【特集】クラシカル・クロスオーヴァー新潮流 “癒し”ブーム後のシーン注目アーティスト

2009/11/25掲載
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 一時期クラシカル・クロスオーヴァーが“癒し”の音楽として人気を得た。そのブームが落ち着いた今、このジャンルは多様化し、新たな活況を見せ始めた。続々デビューしている新人が才能に加えて美貌で話題を集めたり、実力派による異色のコラボも誕生している。

 そのなかで敢えてここで目を向けたいのは、クラシックの楽器や名曲でコンテンポラリーなアプローチをする、というクラシカル・クロスオーヴァーの原点に立つアーティストだ。彼らは癒しや伝統の枠を超えて、自分の個性や才能を臆せず発揮し、夢を叶えた感動物語や斬新な演奏で世界中を魅了し始めている。今回はそんな注目のシンガーとミュージシャンをそれぞれご紹介したい。


【シンガー】
オーディション番組から一躍スターへ
伸びやかな歌声と奇跡の人生物語が共感を呼ぶ


 サラ・ブライトマンキャサリン・ジェンキンスアンドレア・ボチェッリらに代表されるように、クラシカル・クロスオーヴァーのシンガーは、クラシックの研鑽を積んだ人が新たな試みのひとつとして、クラシックやオペラの名曲をナチュラルな発声で歌ったり、ロックやポップスの曲をオーケストラの編曲で歌ったりするのが基本だった。ところが、ポール・ポッツがUKの人気TVオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』でデビューのチャンスを掴んだことから、新たな潮流が始まった。

 ポール・ポッツは、まず外見とのギャップで人々の心を掴んだ。伸びやかなテノールで朗々と歌うプッチーニの名曲「誰の寝てはならぬ」。これがウケた。加えて、携帯電話ショップの店員だったことから、“夢の実現”が感動物語として人気を後押しする。デビュー・アルバム『ワン・チャンス』は、UKチャートで3週連続1位の大ヒット。彼の半生は、なんとハリウッドで映画化されるという。

 そのポール・ポッツに続いたのが、スーザン・ボイルニール・E・ボイドだ。

 スーザン・ボイルは、ポッツと同じ番組の出身。彼女もまた地味な外見と美しい歌のギャップで、まず注目された。さらに48歳独身で男性との交際経験がないことでも話題になる。

(C) UNIVERSAL MUSIC
 奇跡のデビューはアメリカでも起こり、保険のセールスマンだったニール・E・ボイドは、ポール・ポッツのデビューに勇気を得て、アメリカ版のオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出演。デビューのチャンスを掴んだ。

 この3人に共通するのは、クラシックの正式な教育を受けていないこと。独学でクラシックやオペラの名曲を歌ってきた。それにより専門のテクニックが身に付いておらず、いい意味で白紙状態の伸びやかな声で素直に歌っている。その歌と、人生の奇跡の大逆転が人々に親近感を持たれて、ポピュラー・ミュージックのファンにも受け入れられている。それが今、クラシカル・クロスオーヴァーの新たな活路となっているのだ。

ポール・ポッツ/燃ゆる想い

奇を衒わない、親しみやすい選曲。それを英語からイタリア語などに変えて歌うのがポッツの魅力。今回もオペラは数曲にとどめ、「愛は面影の中に」などのヒット曲を歌う。ニュージーランドの歌姫ヘイリーとの共演曲も収録。


スーザン・ボイル/夢やぶれて

オーディション番組で喝采を浴びた「夢やぶれて」をはじめ「アメイジング・グレイス」「クライ・ミー・ア・リヴァー」などを丁寧に歌い上げている。それが印象的。ボーナストラックは「翼をください」のカヴァーで、清楚な声に合っている。


ニール・E・ボイド/マイ・アメリカン・ドリーム

100キロ以上もある大きな体から発せられるあたたかな声で「ゴッド・ブレス・ザ・USA」や「アメイジング・グレイス」など、子供の頃から親しんできた曲を歌う。どの歌からも、彼の歌への愛情が伝わり、優しい気持ちになれる。



【インストゥルメンタル】
アグレッシヴな演奏で惹きつける
ワイルドなイケメン・ヴァイオリニスト

 ここ数年、雑誌で“クラシック美女図鑑”のような特集が組まれるくらい、J-クラシックには美人演奏家が増えている。彼女たちの多くは、深窓の令嬢タイプ。知的で、気品があり、男性の心をくすぐる。話題になるのは当然だ。

 では、男性はどうだろうか。世の中はイケメン・ブームだ。クラシック界は例外なのかと思いきや、そんなことはない、イケメンが3人。いずれも偶然だが、ヴァイオリニストだ。

 まずは今年日本デビューしたKATEI。中国系韓国人の父と台湾人の母を持ち、日本で生まれ育った。最初にヴァイオリンの教育を受けたのは、東京音楽大学付属幼稚園時代。早くもその頃から才能を現していたが、9歳でオーストラリアに移住する。そこでもレッスンを続け、ユース・オーケストラではソリストに選ばれた。ところが、大学時代にロック・バンドを組んだことがきっかけになり、インプロヴィゼーションと作曲に興味を持ち、クロスオーヴァーの道に進むことに。特注のエレキ・ヴァイオリンも演奏する。

 デヴィッド・ギャレットは、8歳でプロ活動を始めた神童だ。名門ドイツ・グラモフォンとも最年少で契約し、錚々たる指揮者やオーケストラと共演するなど、まさにエリート・コースを歩んできた。ところが、2007年のアルバム『フリー』でクロオーヴァーに転向。クラシック以外にロックの曲なども演奏し、ファンを驚かせるが、さすがに奏でる音は情感豊かで、本物の演奏に聴き惚れてしまう。

 3人目は、トリノ五輪フィギュアのエキシビションで、プルシェンコと氷上の共演をしたエドヴィン・マルトン。ハンガリー出身の彼は、世界各国の名門音楽学校で学ぶが、NY留学中にクラブ・ミュージックに出会い、エレクトロとクラシックのミクスチャーに目覚める。本人も「僕の音楽はクラシックとポップスの架け橋になるもの」と語っている。

 クラシックとは違う、ワイルドな演奏で、目と耳と心を楽しませてくれる。それがクラシック界のイケメンたちの魅力だ。

(C) UNIVERSAL MUSIC


KATEI/JOURNEY

収録曲の半分がオリジナル楽曲で、ほかにクラシックの「Jupiter」や「Summer」、さらにスティングのカヴァーなど選曲がユニーク。それらをバンドとの共演でレコーディング。アコースティックとエレキの両方を演奏する。

デヴィッド・ギャレット/フリー

「チャルダーシュ」をラウンジ・ミュージック風に演奏したり、ロック・バンド、メタリカのバラードを情熱的に奏でるなど、斬新な選曲と派手な編曲が際立つが、演奏は繊細で美しく、本物のヴァイオリンで酔わせてくれる。

エドヴィン・マルトン/氷上のヴァイオリニスト〜ストリングス'n'ビーツ

「人知れぬ涙」や「チャルダーシュ」「サラバンド」などをエレクトロ・ビートとの共演で、颯爽と奏でる。ヴァイオリンはあのストラディヴァリウス。ヴォーカルや児童合唱団のソリストなどゲストも多彩だ。
文/服部のり子
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