世界初!? 今なお人気のスーパー・コンボ、
ウェザー・リポート(Weather Report)についてのアーティスト・ファイル本
『オール・アバウト・ウェザー・リポート』(シンコーミュージック・エンタテイメント)の発売を記念したトーク・ライヴが6月21日(土)、東京「BIBLIOPHILIC&bookunion新宿」にて開催。
イベント当日は、本書の監修をつとめた松下佳男、執筆陣の一人である原田和典を迎え、貴重な音源を聴きながらウェザー・リポートの軌跡を振り返りました。
編集担当・播磨秀史 「今日はお集りいただき、ありがとうございます。『オール・アバウト・ウェザー・リポート』発売記念ということで、監修の松下さん(元『アドリブ』誌編集長)と、執筆陣の一人である原田さん(元『ジャズ批評』誌編集長)に対談をお願いしたいと思います」
松下佳男 「私は37年くらい音楽雑誌の編集をやっていました」
播磨 「簡単ですね(笑)、
ジャコ・パストリアス(b)については日本で一番詳しい方です」
松下 「自分では言えないんですけど、廻りの方がそう言うので、それはいいなぁ……と(笑)」
原田和典 「僕も音楽雑誌の編集をやっておりました」
松下 「原田さんとは以前一緒にジャコの本を作ったんですよ。彼は1970年生まれなんですけど、『ヘヴィー・ウェザー』(77年)を7歳にして聴いた人です」
原田 「その頃から悪の道に入っちゃいました(笑)。いろんな音楽の本も、判らない漢字を回りの大人に訊きながら読み始めて、“ドラッグというものがポピュラー・ミュージックに深く関わっているんだ……ドラッグって何だろう?”とか思ってました(笑)。まだ試したことはないですけど」
松下 「で、10歳で
ジョン・コルトレーン」
播磨 「神童ですね(笑)。7歳にして聴いたときはどんな感想でした?」
原田 「全然覚えてないです(笑)。父親がドラマーだったので、その関係でジャズ喫茶には通っていました。そこでウェザー・リポートがかかってたのと、ラジオで『8:30』(79年)、『ナイト・パッセージ』(80年)は聴きました。当時FMでアルバム1枚を全部流してくれる番組があって、それをラジカセでエアチェックしてカセット・テープでひたすら何回も何回も聴いて。だからレコード盤で聴くのはずっと後です」
播磨 「お父さんはウェザー・リポートは聴いてらっしゃいました?」
原田 「
アート・ブレイキー、
マックス・ローチ、
エルヴィン・ジョーンズの世代ですから、親にしてみればウェザー・リポートは
キャノンボール・アダレイのバンドにいた
ジョー・ザヴィヌル(kb)と、
ジャズ・メッセンジャーズの
ウェイン・ショーター(sax)がいるバンドという意識だったと思います」
松下 「僕が最初ウェザー・リポートを聴いた頃というのは、ちょうど
ジョン・マクラフリン(g)とか
チック・コリア(p)のリターン・トゥ・フォーエヴァーが出て来た頃で、ウェザー・リポートもその中のひとつだったんです。だからデビュー作の『ウェザー・リポート』(71年)から夢中になったわけではなくて、個人的に言うと、76年の『ブラック・マーケット』が出た年に、〈ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル〉に取材に行った時かな。ちょうどジャコのデビュー作『ジャコ・パストリアスの肖像』と同時期だったので、ジャコの入ったウェザー・リポートをニューヨークで初めて観たんです。それが僕にとっての本当のウェザー・リポートとの出会いでした。だから『ミステリアス・トラヴェラー』(74年)、『テイル・スピニン』(75年)は編集部では聴いてましたけど、最初は“新しいサウンドだよね”という感じでした」
播磨 「ジャコのデビュー作は、当時の業界ではどういう受け止め方をされてたんですか?」
松下 「76年の4月くらいに、当時は白盤という、ジャケットもなければ、盤面に何も書かれてない見本盤をもらって。担当のCBSソニーの方が“これは松下さん絶対気に入ると思いますよ”っていうだけで、何の楽器を弾く人かも言われなかったんです。そこで1曲目の〈ドナ・リー〉がかかるわけですが、
マーカス・ミラー(b)もあのアルバムに関しては“なんだかよくわからなかった”って言ってましたけど、僕もどちらかというとわからなかった。弾いてるのがベースか何かかも。それからすぐ“ウェザー・リポートに入るベーシスト”という話を聞かされました。76年に観たウェザー・リポートはドラムスがアレックス・アクーニャで、パーカッションがマノロ・バドレナの頃で、それは凄い感動のライヴだったんです。でも78年にドラムの
ピーター・アースキンが入ってジャコと一緒に来日した時は、ジョー、ウェインとの4人編成。4人であれだけの音の深みと広がりを表現できるというのが凄かった……。『8:30』(79年)に一部収録されていますけど、僕はその4人の時のウェザー・リポートのライヴが、ライヴの凄まじさという点では一番いいんではないかと思ってます」
ここで未発表の秘蔵音源として、78年のウェザー・リポートのライヴ演奏によるジャコ作「コンティニューム」(『ジャコ・パストリアスの肖像』収録)と『ミスター・ゴーン』(76年)に収録の「リヴァー・ピープル」、これまでのライヴ・アルバムには収録されていない(一部DVDには収録)「ジブラルタル」が披露。松下 「1978年、原田さん8歳の時のウェザー・リポートです(笑)」
原田 「いやぁこれは、セクシーな演奏だと思いました。波があって、それが繰り返してくるような、人間の営みを表現しているような素晴らしい演奏ですね。アナログ盤なら片面に1曲の長さだし」
松下 「他に〈ナイト・パッセージ〉にしても、公式盤とはヴァージョンも違うし、ジャコの曲の演奏も、もっと延々続くんですが、時間がなくなるので今日はこれくらいにしておきます(笑)。ともかく78年の4人のこのライヴの凄まじさというのが、僕にとっての“ウェザー・リポート”ですね。彼らの音楽は時代を超えて、僕にとっての“現実”でもあり“未来”でもあるんです」
原田 「僕もこの本で書かせていただいたので、一通り全部聴き直しました。やっぱりちゃんと聴かないと原稿は書けないです。でもウェザー・リポートを聴いてると、
ミロスラフ・ヴィトウス(b)のソロ・アルバムを聴きたいな……とか、
ジョニ・ミッチェルのアルバム聴きたいな……とかどんどん広がっていって、聴いてばっかりで、原稿書くのを忘れてしまうんですよ(笑)。ジャコを観たのは84年のイベント〈ライヴ・アンダー・ザ・スカイ〉(ギル・エヴァンス・オーケストラと共演)で、北海道の夕張に来て、東京での評判とは違ってノリノリのライヴでした。僕にとってのジャコのイメージはその時の青空の下で元気にノって演奏している姿なんです。一緒に出ていた
ブラック・ウフルというレゲエ・バンドのステージにも飛び入り参加して踊りながら弾いてました。その後
ウェイン・ショーターは『アトランティス』のツアーで来日した時、86年に旭川で観ました。そうやってライヴでのジャコやウェインそれぞれのイメージが自分の頭の中で合成されていくんですけど、ウェザー・リポート単体のライヴは観ることができなかった、それは本当に残念です。ですから今回音源を聴き直すと色々な想いが渦巻いてきて、そんな中で原稿を書かせてもらいました」
松下 「やっぱり音を聴くと感動するんですよ。で、ここでジャコに関してのニュースなんですが、今年12月に全米でジャコの映画『Jaco』が公開されるんです。これはドキュメンタリー映画で、当然ウェザー・リポートのメンバー、ウェインや
ピーター・アースキンはもちろん、07年に亡くなったジョー・ザヴィヌルの生前の映像も入ってますし、
アルフォンソ・ジョンソン(b)とか
ヴィクター・ベイリー(b)も話してます。他にもウェザー・リポートのドイツでのライヴ映像や熱心なファンが撮影したワシントンD.Cとかも入る予定です。あと、ジャコは元々ドラマーだったので、10歳くらいの時にドラムを叩いてるところや、野球でホームランを打つシーンとか少年時代の映像も上手く織り込まれています。11年から制作がスタートした映画なんですけど、とにかく40時間くらいの素材をもとに、100分程度の長さに編集しようとしています。プロデューサーは『シュガーマン 奇跡に愛された男』のジョン・パトセック、
メタリカの
ロバート・トゥルージロ(b)。日本でも来年辺りには公開されるかと。それと映画のサウンド・トラックがソニー / レガシーから発売されます。ロバートの選曲でジャコのエッセンシャル的なものになるんじゃないでしょうか」
播磨 「それは本当に楽しみですね。では、この辺りで今日のトーク・ライヴを締めさせていただきます。ありがとうございました」