アンドレア・ボチェッリ、ロックダウン中の心境を反映した、安らぎの新作『Believe〜愛だけを信じて』

アンドレア・ボチェッリ   2020/12/11掲載
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 クラシックとポピュラー・ミュージックの両ジャンルに跨がって幅広い層のファンを獲得している、世界でもっとも有名なイタリア人テノール歌手、アンドレア・ボチェッリ。昨年は、自身の体験を“アモス”という名の主人公の少年に投影した、自伝的小説を原作とする映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』が日本でも公開されて話題に。2020年は4月12日(日本時間13日午前2時)のイースター・サンデーに、コロナ禍で都市封鎖中のミラノの歴史的建造物・大聖堂ドゥオーモにて、無観客コンサート〈MUSIC FOR HOPE(希望の音楽)〉を開催。「アメイジング・グレイス」など5曲を披露し、その模様は世界中に生配信され、音楽パフォーマンスとしては史上最多、クラシックもののライヴ配信としてもYouTube史上最多の同時視聴者数を記録。アーカイヴは放送開始後24時間以内で2800万回以上再生されるなど大きな反響を呼んだ。その後、みずからも新型コロナウイルスに感染していたとあきらかにし、すでに回復して治療研究用に自分の血漿(けっしょう)を病院に提供したと報道陣に語ったのも記憶に新しい。そんなボチェッリからニュー・アルバム『Believe〜愛だけを信じて』が届けられた。
 「アルバムのアイディアはロックダウン中に思いつきました。レパートリーや選曲などについては、その期間中に私たちがみな経験した心境が反映されています。収録曲は宗教歌、または少なくとも人々の魂の理性とリンクしている歌ばかりです。魂の理性を思い起こさせる精神的、神秘的なものを、私たちはいまだかつてないほど必要としているからです」
 ライナーノーツによると本作のコンセプトは“信仰”と“希望”そして“慈愛”。各国で大勢が苦しい状況に置かれている現在において、音楽を通じて人々に安らぎを与えたいという想いが込められている。アルバムのタイトルに“BELIEVE”という言葉を選んだことについて、熱心なカトリック信者でもある彼は以下のようにコメントしている。
 「信仰、希望、そして慈愛という3つの言葉には支えが必要で、それがなければ存在し得ない。そしてその支えというのは、信じる(believe)という言葉に集約されます。つまり、私たちはみずからが行ない、考え、追い求めているものを信じる必要があるということです。他人を思いやりたいと感じるなら、その行ないに深い信念を持つ必要があります。希望を持ちたいと願うなら、より良い未来を信じる必要があります。そして信仰というのは非常に優れた信条でもあるのです」
 アルバムはミュージカル『回転木馬』から生まれ、後に勇気と団結を鼓舞する応援歌としてサッカー・クラブなどのアンセムにもなった「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」で幕開け。たんなるラブ・ソングのような類いの楽曲はなく、全体的に敬虔な雰囲気に包まれている。クラシックの作曲家による宗教作品に交じって、ラテン語の典礼文にボチェッリが曲を書いたオリジナルの「アヴェ・マリア」も聴きどころ。
 「ロックダウンの間、私はよくピアノを弾いていましたが、そんなことはひさしぶりでした。ある日ひとつのアイディアが浮かび、それを基に〈アヴェ・マリア〉の旋律が生まれ、そこからアルバムのコンセプトを思いついたのです。カナダの生んだ偉大な詩人でシンガー・ソングライターであるレナード・コーエンの〈ハレルヤ〉から〈アルビノーニのアダージョ〉やフォーレの〈ラシーヌ讃歌〉、そして私が子どもの頃に大人たちが手にキャンドルを持ち、よく歌っていた伝統的な歌まで、多様なジャンルから選曲されたアルバムだと言えるでしょう。なかには南イタリアで守護聖人の日に歌われる聖歌〈ミラ・イル・トゥオ・ポポロ〉のように非常に美しく、一見シンプルに見えるが音楽的にもよく構築されていて深遠な曲もあります。このようにとても幅広い内容ですが、魂という共通したテーマは貫かれています」
アッシジの聖フランチェスコの半生を描いた、フランコ・ゼフィレッリ監督『ブラザー・サン シスター・ムーン』(1972年)からの曲や、1917年にポルトガルで起きた“ファティマの聖母”の奇跡を描いた、マルコ・ポンテコルヴォ監督『FATIMA』(2020年 ※日本未公開)のエンドクレジット・ソング「グラティア・プレナ」など、信仰がテーマの映画からの楽曲も収録。また、今年の7月6日に91歳でこの世を去った、イタリアが生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの未発表曲も聴き逃せない。
 「これはとても興味深いことだと思いますが、この曲はマエストロ・モリコーネが亡くなる1ヵ月ほど前に作曲されたものだということを聞かされました。この世を去るひと月前に祈りとなり得る曲をマエストロが書いたという事実は非常に意味のあることだと思いますし、個人的な意見ではありますが、まったくの偶然ではないと考えています」
 そして、ボチェッリといえば音楽ファンの間で周知なのが“デュエットの達人”ということ。前作の『Sì〜君に捧げる愛の歌』(2019年)でも息子で歌手のマッテオ・ボチェッリから、エリー・ゴールディングやエド・シーラン、デュア・リパなどポップス・シーンの大スターに、女優のジェニファー・ガーナーまで、多彩なアーティストたちとの豪華コラボで魅了してくれたが、今回もアメリカのカントリー・ブルーグラス界のトップ・シンガーであるアリソン・クラウスと名曲「アメイジング・グレイス」での共演が実現。また、現代最高峰のメゾ・ソプラノ・ディーヴァ、チェチーリア・バルトリとのデュエットが2曲も収録されていることに世界中のオペラ・ファンが驚喜していることだろう。とくに以前、英国が誇る人気歌手キャサリン・ジェンキンスとのデュエットでもヒットした「アイ・ビリーヴ」をバルトリと再録音しているのも嬉しいサプライズのはずだ。
 「チェチーリアとは長い間お互いを尊敬し合ってきた間柄です。今回の〈アイ・ビリーヴ〉という曲は、じつはこの曲が20年以上前にチョン・ミョンフンとサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団により録音(※アルバム『アヴェ・マリア 地球讃歌2』にボチェッリの単独歌唱で収録)されて以降、彼女とのデュエット曲として候補にあがっていたものです。その時は実現しなかったのですが、理由は思い出せません。私たちが求めるレベルまでにクオリティを高める時間がなかったからかもしれません。それから長い時を経て、この美しいデュエットが誕生したというわけです」
 プロデュースを手掛けたのはスティーヴン・メルクリオとハイドン・ベンダル。メルクリオはほとんどの楽曲のオーケストレーションなども担当している。
 「これまでにたくさんの時間をともにしてきたスティーヴとの作業は、とても喜ばしいものでした。彼とは多くのオペラを録音してきました。とくに『イル・トロヴァトーレ』、『カヴァレリア・ルスティカーナ』、『道化師』はよく覚えています。レコーディングだけではなくマディソン・スクエア・ガーデンなど数々のコンサートもともに創り上げてきました。しばらくはお互いの道を進み共演することはありませんでしたが、今回こうしてふたたび仕事をともにし、親密な時間を過ごせたことをとても嬉しく思っています。コロナ禍という状況下にあっても、アルバム制作の作業はとてもポジティヴなものでしたし、私自身にとっても非常に感動的なものでした」
日本時間の12月13日(日)18:00には配信コンサート「Believe in Christmas」を予定。シルク・ド・ソレイユを大成功に導いたことで知られる世界的演出家フランコ・ドラゴーヌによるディレクションで、パルマ王立劇場から数々のスペシャル・ゲストを交え、クリスマスにふさわしいゴージャスなイベントになりそうだが、やはりファンとしては来日コンサートが待たれるところだろう。
 「私の歌、そして音楽を届けるために日本をぜひ訪れたいという気持ちはこれまで以上に強いものとなっています。ツアーができるということはこの状況が改善され、日常に戻れるということでもあるので、一日も早くそれが実現できるとよいと思っています。日本の皆さんが健康であること、そして皆さんにお会いできることを楽しみにしています」
取材・文/東端哲也
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Information
アンドレア・ボチェッリ 配信コンサート〈Believe in Christmas〉

シルク・ド・ソレイユを大成功に導いたことで知られる世界的演出家フランコ・ドラゴーヌによるディレクションのもと、パルマ王立劇場から数々のスペシャル・ゲストを交え、クリスマスにふさわしく華々しい内容となる予定。アーカイヴ配信は予定されておらず、リアルタイムでの視聴がこのコンサートを体験できる唯一の方法です。また、チェチーリア・バルトリのゲスト出演があきらかになっています。


12月13日(日)18:00〜(日本時間)
日本からの視聴チケットはイープラスで販売中。
https://eplus.jp/sf/detail/3353950001-P0030001
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