『I Believed The Future』──奇跡の復活を遂げたディジュリドゥ奏者GOMAが奏でる希望のメロディ

GOMA&Jungle Rhythm Section   2011/10/03掲載
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 『I Believed The Future』──このタイトルがこれほどまでにふさわしいアーティストもいないだろう。アボリジニの間で伝わる伝統楽器、ディジュリドゥ奏者として活動を続けたGOMAを中心に、椎野恭一、田鹿健太、辻コースケという3人の打楽器奏者で構成されるGOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTION『I Believed The Future』とはこのたびリリースされた彼らのニュー・アルバムのタイトルなのだが、ここに至るまでのストーリーはあまりにドラマチックなものだった。
 恵比寿リキッドルームで自身主宰のイヴェント<JUNGLE LIQUID MUSIC FESTIVAL2009>を成功させ、次のステップへと踏み出そうとしていたGOMAが交通事故に巻き込まれたのは2009年11月26日のことだった。高速道路上の追突事故だったため外傷はなく、当日も入院することなく帰宅したそうだが、その事故によって高次脳機能障害を発症。記憶の大部分が失われただけでなく、記憶の定着機能に支障が出るなど重大な障害を背負うことになってしまう。当初は長年の相棒であるディジュリドゥが何なのかも認識できなかったそうで、当然のことながら音楽活動を休止。充実した活動を続けてきたGOMAのファンにとって、それはあまりにもショッキングで残酷なニュースだった。
絵画 「夢の使い」
 そんなGOMAがふたたびファンの前に登場したのは、事故以来少しずつ描きためていた作品を展示した絵画展<記憶展>(2010年8月)が最初。点描によってひとつひとつ丁寧に描かれたそれらの作品は目映いばかりの色彩に溢れ、キャンバスから強いエネルギーを放つものばかりだった。その後GOMAは各地で絵画展を行なう一方、ライヴ活動も少しずつ再開。そして、事故から約2年後の2011年9月にリリースされたのが、GOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTIONの『I Believed The Future』ということになる。
 ──2011年9月8日、僕の前に座るGOMAは、以前と変わらぬ穏やかな口調でこう話し始めた。
 「午前中にヨガやランニング、トレーニングをやって、午後は絵を描いて……気づいたら1日が終わってる。脳損傷のリハビリ・プログラムの一環として絵を描くこともあるみたいで、それぐらい絵を描く行為自体が脳にいいみたい。なんで絵を描きたくなるのか、自分でも不思議でしょうがない。絵を描いていた人なら分かるんやけど、事故の前は図工の授業で描いたことがあるぐらいだったから。でも、どうしても描きたくなる」
 先ほども書いたように、事故直後のGOMAはディジュリドゥすらも認識できなかったという。「今でも楽器に口をつけるたびに“これ、吹けるのかな?”って思う(笑)」──そう笑うGOMAの表情が、数ヵ月前に会ったときとは見違えるほど活き活きとしていることに気づいた。僕は涙腺が緩みそうになるのを必至でこらえながら、彼の言葉に耳を傾ける。
 「でもね、吹き始めると少しずつできるようになってくる。ドクターが“脳と身体の記憶は違うから、頑張れば絶対に演奏できるようになる”って言ってた意味がようやく分かってきた。身体が覚えてる記憶っていうものがあるんですよね。生きるための記憶というか」
 音楽活動を再開させたGOMAの背中を押したのは、常に献身的なサポートを続けてきた家族やスタッフだけではなかった。彼自身が「家族みたいな感じ」というJUNGLE RHYTHM SECTIONのメンバー、そして彼の帰還を信じ続けたオーディエンスの存在もまた、GOMAにとって大きな支えとなった。
椎野恭一 / 田鹿健太 / 辻コースケ
 「今年のフジロックでやった復活ライヴは印象に残ってる。あれがお客さんに向けてやった最初のライヴやったから、ステージ上とお客さんのエネルギーが凄くて……それがグルグルグルって大きな丸みたいになって、その上にオレが乗ってるような感覚があったことは覚えてる。みんなが待っててくれて本当に嬉しかった。フジロックで復活することが目標だったし、ちゃんとできるかプレッシャーもあったから。あそこでライヴができなかったらオレの人生も終わりだと思ってたし……」
フジロックフェスティバル2011でのライヴ
 このたびリリースされた『I Believed The Future』は、「ONE GROOVE」など代表曲の新録音源に加え、この夏、静岡で行なわれたイヴェント<頂>にシークレット出演した際のパフォーマンスが収められている。まず驚かされるのが、“進化”したGOMAの姿がここに刻み込まれていることだ。以前とは少しずつフレーズが違っているだけでなく、ディジュリドゥという楽器が持つスピリットに直接触れているようなディープな感覚があるのだ。単に過去を再現するだけでなく、新たな表現方法に──それが例え無意識のものだったとしても──果敢に挑んでいるようにも見える。
 「そう言ってもらえると嬉しいです。自分としては前に録ったものを聴き返して、それと同じようにやってるつもりなんだけど、全然違うものになってるみたいで(笑)。みんなにはどういう風に聴こえてるのか分からないんだけど……新しいフレーズになってるみたいだね」
 ジャケットを飾るのは、<頂>でのライヴ中、感極まって観客のもとへダイヴしたGOMAの姿。よく見ると泣いている観客もいるし、眺めているうちに胸が熱くなってくるような素晴らしい写真だ。そして、そのパフォーマンスも実に感動的。熱狂的な歓声と、それに応えんと凄まじい演奏を繰り広げるバンド。大袈裟じゃなく、ここには“奇跡の瞬間”が捉えられているのだ。
GOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTION 『I Believed The Future』
 「シークレットのライヴだったから、お客さんのエネルギーが爆発した感じだった。自分でも聴くたびに“すごい盛り上がってるな”って思う(笑)。スタジオでリハーサルをやってるときは後ろにいるメンバーのエネルギーに押される感じなんだけど、このライヴのときは前からやってくるお客さんのエネルギーが凄くて、それに挟まれてグルグルグル!って昇天するような感覚があった」
 冷たいお茶を一口含むと、GOMAはこう続ける。
 「いまだにうまくいかないことも多いけど、信じる気持ちは事故後からずっと失ってない。信じ続けたからこそこの作品ができたし、それをみんなに伝えたかった。今の状態を記録しておきたかったし」
 では、現在のGOMAにとって音楽とはどのような存在なのだろう?
 「……希望かな。音楽って本当に素晴らしいと思う。みんなで音を出すたびに少しずつエネルギーをもらって、少しずつ前向きになれる。今は自分の活動を通して、ひとりでも多くの人たちに“希望を捨てず、信じ続けることの大切さ”を伝えたい」
 『I Believed The Future』──言うまでもなく、このメッセージは日本に住むすべての人々にも向けられている。
 「そうなってくれたら本望。オレができることはそれしかないと今は思ってる。自分の活動を通して勇気と元気を与えられたら……」
 ディジュリドゥを手に、GOMAは今日も希望のメロディーと再生へのメッセージを奏でる。未来を信じにくくなっている現在の日本において、その音色は僕らを励まし、優しく背中を押してくれるはずだ。おかえり、GOMAくん。戻ってきてくれることを僕らも信じていたんだよ。


取材・文 / 大石始(2011年9月)
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