世界のクラブ・シーンで注目を集める中南米産音楽、クンビアとは?

2008/12/17掲載
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 ジョー・ストラマーが晩年に、こよなく愛していたクンビア。レゲエにも相通じる、もっさりとした2拍子のビートを基調とした、この中南米産のダンス・ミュージックが、クラブ・シーンを中心に、今、にわかに注目を集めつつあります。今回の特集では、世界中に存在する未知なる音楽の数々を積極的に紹介する音楽ライター、大石 始氏をナヴィゲーターに迎え、中毒性の高い魅惑のダンス・ミュージック、クンビアの魅力に迫ってみたいと思います。


 中南米一帯で聴かれている音楽にクンビアがある。その特徴は、シンプルでもっさりとした2拍子のビート。単調ではあるけれど、聴き続けるうちに妙な中毒症状が出てくる、そんなビートだ。中南米のスペイン語圏の国々ではこのクンビアが本当に大人気で、レゲトンやメレンゲ、サルサと同じようにそこいら中でかかっている。僕は昨年3ヵ月ほど南米を旅していたのだが、その時もそこいら中でイヤというほど耳にして、かなりの“耳タコ”状態になってしまったほどだった。ちなみに、僕のなかでのクンビア観を変えたのは、ボリビアのラ・パスという標高3,000メートルの街でのこと。ひどい高山病にかかっていた僕の耳には、クンビアのシンプルなビートがまるで呪文のように聴こえてきて、それまでの“陽気でダンサブルなラテン・ミュージック”というイメージが一瞬のうちに“ドラッギーでヒプノティックなトリップ・ミュージック”に変わってしまったのである。なんというか、ちょっと悪魔的で危険なところがあるのだ、クンビアには。

 クンビア発祥の地は、コロンビアのカリブ海沿岸地域。太平洋/カリブ海という2つの大海に面しているコロンビアは、その地理的要因もあってインディヘナとヨーロッパ、そしてアフリカの文化が複雑に入り交じった音楽大国として知られている。クンビアももともとは西アフリカのギニアから連れてこられた黒人奴隷が持ち込んだ“クンベ(Cumbe)”というダンスがルーツとされていて、それがインディヘナやヨーロッパの文化と混ざり合いながら、カリブ海沿岸地域特有のアフリカ系リズム(またはダンス)として定着していったようだ。

 それがコロンビア国外へと広がっていったのは、ホーンやコンガを擁するオルケスタ編成のクンビア・バンドが登場しだした50年代から。もとがシンプルなリズムだけに、クンビアはアルゼンチンやメキシコなど他の中南米エリアへと一気に浸透していったのである。なかでも60年代のペルーではチーチャというクンビアの兄弟音楽も生まれ、近年ではリイシューが進んで再評価の気運も出てきた。そうした拡散を続けながら、いつしかクンビアはこのエリア一帯における国民音楽とでも呼べる存在に。そのため、ラテン・ポップスターたちがクンビアを採り上げることも多く、近年ではシャキーラフアネスもクンビア曲を披露している。

 そんなクンビアは今、著しい再評価ブームの最中にある。その流れにはいくつかの傾向がありそうなので、少し整理しながら紹介してみよう。

 まず、マージナル(周縁的)なサウンドを追い求めるDJたちが飛びついたこと。近年は東欧のジプシー・ブラスやブラジルのバイリ・ファンキなどが彼らのターンテーブルの上に乗ってきたが(今ならアンゴラのクドゥロも)、スカにも近いクンビアのビートはDJセットに組み込みやすかったのだろう。そういえば、UKのブレイクビーツ・クリエイターであるクァンティックが来日時に行なったDJプレイはスカ〜ルーツ・レゲエ50%、クンビア40%、サルサ10%といった具合だった(彼はクンビア好きが高じて、コロンビアのカリに移住までしてしまった)。事実、ヨーロッパやブエノスアイレス(アルゼンチン)のクラブでは本当によくクンビアがかかっていたし、東京のアンダーグラウンド・クラブではそれ以上にかかる。単純に言って、クンビアの単純なノリは踊るのに最適だから、あちこちで重宝されるのである。

 また、晩年のジョー・ストラマーはクンビアに首ったけだったようで、そのことがクンビアに注目が集まるきっかけになったりもした。ジョーはLAの5人組、VERY BE CAREFULのライヴを観たことからクンビアの存在を知ったようで、結果として、それまでLAのローカル・バンドに過ぎなかったVERY BE CAREFUL自体の認知度も飛躍的に上昇することに(フジロックにもたびたび出演)。一方、ジョー同様にクンビアの広告塔となったのが、ギャズ・メイオールを兄に持つジェイソン・メイオール。彼は“クンビア・キッド”なる別名まで持ち、世界各地でレアなクンビア・チューンを惜しげもなくプレイしてきたDJである。ちなみに、ジョーとジェイソンは親友だったそうで、2人でコロンビアを旅しながら、クンビア版『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のようなロード・ムーヴィーを作る計画もあったとか。

 彼らはいわばパンク〜スカ・フィルターを通してクンビアにアプローチしていったわけだが、ヨーロッパではマヌ・チャオを筆頭に同傾向のアーティストが数多く活動中。スペインのバルセロナでは特にその手のアーティストが多く、その一部は渡辺俊美THE ZOOT16)が選曲を手掛けたコンピ『Musica Inocente』に収録されているのでチェックしてみてほしい。

 クンビアを取り巻く状況として近年目立っているのが、ブエノスアイレスを中心に盛り上がるデジタル・クンビアの動きだ。ブギッブギのエレクトロとクンビアを融合させたそのサウンドは、ダブステップ通過後のベース・ミュージックのあり方もはっきりと意識したもので、バイリ・ファンキやダンスホール・レゲエとの共通性も匂わせている。その中心となっているのが、ブエノスアイレスで行なわれているパーティー“Zizek Urban Beats Club”およびそのパーティーから発展する形で立ち上がったレーベル=ZZKだ。この“Zizek Urban Beats Club”は2008年に欧州ツアーも実現、レーベルのほうも限定プレスながら興味深い作品を続々とリリースし、クンビアの新たなスタイルを提示し続けている。また、サンフランシスコ出身の2人のDJ/プロデューサーが同地に立ち上げたベルサ・ディスコスも注目。こちらはまだアナログ・リリース・メインながら、変態的なエレクトロ・クンビア作品をリリースしている。ブエノスアイレスにおけるデジタル・クンビアの動きは現在のところアンダーグラウンドなものだが、国外での注目度も劇的に上昇しているところ。ここ数年のうちに爆発的に盛り上がる可能性もあるかもしれない。

 先にも書いたように、クンビアは中南米の大衆音楽である。だから、中南米のポップ・スターたちも積極的にクンビアを採り入れるし、オゾマトリやロコス・ポル・フアナといった在米ラティーノたちのバンドも当然のごとくクンビアを演奏する。そうした日常的な動きに加え、上記のような新潮流も続々と生まれつつあるわけで、今やクンビアは世界各地の音楽シーンで「裏キーワード」になりつつあるようだ。事実、ヨーロッパのメディアなどでは特集も組まれはじめているのだが、日本での認知度はまだまだ。というわけで、2009年はクンビアを要チェック!って感じなのだ。


文/大石 始



クンビアを知るための入門ディスク5枚
選/大石 始
『ZZK Sounds Vol.1 : Cumbia Digital』(ZZK)
VARIOUS ARTISTS
新解釈クンビアと言えばコレ。ブエノスアイレス周辺の異端プロデューサー/クリエイターが集結したコンピで、エレクトロ〜ダンスホール・レゲエ〜バイリ・ファンキ〜ミニマル/クリック・ハウスとアフリカ系民族音楽が出会った希有な楽曲集である。何故クンビアがそこまで面白がられているのか、本作を聴けばその理由が分かるはず。


『Kumbia Nena!』
KUMBIA QUEERS/(Pヴァイン)
メキシコ人/アルゼンチン人の混成バンドによるデビュー作。メンバーは全員女性、しかも生粋のパンクスたち。そんな彼女たちが奏でるクンビアは、どこまでもチープでパンキッシュ。マドンナやラモーンズ、さらにはブラック・サバスのカヴァーまで含む、妙に後を引くパンキー・クンビア・アルバムだ。


『Arriba La Cumbia』(Crammed/プランクトン)
VARIOUS ARTISTS
世界各地のマージナル・ビーツに目を光らせるイギリスのDJ、ラス・ジョーンズが手掛けたクンビア・ミックス。注目はベースメント・ジャックスやアップ・バッスル&アウトらによる異形クンビア。ブエノスアイレスの連中ほどのエゲつなさはないものの、新しもの好きの彼らもクンビアに注目しているってこと。


『Columbia! -The Golden Years Of Disco Fuentes -The Powerhouse Of Columbian Music 1960 -1976』(Pヴァイン)
VARIOUS ARTISTS
アフリカや中米の珍音源をレア・グルーヴ的視点で掘り起こす英サウンドウェイによる、60〜70年代コロンビア音源集。何ともモンドなラテン・ファンクなどに紛れ込むように数曲のオールドスクール・クンビアが収録されていて、これが驚きの格好良さだ。同時代のクンビア作品を聴きたければ、コンピ『Old Time Cumbia From Colombia』もオススメ。


『Barrio Bravo』(WEA Latina)
CELSO PINA
メキシコを拠点に活動するベテラン音楽家の彼。メキシコのポピュラー・ミュージックであるノルテーニョを軸にしながらクンビアやスカのニュアンスもプラスしたスタイルが特徴で、オゾマトリあたりが好きならドンピシャのはず。ドン臭くてもっさりしつつも、どこか不思議な高揚感に溢れたクンビアの楽しさを味わえる爽快盤!
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