表現者としての自分と徹底的に向き合った、原田郁子、約3年半ぶりのソロ作品『気配と余韻』

原田郁子   2008/03/06掲載
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 クラムボンのヴォーカリスト、原田郁子がソロ活動を再開、キリンジの「Drifter」や井上陽水の「おやすみ」といったカヴァー曲を含む、6曲入りのミニ・アルバム『気配と余韻』を3月5日に発表した。ピアノの弾き語りを中心にした今作は、共同プロデューサー&アレンジャーとして参加したZAKの臨場感溢れるサウンド・メイクともあいまって、彼女の内面をあるがままに反映したかのような、パーソナルな色合いの強い作品に仕上がっている。


 「一旦、独りになってみる時間が必要だと思ったんだよね」。そう語るのはクラムボンのヴォーカリスト、原田郁子。10年に及ぶ活動の総決算ともいえるアルバム『Musical』を携えて、昨年6月から約1ヵ月にわたって行なわれたクラムボンの全国ツアー。その“余韻”をじっくりと噛み締めた末に、彼女が向かったのが約3年半ぶりのソロ作品となる『気配と余韻』の制作だった。


 「『Musical』を出した後にやった全国ツアーが本当に凄くて。“バンドで今、やれることは全部やった!”ってぐらいに充実していて、あそこで一回、燃え尽きちゃったんだよね。でも、ツアーの余韻は、時差ボケみたいに、自分の中にしばらく残っていて。その気持ちが落ち着いてきた頃に、ちょっとずつ家でピアノを弾きはじめるようになって」

 バンドの一員として過ごした多忙な毎日から離れ、東京郊外の自宅に篭り、あえてフラットな状態に身を置くことで、彼女の中に自然と芽生えてきた感情とは──。

 「何だろう、ブルーな状態にある自分を外に出してみたくなったんだよね。みんなでワーって楽しく飲んだ次の日とか、妙に寂しくなってしまう自分がいたりして。そういうハッピーじゃないときの自分を、ごまかさないで、どうやったら音楽にできるんだろうって。最初にイメージしたのは、家でピアノを独りで弾いてるときのような気分。遠くにいる人に大きな声で叫ぶんじゃなくて、すぐそばにいる人、もしくは誰に向かってでもなく、ちっちゃな声で囁くように歌ってみたいなと思って」

 そうして作り上げられた今作は、静謐なピアノの弾き語りを中心にした、きわめてパーソナルな色合いの強い作風に。自らの内面に深く深く潜っていくことで初めて手に入れることができる、表現者としての核の部分を彼女は大切に掬い上げ、あるがままの形で聴き手に提示している。

 「以前、料理家の高山なおみさんと対談したときにもそんな話になったんだけど、誰の心の中にも、他人が入れない場所があると思う。静かな森の中にある、泉のような場所っていうか。手先とか口先で何かを作ることもできるのかもしれないけれど、ものを作る人って、そういう場所にひとりで潜っていかなきゃいけないんだよね」

 初回限定生産盤は、彼女の手書(描)きによるメモ書きやイラストをコラージュしたヴィジュアル・ブックとのセット仕様でリリース。かねてから彼女と親交のあるグラフィック・デザイナー、有山達也がアート・ディレクションを手掛けた、このヴィジュアル・ブックでも、彼女の内面に渦巻くさまざまな感情が、紙とインクを媒介にして、プリミティヴなスタイルで表現されている。

 「自分の中にある濃い部分を有山さんに引き出してもらったようで、感謝しています。自分の内面がヴィジュアルとして、こういう形で出てくることって今までなかったから」





 根本 敬と大竹伸朗をこよなく愛する彼女。ここ最近は、いかにして「濃いものを濃いままに表現できるか」が、作品を作るうえでの大きなテーマになっているのだという。

 「クラムボンでもソロでも私が共通して思うのは、まとめたくないっていうこと。大竹伸朗さんの個展に行った時も、もう濃さの度合いがハンパじゃなくて(笑)。ああいう世界をノイズとかインプロヴィゼーションの音楽じゃなくて、例えば “歌”で表現できるとしたら、どうなるんだろうって。そういうことを思ったりしたんだけどね」

 表現者として、さらなる境地に到達した感のある原田郁子。6月に予定されている2ndソロ・アルバムで彼女が描き出してくれるであろう新たなサウンド・スケープも今から本当に楽しみだ。


取材・文/望月 哲(2008年2月)
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