼がムターのために書いた「マーキングス」を初演し、その1年後にはベルリンでのドイツ・グラモフォン創立120年の祝賀演奏会で、彼自身が新編曲した「アクロス・ザ・スターズ」を初演することにつながり、ムターにとって大切なレパートリーとなったわけで、長年の夢がすばらしいかたちで実現したと言えそう。
 これまでジョン・ウィリアムズのオーケストラ演奏といえば、メータやドゥダメルが指揮するロサンジェルス・フィルのパワフル&ダイナミックなスペクタクル・サウンドをイメージするが、このアルバムで聴くジョン・ウィリアムズの音楽は「彼の書いたメロディって、こんなにも美しかったのだ!と」再認識させてくれる。ムターのヴァイオリンは1音1音に想いを込めて旋律を濃密に描き出していく。惚れ惚れするほどの美音で、まるでオペラのプリマドンナのような存在感がある。この上質感はさすがと感心する。ジョン・ウィリアムズが長年ともに仕事をしてきた腕利きたちをロサンゼルスのソニー・ピクチャーズのスタジオに集結させ、自ら指揮をとった5日間。演奏家たちにとっても幸せな時間だったのではないだろうか。「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」「SAYURI」など、お馴染みの映画作品からチョイスされたテーマが、ブリリアントなサウンドで収録されている。サウンドトラックとはまったく異なる、二人のアーティストが創り出した新しい音楽の世界と言えそうだ。


 ジョナサン・ノットと東京交響楽団の充実ぶりには目を見張らせられる。2019/2020シーズンで彼らが取り組んだショスタコーヴィチの交響曲第5番。2016年には第10番を引っさげてヨーロッパ・ツアーを成功させているだけに期待は大きかった。2019年5月25日、サントリー・ホールでのライヴ収録だ。ノットが指揮すると何故こんなにオケが鳴るんだろうと感心してしまう。ショスタコーヴィチの音楽から時代背景や政治的な影を抜きにすることはできないにしても、それを理解した上で作曲者が生み出した音楽そのものに語らせるというアプローチは、ショスタコーヴィチを現代的な視点で見つめ直すという意味で不可欠なのではないかと思う。その結果として作曲者の本質と芸術性が見えてくる。ジョナサン・ノットと東京交響楽団が描き出すショスタコーヴィチは、ヒステリックな感情表現やスペクタクルな要素に陥ることなく、作品の構成をシッカリと見つめた演奏で、だからといって冷たく無機的なところがない。各声部を周到に合わせ込みながらも、団員たちの自主性を巧みに開放する。じつに柔軟で雄弁な語り口に「これはすばらしい!」と声を上げてしまいそうになる。とくに弦楽セクションの凄絶さと木管群の艶やかな音色に魅せられる。第3楽章の静謐さとクライマックスにかけての緊迫感と高揚感には息をつめて聴き入るしかない。
 東響では「TSO MUSIC&VIDEO SUBSCRIPTION」で動画配信を行なっており、2019年5月25日にサントリーホールでライヴ収録した映像がアップロードされている。ジョナサン・ノットの熱の入った指揮ぶりや、オーケストラ・メンバーとの信頼関係がいかに深いものであるかなど、視覚からも伝わってくる。演奏を終えたメンバーたちの「弾ききったぞ!」という表情がとても印象的だ。当日はメンバーがステージから去った後にも、聴衆の拍手がやむことはなかった。

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