[注目タイトル Pick Up] 『ニューイヤー・コンサート2020』のテレビ放送とは異なる本来の音質を聴く / 33分間のアニメ『Mood Hall』に寄り添い静かに鳴り続ける原摩利彦の音楽
掲載日:2020年1月28日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は2月10日(月)の「J-POP NOW」から。

注目タイトル Pick Up
『ニューイヤー・コンサート2020』のテレビ放送とは異なる本来の音質を聴く
文/長谷川教通

 ウィーン・フィルによる2020年のニューイヤー・コンサートはアンドリス・ネルソンスが指揮をとった。何しろ2020年はウィーン楽友協会竣工150年の記念の年。さらにヨーゼフ・シュトラウス生誕150年、ベートーヴェンの生誕250年にあたる。こんな記念だらけの年初に振るなら、やっぱりネルソンスしかいない。いまやボストン響の音楽監督とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のカペルマイスターを兼任し、さらにウィーン・フィルとも良好な関係を保っており、ベートーヴェン生誕250年に向けた交響曲全集を完成させているのだからすごい。ウィーン・フィルにとっても大きな期待を寄せる指揮者であることは言うまでもない。いまやウィーンの恒例行事から世界各国に中継される一大イベントにまで成長してしまったコンサートであれば、シュトラウス・ファミリーの作品がメインであることは当然として、毎年のコンセプトを明確に掲げてプログラムにも工夫を凝らす必要があるし、指揮者を含めて毎回新鮮さが求められるだろう。
 ネルソンスは冒頭にニューイヤー初登場、ツィーラーのオペレッタ「逃亡者」序曲をもってきた。華やかなファンファーレは“これぞオープニング”にふさわしい。“今日は思いっきりオレ流で行くぞ!”との宣言だろう。続いてヨハンIIの弟ヨーゼフ・シュトラウスの「愛の挨拶」「リヒテンシュタイン行進曲」。目新しい曲の間に誰もが聴いたことのあるスッペの「軽騎兵」序曲を入れてバランスをとるなど心憎い配慮。後半ではベートーヴェンの「コントルダンス」も取り上げられ、いかにもアニヴァーサリーを意識しているプログラムが面白い。「郵便馬車の御者のギャロップ」ではネルソンスがトランペット・ソロで登場するサプライズ。これには聴衆も大喜び。かつてラトヴィア国立歌劇場管で首席トランペット奏者をつとめた腕前はさすがだ。大きく身体を揺すりながらのダイナミックな指揮ぶりもファンサービスに一役買っている。ラストの「ラデツキー行進曲」は新しく編曲された版で演奏された。
 そんな会場の雰囲気をNHKの生中継で楽しんだ人も多いだろう。テレビ放送では万が一にも映像が乱れることがあってはいけないので、音に割り当てられる帯域は大きく制限を受ける。BSに比べて帯域の狭い地デジのEテレではかなりデータ圧縮されることになり、残念ながら音質的には高望みはできない。ぜひハイレゾで本来の音質を聴いてほしい。


 ベートーヴェン生誕250年に向けたビッグ・プロジェクト。異才のピアニスト、ファジル・サイがピアノ・ソナタ全集を完成させた。彼にとって「ベートーヴェンは師である」と言うほど大切な存在だ。同時に、いかに高い峰であるかを、演奏家としても作曲家としても深く理解している。テクニックでベートーヴェンのソナタを弾くことには何の壁もないが、その音楽を心の奥底にまで染み込ませ、再び自分の表現として浮き出させるには、とんでもない時間と葛藤が必要だった。これまでも8歳の時に初めて小さいソナタを弾き、成長した後にもコンサートで演奏し録音も行ったけれど、その結果に満足できていたわけではない。ストラヴィンスキー「春の祭典」の衝撃的な演奏で、鬼才・天才などキャッチフレーズがついて回り、ファジル・サイならベートーヴェンでもエキセントリックなピアノを聴かせるのではないかと先入観を持たれるかもしれないが、彼もすでに50歳。この2年間じっくりと作品と向き合い、ファジル・サイでなければ表現できないベートーヴェンを生み出そうと格闘してきた。
 彼は作曲家の時代に演奏されていた姿こそ最上なのだという考え方はとらない。初期のソナタも先輩たちの名残りを意識しながら、作曲家が書き記した音のすべてに輝きを与えることで、いま生まれたばかりの音楽であるかのような新鮮さを大切にする。「えっ、こんな音を強調するの?」「こんなふうに指を回すのか!」など、いままで聴き慣れた耳には意表を突かれることもしばしば。過激さとは一線を画しているのに「ああ、さすがファジル・サイだ」と感心させられる。「悲愴」や「月光」では意外なほど和音が優しくて「こんな弾き方もするんだ」とビックリ。「ワルトシュタイン」や「熱情」の猛烈な疾走感と強弱のコントラスト、そして後期から晩年へと続くドラマを描き切る。「ハンマークラフィール」のアダージョでは多彩さを極めた音色で驚嘆すべきピアニズムを聴かせる。美しい織物の縦糸と横糸を巧みに絡ませながら、まるで光の照り返しのように色彩を変化させる終楽章。そして最後の3曲へ……この演奏、何か長い苦しみを突き抜けた末の明るささえ感じさせる。もう時代の枠をはるかに超えた奇跡のような音楽に違いない。



 ベートーヴェンのチェロ・ソナタといえば、リヒテルとロストロポーヴィチによる名演があまりに有名だ。1961〜63年の録音だが、その豪快で力感にあふれた演奏はとても魅力的。それとは正反対と言える名演がピエール・フルニエだろうと思う。1959年にはフリードリヒ・グルダのピアノでチェロ・ソナタ第1〜5番、「マカベウスのユダの主題による12の変奏曲」「魔笛の主題による6つの変奏曲」「魔笛の主題による12の変奏曲」を収録しており、さらに1965年にはウィルヘルム・ケンプのピアノで全曲をライヴ収録している。この2種類のチェロ作品全集をハイレゾの配信で聴くことができるって、なんと幸せなことだろうと思う。
 1959年といえばフルニエが50代前半、グルダはまだ29歳の頃だから、後年の録音に比べるとチェロには生彩感と勢いがあり、グルダの才気溢れるピアノにも惹きつけられる。なんと言ってもチェロの響きが美しい。重厚さや聴き手を圧倒するような迫力とは正反対のエレガントさ。第1番の冒頭からため息が出てしまう。第3番もいい。テクニックをアピールしようなどという邪な野心は皆無。旋律の歌わせ方が優雅なのに覇気がある。ピアノも意欲的で、思い切った抑揚やテンポの扱いが活き活きとしている。ところどころチェロを煽り立てるような表現もあって、でもさすが名手フルニエらしく、若手の仕掛けにみごとに応えている。そんなやりとりに心がワクワクするのを抑えられない。
 もう一つ特筆すべきは録音の良さ。1959年といえばステレオ録音の初期だが、とても60年前の収録とは思えない。本来ならチェロの音色はもう少しふくよかに鳴っているんだろうなと思わせるとはいえ、チェロの音像はきわめて明瞭で、ピアノの一音一音もクリアに捉えられている。エミール・ベルリナー・スタジオでの192kHz/24bitによるデジタルリマスターは、この時代のアナログ録音の良さをみごとに蘇らせている。この演奏をベストに挙げる音楽ファンが少なくないのもうなずける。
 一方の1965年ライヴ録音はケンプとの共演だ。これは成熟した音楽の語らいが魅力。フルニエのボウイングは抑揚が大きくて旋律が豊かに奏でられている。ピアノもテクニックを主張する演奏とはまったく異なるもので、そこには互いをリスペクトしながら音楽を創り上げていく醍醐味と温かい情感が流れている。聴いていて心がほっこりする。ソナタも聴きごたえがあるが、変奏曲での掛け合いがすばらしい。録音はライヴらしく、ステージ上の響きも豊かにとらえられている。


 2019年11月30日、ロシアのサンクトペテルブルクの自宅でマリス・ヤンソンスが亡くなった。76歳だった。“早すぎるよ”と惜しむ声も少なくない。とはいえ、もともと心臓に病を抱えており、2004年から首席指揮者をつとめるロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席指揮者を2015年に辞するときも自身の体調が万全でなかったことが理由だったと言われる。何しろ2003年からバイエルン放送響の首席指揮者に就任しており、ヨーロッパを代表する二大オーケストラを10年以上も率いていたのだからたいへんな負担だっただろう。世界最高の響きと評されるロイヤル・コンセルトヘボウ管とのライヴ録音は、オケの能力と美質を最高度に発揮させた遺産となっている。e-onkyo musicでもマーラーの交響曲第1番〜第8番、ショスタコーヴィチの交響曲第7番、第10番、第15番、さらにはストラヴィンスキーの「火の鳥」「春の祭典」といったロシアものに加え、ブルックナーやベートーヴェン、R.シュトラウス、オネゲル、ドヴォルザーク、シベリウスなどの作品が96kHz/24bitや88.2kHz/24bitに加え、MQAでも配信されている。
 ここで紹介するアルバム『Portrait』はヤンソンス75歳の誕生日を記念してバイエルン放送響との名演からセレクトされたもので、CD5枚分が48kHz/24bitの配信ならアルバム1枚分の価格。これはお買い得だ。ハイドンのミサ曲、ベートーヴェンの交響曲第4番、ブラームスの交響曲第4番、2016年の来日公演で圧倒的な演奏を聴かせたR.シュトラウスの「アルプス交響曲」にマーラーの交響曲第9番、さらにヴァレーズやストラヴィンスキーの「詩編交響曲」、ショスタコーヴィチの交響曲第6番などが収録されている。
トラック1〜6ハイドン:ミサ曲第14番「ハルモニア・ミサ」
トラック7ハイドン:交響曲第88番第3楽章
トラック8〜11ベートーヴェン:交響曲第4番
トラック12〜15ブラームス:交響曲第番4番
トラック16〜37R.シュトラウス:アルプス交響曲
トラック38〜41R.シュトラウス:4つの最後の歌
トラック42〜45マーラー:交響曲第9番
トラック46ヴァレーズ:アメリカ(1922年オリジナル版)
トラック47〜49ストラヴィンスキー:詩編交響曲
トラック50〜53ショスタコーヴィチ:交響曲第6番
 このような構成になっているが、トラックが連続しているので、それぞれの曲ごとにフォルダを作って整理すると便利。
 バイエルン放送響とロイヤル・コンセルトヘボウ管でかぶっている曲もあるが、同じライヴ録音とはいえ、ミュンヘンとアムステルダムではオケが違いホールも違い、録音機材も違うので、当然ながら音が違う。たとえばマーラーの交響曲第9番では、作品解釈の方向性は共通しているが、推進力ではロイヤル・コンセルトヘボウ管。その響きはきれいに融け合っていて、そこにスーッとヴァイオリンが立ち上がったり、管楽器が浮かび上がったり、そういう階層的なサウンドが魅力。一方のバイエルン放送響では、より表情の幅が大きくなり、分厚く濃密な表現が特長で、しかもオケにはガツンとくる力強さがあって、各セクションの絡み合いがダイレクトに伝わってくる。すばらしい演奏を遺してくれたヤンソンスに感謝。冥福を祈りたい。


 こういうピアノを聴きたかった。チャイコフスキーの「四季」はとても難しい曲だ。テクニックだけではなく、弾き手によって表現が大きく変わってしまう。感情を込めすぎてルバートっぽい弾き方をされると、ベタついてしまってこの作品の透明感が失われてしまう。だからといってテクニカルになると淡い抒情性がどこかへ吹き飛ばされてしまう。2月「冬送りの祭り」では春を迎える喜びや活気に溢れていてほしいけれど、スポーティなのはいただけない。上原彩子のクリーンなタッチと爽やかな和音がとても素敵だ。3月「ひばりの歌」にはどこか遠くを見つめるような憧れがあり、4月「雪割草」には愛らしさがあって聴き入ってしまう。12月「トロイカ」はさらりとしているのに躍動感があって、冴えた音色がまるで粉雪のように降り注ぐ。すばらしい演奏だ。
 チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で史上初の女性優勝者(日本人初)に輝いたのが2002年、21歳のこと。あれから20年近くが経とうとしている。このアルバムは2022年のアニヴァーサリーに向けてのシリーズ第1弾になる。これまでロシアものを中心に録音を行なってきたが、初めてのモーツァルトが聴ける。アルバムの1曲目に「キラキラ星変奏曲」を持ってくるのだから、よほど聴いてほしいという思い入れが強かったのだろう。聴いた瞬間“なんてきれいなピアノだろう”と感動してしまう。K.397の「幻想曲」もソナタK.331も聴き応えのある演奏だ。彼女が得意とする切れの良いタッチとレガートを自在に使い分けながら、細かいフレーズまでていねいに弾き込み、そこにはいつも優しい表情がある。これほど魅力あるピアニストに成長しているんだと嬉しくなってしまった。
 録音は2019年10月にヤマハ・ホールで行なわれている。ピアノはYAMAHAのCFX。ダイレクトな打鍵音と響きのバランスがとてもいい。鮮明でありながら柔らかい響きも美しく録られている。PCM音源では192kHz/24bitのflacとWAV、DSD音源ではDSF5.6とDSF11.2が用意されているが、PCM/DSDどちらも非常にレベルの高い録音だ。タッチの明瞭さとクリアなトーンで選ぶならPCM、響きの精細さと漂うような空気感を求めるならDSDを選んだらいいだろう。

33分間のアニメ『Mood Hall』に寄り添い静かに鳴り続ける原摩利彦の音楽
文/國枝志郎

 ここ数年でこの“角銅真実”という名前を音楽シーンで見かけることがすごく多いなという印象を持っている……そんな音楽ファンは案外多いのではないかな。かくいう僕は、ceroのサポート・メンバーとして加入したパーカッショニストとしての角銅を認識したのが最初の出会いであった。ceroのサポート・メンバーは僕的にとても豪華で、ソロ名義のほか、表現(Hyogen)、Doppelzimmerというユニットでも活動するシンガー・ソングライターの古川麦、菊地成孔のDCPRGやFINAL SPANK HAPPYでも活動する小田朋美(オダトモミ)という、とても強い個性を持ったアーティストに最初は注目していたのだが、追いかけるうちにパーカッショニスト、角銅真実の佇まいに惹かれるようになったのだ。角銅は東京藝術大学の打楽器専攻卒という経歴の持ち主。そのアカデミックな出自から考えると、その音楽は自由すぎるくらい自由なものなんだけど、打楽器奏者ってもともとそういう人が多いかもしれない。ヴァイオリンやピアノなんかと違って、そのへんにあるものすべてを楽器にしてしまうというか、もっと言えばなんでも音楽にしてしまう才能を持っているというか……そういえば近年注目を集めているドラマー、石若駿も角銅と同じ東京藝術大学打楽器専攻卒であった。石若もまた同じように自由な音楽家だなと思ったら石若がやっているアコースティック・ユニットSongbook Trioに角銅も参加していたわけね……恐れ入りました。今回リリースされたこの『oar』(オール、櫂の意)は、『時間の上に夢が飛んでいる』(2017年)、『Ya Chaika』(2018年)に続く角銅にとって3枚目となるソロ・アルバムで、初のメジャー・リリースであり、また初ハイレゾ(48kHz/24bit)配信という記念すべき作品だ。石若駿(ここではピアノ)や中村大史(g, acd)、西田修大(g)、マーティ・ホロベック(b)、光永渉(ds)、巌裕美子(チェロ)、中藤有花(ヴァイオリン)、安達真理(ヴィオラ)、大石俊太郎(クラリネット/フルート)、網守将平(ストリングス・アレンジ)、大和田俊(フィールド・レコーディング)といった多くの素晴らしいゲストを迎え、フィッシュマンズの「いかれたBaby」や浅川マキの「私の金曜日」のカヴァーも収録した本作。抑えた色合いの中にたゆたうような角銅のヴォーカル、隙間の多い音作りが、ハイレゾでよりいっそう魅力的に響く。


 角銅真実に続き、こちらも打楽器奏者のアルバムである。De De Mouse、World's End Girlfriend、蓮沼執太といった独自の音楽を追求するミュージシャンたちからも愛されるドラマーであり、大ヒットとなった山下智久のシングル「愛、テキサス」や、ももいろクローバーZのシングル「Z女戦争」にドラマーとして参加するなど、レコーディングのフィールドでも活躍しているJimanicaは音大ではなく、美術大学の映像学科卒業という経歴の持ち主で、卒業後渡米してニューヨークでドラマーとして活動。帰国後アーティストネームとしてJimanicaを名乗り、ドラマー/コンポーザー/アレンジャー/トラックメイカーとして活動を始めている。2005年にソロ・アルバム『Entomophonic』をリリース。2006年にはドラマーItoken、映像作家の山口崇司とともにd.v.dというユニットを結成。この名義では2010年に相対性理論のやくしまるえつことのコラボレーションも注目された。同年のソロ第2作『Pd』、2012年の第3作『Torso』に続くひさしぶりのソロ作は、Jimanica自身が運営するレーベルJeminic初リリース作品である。このアルバム『nothing but cosmos』は、3人の特徴的な女性ヴォイスが起用されてそのカラーを決定的なものにしている。1人目は以前このコラムでも紹介済の圧倒的に美しいソロ作『Orb』を2019年に発表した細井美裕、2人目はJimanica作品には欠かせないコマイヌの山田杏奈、3人目はKing Gnuの常田大希の別ユニットmillennium paradeや小林うてな(彼女も当コラムで紹介済)らとのユニットBlack Boboiのメンバーでもあるシンガー/トラックメイカーermhoiだ。どうですこの個性。エレクトロニックな質感にぴったりの湿度低めなヴォーカリゼーションなのに、アルバム全体はナチュラルでオーガニックな表情をまとっているのが奇跡的とすら表現できる。そして特筆すべきはその音質。ハイレゾ(44.1kHz/24bit)を含む配信版とフィジカルCDのマスタリングはROVOの益子樹という安心印だ。ちなみに実はこのアルバムはUSBメモリでも提供されていて、そちらはWorld's End GirlfriendのレーベルメイトでもあるKASHIWA Daisukeによってマスタリングされているとのこと。KASHIWA Daisukeのアルバムはやはりハイレゾリリースもされていて、それがまた素晴らしいのです。なので、KASHIWAのマスタリングによる『nothing but cosmos』もちょっと聴いてみたい気もする(贅沢)。


 川合匠と岡村寛生の二人が京都市立芸術大学大学院在学中の 1993年に結成したのがカワイオカムラなる制作ユニットである。彫刻と絵画が合体した巨大なライトボックス作品などを制作していたが、徐々にその絵画的、造形的要素は映像の中へと展開し、1997年に初めて映像作品を制作。1999年の個展「四角いジャンル」(京都市四条ギャラリー)では初 のセルアニメ「HOLY&CHEAP」を発表した。「ヘコヒョン7」(2004)以後は主にデジタル・モデルアニメーションを中心に世界的に活動している。第65回ロカルノ国際映画祭にて初公開された「コロンボス」(2012)は、第53回クラクフ国際映画祭(2013年、ポーランド)で国際短編部門アニメーション最優秀賞、アルスエレクトロニカ・フェスティバル2014(オーストリア)ではコンピュータアニメーション/映画/VFX部門栄誉賞を受賞したが、この作品の音楽は、ポスト・クラシカルから現代アート、舞台芸術まで幅広い分野で活躍し、坂本龍一、高谷史郎(ダムタイプ)、野田秀樹らとのコラボレーションでも注目を集め続けている京都在住の作曲家/ピアニスト、原摩利彦によるもの。今回取り上げた原の最新アルバム『Mood Hall』は、カワイオカムラの最新アニメーション「ムード・ホール」のサウンドトラックである。スイスで開催されたアニマトウ国際アニメーション映画祭2019でジュネーヴ近現代美術館(MAMCO)賞を受賞したこのアニメーションは2020年春に日本でもロードショー公開が決まっているとのこと。地球が滅んだ後の世界、生き残った人々が興じる奇天烈な遊び「ムード・ホール」を巡る世界を描いたこの作品は、監督自ら「LPレコードの30数分から46分というこの媒体独特の時間世界」を想定して作られたと語るとおり、33分という短いものである。そして、それにぴったり寄り添って鳴り続ける原の音楽もまた、33分というヴォリュームで電子音が静かに鳴り続けるのだ。アルバムの最初のトラックのタイトルが「Close Encounters of the Third Kind」と名付けられているのが目を惹くが(有名なSF映画『未知との遭遇』の原題である)、静謐で快楽的な電子音響が33分にわたってハイレゾ(48kHz/24bit)で鳴り続ける。とくに原と同じく京都在住のギタリスト、Polar Mとのコラボレーションによる8曲目「Multiplication 2」は、まるでマニュエル・ゲッチング(アシュ・ラ・テンペル)の音楽を思わせる楽園的なギター・ミニマル・サウンドで桃源郷に飛べる。最高。


 デヴィッド・ボウイが突然この世を去ってから今年2020年1月で早いものでもう4年になる。彼が死の直前まで取り組み、69回目の誕生日にして、彼が亡くなる2日前である1月8日にリリースされたラスト・アルバム『ブラックスター』がもたらした衝撃は今でも続いていると言っても過言ではないだろう。ダニー・マッキャスリン(サックス)やマリア・シュナイダー・オーケストラのメンバーが参加してジャズの要素を全面的に取り入れ、ボウイが最期まで音楽的な革新を追い求め続けていたことを実証する作品としてアルバム『ブラックスター』は永遠に輝き続けるだろう。さて、そこで本作である。タイトルが示しているように、本作はボウイのラスト作をまるごとシンフォニー仕立てにしたアルバムである(「Sue (Or in a Season of Crime)」の前に別トラックで「Prelude to Sue」が加えられているが、基本的にはボウイのオリジナルそのままの曲順だ)。ボウイのアルバムは実はこれまでにもシンフォニー化されている。いわゆる「ベルリン三部作」と言われる『ロウ』『ヒーローズ』『ロジャー』の3枚のうち、前の2枚をアメリカン・ミニマル・ミュージックの創始者のひとりであるフィリップ・グラスがシンフォニーとして再編成した作品だ。『ロウ・シンフォニー』が1993年に、『ヒーローズ・シンフォニー』が1997年にアルバムとしてリリースされている。これらのアルバムにおいてはもちろんボウイの名作がクラシカルな装いで再解釈されたという驚きとともに、それをミニマル・ミュージックの巨匠が手がけたという点が人々の興味を惹いたのは間違いない。グラスが手がけたということで、ボウイに興味のないモダン・ミュージックのリスナーをも巻き込んでいったのである。翻って今回のボウイのラスト作のシンフォニー化はどうだろうか? 今回はフィリップ・グラスのようなビッグネームがいるわけではない。今回のこの企画は単なるシンフォニーとして「ブラックスター」をとらえるのではなく、主役としてのチェロがソリスト、つまりヴォーカリストとしてのボウイを体現する存在として登場するのである。この企画はチェリストのマヤ・バイザーと指揮者/アレンジャーのエヴァン・ジポリンによって発案され、ライヴ・パフォーマンスを何度か行い、絶賛されたことからレコーディングが実現したという。ドラムス入りの「アンビエント・オーケストラ」とチェロの掛け合いは実にスリリングで、ここにはボウイのオリジナルにある輝きが確かに存在している。ハイレゾ(48kHz/24bit)で聴くチェロの中音域のソロは時々本当にボウイが歌ってるのでは?と思わせるものがあるのだ。


 おお、ひさしぶりにハイレゾ・マスター、オノ セイゲン仕事がDSDで聴けますぞ、そこの人! 「NekonoTopia NekonoMania」は、NHK制作の「ニューウェーブ・ドラマシリーズ」として1990年に放送されたスペシャルドラマ「ネコノトピア・ネコノマニア」(主演は工藤夕貴、真木蔵人、岸田今日子、萩原健一)のサウンドトラックである(ちなみに工藤夕貴はこの前年にあたる1989年にジム・ジャームッシュ監督の「ミステリー・トレイン」で主演したばかりで、まさにノリにノッていた時期)。このサウンドトラックに参加したメンバーはとんでもなく豪華であった。ジョン・ゾーン(サックス)、宮野弘紀(ギター)、ヤヒロトモヒロ(パーカッション)、ラウンジ・リザーズのエヴァン・ルーリー(ピアノ)、そしてオノ セイゲン(ギター)という顔ぶれは、比較的低予算で作られることが多いNHKの劇伴(実際このサウンドトラックはたった3時間で製作されたらしい)としては異例にハイクオリティと言えるだろう。この時期、オノはレコーディングで頻繁にニューヨークを訪れており、その時の音楽的交流がこのアルバムには色濃く反映されているのだ。実はこのアルバム、1990年に日本では徳間ジャパンから、そしてヨーロッパではベルギーのCrammed DiscsからCDがリリースされているが、その後2011年にオノの手によってDSDマスタリングが施されたものが配信されていた。ただしその際、CDに収録されていた「Berliner Nachte(4曲)」(1988年にミラノで行われた見本市のために作られたトラック)がカットされていたのだった。これは別途曲を加えてアルバム『Berliner Nachte』として配信されたことも関係しているのかもしれないが、今回また装いも新たに再度オノがDSDマスタリングし、さらに最初のCDどおりに「Berliner Nachte」の4曲を加えた形でハイレゾ配信(DSD2.8およびPCM96kHz&192kHz/24bit)が開始されたのは喜ばしい。同じDSD2.8リマスターでも、総じて新しい方が力強さや輝きが増している。これもまた最近のオノがこだわっているKorgのNu-1(真空管を使ったコンバータ)の成果であろうか。

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