[こちらハイレゾ商會]第77回 ハイレゾとリマスターで生まれ変わったEL&Pの3枚組ライヴ盤
掲載日:2020年3月10日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから牧野さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は3月18日(水)の「ROCK'N'POPS NOW」から。

こちらハイレゾ商會
第77回 ハイレゾとリマスターで生まれ変わったEL&Pの3枚組ライヴ盤
絵と文 / 牧野良幸
エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)のアルバムがまとめてハイレゾ配信された。1970年のデビュー作『エマーソン・レイク&パーマー』から1978年の『ラヴ・ビーチ』までの9タイトル。ライヴ盤の『展覧会の絵』『レディーズ・アンド・ジェントルメン』も含まれるからEL&Pの全盛期の全作品がハイレゾ配信されたことになる。
そこで今回は『レディーズ・アンド・ジェントルメン(Welcome Back My Friends to the Show That Never Ends - Ladies and Gentlemen)』を取り上げる。2016年リマスターの音源である。
『レディーズ・アンド・ジェントルメン』は1974年発表のライヴ盤。オリジナルはLP3枚組だ。当時EL&Pは『恐怖の頭脳改革』を大ヒットさせていて、これは彼らの絶頂期のライヴを収録した貴重なものである。
ハレイゾの前に、まず僕の“3枚組ライヴ盤史”というものを書いておくと、1972年のジョージ・ハリスン『バングラデシュ・コンサート』がその始まりとなる。しかし中学生には高価すぎたし、このレコードをどうしても聴きたいとは思わなかった。
3枚組ライヴ盤の魅力を僕に初めて見せつけたのは1973年のイエス『イエスソングス』だ。“高価な3枚組なのに売れる”と評判になった。続くレオン・ラッセルの『レオン・ライヴ!!』は3枚組という理由だけで頭から離れなかった。1974年になるとサンタナの日本公演を収めた『ロータスの伝説』が発売。それをエアチェックして聴いたら完璧なまでにノックアウトされた。ここにおいて、3枚組でなければライヴ盤にあらず、となる。
同じ1974年、EL&Pが3枚組のライヴ盤『レディーズ・アンド・ジェントルメン』をリリースした。当時人気絶頂のEL&Pがライヴ盤を出すのに3枚組を選んだのは当然に思えた。しかし僕としては『ロータスの伝説』をまずは手に入れたい。そこでロック好きの友人からこのアルバムを借りたのだった。
しかし『レディーズ・アンド・ジェントルメン』は借りただけでカセットに録音しなかった。
当時、高校二年生が友人からLPを借りてカセットに録音しなかったということは、気に入らなかったことを意味する。ちなみにこの友人からは『展覧会の絵』と『恐怖の頭脳改革』を借りていて、それらは丁寧にTDKの音楽用カセットSDに録音していた。ひょっとして二軍に戦力落ちしていたオープンリール・テープにスピードを落として録音したかもしれないが、覚えていないくらいだから気に入らなかったことだけは確かだ。
誤解して欲しくないが、このライヴ盤が不満だったのは演奏のせいではない。問題はLPの音質で、なんとなく迫力が感じられなかったのである。
なにせこの時点までにディープ・パープルの『ライヴ・イン・ジャパン』やサンタナの『ロータスの伝説』でスタジオ録音を超える迫力の演奏と音圧を知ってしまったのだ。音質に不満があると演奏が耳に入らないリスナーになっていた。EL&Pのファンというよりも、オーディオ・マニアとしての比重のほうが大きかったのだろう。レコードを貸してくれた友人は音のことを何も言っていなかったし。
前置きが長くなった。ここからがハイレゾの話である。
その印象が残っていた『レディーズ・アンド・ジェントルメン』だから、今回のハイレゾを聴いてびっくりした。LPと比べると音が随分と良くなっているのである。「こんなに音が伸びて迫力があったっけ?」と思った。
ちょうどLPのオリジナルUK盤を持っているので聴き比べてみた。このレコードは、やはりLPの音質が諦めきれず、ガラード301を手に入れた時にもう一度聴いてみようと買い求めた中古盤である。しかしLPはUK盤をもってしてもやはり満足できず、棚に入れたままになっていたものである。
LPの音は中央に小さくまとまっていてステレオ感が薄い。音の押し出しも弱く、前に出てこない感じだ。録音がライヴらしい残響のあるものだけに、この音質と響きでLP3枚の長丁場を聴き通すことはやはり辛かった。
しかしハイレゾだと音は伸びるように出ている。解像度が上がり、輪郭がはっきりして分離感も向上している。たとえ距離感を感じる音であっても、ライヴ会場で聴いている臨場感が伝わって好ましい。それよりも結構、眼前で演奏しているような音があってLPの印象とはだいぶ違うなあと思った。キース・エマーソンのシンセは時に左右のスピーカーの間を大きく動くから、スタジオ録音に通じる面白さもある。
この変貌は、おそらく2016年のリマスターによるものだろうと思う。それだけにリマスターの成果を十分に伝える24bitのハイレゾであることも重要だろう。
音質が良くなると、このライヴ盤ががぜん輝き出した。傑作『恐怖の頭脳改革』をライヴで演奏してしまうEL&Pの凄さにあらためて感嘆してしまう。恥ずかしながら、当時はまったく興味がなかった「タルカス」が入っているところも今となっては感謝である。
もし1974年にタイムトラベルができて、高校二年生の僕にこのハイレゾを聴かせたら、僕はどうするだろうか? 絶対にカセットに録音することだろう。それも奮発してクローム・テープを選ぶことは間違いない。僕のように3枚組LPに不満を持っている方にはオススメしたいハイレゾである。



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