ロンドン、LA、NY、サンパウロ、世界各地で現地のミュージシャンと制作したニュー・アルバム

さかいゆう   2020/03/03掲載
はてなブックマークに追加
シンガー・ソングライターのさかいゆうが、通算6枚目のオリジナル・アルバム『Touch The World』をリリースする。
前作『Yu Are Something』からおよそ1年ぶりの本作では、“世界”と“旅”をテーマにロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスそしてサンパウロを訪れ、アビイ・ロードやイーストウェストなど由緒正しい歴史的なスタジオにて一流ミュージシャンとのレコーディングを敢行。それぞれの国の風土やスタジオの空気感をたっぷりと吸い込んだ風通しの良いサウンド・プロダクションが、どの楽曲にも施されている。また、さかい自身は今回コライト(共作)にも初挑戦し、ソングライターとしての新たな可能性を模索するなど、2019年のデビュー10周年を経て新たなフェーズへと突入する意欲作に仕上がった。
楽曲によっては“孤独”に対する思いや、自身の“死生観”をも反映させたというさかい。ソウルやジャズ、ゴスペル、ロックなどさまざまなスタイルを横断しつつ、エヴァーグリーンなポップ・ミュージックを作り続けている彼のメロディが、スタイリッシュでありながら底知れぬ深みを感じさせるのは、その類稀なる歌声はもちろん、そうした歌詞の世界観に依るところもきっと大きいはずだ。
――前作『Yu Are Something』でも国内外のミュージシャンが参加していましたが、今作では全曲海外スタジオでのレコーディング。参加しているのもほとんどが海外ミュージシャンです。
「僕の中では、とくに海外とか国内とかにこだわりはなくて。僕自身が心から一緒にやりたい人を考えた時、今回はたまたま海外ミュージシャンが中心だったということなんですよね。しかも、今回はロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、サンパウロのスタジオにタイミングよく行くことができて、ほんとラッキーだったなと思います」
――ジャミロクワイの創設メンバーであるスチュワート・ゼンダーをはじめ、インコグニートのリーダーであるブルーイ、元ニュー・パワー・ジェネレーションズのキャット・ダイソンやレナート・ネト、ロバート・グラスパーの一派としても知られているサックス奏者のテラス・マーティン、トランペットにはニコラス・ペイトン……等々、本当に錚々たる顔ぶれですよね。
「インコグニートは震災の年に被災者を支援するためのチャリティ・ソングを作ってくれて、birdさんや小沼ようすけさんらとともに僕も参加しました。その時のことを、リーダーのブルーイが覚えてくれていて今回のレコーディングに繋がったんです。スチュワート・ゼンダーも、僕にとってはずっと憧れの人だったのと同時に、自分の音楽にいつか参加してほしいと思っていた存在でした。それが叶っちゃった、という感じです(笑)」
――曲はいつ頃から書き始めたのですか?
「〈21番目のGrace〉や〈Dreaming of You〉は4年くらい前に、〈鬼灯 feat. Nicholas Payton〉は10年くらい前に書いた曲ですが、〈孤独の天才(So What)feat.Terrace Martin〉とかはニューヨーク行きが決まってから書きました。サンパウロでレコーディングした〈想い出オブリガード〉と〈リベルダーデのかたすみで〉は、ブラジルでセッションをすることが決まって準備した曲ですね」
――レコーディング中はどんな音楽を聴いていましたか?
「行った先の音楽をよく聴いていましたね。ブラジルにはやっぱりサンバやボサ・ノヴァが合うし、ロンドンでは90年代のアシッド・ジャズや、最近のジャズ、あとビートルズを聴きながら3時間くらい街をひたすら歩きました。僕自身はあまりビートルズを通ってこなかったんですけど、やっぱりグッときましたね(笑)」
――ビートルズを通っていないのは意外な気もします。
「もちろん彼らのことは知っていますし、街中で流れているから自然と聴いていますけど、自分から進んで歌詞やコード進行などをアナライズしたことはなかったんです。でもあらためて聴いてみて、やはりビートルズはビートルズでしかないというか、“ワン・アンド・オンリー”な存在だなと思いました。そして“やはりイギリスのバンドだな”と。インコグニートにしてもそうですが、アメリカにはないビートの細やかさ、ディテイルまで行き届いたサウンド・プロダクションに感銘を受けますね。もっと言えば、レディオヘッドやシャーデーのようなサウンドがイギリスで誕生するのもわかる。良くも悪くもアメリカの方が過剰だし大味なんですよね、ロックにしてもファンクにしても、EDMにしても」
――なるほど。きっとスタジオの雰囲気も、国ごとに全然違っていたのでしょうね。
「違いましたね。サンパウロは本当にユルくて、自分たちの仕事が終わってもずっと残っておしゃべりしてるし(笑)。“仕事”で音楽をやっていないのでしょうね。方やアビイ・ロードのスタッフは皆、誇り高い、いい意味で“仕事人”でした。テキパキと動くし“ここぞ”というところではじっくりと時間をかける。また行きたい場所です。LAのイーストウェストも由緒正しいスタジオですが、やはりロンドンとは違うおおらかさがあるし、かといってサンパウロほどユルくはない。そういう、各スタジオでの時間感覚の違いに最初は慣れず、フラストレーションが溜まる時もありましたが(笑)、どこでも2日目くらいからは、現地と同じ時間感覚になって作業をしていましたね」
――今回、初めてコライティングにも挑戦していますよね。
「曲を書く時って、スピード感もものすごく大事なんですよ。ダラダラやっていたら頭の中のアイディアも逃げていってしまう。究極の話をすれば、4分の曲は4分で作るのがベストというか(笑)。コライトの場合、うまく化学反応が起きればそのスピード感を支えてくれるんですよね。パッと何か閃いた時にそれをすぐ具現化してくれたり、そのアイディアに対して“いい”と言ってくれたりする人が横にいるのはとても心強いなと思いました。
 ちなみにこの曲〈Getting To Love You〉は、メロディに関してはワンコーラスを5分くらいで作りました。そこから打ち込みでアレンジを構築し、そのデモを元にLA在住の日本人ミュージシャンたちとレコーディングしています」
――「Soul Rain」は売野雅勇さんによる歌詞ですが、ここにはさかいさんの“死生観”も反映されていますか?
「“こんな歌詞にしてほしい”といった、具体的なリクエストはしていないのですが、制作に入る前のミーティングでは“生命の循環”などについて売野さんと話しましたね。やはり究極のところ、“死”がいちばん人の関心を惹くエンターテインメントだと思うんですよ、みんな死ぬわけだし。死ぬ瞬間ってどんな感じなのか、個人的には知るのが楽しみです(笑)。死の間際って、これまで味わったことのないような“快楽”が訪れるんじゃないかな……」
――もし本当にそうなら、たしかに楽しみではありますね(笑)。
「あはははは。ともかく“死”というのはいつも僕の関心ごとで、それをどれだけ楽しく明るく、そして真摯に向き合って書けるかをいろんな楽曲で試してきました。〈君と僕の挽歌〉(2012年)は親友に向けて書いた曲ですし。自分が死んで灰になっても、雨となってまたあなたのもとにたどり着くからというコンセプトで書いたこの〈Soul Rain〉は、さかいゆう死生観ソング・シリーズの最新版ですね(笑)」
さかいゆう
――「孤独の天才(So What)feat.Terrace Martin」では、マイルス・デイヴィスの「So What」をモチーフにしています。マイルスはさかいさんにとってどんな存在ですか?
「マイルス・デイヴィスは“歌手”としていちばん好きな存在ですね。彼のトランペットは、たとえばフランク・シナトラの“歌”をものすごく研究しているらしくて。ああいう“歌”が歌えたらいいなといつも思います。もう、“プー”って吹いたら彼の音になるじゃないですか(笑)。ジャズ・ミュージシャンたちはみんなマイルスのことが大好きで、“マイルスからどうやって離れるか?”を考えながら自分のスタイルを探しているんじゃないかな。たとえば(ロバート・)グラスパーはヒップホップに傾倒しているけど、〈結局『カインド・オブ・ブルー』だよな〉みたいなことをインタビューで言ったりしていますしね(笑)。マイルス、シャーデー、ダニー・ハサウェイそしてユーミン(松任谷由実)は、僕の中では同じフォルダに入る、聴くとゾクッとする“声”を持つ人です」
――この曲で歌われている“孤独”について、さかいさんはどんな見解を持っていますか?
「孤独は必要だし、一人じゃなきゃ読書もできないし曲も作れない。みんなでできることってすごく限られている。ミュージシャンが集まっても、結局は個々の才能の集まり。個人の時にどれだけ孤独に練習して、集まった時にいかに爆発させられるか? が重要ですからね。僕だって寂しがり屋ではあるんですよ。みんなとお酒飲んだりメシ食ったり、旅行するのが大好きだし。
 ただ、人が本当に伸びているのって一人でインプットしている時間なんじゃないかな。何かを吸収する時は、一人じゃないと無理なんですよ。それはミュージシャンだけじゃなく、サラリーマンでも一緒。“孤独”を耐えるのではなく楽しむこと。売野さんが書いてくださったこの曲〈孤独の天才(So What)feat.Terrace Martin〉で歌っているとおり、“Loneliness is not always bad”なんだと思いますね」
取材・文/黒田隆憲
Information
〈さかいゆう “Touch The World” Release Party〉
2020年5月14日(木)
大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00
スタンディング 5,500円(税込 / 別途ドリンク代)

2020年5月17日(日)
東京・日比谷野外大音楽堂
開場 16:00 / 開演17:00
全席指定 6,600円(税込)

〈さかいゆう DUO TOUR “Touch The World & More”〉
出演:さかいゆう(vo, key)、望月敬史(ds)


2020年6月27日(土)
広島・Yise
開場 17:30 / 開演 18:00
問:ユニオン音楽事務所 082-247-6111

2020年6月28日(日)
岡山・MO:GLA
開場 16:30 / 開演 17:00
問:ユニオン音楽事務所 082-247-6111

2020年6月30日(火)
京都・磔磔
開場 18:30 / 開演 19:00
問:GREENS 06-6882-1224

2020年7月5日(日)
福岡・Gate's 7
開場 17:00 / 開演 17:30
問:キョードー西日本 0570-09-2424

2020年7月10日(金)
新潟・ジョイアミーア
開場 18:30 / 開演 19:00
問:キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

2020年7月12日(日)
高知・キャラバンサライ
開場 18:30 / 開演 19:00
問:デューク高知 088-822-4488

2020年7月16日(木)
北海道・札幌 Sound Lab mole
開場 18:30 / 開演 19:00
問:マウントアライブ 011-623-5555(平日 11:00-18:00)

2020年7月22日(水)
愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
開場 18:30 / 開演 19:00
問:ジェイルハウス 052-936-6041(平日 11:00-19:00)

2020年7月25日(土)
宮城・仙台 誰も知らない劇場
開場 18:30 / 開演 19:00
問:キョードー東北 022-217-7788(平日 11:00-18:00 / 土 10:00-17:00)

http://www.office-augusta.com/sakaiyu/2020album/
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] みやけん 人気ピアノYouTuber 『俺のヒットパレード!』第4弾リリース![インタビュー] Billyrrom 注目の新世代バンドに聞く新章突入と〈HEADZ 〜NEW HOT WAVE〜〉出演への思い
[インタビュー] 町あかりの歌謡曲・春夏秋冬 春のテーマは「ディスコ」![インタビュー] Arvin homa aya  実力派シンガーの話題曲 アナログで連続リリース
[インタビュー] ジェイコブ・コーラー × kiki ピアノ 凄腕師弟コンビ[インタビュー] 文坂なの \
[インタビュー] 人気ジャズ・ピアニストが立ち上げた新レーベル 第1弾は田中裕梨とのコラボ・シングル[特集] いよいよ完結!? 戦慄怪奇ワールド コワすぎ!
[インタビュー] you-show まずは目指せ、新宿制覇! 新宿発の楽曲派アイドル・グループがデビュー![インタビュー] 想像を超えた創造。タフでラフでラブな一枚 崇勲×ichiyonのジョイント・アルバム
[インタビュー] 千住 明、オペラ・アリアをヴァイオリンで 千住真理子とともに20年以上前の編曲スコアを再録音[インタビュー] 思い出とともに甦る名曲の数々 藤あや子のカヴァー・アルバム
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015