アーバンで洗練されたグルーヴを鳴らす注目の6人組バンド BESPER

BESPER   2025/06/19掲載
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 BESPERは2020年に千葉で結成された6人組バンド。洗練されたグルーヴィなサウンドとハイトーンのやわらかなヴォーカルによる、シティ・ポップ〜AOR的な楽曲が魅力のバンドだ。彼らは2023年にメンバー・チェンジをしており、今回のアルバム『REBUILD』は過去の楽曲を現体制の6人で新たに録り直している。敏腕揃いのメンバーによってライヴ感あふれるダイナミックなバンド・サウンドで統一され、彼らの新たな姿を示してみせた力作といえるだろう。個性派揃いのヴィジュアルも魅力的な6人に、結成から現在までについて語ってもらった。
New Album
BESPER
『REBUILD』

(roughroll records・RRR-001)
――BESPERの結成は2020年で、ARARIKU(g)さんとSEREN(b)さんが高校生の時に始めたそうですね。
ARARIKU「僕は高校が流山で、住んでいるところは我孫子なんです。高校2年生の時、文化祭でバンドをやりたいということで、ベースのSERENと初めて知り合いました。お互いSuchmosが好きだったので意気投合して。高校卒業してからは2人でドライブしに東京に行って、そこで音楽を流しながら、いいな東京は、みたいな感じで」
SEREN「車が音楽を聴くいいツールでした。お互いの最近聴いている曲をかけあって。夜な夜な遊びに行っていました」
ARARIKU「そんな関係が続きつつ、音楽やりたいよね、バンド組みたいよねって、ずっと話していたんです。僕が大学2年生の時に、じゃあ1回組んでみるかということで。お互い2人ずつ誘って。僕が同じ大学の子を誘って、彼はSHINJIROを誘って」
SHINJIRO「俺が1年生の時で、SERENが3年生の時。バンドをやるんだけど、ちょっとヴォーカルやらない?って言われて。軽音部でもヴォーカルをやっていたので、それでたぶん俺の歌を聴いてくれてて、誘われたって感じです」
――それで初期の6人が揃った。みんなSuchmosが好きだったんですか。
ARARIKU「そういうわけではなかったですね。全然音楽畑が違う人もいたし、とりあえずやってみたいっていうのが最初にあって。楽器と編成を決めて、僕とSERENがギターとベースだから、あとサックス、キーボード、ドラム、ヴォーカルを呼んで、とりあえず合わせてやってみたいっていう雰囲気でやり始めたので、これからプロになってやるぞという意気込みでは始めていなかったんです。ただ、都会的な音楽をやってみたいというイメージはありました」
――最初からサックス専任のメンバーを入れていますよね。サックス専任がいると縛りも出てきてしまうと思うんですが、これはどうしてですか。
ARARIKU「バンドでなにかひとつ武器を入れたくて。ほかと同じような音楽をやってもしょうがないと思って。僕が聴いていた山下達郎さんやOriginal Loveなど、昔のAORって、サックスがかならず入ってて、あの雰囲気をやっぱやりたかったんです。サポートじゃなくて、メンバーでちゃんとやりたい。そうしたら武器にもなるし、俺らの色ができると思って」
BESPER
BESPER
――もともと千葉出身のメンバーで、すごく都会的で洗練されたシティ・ポップをやっているというのがおもしろいと思うんです。千葉の我孫子っていうと、東京から微妙な距離感があるじゃないですか。都会ではないけど田舎でもないわけで。都会に対して憧れや幻想もあると思うんですけど、それが自分たちの音楽に出ていると思いますか。
ARARIKU「出ていますね。都会に憧れる、というのを出している曲も間違いなくあります。我孫子から電車で東京まで1時間ぐらいかかるんですけど、北千住あたりでばーっとビルが見えてくるんです。毎回わくわくする。SERENとドライブ行っても、首都高を走ってると、小菅ジャンクションのへんで東京がぶわーって広がっていく感覚。その経験は歌詞にも書いています。〈Sweet Night〉って曲とか。“期待通りにならない この都市巻き込んでいこう”って、都会に行ったら、いろんなドラマチックなことが起きるんじゃないかなと思いつつ、そんなことは起こらない、期待通りにはならない。でも、なんかその雰囲気がいいよねっていう。あんなにキラキラして見えていたけど、実際行ってみると孤独を感じるような都会のせつなさは憧れがあったからこそ書けるというか、ずっと都内に住んでいたらわからないと思うんです。そういうところは歌詞にはしっかり出して、伝えているかなと思いますね」
SEREN「彼が書く歌詞にすごい共感できる部分はあります。〈Sweet Night〉も、ラストのサビの“始発の窓越しに 甘い景色流れてく”っていう、始発で地元に帰るっていう時に見える車窓の情景が都会に住んでいたら絶対にわからない。田舎に帰っていく人にしかわからない景色。そういう部分はすごく共感できます」
――たとえばSuchmosも横浜出身ですよね。横浜自体は都会ではあるけど、東京からは離れていて、同じように微妙な距離感があるじゃないですか。そのへんで通じているものがあるようにも思います。
ARARIKU「Suchmosは横浜とか茅ヶ崎とかシーサイドですよね。シティ・ポップはやっぱリゾートでもあるので、ああいう雰囲気が必要で。僕の住んでいるところの近くに手賀沼があって、そこはシーサイドではないですけど、レイクサイドなんです。すごくいい景色なんです。遊歩道が整備されてて、僕はロードバイクでいつも走りに行ってて、気持ちいい風を浴びながら。ほぼ湖という感じの大きいところで。よくそこで歌詞を考えたり、曲をどういうふうにしようかなと考えたりしていたんです。レイクサイドのエッセンスがあったから、僕はリゾートみたいな、シティ・ポップの曲もイメージが湧いてきたのかなというのはあります。そこがあったからこそ、そういう要素もこのBESPERの楽曲たちに織り交ぜられたんです」
――ソングライティングはARARIKUさんですよね。曲のアイディアを持っていってみんなで膨らましていくそうですけど、そんな感じで作っていくんですか。
ARARIKU「基本的にはコード、メロディ、歌詞を作ってきて、展開やメイン・リフ、器を持ってきて。それでみんなに、そこにいろんな料理を添えてもらう、それぞれのアレンジをというような方向で作っています。デモテープで完全に完成させないように作っていて、メンバーのエッセンスがあるからおもしろい音楽になっていくんです。自分で全部決めちゃうと、BESPERの音にならない。みんなの味付けがあって、シティ・ポップだけじゃない、みんなが影響されてきた音楽があるから、新しい音楽に昇華できると思っています」
――2021年までEP2枚などを出して活動していたのが、2023年にメンバー・チェンジしています。
ARARIKU「それぞれいろんな理由があったのですが、サックス、キーボード、ドラムの3人が脱退しました。それでバンドを1回作り直そう、再構築しようと思いました」
――サックスのHINATAさんは、ソロだったりメロディを吹いたり、あるいはリズム楽器的にリフになったり、いろいろ工夫されていますね。入った時はどう思いましたか。
HINATA「入った時はサックスが入っている音楽をまったく聴いていなくて。でも、このバンド入ってから自分でいろいろ聴くようにしたり、SHINJIROさんからサックスがンバーにいるバンドを教えてもらったので、どういうサックスの入れ方をしてるのか勉強して。その人たちが、サックスにエフェクターをかまして、別の音色にするっていう方法をやってたので、それを取り入れることで、サックス以外の音色で取り込める要素が増えたんです。そのサックスがサポート側に回らないで、メインになる方法だなって」
ARARIKU「それは彼が入ってきてからやった新たな試みです。自分の頭の中には、メイン・リフはサックスと思っていて。それに、彼が入ってから幅が広がりました」
――HATさんとHINATAさんは、入ってみてどうでしたか。
HAT「もともと知り合いで、よくBESPERのことを見ていたんです。すごくかっこいいバンドやってるなと思って。まさか声かけてくれるなんて思ってなかったから不思議な気持ちでした」
――HATさんは髪型も服装もすごく独特で、ヴィジュアルも重要なんじゃないですか。
SEREN「そこも加味しました(笑)。鍵盤ができて、服にもすごい造詣が深いっていいじゃないですか。そこも重要でした」
TAPPEI「僕はSERENと専門学校が一緒で、ジャズの授業で仲良くなって。“ドラムやめるから、うちのバンドで叩いてくれ”って。それで合わせてセッションした時にビビッときました」
BESPER
――今回の『REBUILD』は、2020〜2021年に出した過去の曲を新たに録り直していますよね。それは今のメンバーでやり直したかったということなんですか。
ARARIKU「旧音源ははっきり言って出来が悪すぎるんです。僕たち、技術も知識もお金もなしにやっていたので。家で録って、自分たちでミックスやって、マスタリングやって。でもだんだん経験を重ねていくうちに、昔の音源を今聴くと気持ち悪くなって」
SEREN「戦っているステージがだんだん上がっていって、周りも強いバンドばっかりで、今までの音源じゃ戦えないなと」
ARARIKU「新メンバーも入ってきて、演奏も良くなってきて、知識や技術も身について。スタジオで録るとか、ミックス・エンジニアもちゃんとしたプロに任せられるという状況も整ったので、念願というか、やっと録り直せるということなんです」
SEREN「ずっと言っていたもんね、その構想は」
――じゃあ理想とするメンバーが揃った、という感じではあったんですか。
ARARIKU「まさにその通りです。僕もそのアレンジし直していく段階で、(元の曲を作った)5年前のことを思い浮かべたんですけど、あの時こういうことやりたかったんだという発見があったんです。たとえばコンガを入れたり、ブラス隊が入ってゴージャスなサウンドになったり。これやりたかったんだよというようなことがどんどん具現化されてるんです。結果として、このアルバムに関してすごく満足してるんですけども、やりたかったことをちゃんとできたというのがいちばん強いです」
――たとえば1曲目の「Sunset Lover」は、ホーン・セクションをフィーチャーしたソウルフルな曲ですけど、ツイン・ヴォーカルっていうおもしろい試みをやっていますね。
ARARIKU「あの曲はAメロからBメロに行く時に転調するんですけど、Aのメロディが低すぎるので、じゃあそこは俺が歌おうかという感じで、偶然だったんです」
SHINJIRO「僕の声が低いと、曲の出だしにパンチがなかったんですよ。僕はハイトーンのほうが抜ける感じなんで。じゃあせっかくだからツイン・ヴォーカルでやるかとなりました」
――ARARIKUさんの声はしゃがれていて太くてブルージーで、SHINJIROさんとは全然タイプが違って、いい声ですよね。
ARARIKU「メリハリがつくと思うんですね。ここで初めてツイン・ヴォーカルをやったので、その次に〈満たされた日〉(『Orbit』収録)でもやって。完全に狙って、ツイン・ヴォーカルの曲を書くようになりましたね。ここは自分のメロディみたいな感じで、それもいい強みになるかなと思ったし」
――SHINJIROさんのヴォーカルって、基本ハイトーンのやわらかな歌声なんですけど、でも「Feel」や「寒空」だと、腹の底から声を出している感じですごくハードに歌うじゃないですか。シティ・ポップのヴォーカルというところでは、やわらかくソフトな歌い方に徹したほうがハマると思うんですけど、でもそうじゃないですよね。曲ごとに変わるのはどうしてですか。
SHINJIRO「デモというか基盤をARARIKUが作ってきて、彼の中でしっかりとした構想があるんですよ。この曲はこういうふうに歌ってほしいというのが曲によっていろいろあって、それを汲み取ってるというところが大きいです」
――自分でこう歌いたいというのはあったりするんですか。
SHINJIRO「彼の世界観はほんとにすごいので、バンドとしても俺も与えられた役割をしっかり果たそうと思って歌ってるので、別にそこで自分の自我を出して、構想とは違う結果になってしまうのは俺の本意じゃない。そこは彼の世界観をちゃんと具現化したいなという思いがいちばん強いです」
――アルバム全体でいっても、ミディアム〜ってスローのAORっぽい曲がある一方で、「寒空」みたいなロック的なアプローチの曲も目立っていて、幅広さがありますよね。
ARARIKU「僕は90'sのJ-POPがめちゃくちゃ好きなんですよ。たとえばSMAPとかOriginal Loveとか、ああいうおしゃれなサウンドの落とし込み方、ポップスにする落とし込み方というのをやりたいなって思っているので。それで〈寒空〉はああいうハイテンポで、ビートが強くて、疾走感があるのかもしれないです」
TAPPEI「〈寒空〉は確かに、ロックな音になりましたよね。僕は元ロック畑だったので、出ちゃっているのかもしれないです」
ARARIKU「僕もBUMP OF CHICKENが大好きなんで、〈寒空〉に入っているギターのアルペジオはそういうエッセンスですね。ロックで使われる要素っていうのがうまく組み込まれてて、あの曲の雰囲気になっているんで、ロックに通じるものがあったりするのかなとも思うし」
SEREN「各々の影響がぶつかり合うんですけど、僕らの曲って、SHINJIROが歌うと、何をやってても結局まとまるんです。SHINJIROが歌えばBESPERになる。そのくらいのポップネス・シンガーだと思っています。だからこそ、僕らも自由な発想でできる。昔、メンバーと話していた時に、ここはこういう曲やっちゃうと逸脱しすぎちゃうんじゃないか、でもSHINJIROが歌えばBESPERになるから良くね?っていうのを当時から言っていたんですけど、今は勝手にそういうふうになっている」
――2023年以降に出した曲も、たとえば「Twilight Dive」はこれまででもっとも速い高速ビートの曲で、これもロック的な破壊力を感じたりしますし、「Low Battery」ではストリングスのような音を入れて音響っぽいことをやっていたり、シティ・ポップの範疇ではない斬新な試みをやっていますよね。
ARARIKU「ジャンルの枠でというよりは、70年代ニュー・ソウルがあって、そこからAORが出てきて、ディスコができて、90年代のニュージャック・スウィングができて、アシッド・ジャズができて、その系譜で大きくくくればみんな都会的な音楽ではあるんですよね。その中でじりじり進化しているので、僕らもやっぱその進化の中に入りたいと。脈々と受け継がれてきたこの鎖の一つになりたい。なので、AORじゃないジャンルじゃんというのはあまり関係なくて、僕らが今提示する都会的な音楽はこれだ、というような捉え方で作っているということです」
SEREN「その時その時にやりたいものをアウトプットしている、我々のやりたい表現をやっている、というところに帰結すると思っています。各々の蓄積の集合体がBESPERだと思っています」
――今はシティ・ポップの時代なので、BESPERのような音楽が受け入れられやすいと思うんですけど、その反面、凡庸だと淘汰されるとも思うんです。そういう中で、自分たちはこれだっていうものってありますか。
ARARIKU「世界観が構築されているっていうところは自信がありますね。ロマンチックな世界とか、リゾートの世界や都会の世界、そういうドラマチックな世界観の作り方っていうのは、確固たる自信があります。一つひとつの曲自体にこういう世界観を持たせる。それをちゃんとキャラクターとして作り上げる。1曲をこういう世界で歌ってるんだと。その作り方っていうのは、我々の世代だったら、我々にしかできないと思います」
BESPER

取材・文/小山 守
撮影/ともまつりか
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