表現者としてさらなる高みを目指す気鋭ラッパーS.L.A.C.K.

S.L.A.C.K.   2011/03/03掲載
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 昨年はフジロック初出演や曽我部恵一「サマーシンフォニー」客演など、ヒップホップ・シーンを超えた広がりを見せたPSGに対して、2枚の限定EPをリリースしながらストイックに自身の音楽を追求していた新世代トラック・メイカー / ラッパー、S.L.A.C.K.。その成果が本人いわく「EPでもなく、アルバムでもない」新作『我時想う愛』には惜しみなく披露されている。口当たり滑らかでありながら、中毒性の高い音と言葉のメロウなグルーヴがじわりじわりと染み出してくる今回の作品で驚異の24歳が描き出そうとしたものは果たして?
――昨年はBudamunkeyとの『Buda Space』と『Swes Swes Cheap』という2枚の限定EPをリリースされましたが、振り返ってみて、2010年はS.L.A.C.K.くんにとってどんな年でしたか。
 S.L.A.C.K.(以下、同) 「2010年は自分の中でのヒップホップが進化したというか、自分にとってヒップホップを強化していた時期でもあったりして。要は日本に入ってきてる洋楽のヒップホップって、すごい表面的なものが多かったり、日本に入ってくる時点で情報が選別されていたり、色付けされていたりするじゃないですか。“エミネムなんかは逆にラップはホント上手いよ”とか、そういう判断は英語力が及ばず、分かったり、分からなかったりするんですけど(笑)、Budaくんにも“これ、どう?”って訊いたりして、“や、こいつはアメリカだと高校生が聴くような音楽でしょ”とか、映画なんかにしても、“これ、小学生が観る映画だよ”とか(笑)。ヒップホップといっても、それくらい幅があるので、全体像を捉えて判断するようにしてますね」
――果たして、シーン全体を見渡すことが出来るのかという根本的な問題もありつつ、実際のシーン動向と日本に入ってくる情報に時差や誤差があるのは事実ですよね。つまり、そのズレを意識しながら音楽に接していた、と。そのズレを踏まえたうえでの音楽制作に関してはいかがですか?
 「カッコイイ音を聴いて、書いて録ったり、書かないでいきなり録ったり。現時点で俺のレベルをアメリカの基準に当てはめると、普通か、それ以下だと思うんですよ。要は向こうのレベルが高すぎるというか、逆に日本はまだまだレベルが低いし、日本人のプライドを見せれば張り合うことができる状況ではないというか。だから、アメリカに対抗するより、郷に入っては郷に従えじゃないんですけど、アメリカのいい部分を全部掴まなきゃいけないというか、ウータン・クランでいうところのカンフーの修行みたいな感じですよね。そもそも、何をもって、上手いラップとするかって話もあるじゃないですか? 10年くらいラップをやってきて、それが感覚的にようやく掴めてきたんですよ」
――その“掴んだもの”を敢えて言葉にするなら?
 「やっぱり、音なんですよね。例えば、“PSGみたいに、ビートに合わせないで、どうやってラップをするんですか”って、よく訊かれるんですけど、要するにそれは自分のグルーヴに乗ってラップをしてるってことなんですよ。ビートとビートの間には数え切れないほどのテンポがあって、そのテンポとテンポの間には、またテンポがあって……そういう自由なグルーヴをいかに掴むか。ただ、それは文章的に理解するものじゃなく、やってきた結果や掴んだ感覚がそう説明できるって話なんですけどね。しかも、それはものすごい微妙な話なので、そもそも生活感や発想から日本人的なものを抜いていかないと、できないのかもしれないというか」






――音と言葉のグルーヴを研ぎ澄ませるということ。それは今回の新作『我時想う愛』のメロウでスムースな作風から強く感じたものでもあるんですけど、この一年の成長は自分でもさすがに実感はありますよね?
 「うん。ビートはすごい作りましたからね。今回、曲によっては全部自分で弾いてるものもあるし。その辺は昔バンドをやってたときに感覚だけで弾けない楽器を弾いてたこともあるので、メロディの作り方とか真似する力はなんとなくあったりするし、ビートに合わせて感覚的に弾いてみたものをそのまま使ったり、いい部分をピックアップして使ったり。弾いたのはベース、あと、いろんな音が入ってるキーボードを2万くらいの中古で買ってきて、中途半端な音を使ったり。常識的にいえば、時間をかけることがクオリティにつながるかもしれないんですけど、俺の場合、一番最初に瞬発的に出たものを最後まで自信をもって貫くようにしてますね」
――今回、作品に一貫した流れがあるように思いました。
 「最近はレコードを聴くのが自分の中でのブームなんですけど、今回はネタ掘りブームの一貫というか、地方に行くたびに掘って、そのときにハマってたネタがまさにこういうメロウな感じ、あとアルバムの最後に入ってるメロウな曲ばっかりの作品にしたかったっていうのがあって。個人的には80年代終わりから90年代前半にかけてのR&Bのいい部分、ぶっちゃけて言うなら、完全にチル・アウトするときの音ですね。キャッチーなものができたので、みんなも聴きやすいんじゃないかと思いますね。元々の発想として、俺が聴きたいネタをみんなに聴かせたかったりもするし、自分の音楽センスを見せたいということもあるのかもしれないし、ラップもちょっと変わりましたね。伝えたいのはその瞬間に思ってること。“こう言ったら、みんな共感するんだろうな”っていうことを普通に考えつつ、『MYSPACE』に近いノリもあるし、ネタと向き合ってビートを作ってるここ最近の日記をまとめたような感じで一気に作った作品ですね」
――共感という意味では『我時想う愛』っていう日本語のタイトルにも、はっとさせられるところがありました。
 「そうっすね。黒人のソウルのレコードで、『〜 of love』っていうタイトル、ジャケットは女がうっすら映ってて、謎に煙たかったりするムーディなレコードがあったりするじゃないですか。そういう感覚を持ちながら、今の新しい感覚の作品ってことを考えたとき、タイトルは漢字にして、言ってみれば、東京事変に近い感覚かもしれないですけど、外人から見ても日本人から見ても、センスが悪くない並びで“愛”って言葉を使えば、いい塩梅になるんじゃないかって、10秒ぐらいで決めましたね。女も好きだし、酒も好きだし、自分が生きてる時間を家族からヘイターまで含めて、まとめてポジティヴなもの。今は聴いてくれてる人がいることも自覚しつつあるし、そんなニュアンスが音を通じて、伝わるといいんですけどね」
取材・文/小野田雄(2011年2月)
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