美しくもはちゃめちゃな混沌を作り出す、スッパバンドの世界に迫る。

スッパバンド   2012/12/21掲載
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 スッパバンド『KONTAKTE』は新しい思い出のように僕をかきむしる。

 1990年代半ばに竹村延和主宰のChildiscからデビューした、愛らしく自由な電子音 / コラージュ宅録音楽家スッパマイクロパンチョップ。彼が数年前から率いる生音のバンドが、スッパバンド。限りなく自由な言葉と歌を中心に、岸田佳也(トクマルシューゴ ほか)、DJミステイク(PANICSMILE)、マスダユキ(俺はこんなもんじゃない)、橋本史生(星ト獣)のメンバーが美しくもはちゃめちゃな混沌を作り出す。僕は1stアルバム『KONTAKTE』を、笑いをこらえきれないように体を震わせ、涙を垂れ流すように聴き続けている。CDからにゅっと出て来たダダっ子に、五感と一緒に胸をかきむしられている感じ。そして同時に思い出してもいるのだ。ああ、僕が音楽に初めて心を掴まれたときの、あのわけのわからない混乱に魅了されてゆく感覚ってこうだったのだと。

 スッパバンドの中心であり、創造のブラックホールのように僕を引き込む張本人であるスッパマイクロパンチョップに話を訊いた。
――スッパバンドはアルバムが今回が初めてなんですけど、実は活動はもう長いですよね。
 「初めてのライヴが2005年の海の日(7月18日)ですから、もう7年越えですね」
――もちろん今もバンドだけでなく個人でも音源は作り続けてらっしゃるんですけど、今回のリリースで初めてスッパバンドとスッパマイクロパンチョップの存在を知る新しいリスナーも多いと思うんです。なので、もともと音楽活動を始められたあたりの話からいろいろきかせてください。
 「高校生の頃から音楽が一番興味があるものだったんですけど、楽器はやらなかった。ずっと音楽は聴く一方でしたね。“いつから音楽やってるの?”という質問には、お決まりのパターンで“子どもが生まれた日から作曲し始めた”と、ちょっとカッコいいことを言ってたんです。僕が24歳の年に子どもが生まれたんですけど、その出産日に泊まらせてもらっていた奥さんの実家の部屋にグランドピアノがあって。僕は当時からテレコを常に持っていて、身の周りの音を録るのが好きだったんです。それでコラージュとかを作っていたんですけど、子どもが生まれた記念になんちゃってな感じで弾いたピアノに感動しちゃって、それを録音した。そしたら、そのテープの音っていうのが現実の音よりよく聞こえると言いますか、記念に弾いたその曲が良すぎたんで調子に乗って“これは音楽家宣言しようかな”と思って、その日から音楽を始めた……ということになってはいるんです(笑)。でも、本当はその1、2年前から、周りの音を録ってコラージュするというのは始めてました。わざと電池の少ない状態で録った回転のおかしいのを他のラジカセで流しながら、サウンド・コラージュみたいなものを作ったり。21、22歳からかな」
――スッパさんのそういうすごく個人的に出来た音楽が竹村延和さんのChildiscと繋がっていったのはどういう経緯なんですか?
 「子どもが1歳前後になった頃、すごくたくさん曲を作っていて、竹村さんのファーストが出たのが94年ぐらいで、その時期と重なっていたんです。竹村さんの音楽もすごく好きだったし、“きっと僕のこのテレコで作った音源も絶対気に入ってくれるはず”という確信があって(笑)、人づてにテープを渡してもらったんです。そしたら、しばらくしたら連絡があって。結果的には、その時期に僕だけじゃなくて竹村さんがピンとくるような音源を作っていた人たちがちらほらといて、それをまとめて紹介できるアマチュアリズムがテーマのレーベルを作ろうというのがChildiscになったんです。でも、Childiscから出たおかげでクラブ系のリスナーにも知ってもらえたし、竹村さんとの交流で教えてもらった中に、のちに僕ときまぐれ☆ボーイズを結成するレイハラカミさんとか、いろんな人もいて」
――スッパマイクロパンチョップという名義はいつからなんですか?
 「名前をつけたのは竹村さんに音源を渡す前日くらいでした(笑)。名前があったほうがいいだろうと」
――由来は?
 「由来? 由来もいくつかありますよ。たとえば、“スーパー・マイクロ・パンチ&チョップ”という意味合い。すごくちっちゃいチョップとかパンチとか抵抗する力のことで、自分には敵うわけない巨大な相手に反抗して攻撃するんだけど、なんか打ち所がよくて、奇跡的に相手が倒れちゃったみたいな、そういうイメージの名前なんです。あと、その頃に読んだベックのインタビューで“ベックさんの歌詞にはマイクロフォンって言葉がよく出てきますね”という質問に“マイクロフォンって発音したら気持ちいいだろ”と答えているのがあって、僕も“マイクロ”が名前に欲しいと思って発展させていったところもあります。もう一個の由来としては、細野晴臣さんと中沢新一さんの対談本で『地平線の階段』というのがあるんですが、そのなかに収められたYMO前夜あたりの細野さんのエッセイで“これからはチョップ・ミュージックがくるんだ”と書かれたものがあるんですよ。でも、結果的にはチョップ・ミュージックにはならずに、テクノになった。細野さんがイメージしていたチョップ・ミュージックって、きっと別のかたちだったんだろうなと思っていたんですね。実現しなかったそのチョップ・ミュージックも面白かったはず。誰もそれを継承していないのなら僕がそれを引き継いで、まだこの世に存在しない面白いものを作れたらという意味で、“チョップ”も使って。“スッパ”は、長い名前をつけたときに、たぶん、頭の単語で略して呼ばれるだろうから、“スッパ”は“ザッパ”みたいでいいかなあと(笑)」
――すごい由来がたくさん(笑)
 「でも結局は、あんまり意味にはこだわってないんです。“スッパマイクロパンチョップ”って口に出したときにリズミックな感覚がある。その音のリズム重視です」
――スッパマイクロパンチョップでのデビューから、スッパバンドという歌ものバンドになるまではまだまだしばらく時間がありますね。
 「スッパマイクロパンチョップ時代にも歌ものはあるんですよ。セカンドの『カエルに会えてよかった』(99年)というアルバムなんですが、でもそれは時間がない中でごりごりっとやったものだったからライヴでは再現しようがないものでした。スッパバンドのきっかけは、バンドを始める1、2年前くらいに、“歌わなそうな人に歌わせる”という企画に呼ばれて、ギターの弾き語りで歌わざるをえなくなり、無理矢理その日のために歌ったんです。でも、歌ってみたら楽しかったんですね」
――じゃあ、そのときの気持ち良さがバンドにつながって。
 「すぐになっていったわけじゃないです。今回のCDの印象とは少し違って、もっと過激だったんですよ。一定のリズムなんか絶対になくて、ゆっくりだったり速くなったり、止まったと思ったら一気に展開したり。バンドという発想は全然なかったですね。でも、たまたま弾き語りのライヴを観にきたお客さんの中に、“スッパさんとバンドやってみたい”って言ってくれるミュージシャンの人とかが何人かいて、そういう人たちを集めて一斉にやっちゃえという感じで、ライヴで一回やってみたんです。僕以外はみんな初対面で練習もせず、“はじめまして”の日に、もうライヴやったんです」
――すごいですね。
 「でも、その日のライヴがすごく楽しくて、奇跡的にバンドとして成立しちゃったんで、それが面白くてバンドとしても続いてるんです(笑)。ベースもピアノも本来その楽器のプレイヤーじゃない人にやらせていて、すごく自由感があって、“これは新しい! 無敵だ!”と思いました(笑)。今考えても、あれが一番良かったライヴかもしれない(笑)」
――キーボードがマスダユキさん(俺はこんなもんじゃない)に途中で交替した以外は、今もそのときのメンバーでライヴをやっているんですよね。今も練習しないんですか?
 「初めからそうだったから、今もずっとそうですね。練習は、ほぼしない。なるべく冒険する。新曲やるときも“本番で披露するからついてきて”ぐらいの感じで」
――逆にそういう発想でやってきたバンドだからこそ、なかなか音源の制作という感じには向かわなかったのかも。
 「そうですね。どうやって録っていいのかもわからなかったし」
――アルバムの推薦コメントで、M.C.sirafuが「みんなスッパバンドみたいになりたいんだよ。」と書いているのは本音だと思うんです。頭で考えているだけではできない音楽がある。
 「そうですか?」
――今回のCDでも、「大豆」とか「ろくでもないなあ、もう」とか、バラバラになりながらも破綻寸前で最高に気持ち良いグルーヴがあって、サイケデリックかつスペーシーにぶっとびながら詩情が小さな隕石みたいにばんばんこっちにぶつかってきて。音からも言葉からも未整理な感情がほとばしっているというか、フォークとかジャズとかフリー・ミュージックとか、ジャンルに例えるのがばかばかしくなるくらいで。こういうスレスレの感じを、練習とか、一所懸命コンセプトを練るとかとは真逆の方法ですっと飛び越えてる感じがある。
 「うーん。でもスッパバンドは個人的には、何もヴィジョンがないんですよ(笑)。本当にやりたいことってはスッパバンドでは全然やってない。ただ、ギターも弾けない、歌も歌えない自分が、ギターを持って歌わなくちゃいけない。それで出来ることって言ったら、これぐらいしかない。集まったメンバーも、“音楽的にはこんな曲で”とか“こういう雰囲気で”みたいなことを誰も考えてない。ただ、そのおもしろさを持続する努力はみんな何らかのかたちで意識的にはしてると思うんです」
――なにか過去のお手本があるわけじゃない。
 「お手本がまったくないんです。無意識にはあるんだろうけど、具体的には、まったくない。しようがなくこうなっちゃうという音楽なんです(笑)。もう、なりゆきまかせと言いますか(笑)」
――ままならないという状況を楽しんでいる。
 「楽しいんですよ! スッパバンドじゃないとありえないものになっちゃうから、それはもう崩せないですね」
――これしかできない、という状況は普通、苦しさとかみじめさに結びつきそうなのに、逆に考えもつかない楽しさや豊かさを生んでいる。それって理想的じゃないですか? すごくダイナミックにマイナスがプラスに変わる。そのエネルギーは物を作る人はみんな欲しいと思いますよ。
 「そうですね。エネルギーはありますね(笑)。なんか、やたらインパクトがあるらしいんですよ、スッパバンドのライヴには(笑)」
――スッパバンドで僕が素晴らしいと思うのは、サウンドの自由さだけじゃなく、歌詞もなんです。CDを聴いて最初に思い出したのはRCサクセション『シングルマン』でしたね。清志郎が不遇の時代に作られたアルバムにあった、もろくて壊れやすい世界観が何十年かを超えて、いきなり目の前に出てきた感じがしました。
 「へえー。『シングルマン』は好きですよ。自分では近いかどうかはわからないですけどね。音の世界と言葉を選ぶ世界は全然違いますからね」
――言葉のスクラップというか、固有名詞も思いつきも全部詰め込んでいって雪だるま式に転がってゆくおもしろさがあって。
 「でも、そこはスッパマイクロパンチョップというネーミングと同じ感覚なんです。リズムありきなんで、リズミックな日本語で結構見落とされてるものをかき集めてる感じなんですよね」
――だとしても、スッパさんの歌詞には不意に僕らの情けないけど胸を張りたい気持ちをとらえる言葉が多すぎるというか。「だめだめだ」と嘆いてるかと思ったら、「行動が愛」だと真摯に訴えてきたり。その支離滅裂ぶりって、実はぼくらが普段意識もしないで考えている日々のあれやこれやを劇的に展開したものなんじゃないのかなと思えるんです。
 「それは、してやったりですね(笑)」
――「ラブミー0点だー」にしても「おーべいびー」にしても「キアヌリーブス」にしても、基本的にはネガティヴなことを歌っているはずなのに、すごくグッとくるんですよ。
 「〈ラブミー0点だー〉はですね、僕が武蔵小金井のアートランドというライヴハウスで長くやっていた企画のイベントがありまして。〈ミーとユーの考える面白音楽転がし祭り〉という名前だったんですけど(笑)。そのイベントには毎回テーマがあって、たとえば僕が歌わなそうな人に歌わせるというイベントで歌ったように、得意としない人に指名して即興で5分間なにかをやらせるというものなんです。ひとり5分で40組くらい毎回出てもらいました。トクマルシューゴくんにフリースタイル・ラップやらせたりね(笑)。〈ラブミー0点だー〉はその中で、“脚立の上でラブソングを歌う”というテーマのときに自分で作ったんだと思います」
――脚立の上でラブソングを(笑)
 「ちゃんと脚立の上で歌ったんですよ(笑)。あのとき課題がないと、こういうラヴ・ソングは作んなかったですね」
――歌を歌い始めたきっかけがそうであったように、窮地に追い込まれると自然な楽しさが出てくるんでしょうね。
 「はい。これは余談なんですけど、実は僕はセツ・モード・セミナーというデッサンの専門学校で、裸体モデルをもう20年くらいやってるんです。360°全部から生徒さんに見られるので、どこから見ても描く気が起こるようなポーズというのを毎回開発するんです(笑)。決まったポーズがあるわけじゃないんで、そこは即興で、ライヴみたいなもんです。初めてモデルをやると決めたのも“一番怖いのは、外国に行くか、ヌードモデルになるか、その2つだ”と思っていたので、肝試し感覚でモデルを始めたんですよ(笑)」
――一番したくないことをする。スッパバンドの音楽におけるマイナスとプラスの転換にも通じますね。とにかく本当に胸がざわつく素晴らしいアルバムなので、もっとみんなに聴いてほしいと思いますね。今の東京の若くておもしろいバンドがたくさん出て来てる状況のなかで、スッパバンドが発見されるという事件は、すごく興味深いと思います。
 「ちゃんとおもしろいものが認められる状況にはなってきつつあるようには僕も感じますね」
――遠巻きに見てた人たちも一歩一歩近付いてきて、何が起きてるのかを覗こうとしてるような状況はありますよ。僕にとっては、スッパバンドの存在はそうやって見えてきたものでもありました。
 「最近話題になってる人たちとは結構一緒にずっとやってきてる感じがあるから、僕の周りで見えるものはまだ変わってないんですけど(笑)。あ、でも、最近の若いバンドからは、“僕もアルバムを作ってみよう”と思うような影響は受けたかもしれないですね。僕がうっかりしてるあいだにみんな、2枚目とか3枚目とかのアルバムをもう出してるじゃないですか(笑)。“これは僕も出さなきゃ!”とようやく思った。いや、ほんと、うっかりでした(笑)」
取材・文 / 松永良平(2012年12月)
スッパバンド
『KONTAKTE』レコ発


2013年2月9日(土) 東京 渋谷 O-nest
〒150-0044 渋谷区円山町2-3 6F
03-3462-4420


[出演]
スッパバンド ほか


[ご予約]
kiti info.kiti@gmail.com
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