6月17日発売のCDジャーナル2025夏号に掲載された連載『柚木麻子と朝井リョウとでか美ちゃんの流れる雲に飛び乗ってハロプロを見てみたい』はゲストにモーニング娘。'25の野中美希さんをお呼びしたスッペシャル回でした。今回は本編に入り切らなかった野中さんの取材後の「アフタートーク」の模様を特別公開です。

隣の芝生が眩しいぜShining

サングラスは黒ペーパーをはった手作りでした(作:でか美ちゃん)

3人に手紙を書いてきてくれた野中さん

野中さんにいただいたチョコ(でか美ちゃん撮影)

野中さんをお見送りしてリラックスする3人
でか美「ということで野中さんが来てくださったわけですが……」
朝井「野中さんにいただいたチョコ食べよ。脳の糖分がゼロ」
柚木「(もぐもぐ)あ〜、うめえ」
でか美「よくもらったチョコそんなすぐ食べれますよね。信じらんない。もっと大切に食べてほしい。ヲタクってそれぞれのスタイルがあるんで否定とかじゃないんですけど、柚木さん朝井さんと私は明確に何か違うものがある。私はこんな無造作に食べれないから」
柚木「大切だよ。めっちゃ感謝してるし。ただ味が気になってしょうがなかったの」
朝井「(もぐもぐ)めっちゃうまい」
でか美「写真とか撮った?」
柚木「写真はでか美ちゃんが撮ったのがあるから」
朝井「やってくれるもんねー、でか美さんが」
柚木「こうしてマジで怒ってくれるでか美ちゃんが大好きなんだよ、私」
でか美「“もったいなくて食べれないよ〜”がないの、結構マジで信じらんない」
朝井「お腹すいたもんね」
柚木「(もぐもぐ)野中さんをもっと知りたくなったよね」
でか美「2本目いってるやん」
朝井「(もぐもぐ)本当においしい。あらためて、これわざわざ買ってきてくれたんだよ」
柚木「私のまわりの誰よりも忙しいじゃん、どう考えたって。絶対」
でか美「食べ終わったあとのゴミをアップフロントのテーブルに置くな!」
柚木「でか美、怒りんぼー」
でか美「怒りんぼじゃなくて!」
柚木「アングリー&ハングリーだ」
朝井「ハングリー&アングリーだよ」
柚木「でも私、野中さんの半分も頑張ってない」
朝井「いや、頑張ってはいるよめちゃくちゃ!」
でか美「ハロー!の方と比べて “自分なんて”っていうのは、ハロプロの受け取り方として気持ちはわかるけどネガティブになりすぎですよ! みんなそれぞれ頑張ってるに決まってるから」
柚木「ヴェールに包まれてるじゃん、ハロプロの頑張りって。でもああして具体的に聞くとさ。だってうちら、仙台公演で疲れたあとで書店に寄れる?」
でか美「だし、新幹線なんて寝る場所ですよね」
朝井「勉強なんかできない!」
柚木「できないし、仕事なんか絶対しない」
朝井「本当、独学全振りの通信制を卒業されたという事実にもっと騒ぎたい」
柚木「ハロプロのみんなって頑張ってて当たり前みたいな風潮があるからさ」
朝井「頑張る、のベースが高いよね、そもそも」
柚木「見えないところがいっぱいあるけど、生身のひとりの女性として見たときに、時間の使い方とかすごいし、マジの頑張りだったし、〈人生Blues〉が好きっていうのもいい話だった」
でか美「そういうところにちょっと本音が垣間見えるじゃないけど、やっぱこっちはどんどん読み取ろうとするじゃないですか。私はハロプロの必要以上に努力を見せない美学が好きだし、すばらしいなと思ってるけど、ハロー!プロジェクトという団体のブランディングとしてもしやってるのなら、人によってはしんどいこともあるんじゃないかな、出したい人は出したほうがいいんじゃないかな、って思ってたから、野中さんが自分の美学でやってるって知れたのはうれしかったです」
朝井「その美学は、たとえば小田さんからは言葉として明確に伝わってきていたけど、野中さんもそうだってことが今日わかったね」
柚木「野中さんが私の小説を読んでたときに、小田さんに “その人ハロプロ好きだよ”って教えられたっていうのも、私がこれまで生きてきたなかでいちばん美しい光景ですよ」
でか美「光景って……見てないでしょ(笑)」
柚木「出産を上回ってます、確実に」
朝井「野中さん、ディレクションって言う時のRの発音が本当にきれいでしたよね。あとすごくベタなこと言いますけど、メディアを通して見たときの100倍華奢でびっくりした。え、こんなにちっちゃい体であの活動量なの? って」
でか美「わかる! グループにいるとどうこうとかじゃなくて、全員きれいでスタイルいいから。本当にかわいいですよね」
柚木「それであのフル稼働をしていることにビビった」
朝井「ガツガツ体力100点の生き物として認識してしまうじゃん、ハロプロにいる時点で。でも、この体を基盤としてやってたんだなって……」
でか美「あと、2時間ずっとかわいさに見慣れなかったです」
朝井「ずっと姿勢が良くて、本当にずっと気を抜いていなくて……あの、柚木さん、途中あなたかなり気を抜きましたよね?」
でか美「ずっと姿勢悪かったです」
柚木「素敵だから覗き込んで見ちゃうんだよ」
朝井「ぜったいに首が前に出ない野中さんの隣で……」
でか美「麻子が首を前に出すから、その隣にいた私の首がさらに前に出るっていう」
朝井「(笑)そういう構造だったんだ」
柚木「ごめんごめん。でも野中さん見てたいじゃん。喋ってる横顔とか、仕草とか」
朝井「お話しながら全員と視線を合わせてくれていましたよね。手紙まで書いてくれて!」
でか美「なんて丁寧な人なんだろう」
朝井「連載のひとつの到達点を感じましたよ。あと、いちいちこっちが聞かなくても、何を聞かれるかを察知して話してくださる頭のよさね」
でか美「入口からどんどん広がって、ちゃんとエピソードを出してくださる」
柚木「つんく♂さんに会ったときよりも内部のことがわかったよね。つんく♂さんは“へぇ、そうなん?”みたいな感じだったじゃん。あれもいろいろ考えた上で、見せないように見せないように、守る気持ちでやってたんだろうね。野中さんはヲタクの愚かさもわかった上で、見せられる部分を選んでちゃんと見せてくれてた」
朝井「論理的にお話ししてくださいました」
柚木「こんな人格者いるんだって」
朝井「小説って、書いたものが本になって自分のアバターみたいに働いてくれるじゃん。でもライヴってその場の2、3時間のために100練習して100出す営みだから、本当にとんでもない。そういう仕事をずっと続けている人の覇気を感じましたよ」
でか美「毎公演いいからすごいっすよね」
朝井「毎公演ぎゅうぎゅう詰めじゃん、ハロのライヴって」
でか美「企画コーナーがあるとかでもなく、曲をなるべく聴かせようっていう。段取りよすぎますもんね」
朝井「551のシュウマイを思い出すんだよ、ハロプロのライヴを見るといつも」
でか美「ぎゅうぎゅうに詰まってる。すべてがある」
柚木「ぎゅうぎゅうだから好きなんだね」
朝井「でも本人はぎゅうぎゅう感も見せないっていう。今日も苦労話を自分からはしないで、さらっと存在してるかのような感じを醸し出されてて」
柚木「それも美学なのかもね」
でか美「内側にいる人たちがみんなサラッとしてるのに、高橋(愛)さんとか矢口(真里)さんとか、卒業された人たちが“モーニングはすごいんです”って言うじゃないですか。たぶん出てわかるものもあるんだろうなって、現役の人の話を聞くとすごい思います。 “え、うちらこんなに歌って踊ってたん?”みたいな(笑)」
朝井「本当そう。今貴重だよ、あんなごまかさない人たち」
柚木「(チョコの包装を開ける音)」
でか美「3本目いくの? もっと大事に食べろだし」
朝井「とんでもなくおいしかったんだ」
でか美「 “好きな人が 優しかった”(〈ザ☆ピ〜ス!〉)って、ハロプロ関係の方にお会いするたびに思うんですけど、今日も思いましたね」
朝井「本当だ。あの曲の汎用性本当にすごいな。あと、受け手側が誤解したら“私が出した情報が間違ってたんだなと思う”って、すごい話じゃなかった?“それってあなたの読解力の問題ですよね”みたいにならないんだ……」
でか美「“なんでこっちがおめーらに合わせてやんねえといけねえんだ”ってブチギレをかまし続けてました」
朝井「“私の情報の出し方がちょっと違ったんだ”と……頬を叩かれた思いがしました」
でか美「あの博愛の精神と、優しいだけではなく強さがあるっていうのも、なんか……はい。ドブみたいな人間のことも励ましてくれるから」
朝井「光り輝いていたね。びっくりした」
でか美「記事には入れてませんけど、じつは別れぎわに“つばきっぽい曲”とおっしゃってた自作曲を聴かせてくださったんですよ。マジで採用されるかもって思うクオリティの高さで、作曲家・野中美希の今後もめちゃくちゃ楽しみになりました」
朝井「マジで作曲家としての採用、期待しちゃう」
柚木「20年後とかさ、なんかブカブカの服着てさ」
朝井「クリエイターの服装! 可能性あるよ。やっぱお会いすると情報量が1億倍違うね」
柚木「そうだね」
でか美「だから“現場に行こうや!”っていう話をずっっっっっっっっっっっっとしてるんですよ、私は!」
朝井「アッ」
柚木「ごにょごにょ」
でか美「さっき言ってた体格とか姿勢も、一瞬でいいから間近で感じてほしいんですよ。 “接触厨だね”とか言われがちですけど、一緒にチェキを撮ることで“こんなにちっちゃいんだ”とか“こんなに声がかわいいんだ”とか、そこで初めて知る情報がいっぱいある。そういうのも込みでアイドルなんですから」
朝井「たしかに、背筋がずっと伸びてるのとかも今日初めてわかった……」
でか美「11時半とかからチェキ会が始まって19時のお話会まで“なんでこんなずっと元気なんだろう?”とか、現場に行かないとわかんないことはあるんです」
朝井「本当、体力勝負のお仕事だ」
柚木「プラス、ジムにも通われてますよね」
でか美「しかも心配になっちゃう細さとは違って、ちゃんとヘルシーで。ジムの映像を上げられたりしてて、今日は音楽の話を優先しましたけど、本当はそこももうちょっと聞きたかった」
朝井「どう聞いたら本人にとって不快感がないか、って考えてると次の話題にいっちゃうスピード感でしたね、今日は」
でか美「“無理なダイエットじゃなくて、ボディメイクだよ”って意図的に発信されてるのかな、とも思ったんで。こういうことを人に背負わせるのは無責任ですけど、野中さんってめちゃくちゃ新時代のリーダー像っぽいですよね」
柚木「リーダーって言っていいのかな、って思っちゃってた」
でか美「グループ内人事とは別の一般論として、リーダーというか人を引っ張る力のある人っていうのは、ただリーダーシップがあるだけじゃないんだなって思いました」
柚木「いい時代、来そうですよね」
朝井「知的な方だとは思っていたけど、2時間お話しする機会をいただいて、すごく柔軟な知性の持ち主だって本当によくわかりましたね」
でか美「やっぱ“時代進めんのはいつも娘たち”(〈最KIYOU〉)なんですよ」

アンジュルムの「アンドロイドは夢を見るか?」にちなんで
柚木ロイド、朝井ロイド、でか美ロイドに扮する3人

ロイド感をだすためにアルミホイルを持参する朝井

鏡を見てロイド感をチェック
取材・文/高岡洋詞
撮影/片野智浩