原田郁子   2008/05/22掲載
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 3月に発表された6曲入りミニ・アルバム『気配と余韻』に続けて、2ndソロ・アルバム『ケモノと魔法』をついに完成させた原田郁子。昨年の初夏に行なわれたクラムボンの全国ツアー終了後、じっくりと独りの時間を過ごすことによって、彼女が改めて向き合うこととなった表現者としての自分自身とは──。共同プロデューサー&エンジニアにZAKを、アート・ディレクターに有山達也をそれぞれ迎え、CD+本という形で自らの内面を生々しく、濃厚なままに封じ込めた今作について、原田郁子にじっくりと話を訊いた。




――アルバム、凄いことになっちゃってますね!

原田 「ふふ。ありがとう! 完成したことがね、まだ自分でも信じられないというか。今回は、すごーく静かな時間のなかで、ゆっくりと作ってきたから、なんかぜんぜん終わった感じがしてなくて(笑)」

――クラムボンのツアーを終えて、ソロの作業に取り掛かるまでの間は、どんなふうに過ごしてきたんですか?

原田 「うんとね、ぼぉーーーっとしてました(笑)。クラムボンのツアーが終わった後もしばらくその余韻から抜け出せなくて、いつものことなんだけど、社会復帰がなかなかできず……。“しばらく、そっとしといてください”“探さないでください”みたいになって(笑)。旅行に行こうかなぁとも思ったんだけど、それもやめて、ひたすらどこにも行かないで自分の家にこもってました。自分の中に潜っていくとどうなるんだろう、行けるところまで行ってみようって。それで、DVDで映画を観たり、本を読んだり、一日中、寝てみたり。一種の冬眠状態に入りましたね(笑)」

──そこまで、まとまった冬眠は、デビュー以来、初めて?

原田 「そう、かな。毎年お休みはもらえてるんだけどね、旅行に行ったりしてて。ここまでどっぷりなにもしないっていうのは、なかったかな。オフの日も、次に向けて何かを準備してたり、宿題やったりしてて、いつも何かしてることが多いから。だから、スケジュールが許す限り何もしないでみよう!と。前向きに引きこもってみました。そう、ハナレグミのサポートで秋に朝霧ジャムと代々木体育館のライヴに参加させてもらって、あの時は本当に素晴らしい時間だった。だけど半分夢のなかのことのようでもあって(笑)。それからまたこんこんと潜ってったかな」

――その間ってピアノを弾いたりはしてたの?

原田 「しばらくはぜんぜん弾いてなかったよ。映画を観たりしてて。だけどやっぱり、音楽じゃないと足りないっていうか、なんだろうね、そんな感じになってきて。気がついたらまたポロポロ弾きだしたり、歌詞になる前の走り書きみたいなものも、だんだん書きはじめたりして」

──具体的に作業に取り掛かるきっかけになったのは?

原田 「うーんとね。(妹の)奈々ちゃんたちとクラムボンで使ってるスタジオがある山梨の小淵沢まで、ふらりと遊びに行ったことがあったのね。いつもクラムボンは作業に没頭してるから、スタジオの周りを見て廻ることもあんまりないんだけど。でも前から面白いギャラリーがあるっていうことは聞いてたから、じゃあ、行ってみようって。そこが、今回のレコーディングで使わせてもらったギャラリー・トラックスなの。もともと保育園として使われていたという古い木造の一軒家で、ぱっと見たらアップライト・ピアノが置いてあってね。“これは!”と思って。“ここで録音したら、どんな響きがするんだろう?”“だったらZAKさんに録ってほしいなー”ってね、次々にイメージが浮かんできて。その出会いが、そもそもの始まりかもしれない」


──いざレコーディングが始まって。ZAKさんとの作業はいかがでしたか?

原田 「うん、もう素晴らしかったです! できるだけ最小人数で作ってみたいと思ってね、基本的にはモノづくりの現場は任せてもらって、スタッフにも来ないでもらったから。本当にZAKさんとマンツーマンから初めて、そこでいろんな話をしたり、ごはんを食べたりしながら。ふたりで何かを見つけながら作っていった感じです」

──レコーディングに際して、 “生々しさ”だったり、そのあたりのことをZAKさんと密に話し合ったりは?

原田 「うんと、してない(きっぱり)。普段の会話の中で、何かそういうことに結びつくようなこととかヒントになるようなことは話したと思うけど、具体的なことはたぶん何も。ゼロから話さなくてもZAKさんはもうわかってくれているから。その人から出てくる音とか、にじみでてるものから、その都度、柔軟に対応してくれる。見えないけど、感じるものを大切にしてる人というか」

──まさに『気配と余韻』ですね。

原田 「そうですね。ギャラリートラックスや、小淵沢のスタジオや、神戸のグッケンハイム邸も、今回、レコーディングした場所って、みんないわゆるレコーディング・スタジオではないから、録音中に飛行機が飛んだら飛行機の音が入るし、蒔ストーブのパチパチ燃える音が入るし、雨が降ればそういう音になる。すでに鳴ってる音があって、そこにピアノと声が響いて、曲になる感じ。気配とか、息づかいとか、そういうのも丸ごと録っていったんですね」

──今回のアルバムって前作みたいにカラフルではないんだけど、ひとつひとつの色彩にすごく深みが感じられて。一言でいえば、“濃い”ですよね。

原田 「あはは。濃ゆいね! うん、確かに。でも、それはとてもうれしい表現だなぁ……(しみじみ)。なんかさ、濃いものを濃いままに出すって、実は難しいことですよね。途中でどんどん薄まってしまうことが多いから。だからきっと、自分の中にある濃ゆくて熱い部分を、できるだけそのままパッケージするためには、その濃ゆさを理解してくれる人がどうしても必要で。それがZAKさんであり、有山(達也)さんであり……。あぁ、そうだね。そういうことだよね!」



──原田さんが絵と物語を担当した本もCD同様、めちゃめちゃ濃いものになっていて。 “原田郁子の頭の中”が、紙とインクで徹底的に表現されているというか(笑)。

原田 「ふふ。またすごいものが出来上がってしまいました!」

──いわゆる絵本的な、ほのぼのとした雰囲気ではないですよね。

原田 「うん(笑)」

──でも、怖いんだけど、目が離せなくなって、そのままズルズル引き込まれていってしまう感じもあって。

原田 「絵本ってさ、実は大人が好きな“可愛い”とか“なんかいいよねー”ってだけじゃ足りなくて。子供は、もっと“怖さ”だったり“気持ち悪さ”だったり、そういう引っかかりみたいな、わけわかんないところにも強烈に反応してるような気がするんだよね。“何だこれ?”ってグングン引き込まれたり。“いやだよー”って言いながら、もう一回見てみたくなったり」

──そのへんは原田さんが好きな大竹伸朗さんとか、根本敬さんの世界とも相通じるものがあるんじゃないですか?

原田 「うん、そうだね。きっとあると思う。前に、大竹伸朗さんの個展を観に行ったんだけど、もうハンパじゃなく濃ゆくてね、観終わったらぐったりしちゃって、とてもしゃべれない(笑)。たとえばハチャメチャにコラージュされた物体が目の前にあったりするんだけど、でもそれがすごく力強かったり、綺麗に見えたり、猛烈に自由なんですよね。観ていて、うれしいんだけど、なんかだんだん悔しくなってきちゃって(笑)」

──それをいかに自分なりのやり方で表現できるんだろうって?

原田 「そう。だからね、ノイズとかインプロヴィゼーションじゃなくて、たとえば“歌”で、もしその自由さを表現するとしたら、どんなことになるんだろうって、そんなことは思ったりはしたんだけどね。このアルバムの1曲目〈青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている〉は、ある“自由さ”を歌にしたんですね。人の手が加わってない自然というか、鬱蒼とした森というか、“ヌオ〜〜〜ッ!”って生き物が動き出している様子。演奏をお願いしたPhonoliteのみんなに、まさにそういう“生きた音”を鳴らしてもらえて、感激しました」





──取材に来る前に、電車で、原田さんが書いた物語を読みながら、今回のアルバムを聴きなおしてきたんですけど、1曲目が流れた途端、どこかに誘拐されるような、ワケのわからない不安感を覚えて(笑)。“俺はこのまま無事、渋谷に辿りつけるんだろうか?”みたいな。

原田 「あははは。それはよかった! まさにそういうことがしたかったです。誘拐しちゃうぞ(笑)。本も音楽も同じく、触れた人をどこかに連れてっちゃうような力があるよね。もうひとつ別の次元にワープできるような。それもひとつの“旅”だと思うんだよね。で、最近なんとなく、“もっとみんなイビツでいいのになあ”って思ってるんだよね。日本人って、いつもいろんな場面ですごく細かく気を使ってるよね。今はこういう空気だからこういう言い方にしたほうがいいな、とか」

──いわゆる“KY”的な?

原田 「ん? KYってなに?」

──“空気・読めない”の略です(笑)。

原田 「おー(笑)。そんな風に言うんだ。日本人ならではの異心伝心というか、それが素晴らしい特技だって感じる時もあるけど、窮屈に感じる時もあって。ちょっと怖いのは、インターネットでこれだけ普通にいろんな人のいろんな意見を見れるようになると、そこでチラッと見かけたことでも、もう自分の感覚に取り込んじゃう。そのスピードが早すぎて、何かをじっと見たり、噛み締めたりする時間がどんどん割愛されてるなーと思って、怖いんだよね。“なんでも知ってる風のなんにも知ろうとしない人“がいっぱい現れそうで、怖い。小学校の頃とかって、まだ“生まれつき”の状態だから、天パーとか、毛深い子とか、人前でごはんを食べられないとか、声が変わってるとか、いろいろだったよね。それぞれに濃かったんだけど、だんだん大人になると薄まっていったり、インターネットがあることでそういう濃さが攻撃されることもあったり」

──たしかに、突っ込まれないように萎縮して、みんなが自分を出さない方向に向かっていったら、“あいつはハチャメチャだけど、でも面白い!”みたいなことも、これからどんどんなくなってきますよね。

原田 「いつも、枠があったらそこから飛び出したくなっちゃうんだけど(笑)。CDからも本からも、インターネットからもハミ出したいという」

──そういう意味でいうと今回のアルバムは……。

原田 「大きな一歩だと思ってる。デビューした頃から比べると、やりたいことをやらせてもらえる環境があって、自分にやるべきことがあって、幸せだって思っててね。たとえば本を作るっていうのも、このご時世、レコード会社としては大冒険だと思うのね。みんながどんどん冒険しなくなってる中で、一緒に新しいことに挑戦してくれたスタッフたちは、ホントに凄いなーと」

──そして、このインタビューが公開されてる頃は、ちょうど弾き語りツアーの真っ最中ですが、よく見ると西日本に偏りすぎじゃないですか(笑)!?

原田 「はい、すいません(笑)。地元・九州を全県廻るのが夢だったの。だから、徐々に北上していって、ふだんなかなか廻れない町を中心に、ひとりでやってみようと思って」

──それが終わると、東京、福岡、京都でバンド形式によるホールツアーも控えています。ちなみに6月25日の東京・bunkamuraオーチャード・ホール公演は、ある意味、凱旋公演というか。

原田 「え。なんで、なんで?」
──デビューする前、bunkamuraの地下の本屋で……。

原田 「あ! バイトしてました、私(笑)。そっか! 凱旋公演なんだ。バンドしながらバイトしてた頃は、まさかオーチャード・ホールでやる日が来るなんてね、想像できなかった。あー、そうか。どうしよう! これはいいライヴになっちゃうよ(笑)」



取材・文/望月哲
撮影/原田奈々
ヘアメイク/山田チホ





『気配と余韻をたのしむツアー 弾き語り!』

● 2008/05/24(土) 
高知・mosaique
開場17:30 / 開演18:00
全自由¥4,200(税込)ドリンク代別途必要
問い合わせ:デューク高知 http://www.duke.co.jp/ 088-822-4488

● 2008/05/27(火) 
岡山・エテパルマ 
開場19:30 / 開演20:00
全自由¥4,200(税込)ドリンク代別途必要
問い合わせ:キャンディー・プロモーション http://www.candy-p.com/ 086-221-8151

● 2008/05/28(水) 
岡山・エテパルマ 
開場19:30 / 開演20:00
全自由¥4,200(税込)ドリンク代別途必要
問い合わせ:キャンディー・プロモーション http://www.candy-p.com/ 086-221-8151

● 2008/05/30(金) 
兵庫・神戸 旧グッケンハイム邸 
開場18:00 / 開演18:30
全自由¥4,200(税込) 整理番号付
問い合わせ:サウンドクリエーターhttp://www.sound-c.co.jp/ 06-6357-4400

● 2008/05/31(土) 
兵庫・神戸 旧グッケンハイム邸 
開場14:30 / 開演15:00
全自由¥4,200(税込) 整理番号付
問い合わせ:サウンドクリエーターhttp://www.sound-c.co.jp/ 06-6357-4400

● 2008/06/01(日) 
名古屋・東別院 対面所 
開場17:30 / 開演18:00
全自由¥4,200(税込) 整理番号付
問い合わせ:ジェイルハウス 052-936-6041

● 2008/06/03(火) 
石川・金沢21世紀美術館シアター21 
開場18:00 / 開演18:30
指定席¥4,200(税込)ドリンクオーダーなし
問い合わせ:FOB金沢 http://www.fobkikaku.co.jp/ 076-232-2424

● 2008/06/04(水) 
長野・まつもと市民芸術会館小ホール 
開場18:30 / 開演19:00
指定席¥4,200(税込)ドリンクオーダーなし
問い合わせ:FOB長野 http://www.fobkikaku.co.jp/ 026-227-5599

● 2008/06/06(金) 
盛岡・十一代目 源三屋 
開場18:30 / 開演19:00
自由席¥4,800(税込) 整理番号付・ドリンク代別途必要
問い合わせ:G.I.P 022-222-9999

● 2008/06/08(日) 
青森・弘前SPACE DENEGA 
開場17:00 / 開演17:30
全自由¥4,200(税込) 整理番号付・ドリンクオーダーなし
問い合わせ:G.I.P 022-222-9999

● 2008/06/10(火) 
北海道・函館クレモナホール 
開場18:30 / 開演19:00
全自由¥4,600(税込) 整理番号付・ドリンク代別途必要
問い合わせ:WESS http://www.wess.jp/ 011-614-9999

● 2008/06/11(水) 
北海道・小樽北一ホール 
開場19:00 / 開演19:30
全自由¥4,200(税込) 整理番号付・ドリンク代別途必要
問い合わせ:WESS http://www.wess.jp/ 011-614-9999

『ケモノと魔法がとびかうツアー 管と弦とバンド!』

● 2008/06/25(水) 
東京・ bunkamuraオーチャードホール 
開場18:00 / 開演19:00
全指定席¥5,250(税込)
問い合わせ:ホットスタッフ 03-5720-9999/スマッシュ 03-3444-6751

● 2008/06/29(日) 
福岡・都久志会館 
開場18:00 / 開演18:30
全指定席 ¥5,250(税込)
問い合わせ:BEA 092-712-4221

● 2008/07/05(土) 
京都・京都会館第二ホール 
開場17:30 / 開演18:00
全指定席¥5,250(税込)
問い合わせ:サウンドクリエーター 06-6357-4400
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