ヘッドフォンブック2026 SPECIAL SELECTION
精度と駆動力を磨き上げる新開発「HXDT」
ATH-ADX7000は、オーディオテクニカのオープン型の新たなフラッグシップ機だ。これまでその座にはATH-ADX5000が君臨してきたが、同機も発表から既に8年以上が経過し、進化やトレンドの早いヘッドフォン市場においては、印象が薄れてきたことも事実。今回、最新のアップデートを図ることで、同社としては再び市場でのトップ・オブ・ザ・トップを維持しようという意気込みも垣間見える。
では、ATH-ADX5000からどんな点が進化・改善されたのかを中心に見ていこう。
ATH-ADX7000に採用されたドライバーユニットは、精密切削されたアルミニウム製バッフルと一体型の58mm径。このサイズ自体はADX5000と変わらないが、製造技術にメスが入れられたようだ。具体的には、バッフルと磁石、ボイスコイル、ダイアフラムを同軸上に配置し、自社内の精密成型技術によって従来品の10分の1という極付けの製造誤差を実現したという。同社ではこれを「High-Concentricity X Dynamic Transducer(HXDT)」と命名した。シリアルナンバーをレーザー刻印する手法は、ATH-ADX5000から変わっておらず、オーナーの満足度を高めてくれる要素のひとつである。
一方、同ドライバーのエンジンともいえる磁気回路にも改善が加えられた。磁気の流れがどの方向にも均一になるよう設計された初採用の「無方向性電磁鋼板」が、磁束のスムーズな流れとエネルギーロスの低減をもたらし、高い変換効率を達成した。これによってノイズの発生が抑えられ、音の透明度が一段と増しているという。さらに、ここに収まるボイスコイルに空芯タイプを初採用(ADXシリーズとして)。490Ωというハイインピーダンス化を果たしたことで、より強力な電磁駆動力を実現している。

(新設計のバッフル一体型58mmドライバーを搭載。イヤーパッドはベルベット素材を採用した妙中パイル織物社製とイタリア・アルカンターラ社製の人工皮革の2種類を同梱。)
新イヤーパッドとケーブルで装着感と運用性を広げる
また、先代で好評だった伊アルカンターラ社製の人工皮革イヤーパッドの他に、超高級ベルベット素材を採用した妙中パイル織物社製イヤーパッドを新たに追加し、ユーザーが選択できるようになった点もセールスポイント。
この他、独自に定義したオープンエアー構造のコンセプト「True Open-Air Audio(TOA)」や、ボイスコイルの位置が耳からハウジングまでの距離のちょうど2分の1に仕切った音響空間に配置される、独自の「コアマウントテクノロジー」、特殊ハニカムパンチングハウジング、マグネシウム成型フレーム&アーム、左右両出しケーブルとA2DCコネクター等、先代機で完成された設計ポリシーや仕様は引き続き採用されている。
堅牢なアルミ製収納ケースには、汎用的な6.3mmケーブル(3.0m)に併せて、同じ長さのバランスケーブルも同梱。ベルベット素材のイヤーパッドを使用時には質量が5g重くなって275gだが、見た目以上に軽量であることに変わりはない。

(ノイトリック社製のXLRコネクターを採用したバランスケーブル(3.0m/XLR端子)とアンバランスケーブル(3.0m/φ6.3mmステレオ標準プラグ)の2本が付属する。)

(ハイエンドモデルに相応しい豪華なアルミ製収納ケースが付属する。)
オープン型の究極とも言える緻密描写とワイドレンジ
まさしくウェルバランスなサウンドだ。細部の描写力も実に丁寧で、微細なニュアンスの再現力には舌を巻く。微小音からフォルティシモまでのダイナミックレンジの広さは圧巻で、ここには新設計ドライバーユニットの「HXDT」が大きく貢献している印象だ。
ヴォーカルは優しく穏やかな表情が感じられる。抑揚や語尾のニュアンスも曖昧にすることなく、リアルかつ忠実に再現している。伴奏のベースのピッチやフィンガリング、サックスの張出し具合、躍動的なピアノのタッチなども、リアルに、しかもダイナミックに聴かせてくれる。
クラシックのティンパニの力強さ、ハーモニーの重厚さ等も満足できるもので、音の構築、構成力が揺るぎない感じだ。それでいてオープン型ならではの解放感とステレオイメージはしっかりしている。臨場感やスケール感の再現が濃密なのだ。
オープン型という本機の形式、さらには490Ωというハイインピーダンス仕様から、屋外での使用やポータブルDAP/スマホ等での使用はほぼ想定していないだろう。すなわち屋内にて、なおかつソース機器のヘッドフォン端子や、据え置きのヘッドフォンアンプとの組合せが前提となろう。
そうした点も踏まえ、本機は長時間聴いても疲労感は少ないと思われるし、リスニング・プレジャー、つまりヘッドフォンで音楽を聴く愉悦や楽しさをリスナーにもたらしてくれることは確実。流行り廃りで陳腐化しない、末長く使える本格的なヘッドフォンをお探しの向きには、真にふさわしいモデルといえる。
なお、ATH-ADX7000の価格は、実に50万円超。ATH-ADX5000の2倍以上のプライスタグである。ここには、8年前とは異なる昨今の社会情勢(材料費や人件費の高騰等)も反映されている節があろうが、それもまた孤高の存在にふさわしいファクターといえそうだ。
文:小原由夫 Yoshio Obara
オーディオテクニカAudio-Technica ATH-ADX7000オープン価格(55万8,800円前後)
●形式:オープン型
●ドライバー:φ58mmダイナミック型
●再生周波数:5Hz~50kHz
●感度:100dB
●インピーダンス:490Ω
●ケーブル長:3.0m
●プラグ:6.3mm標準、XLR
●付属品:イヤーパッド、ハードケース、ケーブルポーチ
※本記事は、「ヘッドフォンブック2026」から転載された内容です。
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20260325