ステレオラブ(Stereolab)が15年ぶりの新作アルバム『
インスタント・ホログラムズ・オン・メタル・フィルム』を携えて開催したジャパン・ツアーが、7月2日東京・EXシアター公演にて閉幕。大阪、名古屋、東京と巡った全4公演のうち、7月1日に行なわれた東京・KANDA SQUARE HALLでの追加公演の模様を筒会えるレポートが公開されています。
なお、BEATINK.COMでは数量限定ツアーTシャツを、7月5日(日)23:59まで受注生産を受け付けています。
[ライヴ・レポート] 2020年のCOVID-19によって中止となった来日公演を経て、17年ぶりに実現した日本公演。ソールドアウトとなったEX THEATER ROPPONGIに先立って行われたKANDA SQUARE HALLでの追加公演は、単なる「待望の再来日」以上の意味を持つものだった。
15年ぶりのニュー・アルバム『Instant Holograms On Metal Film』のオープニングを飾る「Mystical Plosives」に乗ってメンバーが登場する。シンセサイザーが静かに広がり、観客を新作の世界へと導いていく。そこから繋がれる「Aerial Troubles」は、アルバム以上に重心を落としたヘヴィな演奏。モーターリックな反復はさらに強調され、スタジオ版以上に硬質なグルーヴを湛えていた。重心の低いバンド・サウンドに拮抗するように、この日のレティシア・サディエの存在感もいっそう際立っていた。ときにギター・ソロを披露し、ときにキーボードやトロンボーンを奏でながら歌うその姿には、静かな強さと凛とした佇まいがあった。
名盤の呼び声高い『Emperor Tomato Ketchup』からの「Motoroller Scalatron」は、90年代の楽曲でありながら、現在の編成ではより骨太なロック・バンドとしての側面が際立っていた。
最新作からの「Vermona F Transistor」では、ティム・ゲインのサイケデリックなギターがうねりを生み出す。後半、レティシアがトロンボーンを吹くと客席から歓声が上がる。電子音楽と生演奏を自在に行き来する、新作を象徴する一曲だ。
そこから無機質に反復するモーターリック・グルーヴが続き、初期を代表する「Peng! 33」へ。ストレートなギター・ポップが鳴り響くと、客席から一斉に手が上がる。その疾走感は30年以上を経た現在でもまったく色褪せていない。
続く、1997年の名盤『Dots And Loops』から披露された「The Flower Called Nowhere」は、ヨーロッパ映画のサウンドトラックを思わせる優雅さを湛えながらも、現在のバンドによってよりダイナミックなアンサンブルへとアップデートされていた。そこに回顧趣味はなく、驚くほど現在形の響きを獲得している。
「次の曲は『ファシズムは傷だ』」レティシアの紹介のあと、「Melodie Is a Wound」が始まる。「国民の真実を知る権利」や「戦争経済」について歌うこの曲は、13分にも及んだロング・ヴァージョンとなり、この夜のハイライトのひとつだった。アウトロではティムとレティシアのギターが交錯し、ザヴィ・ムニオスのキーボード、エフェクトをかけられたトロンボーンが加わり、アンサンブルはカオスへと向かう。プロギーでありながら呼吸のように伸縮するインプロヴィゼーション。その姿は、予定調和を拒み、別の可能性を探り続けるステレオラブの方法論そのものだった。
続いて「If You Remember I Forgot How to Dream Pt. 1」。レティシアはこの曲を明確に「反戦歌である」と告げた。失われた夢を見る力を取り戻そうとするようなメロディが、静かな余韻を残す。そこからダブ・ヴァージョンのような「Pt. 2」へ移行すると、レティシアのトロンボーンも交えながら、再び反復が生む陶酔感の高揚へと向かっていく。アルバムでは別々に配置された二つの楽曲が連続して演奏されたことで、もともと一つの長い組曲であったかのように響いていた。
『Dots And Loops』からの「Miss Modular」は、原曲以上にファンクネスを増したアレンジ。オーディエンスも思い思いに身体を揺らし、あちこちでたまりかねたように踊り出す観客の姿が目立ち始める。
2000年のミニ・アルバム『The First of the Microbe Hunters』収録で、その後2021年の編集盤『Electrically Possessed [Switched On Volume 4]』にも収められた「Household Names」が聴けたのも嬉しい驚きだった。ニューウェイヴ期のポストパンク/ファンクを思わせるアレンジへと変貌し、キャンプなラウンジ感覚をまといながらも、その一歩手前でずらしてみせるひねくれたポップ感覚がいかにもステレオラブらしい。10年代後半から続くカタログの再発と再評価の流れが、単なるアーカイブ作業にとどまらず、現在のバンドのセットリストや創造性にも確かに接続されていることを示す選曲だった。
10分を超える「Esemplastic Creeping Eruption」では、流麗に変化する構成と多彩な音色のレイヤーが見事だった。「It's dark, it's dark」というコーラスのエモーショナルな響きと、そこに同居する不思議な明るさ。終盤はノイジーなインプロヴィゼーションへと発展し、意識が遠のくような残響のなかで幕を閉じる。
『Emperor Tomato Ketchup』からの「Percolator」は、原曲以上にタイトで緊張感に満ちていた。反復するリズムが知性ではなく身体へと直接働きかけ、バンドの核にあるのが優れたグルーヴであることを証明する。
本編最後の「Electrified Teenybop!」では、ベースがシンセサイザーのフレーズを反復するミニマルな構造が最後の高揚を生み出していた。ダイナミックでスリリングな演奏が、新作の思索的な流れを再び運動へと変えていく。「すばらしいエネルギーをありがとう」レティシアがそう告げ、メンバーが一度ステージを後にする。
アンコールは「Immortal Hands」から始まった。メランコリックなメロディと厚いシンセサイザーの響きが会場を包み込む。そして「すべては愛について。愛はスーパーパワー」――レティシアがそう語りかけたあと、演奏されたのは「Cybele's Reverie」だった。冒頭のストリングス・シンセが鳴った瞬間、会場の空気が変わる。1996年の『Emperor Tomato Ketchup』を代表するこの曲は、いまなおステレオラブのレパートリーのなかで特別な響きを持っている。浮遊感のあるメロディと反復するリズムがつくり出す多幸感のなかに、展開そのもので感情をかきたてるステレオラブらしい構成の巧みさが凝縮されている。演奏が終わると、レティシアは胸元にハートマークを掲げ、メンバーを紹介したあと、あらためて「革命」を口にした。
単なるノスタルジックなグレイテスト・ヒッツ的選曲ではなく、あくまでも最新作『Instant Holograms On Metal Film』を軸に、過去のナンバーを織り込んだセットリスト。そのことが、15年ぶりの新作の完成度と現在性をいっそう際立たせていた。新作と90年代の代表曲は等しく現在形の音楽として響き合い、想像力や共同性、分断への抵抗という、ステレオラブが長年掲げてきたテーマをあらためて浮かび上がらせていた。
かつてスペースエイジ・ポップと呼ばれた優雅さの残り香は、この夜も随所に感じられた。だが全体を貫いていたのは、むしろクラウトロック的な反復とグルーヴへとバンドの重心が移りつつあることを窺わせるサウンドだった。
愛と革命のバンド――そう呼ぶのは少し大げさだろうか。だが、この夜あらわになったバンド・サウンドのなかで、ステレオラブは現在進行形のエクスペリメンタルで、しかもポップなバンドであり続けていた。Text by 駒井憲嗣Photo by Kazma Kobayashi