屈強でしなやかな東京のヒップホップ――KANDYTOWNのビートメイカー、MIKIがファースト・ソロ・アルバム『137』を発表

MIKI(KANDYTOWN)   2018/04/19掲載
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 屈強でありしなやか、あるいはタフでルード。そして野性味にあふれている。それが、東京のヒップホップ・グループ、KANDYTOWNのビートメイカー / プロデューサー、MIKIのファースト・ソロ・アルバム『137』の魅力だ。鍵盤を演奏できる技術と音楽的素養があり、ギタリストやベーシストを起用しているのも大きい。ヒップホップの専門用語で端的に語れば、90年代の東海岸のヒップホップを1992年生まれのヘッズが再解釈して自分のスタイルを提示したドープ・シットである。国内の実力派のラッパーだけではなく、トロントやブルックリンのラッパーも参加している。MIKIは『137』をどのようにして作り上げたのだろうか。
――まず、ファースト・アルバムをリリースした感想はどうですか?
 「KANDYTOWNのメジャーのアルバムを出す前から準備はしていたんです。出すべき良いタイミングを待ってましたね。やっと出せました。まずなによりも俺なりに“ヒップホップはこれでしょ!”というのを提示したかったですね」
――Wax Poetics Japanのインタヴューで最も影響を受けたアルバムとして、ナズIllmatic』、 モブ・ディープThe Infamous』 、ジェイ・ZReasonable Doubt』、ウータン・クランEnter the Wu-Tang(36 Chambers)』、ノトーリアス・B.I.G.Life After Death』を挙げていましたね。すべて90年代のNYのヒップホップ・クラシックと呼ばれる作品ですね。
 「はい。今年26歳になるんですけど、中2、中3ぐらいの頃にヒップホップを聴き始めたんです。その時の、00年代中盤の現行のUSのヒップホップがそこまで好きになれなくて、90年代のヒップホップをひたすらディグりまくってたんです。そこから70、80年代の元ネタとかのレコードを買うようになった。俺の周りにはそういうヤツが多かったから、そうやって90年代のヒップホップを聴くことは特に珍しいことじゃなかったんです。周りのヤツと、他のヤツらが知らない音楽をどれだけ知るかを競い合ってましたね」
――ビートメイカー / プロデューサー目線で、そういう90年代のヒップホップのビートメイカーやプロデューサー、あるいはラッパーで最も影響を受けた人は誰ですか?
 「モブ・ディープのハヴォックが大好きですね。俺はプロディジーじゃなくて圧倒的にハヴォックなんです。あの、冷たくて、クールで、ドシンとしている尖ったビートが憧れだったんです」
――ビート、トラックを制作する際はAKAIのサンプラー、それに加えてMachineとキーボードも使っているそうですね。
 「ははは。そうです。今、部屋をのぞかれている気になりましたね(笑)。〈A Film Music〉〈Problems〉〈No Wave〉の3曲は全部弾きで作っています」
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――小さい頃にピアノを習っていてピアノを弾けるのはMIKIさんの制作にとって大きいですよね。
 「子供の頃にクラシックをやっていたから、コードもわかりますし曲の展開をつける時に役立っていますね。だから1曲目の〈A Film Music〉とかは若干クラシックのテイストが入ってるんです」
――MUDがラップする「Problems」のギターのカッティングも生っぽいですよね。
 「そうです。これは地元の先輩のギタリストに弾いてもらってるんです。その先輩とは俺らの音楽はなんとなく水銀っぽいから、“マーキュリー・サウンズだな”とか勝手に言い合ってますね(笑)。俺のビートにいちばんハマるのはMUDなのかもしれないって、KANDYTOWNのアルバムを作った時に思ったんですよ。俺とMUDは音の上でたぶん恋してるんですよね(笑)。まあそれは冗談ですけど、音楽を一緒に作ることってそれぐらいお互いが心を開いていないとできないことだと思うんですよね」
――本作にはKANDYTOWNの仲間のラッパーも多く参加していますよね。Ryohuが参加した「Free」という曲のピアノは弾きですか?
 「あれはサンプリングなんですけど、ベースはキーボードで弾いてますね」
――その曲の次のFINとNOAという2人のラッパーが参加した「Fresico Shaba」は、生のバンドが演奏しているように聴こえますけど、これもサンプリングですか? 音の鳴らし方が面白いな、と。
 「そうです。俺が打ち込んでますけど、他の曲と違うテイストを出したくて生音を意識したんですよね。FINNOAは直接の地元の後輩ではないんですけど、年下の才能のあるヤツをフックアップしたくてラップしてもらったんです。この2人はDirty Jってグループもやってるんです。プロデューサーであれば、自分のアルバムに他の誰も知らないラッパーを入れたいじゃないですか」
――その点で言うと、IOとの共作曲もあるRaz Fresco、そしてChelsea REJECTという2人のラッパーはどういう経緯で招いたんですか? Raz FrescoとChelsea REJECTはNYのブルックリンの老舗レーベル、DUCK DOWNがマネージメントしているようですね。DUCK DOWNのサイトにも彼と彼女を紹介するページがありますね。
 「Raz Frescoはトロントのラッパーで、俺はヤツが17歳の頃からチェックしてるんです。まずはYou Tubeにアップされている〈AND IT DONT STOP...〉っていう曲を聴いてほしいですね。レイクウォンとやってるもありますね。超カッコイイですよ! ヤツがたまたま日本に来るタイミングでコンタクト取って参加してもらったんです。Chelsea REJECTはブルックリンのラッパーで、Raz Frescoと一緒に来日してて、彼女のラップもカッコよかったから参加してもらった。Raz Frescoはこれぞラッパーって感じなんです。一緒にスタジオに入ったんですけど、“俺はスタジオで稼ぐんだ”って感じでヴァイブスも最高で。ちなみにIOくんとRaz Frescoの〈Oversea〉ではベーシストに弾いてもらってますね。Raz Frescoはそこまで有名じゃないですけど、そういうラッパーだからこそプロデューサーとしてはくすぐられるんですよね。“こいつはもっと世に出るべきでしょ!”って気持ちにさせられる。俺はヒップホップをやっているつもりだし、日本語ラップとか日本専門のヒップホップをやってるつもりはないんですよ」
――サンフランシスコとNYに1年ぐらい住んでいた経験もあるそうですね。
 「そうですね。最初はNYにいたんですけど、当時サンフランシスコに住んでたKEIJU(YOUNG JUJU)が“YUSHIも来るからお前もこっち来いよ”って言うので、サンフランシスコに移ったんです。ちょっとしてIOくんも来て、一時期は4人で住んでましたね」
――それはすごく楽しそうな感じだ。そういうアメリカの生活で得たことはありますか?
 「夜中に家で爆音で音楽を鳴らせるのが衝撃的でしたね。サンフランシスコに住んでいる時に、ライヴ会場みたいな音量を毎日出してましたから(笑)。でも誰も文句を言わないんですよ。ブルックリンでバスに乗ってる時におばちゃんが超でかい音で音楽を流してたんですけど、そういうのを誰も咎めないんです。音楽に対しての考え方、捉え方が日本とは全然違うんだなって思いました」
――ライヴハウスやクラブにも行きましたか?
 「俺は当時まだ18、9歳でクラブに行けなかったから、黒人が集まるハウスパーティとかに行ってましたね。俺以外全員黒人だったりして、そういうとこで俺がビートを作ってみんながラップしてくれたりしてました。そこで、日本とアメリカではヒップホップとかラッパーの捉え方がまったく違うことを思い知らされましたね。本質的に違うんだなって。俺はラップして稼ぐぜっていう気合いもそうだし、おのおのに自分のオリジナルのワード、言葉があって、自分が良いと感じたビートがかかればすぐにラップする。そういうビートへの食らいつき方もすごかった」
――そういう話を聞くと、BES仙人掌との「Breath」、B.D.FebbNippsとの「You Want Me」といった曲がありますけど、彼らのような東京のラッパーを招いた理由もわかる気がします。
 「BESさんと仙人掌さんは俺ら世代のヒップホップ・ヘッズだったらみんなブチ食らってますからね。〈You Want Me〉は世代をこえた曲になってますよね。Febbの15個上がB.D.さんで、B.D.さんの15個上がNippsさんなんです。3人とも二つ返事でやってくれて。それこそ最初に仙人掌さんと会ったのもFebbの〈Yellow x Black〉(GRADIS NICE & YOUNG MAS名義)っていう曲のPVの撮影だったんです。Febbから“PVに出てよ”って連絡があって、そこで初めて会った仙人掌さんに“一緒に曲をやりたいです”って伝えたんです」
――「Breath」はKANDYTOWNのビートメイカー、Neetzとの共作ですね。
 「そうですね。実はこの曲の原型となるトラックは、KANDYTOWNとティンバーランドのタイアップ曲の〈Few Colors〉のためにNeetzと一緒に作っていたんです。でも、IOくんに〈Few Colors〉のトラックはもっと今っぽい感じにしてほしいと言われて、ドラムを全部抜いて打ち直してネタもリヴァースして、ベースとシンセもあらためて弾いたんです。〈Breath〉を作るに当たってBESさんと仙人掌さんともけっこうやり取りしましたし、一体感を出すために構成を微調整しました。BESさんと仙人掌さんが“水と油”にならないように(笑)。BESさんから曲の最初にブレイクを作ってほしいと頼まれたり、最初に入れていた声ネタを抜いたり、いろいろ工夫しました」
――BESと仙人掌とのスタジオ・ワークはどうでしたか? 当然レコーディングにはラッパーの個性が強く出るじゃないですか。
 「2人それぞれと個別にスタジオに入ったんですけど、BESさんは脱帽でした。俺からすると最初の1テイク目でほぼオーケーだったんです。“文句ないっす”って。2、3テイク目で完成しましたね。早かったです。2人には“ヒップホップとは?”と“今の若い世代に対してのメッセージ”という2つのテーマを渡したんです。BESさんはストレートな表現がカッコイイし、仙人掌さんの詩は頭の中に映像が出てくるのがすごいですよね」
――Febbの話が出ましたが、本作の「¥en」のトラックは彼との共作ですよね。MIKIさんにとってFebbはどういう人物ですか。
 「純粋なヤツだったっすね。お互い初めて会った瞬間から意気投合したんですよ。それからお互いの家に泊まり行ったりして、2人とも実家なのに夜中まで爆音で制作したりしてました。しかも、俺の部屋もFebbの部屋も狭いのに(笑)。あいつは音楽を作ることに関しては本当にストイックでしたね。1日2人で作業して3曲とか普通に作ってました。で、制作が終わったらサーティワンで一緒にアイス食って。俺とFebbがサーティワンでアイス食ってるのとかだいぶ異様な光景でしたよ(笑)。俺は、互いに心を開いていないと音楽を一緒にやることはできないんですよね。音の中で気持ちが一致しないとできない。誰とでもできることではないんです。だから、Febbとは心が通じ合ってたなって」
――なるほど。最後に、今後どんな風に活動していくつもりか教えてもらえますか?
 「DianのアルバムのためにバンドのWONKと2曲ぐらい作りましたね。自分はプロデューサーとして関わりました。Red Bull Studiosで録音したんですけど、楽しかったです。夏か秋には出る予定だと思います。そうやってバンドの人たちとも一緒に曲を作っていきたいですね」
取材・文 / 二木 信(2018年4月)
MIKI 1st Album“137”RELEASE PARTY
bpmtokyo.com/
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2018年4月20日(金)
東京 渋谷 clubasia
開場 / 開演 23:00(終演 5:00)
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途1ドリンク)
※当日受付にて『137』アルバム or iTunes購入画面を提示するとドリンク代無料


出演
137 RELEASE LIVE: Nipps / B.D / BES / 仙人掌 / IO / Ryohu / BSC / Dony Joint / MUD / Dian / FIN / NOA
GUEST LIVE: KEIJU
SHOT LIVE: JJJ(Fla$hBacks) / BLAHRMY(D.L.I.P.)
GUEST DJ: MURO(KING OF DIGGIN)
DJ: Killer Tuner / Minnesotah / MASATO / Neetz / Weelow / Harada Kosuke / JAMMIE / SHINGEN / MICCO / SYOKI / TOM ほか


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