alan   2009/03/27掲載
 中国・四川省出身のalan。デビュー直後から大きな注目を集めていた彼女のヴォーカリゼーションはどのように飛躍していったのか? 本稿では、幼少の頃から音楽に親しんできたという彼女のキャリアを振り返る。


 2000年代以降のグローバリゼーションの進行によって、音楽シーンにおいても国籍・人種の境目はどんどん薄くなっているように見える。ブラジル・サンパウロ出身のエレクトロ・パンク・バンド“CSS”ニルヴァーナを世に送り出したことで知られるアメリカのレーベル“SUB POP”と契約、ワールド・ワイドな人気を得たことは、その顕著な例と言えるだろう。しかし、生まれ育った環境、使用している母国語といった要素が、そのアーティストの表現に作用(規定、といってもいいかもしれない)していることに変わりはない。むしろ、“国籍は関係ない”というムードが蔓延している現在だからこそ、しっかりとしたルーツを感じられる音楽はさらに貴重なものになっていくはずだし、逆に濃密なバックグランドを持った音楽こそが、真の国際性を得られるのだと思う。ちょっと前置きが長くなってしまったが、alanはまさに、自らの生い立ち、ルーツが音楽性のなかに強く現れ、そのことによってワールド・ワイドな広がりを獲得している数少ないアーティストだと言えるのではないだろうか。


 87年、中国・四川省で生まれ、美人谷と呼ばれる土地で育ったalanは、幼少の頃から唄と二胡を習うなど、中国の伝統的な音楽に親しんできたという。9歳のときにはその美貌によってテレビ・ドラマの準主役に抜擢されるが、女優への道は選ばず、10歳で四川音楽学院付属中学に入学、二胡の専門的なトレーニングを積む。その後、16歳で中国で最高のレベルにあると言われる中国人民解放軍藝術学院声楽科に入学、在学中に北京で行なわれたオーディションに参加。軍服を着て登場し、二胡を演奏しながら「涙そうそう」を歌い、その圧倒的な歌唱力と生来のパフォーマンス性の高さを見せつけたというエピソードは、いまや多くの人が知るところとなった。そして2007年、シングル「明日への賛歌」でalanは、日本でのプロ・デビューを果たす。

 彼女のヴォーカリゼーションは、デビュー直後から大きな注目を集めた。大陸的な伸びやかさをたたえた高音、深く、強いエモーションをたっぷりと感じさせてくれる表現力。そのスケール感は、まさに『Voice of EARTH』(1stアルバム)と呼ぶにふさわしい。


 その地球サイズの才能は、楽曲をリリースするたびに大きく飛躍していく。坂本龍一のプロデュースによる「懐かしい未来〜longing future〜」(NHK 地球エコ 2009 SAVE THE FUTURE)、ジョン・ウー監督による映画『レッドクリフ Part?』の全世界主題歌に起用された「RED CLIFF 〜心・戦〜」、そして、中国・四川省大地震災害のチャリティ・ソング「幸せの鐘」に共感したCoccoが彼女のために書き下ろした「群青の谷」。彼女の歌声、そして、そのメッセージ性がジャンルを超えたクリエイターたちの琴線に触れ、その結果として普遍的な力を持った音楽が生まれる――alanというアーティストには、そんな天賦の才が宿っているのかもしれない。


 壮大なバラード、エレクトロ・チューン、二胡をフィーチャーしたアジアン・テイストのナンバーまで、彼女はデビュー以来、さまざまなタイプの楽曲を歌ってきた。しかし、その中心にあるメッセージ――愛と平和、地球環境への強い思い――はまったく揺らぐことはなかった。チベット民族である彼女が世界平和に思いを馳せ、すべての人が安心して暮らせる環境を願うのはとても自然なことだし、だからこそ、彼女が放つ思いはこんなにも強く人々の感情を揺らすのだと思う。

 環境問題、民族紛争、そして、全世界的な金融危機。不安な材料ばかりが増えていく現在において、彼女の歌が果たす役割はこれから、どんどん大きくなっていくだろう。彼女の声があらゆる国に鳴り響き、そのことによって人々がつながっていく。alanの音楽を聴いているうちに、そんな幸せなイメージで包まれてしまうのは、きっと僕だけではないはずだ。



文/森 朋之






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