ジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』 一新されたアルバムと驚きの貴重音源を収める50周年記念盤の聴きどころ

ジョージ・ハリスン   2021/09/01掲載
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 ビートルズ解散後、最初に脚光を浴びたのはジョン・レノンとポール・マッカートニーではなく、ジョージ・ハリスンだった。その大きな決め手となったのは、シングル「マイ・スウィート・ロード」の大ヒットと、その曲を含む3枚組の大作『オール・シングス・マスト・パス』(70年11月30日発売)である。ちなみに、ビートルズのメンバーの中で3枚組のスタジオ・アルバムを作ったのはジョージだけだ。
 発売当時の日本盤の帯の文言は『ロック界に不滅の金字塔』――発売から半世紀過ぎた現在でも通用する予言のような“叩き文句”であり、実際、『オール・シングス・マスト・パス』は、ジョージの音楽の集大成ともいえる聴きどころ満載の内容となった。
 このアルバムは、その後2度“改訂版”が発売されている。最初は2001年、ジョージが存命中に30周年記念として発売された“ニュー・センチュリー・エディション”で、その次が今回新たに登場した、初のリミックスによる50周年記念盤だ。20年前に追加の演奏も含めて父親を援助していた息子ダニー(当時22歳)が、今回はエグゼクティヴ・プロデューサーとして関わった。また、ミキシングは、最近ではジョン・レノンのボックス・セット『ギミ・サム・トゥルース』や、ローリング・ストーンズの『山羊の頭のスープ』のデラックス・エディションを手掛けたポール・ヒックスが担当している。
 オリジナル盤が、フィル・スペクターによる壮大なオーケストレーションのおかげで豪華絢爛なサウンドになったのは間違いない。だが、ジョージ自身は、かならずしもフィルの手腕を全面的に評価していたわけではなかった。今作の大きな特徴は、いわば、雲の晴れ間から虹が覗いていた従来の空模様ではなく、晴れ渡った青空からお日様が顔を直接覗かせるような、清々しい空間への変化だ。ビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」的爽快感、と言えばいいだろうか。“音の壁”と言われるスペクターの特徴的な音の厚みが軽減され、ジョージのヴォーカルが前面に出て、ベースの重量感も増し、しかも楽器のぶつかり合いが生々しい。
 50周年記念盤の中で最大の物量を誇る5CD+1Blu-rayの「スーパー・デラックス・エディション」には、未発表のデモやセッション・アウトテイク、スタジオ・ジャム音源42曲を含む計70曲が収録され、アルバムのセッションの詳細が今回初めてあきらかになった。そのCD5枚を元に、以下聴きどころを紹介する。
George Harrison
 ディスク1と2には、オリジナルLPの2枚(A面からD面)のリミックス版が収められている。1曲目の「アイド・ハヴ・ユー・エニイタイム」の出だしのギターの一音を聴いただけで、音の透明度が増したのがすぐに伝わってくる。参加メンバーの顔触れも、リンゴはもとより、ビートルズのレコーディングで共演したエリック・クラプトン、ニッキー・ホプキンス、ビリー・プレストンをはじめ、ジョージの人望の厚さを証明するミュージシャンが総勢20名以上集まった。曲によってはギター3人、ベース2人、ドラムス2人という編成もあり、その手の曲ではスペクターの分厚いサウンドが耳に重厚に響いてくるが、今回のリミックスではたとえば、“音の塊”のような轟音だった「レット・イット・ダウン」は、出だしからして別物と言ってもいいような音作りとなり、直接的に耳に届くような鋭いヘヴィ・ロックへと生まれ変わった。
 一方、アコースティックな曲も、たとえば「ラン・オブ・ザ・ミル」は、イントロからして変貌が激しく、まろやかさが増した。「サー・フランキー・クリスプのバラード」は、イントロのエレキの音色が前面に出ることで抒情性が増したし、「ヒア・ミー・ロード」は、ドラムをはじめ、迫力満点の素晴らしいサウンドだ。
 「アウト・オブ・ザ・ブルー」以降の“アップル・ジャム”5曲は、リミックスではなくリマスターでの収録となったが、音の変化よりも、初めてあきらかになったレコーディング・データに驚かされた。以下具体的に挙げてみる。
 『オール・シングス・マスト・パス』は、エリック・クラプトンが結成したデレク・アンド・ザ・ドミノス(メンバーはエリック、ボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードン)の実質的なデビュー・レコーディングになったと言われるが、「プラッグ・ミー・イン」と「サンクス・フォー・ザ・ペッパロニ」は、フィル・スペクターのプロデュースで70年6月18日(ポールの誕生日)にレコーディングされたデレク・アンド・ザ・ドミノスのシングル「テル・ザ・トゥルース」「ロール・イット・オーヴァー」のセッション後に収録されたジャム・セッションだったということ(もちろんすべてジョージも参加)。「アイ・リメンバー・ジープ」は、69年3月29日に行なわれたビリー・プレストンのアップルからのデビュー・アルバム『神の掟』(ジョージがプロデュース)のセッション時に、ジョージ、ビリー、エリック、ジンジャー・ベイカー、クラウス・フォアマンで行なったジャム・セッションが元になっていたということ。しかも5月12日にジョージがモーグをダビングし、エンジニアのフィル・マクドナルドのミキシング作業にジョンとヨーコも協力し、手拍子も加えていたこと。とどめとして、その時のレコーディングのクレジットは(「平和を我等に」よりも早く)プラスティック・オノ・バンドの「ジャム・ピース」になっていたこと――。こういう“事実”が今ごろになって出てくるのだからマニアにはたまらない。
George Harrison
Photo by Barry Feinstein
 CDの3枚目と4枚目は、ジョージがフィルに前もって新曲を聴かせるためにまず行なったデモ・セッションの模様で、70年5月26日(ジョージ、リンゴ、クラウスの3人参加)と翌27日(ジョージ一人)に分けられ、ともに15曲ずつ収録されている。
 まず注目されるのは、26日のセッションがジョンの初ソロ作『ジョンの魂』と同じ顔触れであるということだ。数多くの新曲を耳にしたフィルが「どの曲も、それ以前の曲よりも良かった」と言ったと今回の解説にも書かれているが、66年以降に書き溜めてきた曲を一気に吐き出したジョージの初ソロ作に懸ける思いを感じ取ることができる味わい深いセッションとなっている。中でも26日録音の、オフィシャルとは異なるストレートなロック調の「アイ・ディッグ・ラヴ」と、スペクター調の派手な装飾がない軽快なポップ調の「美しき人生」が印象的だ。
 27日のセッションでは、後半に収録されているアルバムからの収録漏れとなった8曲が、いずれも興味深い。中でも、ビートルズ時代の自分を投影したかのような「ノーホエア・トゥ・ゴー」と、7月10日に先行で映像が公開された、ジョージが裏声を披露する「コスミック・エンパイア」、トラヴェリング・ウィルベリーズがやったら面白かったかもしれないと思わせる「マザー・ディヴァイン」の3曲は、バッドフィンガーのピート・ハムを思わせる抒情的なメロディが耳に残る。
 CDの5枚目は、本作の大きな聴きどころでもある、スタジオでのアウトテイク(別演奏)が収録されている。「イズント・イット・ア・ピティー」のテイク14で「どんだけやり直せばいいんだ」とジョージが自嘲気味に歌詞を変えながら歌っていたり、「アート・オブ・ダイイング」のテイク1で、ジョージがリンゴにドラムの入り方を指示している場面が出てきたりと、スタジオ・セッションの生々しい雰囲気が伝わってくる。全体的に軽めでテンポも速い「アイド・ハヴ・ユー・エニイタイム」のテイク5や、ビートの効いた軽快なバンド・サウンドとして仕上げられた「イフ・ノット・フォー・ユー」のテイク2、それに、6月20日に先行で映像が公開された、ジョージとエリック・クラプトンのツイン・リードが登場する「ラン・オブ・ザ・ミル」のテイク36あたりが、オフィシャル・テイクとの違いが顕著で面白い。
 アルバム未収録テイクでは、映画『ザ・ビートルズ:Get Back』公開前にいいタイミングで収録された、ジョージの歌う「ゲット・バック」はやはり必聴だろう。ほかに「イズント・イット・ア・ピティー」の“ヴァージョン2”よりも淡々とした展開が心地よいテイク27も、7月30日に先行で映像で公開された。
 以上、駆け足で紹介してきたが、ジョージの音楽性の幅広さを存分に味わえるアルバムとしても、ジョージのその後のソロ活動の礎を築いたアルバムとしても、ある意味“幕の内弁当”的な『オール・シングス・マスト・パス』は、言うなれば、ジョージ版“ホワイト・アルバム”であったと、この50周年記念盤を聴いて、あらためて思った次第だ。
文/藤本国彦
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