ザ・ブルーハーツ   2010/03/04掲載
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「コレクターズのレコーディングでマーシーと久々に会ったんだけど、あの頃と何も変わってないから笑っちゃった(笑)」
(加藤)





1985年、原宿ホコ天にて行なわれたイベント<アトミックカフェ>より。ヒロトと加藤の貴重すぎるセッション風景。この日のライヴではTHE WHOの「マイ・ジェネレーション」やローリング・ストーンズの「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」など数曲を演奏。



片寄 「でも、加藤さんが書いた、<アーリー・イン・ザ・モーニング>とか<NICK! NICK! NICK!>みたいな曲は、ブルーハーツがやっていても、なんとなく想像がつくっていうか」
加藤 「むしろピッタリかもね(笑)。だってマーシーはデカいラジカセ抱えて、ライヴハウスまで<NICK! NICK! NICK!>を録音しにきてくれたんだから(笑)」
片寄 「ありましたね、そんなことも(笑)」
加藤 「マーシーはすごくユニークな人でね。僕の地元の熊谷で、うちわ祭って大きなお祭があって、ザ・バイクが特設ステージで演奏することになったんだけど、そこにふらっと独りで現われたんだよ(笑)」
片寄 「熊谷まで(笑)」
加藤 「そう、埼玉のはずれまで。“観にきたよ”って(笑)。で、昼間のライヴだったんだけど、ライヴ終わってから飯食ったりなんだかんだして夜になって……でも、マーシーが一向に帰る気配を見せないんだよ(笑)。で、“今日どうするの?”って聞いたら、“何も決めてない”って(笑)。当時のギタリストの実家が立派なお家だったから、そこの客室にみんなで泊まることにしたんだけど」
片寄 「ザ・バイクスの解散後に宴会やった部屋ですよね」
加藤 「そうそう。料亭みたいな場所。で、朝起きたらマーシーがマッサージ機に座っててさ(笑)。すごく不思議な人だなと思ったよ」
片寄 「そういえばマーシーって、いつも独りでしたよね」
加藤 「ボヘミアンな感じだよね」
片寄 「僕のイメージではムーミンのスナフキンみたいな感じですね。あと、すごく知的で文学的なイメージもあって。たまにマーシーがひとりで弾き語りをやることがあって、僕、結構好きで観にいってたんですよ」


モッズ・ファンジン『HERE TODAY』vol.1(1983年秋
号)より。マーシーによる手書きの歌詞。
加藤 「俺も<チェインギャング>とか、すごく好きだったよ」
片寄 「<カローラに乗って>とか、のちのソロ・アルバムに入るような曲を弾き語りで演奏していて。すごく文学青年的な香りが漂っていましたね」
加藤 「独特な雰囲気を持ってる人だよね。何年か前にコレクターズが20周年で企画アルバムを出したとき、マーシーが1曲書いてくれて、ギターも弾いてくれたんだよ。そのとき久々に会ったんだけど、まったく変わってなかった(笑)」
片寄 「体型も変わってないですからね(笑)」
加藤 「そう。全部、あの頃のまま。何も変わってないから笑っちゃった(笑)」
片寄 「変わってないといえば、ヒロトさんもマーシーも当時から音楽マニアだっていう印象がすごくあります。モッズ・シーンの人たちって、みんな音楽好きでしたよね」
加藤 「大好き。それで、みんな詳しかった。当時はMDとかないから、みんなカセット・テープに録音してくれたんだけど、僕もヒロトからR&Bとかソウルの渋くて格好いい曲を集めたカセットをもらったことがあるよ」
片寄 「中野サンプラザの斜め前くらいにあった中古レコード屋で、そういえばよくヒロトさんに会いましたよ。ブルースのレコードをよく探してましたね」
加藤 「ヒロトはルーツ・ミュージックをよく聴いてたね。僕は初期のピンク・フロイドとかサイケデリックが好きで67年マニアだったから、そのへんでは話が合わなかったんだけど。でも音楽が好きだっていうところでは共通してた」


ブルーハーツ結成直後のヒロトから
片寄が直接もらったという缶バッジ。
──片寄さんはブルーハーツの結成一発目のライヴ(※1985年4月3日@新宿ロフト)をご覧になっているんですよね。
片寄 「はい。ヒロトさんにチラシをもらってロフトまで観にいきましたよ」
──そのときの対バンは?
片寄 「覚えてないなあ。なんでだろう、ブルーハーツ・ショックが大きかったのか、ほかのバンドをまったく覚えてないんですよ」
──ブルーハーツは1986年6月にロンドンタイムスと初の関西ツアーに出てますよね。
片寄 「そのときは僕、ロンドンタイムスのローディとして一緒にツアーに行ってますよ。トラッシュ、ロンドンタイムス、ブルーハーツの3バンドで行ったのかな。そうそう、僕が最初に組んだバンドって、ブルーハーツのローディをやってた戸崎ゆうじって少年がギターとヴォーカルで、ゆらゆら帝国の(柴田)一郎がドラムで、のちにGREAT3もサポートしてくれた高木壮太がキーボードだったんですよ。ベースは誰だったか思い出せないんだけど、当時のスタジオJAM周辺の仲間で組んで。僕はギターもロクに弾けない少年だったんですけど」


こちらも貴重な2ショット。加藤ひさし(25歳)、片寄明
人(17歳)。若い!
加藤 「だって片寄の家いったらギターに弦が張ってないんだもん(笑)」
片寄 「あまりにも何もできないから1ヵ月ぐらいでクビになったんですけど(笑)。だから僕がバンドをはじめるキッカケになったのもブルーハーツだったんですよ」
──ところでコレクターズとブルーハーツって対バンしたことはあったんですか?
加藤 「対バンじゃないんだけど、岡山の<ロックンロール・バンド・スタンド>っていう音楽イベントで一緒になったことがあったな。NHKで放送されたよ」
片寄 「インディ時代は一緒にやったことはなかったんですか?」
加藤 「やってないね。たしか89年の年越しイベントだったかな。そこで"お互い頑張ってるね"って久々に話して。デビュー以降、初めて会ったのが、そのイベントだったな。そもそも彼らと一緒にやったこと自体、ザ・バイク時代までさかのぼるから。ブルーハーツ、ザ・バイク、ロンドンタイムスの3組で共演したのが85年の5月だから」
──じゃあ、同じステージに立ったのは約4年ぶりだったんですね。
加藤 「彼らはモッズ・シーンと決別して、すぐにハードコア・パンクのバンドと一緒にライヴをやるようになったんだよ。で、必然的に僕らはモッズ・シーンに残るわけだよ。それ以降、全然、繋がりがなくなって」
片寄 「当時、僕が個人的に興味深かったのは、モッズ・シーンから離れたブルーハーツが、ハードコアのシーンに割とすんなり入り込んでいたことなんですよ」
加藤 「ああ、あれは凄かったね」
片寄 「グールと一緒にやったり。当時、ブルーハーツのライヴに行って、打ち上げでハードコアの人たちに絡まれたこともありましたよ(笑)。“おい、ここにモッズがいるぞ”って。そういうときもヒロトさんが“まあ、まあ”って間に入ってくれて」
──なぜブルーハーツは、ある種、反目しあっていたモッズ・シーンから出てきたバンドだったにも関わらず、ハードコア・シーンにすんなり受け入れられることができたんでしょうか。
片寄 「やっぱりハードコア・シーンから見ても画期的な存在だったと思うんですよ。ああいう格好や、音に“僕”という主語を乗せたりとか、それがハードコア・シーンの人にも響いたんでしょうね。当時、パンクスだったりモッズだったりした少年っていうのは、相当センシティヴな感性の持ち主だったと思うんです。少なくともクラスの中で、ある意味、浮いてる存在というのかな。いわゆるヤンキーにならずに、パンクスやモッズになってるっていうことは、それこそ『さらば青春の光』とか、ああいうナイーヴな映画にアイデンティファイしちゃうような精神構造を持っていたと思うんですよ」
加藤 「特殊なヒネクレ方だよね(笑)」
片寄 「モッズしかりハードコアしかり、当時のアンダーグラウンド・シーンは“自分だけは特別だ”って思っている連中が集まって形成されていたと思うんですけど、そういう精神にブルーハーツの言葉って、すごく強烈に響いたと思うんです」



「ブルーハーツが描いている自分と社会との軋轢っていうのは、誰にも多かれ少なかれ付きまとってくる普遍的なテーマだと思う」(片寄)




──コレクターズとブルーハーツってほぼ同時期にメジャー・デビューしてるんですよね。半年違いぐらいですか?
加藤 「そうそう。1987年の5月がブルーハーツで11月がコレクターズ」
──当時、加藤さんの中では、やっぱりブルーハーツをライバル的な感じで見ていたんですか。
加藤 「そりゃもう加入を断った時点でライバルですよ。だって、彼らと同じ、もしくは彼ら以上にならない限り、ツッパった自分がかっこ悪いじゃないですか。だからブルーハーツもそうだし、ヒロトとマーシーは今でもライバルだと思っていますよ。なかなか、向こうがライバルと見てくれないんだけどね(笑)」
──いえいえ(笑)。片寄さんは、音楽的な面でブルーハーツに影響を受けたところはありますか。
片寄 「うーん、やっぱり、ロッテンハッツというバンドでデビューしたのがすべてを象徴していると思うんですけど、僕は、凄い人を見ると、その人と同じことをやっても意味がないと思っちゃうんですよ。だから僕はコレクターズみたいな曲も書かなかったし、ブルーハーツみたいなビート・パンクにもいかなかった。同世代にフリッパーズギターがいるんですけど、彼らにも同じことを感じて、ネオアコはやりたくないと思い、それで当時誰もやっていなかった、デッド・ヘッズみたいに髪を伸ばして、バンジョーとかマンドリンもってジャグ・バンドをやるようなロッテンハッツのスタイルを選んだんです。だから、音楽的な面に関してはむしろ逆説的な意味で影響を受けた感じですね(笑)。でも歌詞という部分に関しては、僕は無意識のうちに、加藤さん、ヒロトさん、マーシーには影響を受けているんだと思う。その系譜の後ろにくっついているなという自覚はありますね。いわゆる、少年が大人に成長していくときの軋轢というのかな。僕のなかにもいまだに脈々と、そういう感覚は残っているんですよね。悲しいかな40になっても(笑)。社会に適合できていない感じというか」
加藤 「お前は40って言うけど、俺なんて49になってもあるんだよ(笑)」
片寄 「そうなんですよね(笑)。つまり、そういうことなんです。ブルーハーツが描いている自分と社会との軋轢っていうのは、誰にも多かれ少なかれ付きまとってくる普遍的なテーマだと思うんです。だからこそ彼らの歌詞はいつまでも古びたものにならないんでしょうね。実際、ブルーハーツの歌詞を今読んでも恥ずかしくないですから。でも、ブルーハーツの後を追って出てきたバンドの歌詞は恥ずかしい。本当にやめて、と思う(笑)」
加藤 「田舎の中学生の日記を見るような感じだよね」
片寄 「今の青春ヒップホップの歌詞と同じくらい恥ずかしいですよね。でも、ブルーハーツの歌詞って、そういう連中の歌詞とは完全に似て非なるものなんです。むしろ正反対ともいえるくらいのもので、そのメカニズムが分かっている人って意外と少ないような気がするんです」
加藤 「少ないだろうね」
片寄 「人によっては、それこそ、ブルーハーツの歌詞を相田みつをみたいな感じで解釈する人もいると思うんだけど……。まあ、それでも全然いいんですけど」
加藤 「片寄が言うように、彼らの歌詞は全然恥ずかしくないし、当時、すごくポップに聴こえたよね」
片寄 「そうなんです。だから、ある種、ポップアート的な斬り方だったのかな。“僕”っていう言葉も含め。ヒロトさんが歌うときの、あの顔つきとか目つきも、やっぱりポップアート的だったんです。だから、ロジャー・ダルトリーが吃音で<マイ・ジェネレーション>を歌うのと同じような感覚ですよ。そのあとヒロトさんと同じようなスタイルで歌う人たちがいっぱい出てきたけど、全然オーラが違うし、何せヒロトさんはスタイリッシュだった」
加藤 「ブルーハーツのことをあまりよく言わない人もいると思うんだけど、それは彼らの後に出てきた連中があまりにも多くの粗悪品を作りすぎたから。いつの時代もそうだけど、オリジナルをコピーしていくと、だんだん画像がずれていって、最後は酷いものになってしまうんだよね。もともとブルーハーツがやったことってすごく革命的で非常にアーティスティックだったんです。そこが今いち、ちゃんと伝わっていないのかなとは思うよね」
取材・文/望月哲(2010年2月)
対談撮影/相澤心也
写真&資料提供/黒田マナブ、加藤ひさし、片寄明人(敬称略)



加藤ひさし(ザ・コレクターズ)
1960年生まれ。1980年、トリオ・バンド、ザ・バイクを結成、東京モッズ・シーンを中心に活躍。その後、4人組のザ・バイクスを経て1986年にザ・コレクターズを結成。1987年11月にメジャー・デビューを果たす。以降23年の長きにわたり活躍。英国マナーに則ったロック・サウンドで若手ミュージシャンからも絶大な支持を集めている。加藤はデビュー直後から小泉今日子や沢田研二らに楽曲を提供するなど作家としても活躍。近年では矢沢永吉の歌詞を多く手掛けている。4月7日にザ・コレクターズのニュー・アルバム『青春ミラー(君を想う長い午後)』発表予定。

■ザ・コレクターズ オフィシャル・サイト
http://www.wondergirl.co.jp/thecollectors/


片寄明人(GREAT3 / Chocolat&Akito)
1968年生まれ。1991年、ロッテンハッツのヴォーカリストとしてデビュー。1994年、高桑圭(b)、白根賢一(ds)とともにGREAT3を結成。翌年に東芝EMIよりデビュー。ヴォーカル&ギターを担当し、現在までに7枚のオリジナル・アルバムを発表。メロウとハードの両極を振り子のように行き来する、美しくも歪なロックで日本の音楽シーンに一石を投じ続けている。2005年からは妻であるショコラとのデュオ"Chocolat & Akito"としても活動を展開。近年はプロデューサーとしても活躍。現在、ジョン・マッケンタイアとChocolat & Akitoのニュー・アルバムを制作中。

Chocolat & Akito MySpace
http://www.myspace.com/chocolatakito


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