YUKI   2010/03/24掲載
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 YUKIの最新作『うれしくって抱きあうよ』の全13曲を解説! 約3年半ぶりとなる本作は、その間の心情の変化も相俟って、内容の濃さも、深さも充実しています。アルバムを聴く前や、聴きながらにぜひ一読してください。
文/上野三樹






 「朝が来る」

 アルバムのブックレットに「24hours」というYUKIによる詩がついていて、「朝が来る」で始まる今作。ストリングスの音色が清々しい朝の到来を告げ、mugenによるスロウなメロディに乗って、生きる希望に満ちた歌声が響く。どこまでも広がるような、その声が発している感覚はかつてないほど自由に柔らかく聴き手の心を刺激する。


 「プレゼント」

 ストレートなメッセージと、確かなビートで駆け抜ける躍動感いっぱいのアップ・ナンバー。“ステージを前にして あなたにもできるよって 歌うようなイメージ”なんて、オーディエンスへ向かって投げかけられる言葉たちも聴きどころ。生きていることの楽しさや喜びを、ただ分かち合いたいという今の彼女の音楽への姿勢が貫かれている。


 「COSMIC BOX」

 バンドのセッションでの臨場感を生かした熱気あふれるナンバー。ジャジーな鍵盤のイントロや、メロディをはみだすかのように歌い上げるYUKIのヴォーカルを生々しくパッケージ。彼女の頭の中の宇宙を散りばめたようなスケール感でありながら、どこか懐かしく切ない歌詞も様々な感情とイマジネーションを聴き手に与える。19thシングル。


 「ランデヴー」

 ロミオとジュリエットの綱渡りの恋を描く1曲。この曲が作れたことで一時期完全に分けられていたYUKIのクリエイティヴィティと自意識の境界線がなくなったともいえる。その手ごたえがアルバム制作における自由なアイディア、ユーモアとポップさに繋がった。エレクトロなスパイスも効かせた豊かなアレンジも聴きどころ。18thシングル。


 「just life! All right!」

 “愛してる オーライ 3度のごはんよりも”というフレーズが秀逸な、ポップだが深みのあるミディアム・ナンバー。生活のリズム感や、食の喜びを刻みながら、大切な人と“今”をわかちあうことの尊さを軽快にキュートに描ききった。シングル「汽車に乗って」のカップリング曲であり、アルバムに収録されることで更なる存在感を光らせている。


 「チャイニーズガール」

 ノスタルジックで憂いに満ちたイントロが運んでくるのは、オリエンタルな異国旅情。“アジア人の女の子二人組ユニットのデビュー曲”というユニークな発想から生まれたこの曲では二胡の音色や北京語なども取り入れた。しかし口ずさみやすいメロディそのものが、この楽曲の世界が見せてくれる景色や時を越えて私たちの“今”を楽しませてくれる。





 「恋愛模様」

 ビッグバンド風の華やかなアレンジに、昭和初期の日本における恋愛模様が描かれたような歌詞の組み合わせが実に新鮮。“2丁目の櫻子”さんとは実在するYUKIのご友人で、70歳になる彼女と話をしていてインスパイアされた曲なのだとか。まるで言葉遊びのような歌い回しや、クルクルと表情を変えるヴォーカルなど、楽しい聴きどころ満載。


 「さようなら、おかえり」

 大正浪漫で知られる竹久夢二の「宵待草」をイメージしたという、シンプルで美しい叙情を感じさせる歌詞。それらの言葉、ひとつひとつをじっくり噛みしめるような、ゆったりとしたメロディで綴られた優しい1曲に仕上がっている。


 「うれしくって抱きあうよ」

 アルバムのタイトル・チューンであるこの曲は、AORのテイストを取り入れた可憐なサウンドと、ビートレスな歌い出しが新鮮なミディアム・ナンバー。恋人同士がうれしくって抱きあう、希望に満ちたワン・シーンを真空パックしたような楽曲世界。その濃厚なハッピー・ムードが耳から心へと響き渡るような聴き心地。20thシングル。


 「ミス・イエスタデイ」

 “失くした昨日”を振り返りながらも、どこか前向きな覚悟を感じさせる主人公=“ミス・イエスタデイ”の心情を伸びやかなメロディで歌いあげる。ホーンの音色がファンタジックなイントロ、どっしりとしたビート、ドラマチックな曲の展開など、シンプルながらクリエイティヴィティ満載のミディアム・スロウ。映画『インスタント沼』の主題歌。


 「汽車に乗って」

 自分自身をなるべく入れないように曲作りをしてきた時期を自ら打開するかのごとく、ルーツに向き合い、函館から夜行列車で上京した時のことを歌った。心の奥底を吐き出すような力強くて真っ直ぐな声にも、これまでにない迫力を感じさせる。“歌うことで自分をみんなにわかってもらいたいんだ”という想いを再確認したという大事な一曲。


 「同じ手」

 石成正人によるアコースティック・ギターと歌のみで綴られたスロウ・ナンバー。さざ波や星や風といった言葉が、音と共に揺れる度に、心の痛みにそっと手をかざすような温もりが生まれている。この曲も、手触りや人の温もりがテーマになった今作ならでは。今のYUKIの、周りの人や世界に対する感謝と優しい眼差しが感じられる。


 「夜が来る」

 一日の終わりを穏やかな気持ちにしてくれるラスト・ナンバー。ファンタジックで豊かなサウンドは、まるで小さい頃に夢中になった絵本の中にいるかのよう。“こわくはないよ”“おやすみ”“あいしてる”など、安心感を与える言葉が優しい声で歌いかけられている。リピート再生すると1曲目の「朝が来る」へと繋がり、大切な一日がまた始まる。


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