【Trent Reznor(NINE INCH NAILS)】ついに活動再開! 衝撃のフジロック出演を経て、新作『ヘジテイション・マークス』を発表するNINの最新状況――

ナイン・インチ・ネイルズ   2013/08/15掲載
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 ナイン・インチ・ネイルズ(NIN)が4年の休止期間を経て、ついに活動を再開! すでに新作『ヘジテイション・マークス』を完成させた(国内盤は9月4日の発売)トレント・レズナーは、先日のフジロックを皮切りに、鮮烈なステージ演出を備えたライヴを世界各地の夏フェスで敢行中だ。ワールド・プレミアとなったフジ前日に実現したインタビューで、トレントはNINの最新状況について大いに語ってくれた。
――ニュー・アルバムは、よりエレクトロニックになったという印象を受けましたが、この方向性はどのようにして生まれてきたのですか?
 「そもそもは、ベスト盤に新曲を提供する気はあるかと依頼されたのが始まりだった。そろそろまた自分がステージ中央に立って演奏する、NINの曲になりそうなものを書いてみたい欲求を覚えていたところだったんで、なんとなく書き進めてみたら心踊るものがあってね。アラン・モウルダーとアティカス・ロスに声をかけた頃には、方向性が絞れつつあると気づいていたよ。ドラム・マシーン的なフォーマットを使ってMPC系のデバイスで作業するのが面白くなってきたんだ。オフィスや寝室にそれをセットして、夜とか手の空いた時にビートを作るのがじつに刺激的で、気がつけば3分刻みで機材へ走って作業を続ける自分がいた。それが新曲の基盤になったんだ。よりリズム主体の発想に魅力を感じ、あまり詰め込みすぎずミニマムにしておきたいとも思った。アレンジで形はさまざまに変わったけど、基本的には抑え気味にいくのが正しいと思えたんだ。出来には満足しているよ」
――新作にはリンジー・バッキンガムピノ・パラディーノといった、やや意外なゲストも参加していますね。
 「リンジーは、昔から俺のヒーローでね。子供の頃からフリートウッド・マックの大ファンなんだ。彼はギタリストとしても抜群だと思う。俺のことを知ってるかどうかもわからないまま、参加してくれないかと頼んでみたんだ。今まで聴いたことがないような彼のギターを少しづつ抜粋してレコード全体にちりばめたら面白い味付けになった。ピノに関しては、まず彼のグルーヴに興味を持っていて、新作がノリやリズム主体だから、かねて面白いと感じてきたその持ち味が活きるんじゃないかと思ってね。かなりビートに遅れてプレイするあの感じは、面白いのと同時にうまくやるのは難しいはずだが、これがもう見事で。いくつかの曲を劇的に変えてくれたよ。あの独特なフィーリングが主役になった曲もある。俺が自分でやろうとしてもできないことだ」
photo: Baldur Bragson
――明日のフジロックからライヴを再開させるわけですが、この新しいモードをどんな風に提示していくのか興味深いです。
 「夏フェスでのショウは、新しい素材より古い素材に重きを置くと決めている。おそらく、感触が違う新曲と馴染みのある古い曲の並びは興味深いものになるんじゃないかな。両者を並べて説得力を持たせることができるかどうか……自分じゃ今、2つの異なるバンドが共存しているような感覚なんだ。攻撃的なロックを基盤にしたバンドと、もっと純然たるエレクトロニックに近い何か、その両方を同じメンツで表現し切れるかどうか。これはチャレンジだが、俺たちならではの面白いやり方を見つけられたように思っている」
――当初ライヴに参加予定だったエイドリアン・ブリューが、最終的に外れた理由は?
 「実際にリハーサルをやってみないと分からないこともあるもので、エイドリアンに関しては、どうも俺が想像していたような形にはならなかったんだ。どこか無理があり、違和感を覚えてしまって、状況を再検討した結果、良い意味でも悪い意味でも馴染み深い形のラインナップに戻った、ということかな。良い意味というのはNINらしさがそこにあること。悪い意味は……まあ、一時的にせよ自分が最初に思い描いたほどエキゾチックな感じはしないと思えたこと。正直、これが正しい道なのか、後退してはいないか、無難なところで落ち着いていないか、より良いものを作っているんだろうかと、さんざん自分の気持ちを確かめたよ」
――なるほど。
 「じつは俺の中には、NINを本格的に分解して、座席のあるシアターで鑑賞するようなのをやろうか、という考えもずっとあったんだ。でも、大規模フェスが舞台になる今度のツアーをブッキングしていくと、そのアイディアがふさわしいとは思えなくなった。当然“なんだよこれ、こんなの観に来たんじゃないぞ”という反応が予想されるから、やるなら“今回は違うんです。正反対のものだと思ってきてください”と説明しなきゃならない。あえてそれをやるという考え方もあるかもしれないが、きっと俺はステージ上で、みんなをムカつかせてしまったと感じるだろう。俺はやはりオーディエンスに対する責任というやつを、ある程度は感じていて、つまり……NINの復活を期待して来る人には、何かしらのイメージがあるはずで。そいつに応えた上で、それをさらに拡大し、それ以上のものを与えたいと思ったんだ。フジロックのステージを観てもらえば、破格なまでに果敢な内容だと分かってもらえるだろう。正直、うまくいくのかどうか俺にもまだわからない。ただ、うまくいけばオーディエンスは“こんなの、観るのも聴くのも初めてだ”と思いながら帰ることなるだけでなく、同時に“期待してたものも手に入れて満足だ”とも思ってもらえるはずなんだ」
photo: Ryota Mori
――なるほど。秋の単独ツアーでは、内容を大きく変える予定だそうですね?
 「ああ、まずアメリカのアリーナで始まるんだが、フジロックで観せたものはなかったものとして仕切り直し、一切、持ち越さない。提示するものがガラリと変わり、完全に違うものになる。それで来年までかけて、おおよそ世界中を廻ることになるはずだ」
――さて、新作のアートワークはラッセル・ミルズ、先行シングルのビデオクリップはデヴィッド・リンチが手掛けていることなどに象徴されるように、最新作には過去にやってきたことを散りばめているような印象も受けます。新機軸でありながら同時に集大成的というか。
 「そこに自覚はあったし、目指したところでもある。じつは、新作の歌詞を書きながら『ザ・ダウンワード・スパイラル』を再考していた時期があったんだ。あのアルバムは俺の人生を良い意味でも悪い意味でも変えてしまう爆発力を持っていた。今作の曲の多くは、当時の俺を踏まえて、ああいったことが起きた後の自分がどうなったか、ということを描いている。いわゆる自分を振り返る的な……叶えられた約束、思いもよらぬ展開、今も残る虚しさ、自分なりに考える幸せ、期待……そんなことを考えながら、ラッセル・ミルズに声をかけて、もっと繋がりが見えやすくなるように力を貸してもらうことにした。新作のサウンドは全然『ザ・ダウンワード・スパイラル』と似ていないから、みんなが気づくように関連性を持たせたいと思ってね。デヴィッド・リンチについては、たまたま妻と一緒に彼の映画を観ていて、〈ケイム・バック・ホーンテッド〉にリンチが映像をつけたらどうだろう、と思いついたんだ。で、彼も曲を気に入ってくれて、ああいうクレイジーな発想を繰り広げてくれた(苦笑)というわけ。こいつは完璧だ、と感じたよ。あれなら世間はムカつくだろうし、異常だし、あの曲にふさわしい」
※光感受性てんかんをお持ちの方に発作を引き起こす可能性があります。自己責任でご視聴ください。
――『ヘジテイション・マークス』というタイトルについて、『ザ・ダウンワード・スパイラル』の最終曲「ハート」で“自分を傷つけた”と歌った人物が、その時の傷を背負って今に至った姿なのか、という印象を受けたんですが。
 「そう思ったのなら、俺の考えを正確に読み取ったに近い。ラッセル・ミルズとは長い会話を交わして、そこで俺は自分が考えていること、音楽について思うことを洗いざらい伝えたんだ。すると、彼がこのタイトルを提案してきた。これだ! と思って、使ってもいいか聞いたら、彼も光栄だと言ってくれて……つまりラッセルも、今まさに君が指摘したようなことに気づいていたということさ」
――そんなふうにして完成したアルバムの歌い出しが“自分はコピーのコピーのコピーだ”という歌詞になっているのは、どういった心境からなんでしょう?
 「自分に今ひとつ自信が持てない時には、えてして斜に構えるものだ。自分には本当に言うべきことがあった試しがあるだろうか、それとも特に価値のない現代社会の幻影でしかないんじゃないか、無難な自分になってしまったことにじつは満足しているんじゃないか……といった、居心地の悪い思いが連なって、あの歌詞になった。レコードの始まりには、いいんじゃないかと思ってね。明るい幕開けじゃないか(苦笑)」
――一方「エヴリシング」では、ついに帰る家を見つけた、というようなことを歌ってますよね。
 「あの曲で俺が意図したのは、相反する、横柄な意見表明をすることで、ある意味ショックを与えることだった。“俺は歯止めが効かない、あらゆることを乗り越えてきた”とね。それがサビでは逆の物言いになって、最後はどことなく哀愁が漂う。大勝利を思わせる終わり方ではなくて“これが望みだったんだろうか”という感触になっている。家に戻ってはきたけれど、一体ここはどこなんだ? というような自問だよ(苦笑)。それが、いわばあの曲の狙いさ。それを非常にポップな、表向きにはハッピーなトラックに乗せることで、曲がレコード全体から際立つだろうという狙いもあった」
photo: Ryota Mori
――では最後に、子供ができたことで、どんな気持ちの変化がありましたか。
 「そのこともずいぶん考えたんだが、あまり言えることはない。今まで、親になったほかの連中の話にはろくに耳を傾けてこなかったし、聞いてもバカらしく思えたから無視してきたもんでね(苦笑)。でも、父として感じている愛情は、大いに気に入っている。これは今までに経験してきた何をも凌駕する感覚であり、もはや自分が、自分の関心事の頂点ではないということをつねに思い知らされるね。俺もまだ親としては新人だから、圧倒されることばかりだよ。ただ……父親になるのをここまで待ってよかったと思う。自分の頭が整理されるまでは心の準備もできなかっただろうから。今はじつに、じつに最高の気分だよ。ドラッグ中毒のロクデナシではなく、快適に父親をやれていることがね」
取材・文 / 鈴木喜之 (2013年7月)
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