“逡巡・諦念・ちょっとだけ希望”を掲げたオルタナティブな楽曲を武器に、2021年より都内を中心に活動するバンドのCLW(シーエルダブリュー)が、6月25日(水)に東京・新代田FEVERで開催されるライヴ・イベント〈The Night Unthreads 〜360°floor live〜〉に出演。
今回はバンドの顔となるono(vo、g)とメイン・コンポーザーのKentackey(key)を迎え、結成から現在までの歩みを振り返ってもらいつつ、同イベントに向けての想いも含め、たっぷりと話を聞いた。
――まずは、バンドの成り立ちからお伺いします。結成は2021年の夏頃だそうですね。
Kentackey「当時はまだCLWではなく、Signalessという名義で、ヴォーカルも別の女性でした。とりあえず動き出したんですけど、その方がわりとすぐに脱退してしまい、onoが入ってくれたのが2022年の夏になります」
ono「そこから現体制になって、活動が本格的にスタートしました」
――どういう繋がりで集まったメンバーなんですか?
Kentackey「僕が発起人なんですけど、ギターのsakumaくんは大学のときにもバンドを組んだことがある友達です。他のパートはまったく当てがなかったからネットで募集して、ベースのAkashiとドラムのtuti.jpと知り合った感じです。onoもTwitter(現X)のDMでスカウトしました」
ono「私がやっていたバンドのことを知ってたんだっけ?」
Kentackey「たまたまYouTubeで聴いたことがあったんだよね。新たなヴォーカルを探す中でふと思い出したんですけど、誘った理由としては、彼女の声がすごく自分の作る曲にマッチしそうだなと感じたのが大きいです」
ono「ちょうど活動休止状態だったときに、めっちゃ硬い内容の長文が送られてきて(笑)」
――3年ほど前の話ですが、やりとりは覚えてます?
Kentackey「“こういうバンドをやっていまして、ヴォーカルがいなくなりまして、良ければ曲を聴いてみていただけないでしょうか?”みたいな文面を送ったはず。しばらく何もリアクションがなかったけど、諦めかけてた1週間後くらいに返事が来たのかな」
ono「熟考してたんです(笑)。音源を送ってもらったので、ちゃんと自分に合うのかどうか。聴いたのはもちろん、実際に歌ってみたりもしながら」
――結果、onoさんとしても感触がよかったと。
ono「すごく好きな感じの曲で、歌詞やサウンドのセンスがいいなって思いました。私けっこう人見知りだから不安だったんですけど、スタジオで初めて会ったとき、メンバーが話しやすい雰囲気なのもありがたかったです」
――その後もSignalessとして活動を続け、2024年4月にバンド名がCLWに変わったんですよね?
Kentackey「そうです。きっかけとしては、onoの提案から」
ono「じつは加入したときから変えたくて……というのも、演奏している楽曲との親和性があまりない感じがしたんです。ちょっと捻くれた歌詞やサウンドが自分たちの持ち味なのに、まっすぐなイメージを抱かせそうな名前のSignalessは、なんか違うなと思うようになった。でも、最初のうちはそんなこと言えるわけもなく、徐々に打ち明けていった形ですね」
――だんだんと言える間柄になって。
ono「そうかもしれない。信頼が深まったからこその改名です」
Kentackey「いざ決めるとなったら大変でしたね。メンバーみんなで計150個くらい案を持ち寄ったものの、結局なかなか決まらず(笑)」
ono「喫茶店であれこれ話し合った末、バンド名の候補を書き出した紙の端にシャーローワンズという言葉があったのを私が見つけて、なんとなく響きがいいなと思ったんですよ」
Kentackey「たぶん僕が出した案のひとつで、揚げた肉団子のことです。その中国語を字面の良さ重視で無理やり後付けのアルファベット表記にしたのがChar Low Wandsなんですけど、“Char(シャー)”“Low(ロー)”“Wands(ワンズ)”の頭文字を取ってCLWにしました」
ono「そのまま付けちゃうと、揚げた肉団子すぎるからね(笑)。特に意味がないのもいいなと思ったし、グッズとかもかわいくなりそうな文字列だったので」
Kentackey「そろそろ決めたくて仕方なかった頃に、馴染むのがパッと出た気がします」
――Kentackeyさんが“自分の曲をレコーディングして聴いてみたい”という理由から始めたバンドとのことですけど、やりたい音楽のコンセプトは具体的にありましたか?
Kentackey「J-POPがやりたかったんです。1990年代後半から2000年代前半にかけてのJ-POPが個人的に好きで、メインストリームというよりもちょっとフックがある、オルタナティブ・ポップみたいな方向性ですかね。コード進行は定番を使わないようにしたりとか。最初にリリースした曲が〈midtown baby〉なんですけど、他のものと一緒くたにされない、埋もれないポップスを目指しています」
――それを女性ヴォーカルで表現してみたかった?
Kentackey「僕が女性ヴォーカルしか聴かないから、自然とそうなってましたね(笑)。宇多田ヒカルさんやaikoさんが原初にあって、椎名林檎さん、チャットモンチーなども好きです」
ono「その年代の楽曲は私も好みなので、コンセプトにすごく共感できました。聴いてきたのは、椎名林檎さん、ASIAN KUNG-FU GENERATION、フジファブリック、ストレイテナーとか」
――自分たちよりもちょっと上の世代が聴いているようなミュージシャンが好きなんですね。
Kentackey「親が聴いていた音楽をかなり吸収してますね、僕の場合」
ono「あまり直接的な描写じゃなく、いろんなふうに受け取れる詩的な歌詞が好きだからか、そういう方々に惹かれるのかもしれません」
――ちなみに、今日いらっしゃっていないsakumaさん、Akashiさん、tuti.jpさんの好みというのは?
ono「だいぶ違うよね、私たちとは」
Kentackey「うん。sakumaくんはthe band apartとかパスピエとか、Akashiはメタルやアニソンも好きだし、ツッチーはCAPSULEとかクラムボンとかが好き。みんなバラバラです」
――さっきバンド名の由来に触れましたけど、「midtown baby」のメロディはほんのりとチャイナ感がありますよね。「低空飛行」にも“爱你(アイニー)”という歌詞が入っていたり。
ono「確かにそうですね。私たちのグッズ(https://store.bitfan.id/signaless)も中国っぽさが表れがち」
Kentackey「アジアの音楽も好きなんです、僕。台湾のZANIっていうバンドとか。その影響が出てるのかも」
――曲作りをどんなふうに進めているのか聞かせてください。
Kentackey「自分とonoとAkashiそれぞれで作っているんですけど、スタイルは全員やっぱり違いますね。僕はアレンジまでデモを細かく仕上げてくるタイプで」
ono「私は歌だけを録音して、Kentackeyにぶん投げちゃいます」
Kentackey「ア・カペラが送られてくるんです。弾き語りとかではなく」
ono「でも、歌詞もちゃんと付けた状態で渡してます。あとはご自由にどうぞ、みたいな感じで(笑)。何も言わずに投げたらどんなふうになるんだろうという好奇心と信頼です。Akashiが作ってくれたオケに私がメロディを付けるパターンもありますね」
――作りたい曲のテーマをメンバー間で話し合ったりは?
Kentackey「ほとんどしないですね。基本的にメインで作った人が責任を持って形にしながら、各パートの解釈でアプローチしていく感じです」
ono「自ずとCLWっぽい曲が出来上がるので、その解釈は一致している気がします」
Kentackey「Akashiはたまにリファレンスを伝えてくれますね。僕とonoはそういうのが明確にはなかったりするけど」
――現体制になって3年弱。CLWとして鳴らしたい音楽性は掴めてきましたか?
ono「2023年にリリースしたEP『思想』以降、一段といい感じになった印象があります。〈邂逅〉のようなポップスすぎない曲調も、私たちは似合うんだなって」
Kentackey「もともとなんでもやりたい性格のバンドで、作ってみたら意外とハマった曲はあるよね。サウンドの幅が広がっていて楽しいです」
ono「曲のテーマとして“逡巡・諦念・ちょっとだけ希望”を掲げているんですけど、そのテイストは前よりも色濃く出せるようになってきて、CLWらしさと言っていい部分だと思いますね」
Kentackey「自分が曲を作る際にずっと大切にしているテーマで、それをメンバーと共有してきたことにより、最近はバンドの個性になりつつあるのが嬉しいです」
――ポスト・ロックやシューゲイザーを感じさせる曲も増えてきています。
Kentackey「そこはAkashiのおかげですね。メタルやアニソンが好きって言いましたけど、彼は本当にいろいろ聴いているので」
ono「全部のジャンルを網羅しているんじゃないかっていうくらい詳しいんです」
Kentackey「サウンド・アプローチは彼が率先してやってくれています。〈9608〉もシューゲイザー的な曲にしたいというAkashiのアイデアからでした」
ono「改めて振り返ると、変わってきてますね。活動初期にあたる〈三寒四温〉の頃はもっとギター・ロックだったし、〈9608〉みたいな轟音の曲ができるとは思ってなかったですから」
Kentackey「まさしくオルタナティブ・ポップだと思うんですよね。自分たちが予想もしてなかったように変わっていくこの感じが」
――「9608」の意味も気になりました。
ono「この曲の世界は薄っすらと靄がかっているイメージで、数多ある色の中でも“white smoke”というカラーが私はしっくりきたんです。“white smoke”の加法混色におけるRGBの数値はそれぞれ96.08%。そこからタイトルを取っています」
――これまでに発表した曲から、好きな曲や聴いてほしい曲を挙げていただきたいです。ono「やっぱり〈邂逅〉は好きですね。この曲を聴いたときになんか……いい意味で精神を病んだというか(笑)。ズブズブに浸れるほど気持ちが沈んで、真っ赤な髪を真っ黒に染めたくらい、とにかく心を動かされた思い出があるから。〈初夏〉も季節をじりっと感じられるサウンドでおすすめです」
Kentackey「今のCLWがよくわかるのは〈呼吸〉ですかね。弾いているのは自分なんですけど、サウンドに広がりが出るシンセの存在が強みのひとつだと思っていて。この曲はリードになるメロディをシンセで鳴らしていたり、打ち込みのドラムを使っていたり、何かとチャレンジしてみたので、すごく気に入っています」
――歌詞で意識されていることはありますか?
Kentackey「意味よりも語感重視ですね、僕が書く歌詞に関しては。歌っていて気持ちいいかどうか。日本語だけど、英語っぽく聞こえるような。1つの音符に言葉を多めに乗せたりして、口ずさみたくなる歌詞にしたいんです」
ono「歌っていて自分の癖をうまく出せる語感にするとか、私も響きは大切にしています。たとえば、ここで巻き舌が来たらカッコいいよなという箇所に“ら行”を入れたり」
――「初夏」は巻き舌を効果的に使われてますね。
ono「そうですね(笑)。実体験と妄想を織り交ぜて歌詞を書きつつ、ヴォーカリストとしていろいろやっています」
――どの曲もほぼ日本語で歌われていますが、CLWは海外からの反響もあるみたいで。
Kentackey「ありがたいことに、最近は海外のリスナーが多くて、YouTubeにコメントをいただけたりするんです。この前やったライヴにもお客さんでいたよね?」
ono「オーストリアとブラジルの方が足を運んでくださいました」
Kentackey「もちろん、観光のために日本に来たと思うんですけど、その中で自分たちのライヴも目的のひとつとして選んでくれたのは驚きでしたね」
ono「嬉しかったです。YouTubeとかサブスクで知ってもらえたのかな」
――MVをたくさん作ってますもんね。セルフ・プロデュース中心なんでしたっけ?
Kentackey「はい。半分以上は自分たちで撮影・編集をやっていて、活動歴や曲数のわりにいっぱいアップしていますね(笑)」
ono「バンドロゴとかのアートワークも含め、セルフでやることが多いです。私とKentackeyがめっちゃ好きなんですよ、DIYで作るの。曲を作るとき、映像も同時に浮かぶほうだったりして」
――7月30日には新曲「HSL」もリリースされると聞いています。
ono「ダイレクトに書いたわけじゃないんですけど、聴く人によってさまざまな捉え方ができるような、程よく官能的な歌詞になっています。この曲がまさに私がアカペラを入れて、Kentackeyにぶん投げるパターンで作りました」
Kentackey「歌い方やメロディからコード進行、アレンジを導き出した感じです」
ono「これも歌詞にある色のイメージから付けたタイトルですね。少し先ですが、ぜひリリースを楽しみにしていてもらえれば。6月25日のライヴでやるかも!」
――新代田FEVERで開催されるそのライヴ・イベント〈The Night Unthreads 〜360°floor live〜〉に向けてはどんなことが楽しみですか?
Kentackey「フロア・ライヴというシチュエーションが初めてなのと、今までに経験がない長尺でやらせていただけることですね。セットリストを考えるだけで、もうワクワクしています」
ono「5人が五角形で向き合って演奏するライヴだもんね。かなり緊張感ありそう。普段とは違う角度から観られるのが」
――CLWの他に、ライヴ・アクトとしてMarie LouiseとFOnBA、DJとしてalien.melissaさんが出演されます。
Kentackey「対バン相手の音源も聴かせてもらったんですけど、どちらも素敵なオルタナティヴ・ロック・バンドだから、いい夜になるんじゃないかな。Marie Louiseはもともと知っていて、生で堪能できるのが楽しみです」
ono「DJがいるライヴも初めて。新鮮ですね」
イベント主催者「“夜の糸をほどく”という意味の〈The Night Unthreads〉にふさわしい化学反応が起こるような、今アクティヴに活動している注目のバンドを集めたので、ぜひ足を運んでいただけたら幸いです」
――観る側にとっても出る側にとっても、なかなかできない体験が盛りだくさんですね。ono「自由度の高いライヴだし、好きなように観てほしいです。私たちのお客さんは音にどっぷり浸ってくれる方も多いので」
イベント主催者「今回、特にヴォーカルが素晴らしいバンドが揃ったんです。CLWのonoさんも自信に満ちあふれているパフォーマンスに惹かれますね」
ono「えー、本当ですか(笑)。どうなんだろう?始まる前は緊張するんですけど、ステージに上がったら意外といけますね。“やるしかない!”と腹を括れるというか。ライヴ中にオーディエンスと目を積極的に合わせることも意識しています」
Kentackey「そこも見どころかもしれないです。よろしくお願いします!」
取材・文/田山雄士
撮影/西山穂波