私は私にできることを歌にしていく ゆっきゅんのニューEP

ゆっきゅん   2025/10/29掲載
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 ゆっきゅんの最新EP『OVER THE AURORA』がリリースされた。全曲の作・編曲を鯵野滑郎が手がけたこのEPは“今のゆっきゅん”がぐっと詰まった作品となった。今回は、発売中の『CDジャーナル2025年秋号』に掲載されているインタビューのロング・バージョン+謎のベールに包まれている鯵野滑郎のメール・インタビューの2本立てでお送りします。
New EP
ゆっきゅん
『OVER THE AURORA』
――『OVER THE AURORA』は、アルバム『生まれ変わらないあなたを』以来となる新作で、楽しみにしておりました。
 「ありがとうございます。去年のアルバムで聴いてくれる人が以前より増えたので、今年も新曲を出したいなと思っていて。私はエイベックス育ちなので夏にトリプルA面とかが出るのはありがたかったので、そういうのがやりたいなとかぼんやり思いつつも、じつはアルバムを作って以降、半年くらい作詞してなかったんです。提供したいくつかの歌詞もアルバムと同時期に書いていたものでした。だから言いたいことは一旦書いっちゃった感じがあったんですけど……時間が経ったので普通に出てきた(笑)」
――(笑)。アルバムで出し切っていたんですね。
 「別に枯れたとかでもないですけど、いまは別に新しく言うこともないな、という。他人に書くのは楽しいけど、自分がこれを歌わなければ、みたいなのはなんだっけなぁみたいな感じではありました。でも、初夏は過ごしやすいから作詞ができるんです(笑)。それでじわじわと曲を増やして。今回は〈いつでも会えるよ〉の作曲編曲と〈幼なじみになりそう!〉のセルフカバーのアレンジをしてもらった鯵野滑郎さんに全曲お願いしていて、椎名林檎さんのリミックスと私としか仕事をしていない謎の人物がいるんですけど(笑)。その人ともっと仕事したいなって思っていたのと、いままではバラバラのものを集めていたので、MEG的な感じでひとりの作家さんとひとつの作品を作るのも楽しいんじゃないかなと思って、相談してみました」
ゆっきゅん
ゆっきゅん
――それぞれの曲のクオリティは高く、作品としてのまとまりも見事でした。制作はどのように進めていったのでしょうか。
 「最初に主人公や場面の説明、画像、それとプレイリストなどでイメージを伝えます。音像とか色、時間帯、景色、ビジュアルイメージみたいなものを言葉で伝えるだけだとどうしてもムズいので、例えば2曲とかに絞って送るのではなく、最低10曲くらいは入ったプレイリストを共有します。どの曲に似せてほしいというのを求めてるわけでもないのがお互いにわかっているので、そこはやりやすいです。私はわがままですけど、別に言うとおりにやってもらたいということでもないので。まずトラックだけが届くんですけど、私の好みとしては結局、カラオケで歌いたくなるようなものじゃなきゃダメだというのがあって。歌謡じゃないとダメなんですよね。ギリダサいかもくらいのメロディでも、それがいいんだよ、みたいな。そういうやり取りをしながらメロディのイメージを擦り合わせて、進めていく感じですかね。曲によりますけど」
――そのプレイリストに入るのはどんな音楽なんですか?
 「基本的にはJ-POPばっかり聴いてきたので、リファレンスとしてはそういうものを送ることが多かったけど、今回は、洋楽のDIVAのイメージが強くなってきたかな。最終的なサウンドとか楽曲としてはJ-POPになるんだけど、〈余計な勇気〉はビヨンセとかデュア・リパみたいな感じで作っていきましたし、〈OVER THE AURORA〉もデュア・リパとかサブリナ(・カーペンター)とかです。〈UCHIAKE HANABI〉はカイリー・ミノーグ。 カイリー・ミノーグは一生やりたい」
――セルフライナーノーツを読むと、STAYCの「BEBE」を挙げていたり、K-POPのイメージもたくさんあったみたいですね。
 「ここ1年間くらいK-POPにしっかりハマったんですね。だから去年のアルバムは全然影響もないんですけど、多分、今回は出てます」
――それもわかるなと思って。ゆっきゅんが好きであろう、ギラついたエンタメというのはいまのK-POPにあるじゃないですか。
 「そうそう。いま、全世界で“あの頃”のエイベックスをやってくれてるのはaespaだけな気がしてる(笑)。自分たちが一番イケてるということ、覇者だということを自他ともに認めてる感じが私の思うエイベックス感なんですよ」
――新曲もすごいですからね(笑)。
 「〈Rich Man〉!ギラギラしてますよね。きっとK-POPからの影響はあるんだと思いますけど、ただ、歌詞は変わらないんですよね。むしろもっと卑近なことを歌おうと思っています。世俗的な、ストリートの気持ちを書きたいんです」
――引きがよいというかさすがの鋭さというか、SNSでまいばすけっとが話題になったときにはすでに「Oh My Basket!」はできていたという。
 「あれは悔しかったですけどね。その話題もうちょっと待ってよ、みたいな。少し前に『ユリイカ』で西森路代さんと話したんですよ。まいばすけっとはまだエモくない、エモくなりようがない、みたいなことを話していて、そのときはあれを歌にするのは無理だなと思ってたんですけど」
――あまりにも虚無すぎるから。
 「でも、作詞ってそういう挑戦なんだと思うんです。つんく♂さんもそうだし、小室哲哉さんも大森靖子さんもそう。普通だったら歌にならないレベルの目に入るものや日常的なことでも、歌にならないものはないですよって教えていただいたんです。阿久悠も言ってた。私にとってそのチャレンジが〈Oh My Basket!〉だったという。それに、まだ私はNewDaysのことは歌えてないし、歌にできてない店がきっとたくさんあって……店についての歌を書いていきたいわけではないんですけど(笑)」
――ですよね(笑)。
 「店は人のいる場所なんですよね。ファミレス、コンビニ、イートインコーナー、カラオケのことは歌にしてきましたし。〈Oh My Basket!〉はまったく別のところから主人公像がどんぶらこと転がってきて、急にこの子が生きる場所はまいばすしかないとわかってしまって、歌詞ができたんです」
――まさに卑近なところを描けたと。その目線は変わらないまま技術面でも表現面でもレベルがどんどん高くなっていると感じます。新作はこんなところに辿り着いたのかと毎回驚かされるので、ゆっきゅんの作品は追っていてシンプルに楽しいんですよね。
 「嬉しいです。前にできなかったことをやろうというのはつねにありますよね。まだ全然構想以下の段階ですけど、来年が 〈DIVA ME〉から5周年なので、来年というか5周年期間にいいアルバムを出したいなと思ってます。そこではディスコクイーンになるつもりです」
――おお!
 「具体的なことは決まってないんですけどね。来年のために必要なことを今年はやろうと思って、今できることとしてこれを作りました。」
――リリースするというのが大事ですよね。作品を出すごとに見えるものもきっとあると思うんです。
 「ありますね。サウンドで言うと、去年はバンドが入って生音で初めてレコーディングしてリリースしたことが大きかったですし、反応もよかったです。ゆっきゅんとラブドラゴンズ(バンドセット)でのライブも本当に本当に楽しくて、でも自分はロックをやっていくんだっていうことでもないんです。」
――ウケたからそれをやろうということでもない。
 「いや、一番やりたいことがウケたらそうなるとは思いますよ。去年のアルバムもガチで自分がやりたいことをやりましたし。やりたいことをやってみんなに聴いてもらえるというのはたぶんこの世であまりないことで、だからすごく幸せだったんですけど、自分がもっとやっていきたいこととしては〈UCHIAKE HANABI〉みたいなディスコハウスっぽいものだったりする。ゆっきゅんサウンドをそろそろ確立したいと思うし、〈UCHIAKE HANABI〉だったら何百曲でも作りたいという感じなんです。歌詞はやっぱり、どうしても切ないこととか恥ずかしいことを歌にすることになるんですけど、そういう感情を抱きしめて踊れるポップミュージックを歌いたいというのが自分の姿勢なんですよね。だから今回は、去年ウケたことをやろうというよりは、去年できなかったことをやるということですね」
ゆっきゅん
ゆっきゅん
――それはどんなことですか?
 「自分はなにかについて歌うというより、誰かについて歌いたいんです。〈Oh My Basket!〉は先に歌詞が書けて、あれは結構主人公の悔恨のこもった、ごめんね、ごめんね……みたいな歌なんですけど、それに曲をつけてもらったらすごくうまく脱臭していただけたというか、エグみみたいなのが減ったんです。それに感動したんですよ」
――言葉が強くても、音楽に乗るとスッと聴けるというのありますよね。
 「そうそう。熱とかいろんなものを昇華してもらえるんだとわかって、自分はこういうことをやっていけたらいいんだと思えたんです。曲の主人公がどういう人で、いまどういう景色を見ているのかがパッとわかれば書けるんです。それが不明瞭だと書けない……というか時間がかかる。そこが見えたら、その人の見ている景色、思っていることを正確に書くだけなんですよ。そのことが〈Oh My Basket!〉ができたときにわかって、じゃあ前のアルバムでは歌えなかった人のことを歌おうと思って書いていきました。素晴らしい人は、最悪、音楽がなくても素晴らしいので、聴く歌がなくなった人のために、素晴らしくないときがきてしまった人のために作らなきゃってすごく思ったんですよね」
――「OVER THE AURORA」はいきなりクライマックスのような曲だなと思いました。本来、ラストナンバーのつもりだったけれど、1曲目に持ってきたんですよね。実際にオーロラを見に行ったことがきっかけになってるんですか?
 「そうなんですけど、見に行く前から曲の構想とデモトラックはあったんです。私は特にヘルシンキに行きたかったんです。フィンランドには父親と行ったので、オーロラが見れると嬉しいかなと思って。ただ、それがすごく北のほうだったんですよ」
――ヘルシンキからはかなり離れてるんですね。
 「はい。ヘルシンキなんか服は東京のものでも大丈夫ですけど、オーロラ見るような地域はちゃんとした準備が必要」
――装備をしっかりしなきゃいけないレベル(笑)。その体験は大きいものでしたか?
 「(スマホの待ち受け画面を出して)これ、自分で撮ったんですけど、自分で撮ってないような綺麗さじゃないですか。そのへんのことは歌詞にも書いたけど、スクリーンセーバーみたいな写真しか撮れないんです。誰でも見たことあるやつ(笑)。でも、綺麗だから撮るしかないんですよ。その感じもおもしろくて、インスタに上げても、これゆっきゅんの投稿?みたいな記名性の低い写真ばかりが撮れるんです。絶景というラインを越えるとなにをどうしても絶景になる。そのときに、一生に一度くらい見たいなって思ってるものを見ることについて考えたんですよね」
ゆっきゅん撮影のオーロラ
――スケールの大きな絶景をきっかけにしてはいるものの、最終的には身近なことを歌っているのがゆっきゅんらしさだなと思いました。
 「壮大なことは歌えないよね(笑)。いや、いつも構想は壮大だったりするんです。次はこんなことを絶対に歌うぞと思っているんですけど、まだ自分に書けるスケールじゃなかったり、いい言葉が見つからなかったりする。そうやって諦めて、諦めて、自分に近づけていくことでやっと書けるんです。いつかは壮大なことを自分の言葉で書けるかもしれないけど」
――少なくとも現時点では友達のことだったりするし、その描写は唯一無二だと思います。
 「結局誰かの歌になるから、この歌の一部ではルアンちゃん(ゆっきゅんの所属する2人組アイドルグループ・電影と少年CQのメンバー。グループは今年いっぱいでハッピーエンドを迎える)のことを思い浮かべたりしていました」
――なんと!そう言われるととても沁みる歌詞ですね。
 「あんまり言うと悲しくなるんですけどね。作詞の過程で、最終的にはこの人について書いておきたいというのがありました。最初はレドベル(Red Velvet)のアイリーンの気持ちで書こうと思ってたけど無理で(笑)、私からルアンちゃんの気持ちを書いておくか、となりました。聴いた人の反応を見る限り、そうは捉えられてないですけどね。スケールでかいことを書くぞと思ったのに、結局、隣にいる人のことを書いてました。最近、過去が増えていくなと感じているんです」
――過去が増える?
 「ここ一年くらいは会いたかった人に会えたり、夢が叶うこともすごく多かったんですけど、大切な記憶が増えていくので、どうしたらいいのかと思っていて。まだ30年しか生きてないですけど、未来だと思っていたところに自分がいて、こうやって人生が続いていくんだなと思って。それを今回、考えたかったという感じです」
――ああ、なるほど。節目の前後だったからかもしれないですけど、年齢についてはよく話している印象があります。
 「年齢好き(笑)。〈いつでも会えるよ〉で“二十代”って何度も書いたんですけど、30になったいまは絶対書かないなと思うので、書いておいてよかったなと思うんです。例えば、日記って全然そのまま歌詞にはならないんですよ。日記みたいな歌詞って書かない。でも逆に歌詞は、あのときこう思ってたんだなという日記になってるなと感じますね。それと年齢について言うと、誕生日というのはでかいライブがある日なんですよ」
――ですよね。ライブの準備でやるべきことがたくさんある日。
 「だから年齢がどうとかどころではないんです(笑)。でも、30才になるにあたっては、『ユリイカ』で特集してもらったこともあって、みんなが騒めいてたんですよ。だからかなり自覚せざるを得なかった。それは老いとかではなく、ただ20代というものが終わって、まぁまぁよく頑張った、これ以上なかったとは思うけど、これからはこのままじゃダメだなというのはよく考えることなんです。多分、自分は区切りが好きなんですよね。年末とか。この日までにやっておきたいとか、これからの10年は、みたいなことを考えるのが好きなんだと思います。あとは子供の頃からアラサー憧れがあったので」
――アラサー憧れ!
 「恋に仕事に大忙しのOLに憧れてここまで来たので。それが28くらいから、マジだ!と恋以外なったんですけど」
――これがアラサーの大忙しか、と(笑)。
 「そうそう!だから、28のときしか書けない、29にしか、30にしか書けないものを残していってやるからな、みたいな思いはありました。同世代の人にはしっかり共感していただきたいですし、自分より若い人が、年をとるのがこわくなくなるような感じになったら一番いいなと」
――それは素晴らしいですね。
ホセ・ジェイムズ
ユリイカ 2025年5月号
特集=ゆっきゅん ―ありふれたDIVAによるかけがえのない歌と愛…三〇歳記念特集―
(青土社)
 「題材がずっと10代のミュージシャンもいると思うんですよ。輝かしい季節として書き続けられる人もいるけど、自分の可能性としてはずっと31くらいの人を40になっても書いてるかもれない。ふつうに10代の歌詞も書きたいですけど。いまは自分の年齢とぴったり合っている感じがします。人に書くのもすごく楽しいけど、自分の曲の歌詞を書くのは本当に楽しいです。なにを書いてもいいから。それと今回、作詞は早さを意識したんですよ」
――早さですか。
 「時間をかけないようにしたかったんですよ。これまでの曲で言うと〈幼なじみになりそう!〉とかはすごく早くて。〈プライベート・スーパースター〉とかもめっちゃ直しはしたけど、君島(大空)くんから電話がきて、その夜には返すくらいの早さで書いてました。そういうスピード感を持って書いた曲って、届くスピードも速いんじゃないかと思っていて。3、4分のものを40日とかかけちゃうと、一度聴いても伝わらないものになってしまうんです。だから、できるだけ2時間で書き切る。どういう人にしようかなとか、それまでの整えの時間はあるんですけど、始めたらガっと書き切ることは意識しました。あとで直しはしても、止まらないことを大切にするというか。特に〈UCHIAKE HANABI〉とか〈余計な勇気〉はそうでしたね」
――「余計な勇気」もディスコティックないい曲ですよね。
 「ありがとうございます。いいですよね。勇気の溢れる女の子をイメージして…TWICEのジヒョとか。〈UCHIAKE HANABI〉に出てくる友人はレドベルのジョイの見た目イメージだったり、〈去年の夏は一日〉もK-POPの男の子たちの写真をめちゃくちゃ見ながら書いたので、やっぱりK-POPの影響をすごく受けてます。音楽的じゃない部分で(笑)」
――こういう人をモデルにしがち、という傾向はありますか?
 「どこかで自分的に泣けるところがある人ですかね。泣けるって大事で、それは実際に泣くわけではなく、自分的にエモいポイントというのを見出せる人だと思います」
――このニュアンスが文章で伝わるといいんですけど、個人的にはモーニング娘。の小田さくらさんを見ていて思う気持ちがそれに近いのかなと。
 「そうそう、泣けるじゃん。おださくって存在が泣けるんだよ。私はそういう泣ける人の歌を書いてます。〈UCHIAKE HANABI〉は、友情のことをたくさん書いてきたので、次は友情以下のことを書いてみせるぞという気持ちでした」
――ダチのダチですよね。
 「友達の友達で一曲書くからおれは先に行くわという気持ちでした(笑)。別に友情の歌詞をやめたわけではないですけど、そういう挑戦はしてますね」
――友情というジャンルをさまざまな形で開拓してますよね。
 「〈幼なじみになりそう!〉や〈プライベート・スーパースター〉ではぐっと近い親密さについての表現をしてきたけど、一方で距離の遠さとか関係の軽さのありがたさもあると思っていて」
――そこはおもしろいです。友情ソングって世の中に数多くあるじゃないですか。でも……。
 「大体がベストフレンドになりますよね。それも好きなんだけど」
――そうそう。ベストじゃなくてもいいのにと。ほかには、いまだったらシスターフッドっぽいものもありますけど、まだフレーミングされていない些細な友情関係もあるじゃないですか。ゆっきゅんはそれを言葉にしていますよね。そのことを改めて感じた作品でした。
 「嬉しいです。そこはたくさん書いていきたいですよね。私は同じ人で何曲も書くタイプではなく……そういうのもやりがいがあるというお話を聞いてはおりますが。例えば柴田聡子さんには同じ人で何曲も書くのも面白いよって言われた。私はいろんな人がいる限りは、いまのやりかたでまだ書けるなと思ってます。〈UCHIAKE HANABI〉みたいなのはまだまだ書けると思います。恋愛ソングではひと晩のことがよく書かれたりしてますけど、友情もあるんですよ。私はそれを泣けると思ってるので、自分が納得できる歌詞を書けるんですよね。私は私に見える世界の感情をいちいち歌にしていくので、歌手全員そういうことをやってもらえれば聴ける歌がないという人がいなくなるから、夜に泣かないで済みますよね。私の好きなDIVAはそういうことをやっているんですよ。だから私は他のDIVAが歌えないことを歌いたいと思って書いてます。そうじゃないとものを作る意味がないですよね」
ゆっきゅん

取材・文/南波一海
撮影/宮本七生


鯵野滑郎インタビュー
ゆっきゅん
――自己紹介をお願いします。音楽活動をはじめるきっかけや、これまでの活動についても教えてもらえるとうれしいです。
 「鯵野滑郎と申します。北海道小樽市出身・札幌市在住の会社員です(音楽とは全く関係ない仕事をしています)。ゆっきゅんと同学年の1995年生まれ30歳です。個人の趣味で音楽を制作して身近な友達に聞かせるという活動をしていました」
――椎名林檎さんのリミックスに参加し、名義を悩んでいたところ、林檎さんから鯵野滑郎という名前をご提案されたというのが最高のエピソードですが、リミックスに参加されたきっかけを言える範囲で教えてください。
 「もともとは友人たちに聞かせるために作っていた椎名林檎さん楽曲のアレンジを、せっかくだからとYouTubeにアップしたところ(ゲーミング三毒史)、椎名林檎さんご本人・スタッフさんに見つけていただき、お声掛けいただいたのがきっかけです(その時の名義としてはランダムな英数字文字列を使っていました」
――“鯵野滑郎による、鯵野滑郎を知るための10曲”というプレイリストを作るとしたら何を選びますか?
 「個人的に好きな音楽はいろいろあり、ほとんどゲームをしないわりにはゲーム音楽の影響もあるのですが、今回は配信されているものの中から鯵野滑郎名義の活動とつながりを感じる10曲を選びました」
■“鯵野滑郎による、鯵野滑郎を知るための10曲”
https://open.spotify.com/playlist/2iIrrQSnX6yRlFRp35BNyt

Omodaka - Oshogatsu
YMCK - ふわふわ卵のオムライス
sasakure.UK - しゅうまつがやってくる!
椛田早紀 - LONELY ROLLING STAR
椎名林檎 - 長く短い祭
Perfume - ポリリズム
Basement Jaxx - Red Alert
Inner Life - Ain't No Mountain High Enough
Kero Kero Bonito - Well Rested
Suzanne Ciani - The Second Wave: Sirens

――ゆっきゅんからオファーを受けた経緯を教えてください。また、受けたときのお気持ちを教えてください。
 「ゆっきゅんが共通の友人を通じて僕の創作物を知ってくれたようで、制作オファーの前に声をかけてもらいカフェとカラオケに行きました。そのあと正式にオファーを受けたときは、人の人生がかかっているものを作るのは緊張するなぁと思いましたが、それより嬉しかったです!」
――実際の曲作りはどのように進めていったのでしょうか。
 「曲によってバラバラですが、基本的には、事前に曲調を相談した上で大まかなトラック+仮メロディのデータを渡して、歌詞をもらったら適宜調整という流れが多かったと思います。ゆっきゅんは東京に、僕は札幌にいるので、やりとりはLINEがメイン、たまに通話を挟んで進めていきました。ゆっきゅん歌唱とギターのレコーディング時は僕が東京に出張し、立ち会いました。
 1曲目の〈OVER THE AURORA〉は、当初のデモはメロディがなく、シンプルな8ビート⇒ノイジーで激しいトランスになるというものでした。作業しながら勝手にSWEET MEMORIESやネバーエンディング・ストーリーなどのきらめく夢成分を増やしたくなり、そうなっていきました。制作が進む中でゆっきゅんがギターを演奏してもらおうと発案してくれて、〈OVER THE AURORA〉のギターは君島大空さん、〈Oh My Basket!〉のギターは奥中康一郎さんに演奏していただきました。レコーディング当日は夢のような時間を過ごしました✨️
 〈UCHIAKE HANABI〉は、マイナーキー&フレンチタッチなフィルターハウス歌謡を目指しました。作曲面では、少しラテン要素もいれて、メロディは楽しく、ケロケロ加工も映えそうなラインを考えました。アレンジ面では、和音を鳴らしてフィルターを動かすと聞こえる音が変わって楽しかったし、そこに4つ打ちのリズムが入ったらもっと楽しくなりました。本当の当初のデモでは漠然とした宇宙のイメージだけがあったので、ラップ部分のトラックが妙にSFっぽくスリリングなのはその名残りです。
 〈去年の夏は一日〉では、完全な無音を曲中に入れてみたいとこっそり思っていたので、歌詞もそれに合うような時間の停止のことを書いてくれて、きれいな形で叶いました。前半は歌声のデータからあえて最初のブレスを消して、人間味というよりは風景があるイメージ。コードはあんまり動かさない。後半は、やや90年代後半っぽいハネないビートをいれて、なんとなく郊外の屋外のイメージ。UFOみたいなシンセ音が気に入ってます。
 〈Oh My Basket!〉の歌詞をもらって、曲調のイメージもなんとなく聞いたら、数時間で作曲と大まかなアレンジができました。トラックはうきうきなお買い得ショッピングにしつつ、部分的にブルースを感じるメロディが良いかなと思って作りました。雰囲気は、つんく♂楽曲もイメージしました。なお、ギターフレーズは基本的に奥中さんが考えてくれたものですし、音源化の前にラブドラゴンズによってライブで披露されていた演奏から細かいところでアイディアを頂いています。先日、大阪のライブでラブドラゴン各位にもお会いできて感激でした!
 〈余計な勇気〉は、勇気と喪失と祝福をテーマに、二十代にさよなら&30歳レッツゴー!という気持ちを込めて作りました。いろんな年代のディスコソングの要素を取り入れました。ゆっきゅん本人もどこかで言ってましたがレコーディングの終盤には紙吹雪が目に浮かびました!僕はバックコーラスでいっぱい歌って楽しかったです(これは家で黙々と多重録音しました)。
 作ったことがないような曲ばかりなのでずっと試行錯誤の手探りですが、今回も楽しく作らせてもらいました!」
――制作の中で印象に残っているやりとりやエピソードがあれば教えてください。
 「すべてが印象に残っています」
――ゆっきゅんというアーティストを鯵野さんはどのように捉えていますか?
 「僕は自分自身が思ったことや感じたことがあっても、それを言葉として表現できたことが少ないです。だから、ゆっきゅんによって、確かに存在はしていた、しているのに、世界の中に象られていなかった気持ちや風景が、難しくない言葉で、しかし聞いたことのない組み合わせで的確に表現されていく様子を見て、いつも痺れるし、毎回ハッとさせられます。この曲のこの部分に、なんて言葉を置くんだ、信じられない、面白すぎて泣く。俺が言わずともみんなそう思ってるから好きなのか。
 あと、僕とは人間としての性質は違うし(僕は人に見られるのとか苦手なので)、音楽をどう捉えてどこに感動するかも全然違う。でも孤独の置き場みたいなところには共感があります。これも俺が言わずともみんなそう思ってるから好きなのか」
――ありがとうございました!
 「こちらこそですー! ありがとうございました!」

取材・文/吉田正太
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