特別対談: 大谷友介(Polaris) x TK(凛として時雨)

Polaris   2013/11/12掲載
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 Polaris大谷友介凛として時雨TK。一見、意外な顔合わせのように思える両者ではあるけれど、クラムボンハナレグミと並び、TKが普段からよく聴いているバンドとして名前を挙げているのがPolarisであり、以前より大谷友介の作り出す楽曲世界にシンパシーを感じていたという。そんなきっかけから実現した今回の対談。光と影、静と動、意識と無意識、そして言葉と言葉、音と音との間に存在するさまざまな感情――。それぞれの音楽に共通する独自の感覚を紐解くヒントが随所に隠された両者の興味深い対話に耳を傾けてみよう。
―― Polarisは、あまり音楽を聴きたくないときでも、すごく自然に聴けるんですよ。ずっと寄り添っていられる音楽というか (TK)
―― (凛として時雨を聴いて)自分の内面から出てくるものを無意識的に紡いでいった結果、あの音楽が生まれてるんだろうなと思った (大谷)
TK 「今日はよろしくお願いします」
大谷 「こちらこそ、お願いします」
TK 「僕、Polarisが大好きでずっと聴かせてもらってるんですけど……Polarisと凛として時雨が対バンしたら、みんな相当びっくりしますよね(笑)」
大谷 「じゃあ、いつかお願いします(笑)」
TK 「ぜひぜひ」
TK from 凛として時雨
“film A momen”
――最初に対談のきっかけを話すと、以前、TKくんのソロ(TK from 凛として時雨『film A moment』)のフォトブックに自分が編集で携わらせてもらったとき、普段聴いてる音楽の話になったんだけど、そのときにTKくんの口からPolarisの名前が挙がって。それがちょっと意外で、いつか、この顔合わせで対談をやりたいなと思ったんです。
TK 「Polarisが好きっていうと結構びっくりされますね。時雨のイメージとリンクしないみたいで」
――そもそもTKくんはどういうきっかけでPolarisを聴きはじめたんですか?
TK 「Polarisが大好きな友達がいて、その人に教えてもらって聴きはじめました。ちょうどその頃、ハナレグミとかクラムボンとかフィッシュマンズとか結構聴いていたんですけど、同じような感じで、すごく心地いい音楽だなと思って。それ以来、ずっと聴いてます。SPENCER名義で出されたソロも聴いてます」
大谷 「ありがとうございます。嬉しいな」
TK 「僕は普段、激しい音楽をやってるということもあって、プライベートではあまり音楽を聴かないんです。聴くとしてもピアノだけの音楽とか静かなものばかりで。でも、Polarisは、あまり音楽を聴きたくないときでも、すごく自然に聴けるんですよ。ずっと寄り添っていられる音楽というか。だから自分では、Polarisを聴いてるのって、すごく自然な感覚なんですけど」
大谷 「僕もジャンルに関係なく、そのときの気分でいろんな音楽を聴いてるからよく分かる。普段聴いてる音楽と、自分が表現したい音楽って必ずしも同じものじゃないから」
TK 「そうなんです。凛として時雨の曲ってすごく激しくて曲の構成も複雑だから、プログレ好きみたいな印象を持たれることが多いんですけど、プログレどころか実は洋楽すらほとんど通ってなくて。普通にB’zとかglobeとかテレビから流れて来る音楽を良く聞いてました(笑)」
大谷 「でも僕も同じような感じで。もともと日本のハードコアとか大好きだし。高校の頃とか関西のアンダーグラウンド・シーンとか大好きで、それこそ赤痢のコピー・バンドとかやってたり。続けていくうちに徐々に今みたいな音になっていった感じなんだよね」
TK 「やっぱりみんな、ポンと音楽を目の前に差し出されたらバックボーンみたいなものを探りたくなるんでしょうね。でも、演奏してる側からすると、楽器を触って音を導き出す瞬間って、そんなに自分のバックボーンとか意識しないじゃないですか」
大谷 「うん。全然意識しない」
TK 「そこに出てくる音のことしか考えていないというか」
凛として時雨
“i'mperfect”
大谷 「TKくんが今言ったことって、まさに凛として時雨の音楽からもすごく感じる。ある特定のジャンルの音楽を表現しようとしてるんじゃなくて、自分の内面から出てくるものを無意識的に紡いでいった結果、あの音楽が生まれてるんだろうなと思った。ソロだと、さらにその色が強いよね」
TK 「ありがとうございます。本当に曲を作るときは無意識で。だからインタビューのときとか結構困るんです。あまりにも無意識すぎて(笑)」
大谷 「“この曲はどんなふうに作ったんですか?”とか」
TK 「困っちゃうときがありますよね(笑)。だから雑誌とか読んでると、みんなちゃんと答えられてすごいなと思います。僕は、なんらかのイメージに自分を寄りかからせて曲や歌詞を作ったりすることがないので、説明するのがなかなか難しくて」
大谷 「難しいよね。僕もコンセプトに則って曲を作るとか、最近特にそういう作り方をしなくなってきてるから」
TK 「“こういうメッセージを伝えたいと思って”とか、そういうのがあるとインタビューのときも楽なんですけど」
大谷 「ね(笑)」
TK 「曲のタイトルから聞かれるじゃないですか。僕らの場合、バンド名が特殊だったから、そこから聞かれることも多くて」
大谷 「そうだよね(笑)」
TK 「さすがにもうなくなりましたけど(笑)。だから、曲のイメージを聞かれたときも自分なりに説明しようと思うんですけど、やっぱり最初にイメージしたものと、どこかでズレを感じてしまって」
――曲のイメージが見えてくるのって、どれぐらいのタイミングなんですか?
TK 「僕の場合、最終的なイメージって最後まで分からないんですよ。結局、マスタリングが終わって曲が完成したときに、“自分はこういうものが作りたかったのかな”って思うくらいで。だから曲を作るときって、目指すものがなさ過ぎちゃって、なかなか踏み込めないことが多いんです。漠然とした形でも、こういうものが作りたいというイメージが自分の中にあるといいんですけど。ピアノやギターで実際に音を出して、その音に導かれて、徐々に進んでいくような感じなんですよね」
大谷 「曲が進みたいように進ませてあげる感じで」
TK 「そうですね。でも途中で壁にぶつかったりして、進みたい方向が分からなくなってしまったり。アルバムはいつも悶絶しながら作ってます(笑)」
大谷 「あらかじめ行き先が決まってたら、そこに向かっていけばいいだけだから、すごく楽だろうなと思うけど、それだとやってる意味がないよね。テーマやメッセージっていう括りがないからこそ、自分でも想像できないようなところに辿り着くことができるんだけど……」
TK 「そのぶん(進む方向が)無限に広がっていっちゃうんですよね」
大谷 「それで毎回、悶絶するっていう(笑)」
―― 自分の作品を聴き直す機会があると、“こんな曲はもう絶対に作れない”って全曲に対して思うんです(笑) (TK)
―― 人間が頭の中で考えて作れるものって、もしかしたら1%くらいなんじゃないかって最近よく思う(大谷)
TK 「久しぶりにPolarisの活動を再開してみて、いかがですか?」
大谷 「6年休んでたからね(笑)。それだけ休むと、どこか新しいバンドをやってるみたいな気分もあって。やっぱりバンドって面白いなと改めて思ったり」
Polaris
“色彩”
TK 「6年空くと曲の作り方とか忘れてませんでしたか? 僕もソロをやってるので、“自分だったらどういう葛藤があるのかな?”と思いながらPolarisの新作(『色彩』)を聴いたんですけど」
大谷 「やっぱり感覚的な部分で忘れてしまってることが多くて、最初は少し戸惑った。でも、これは完全に1回リセットしたんだなと、ある瞬間に気がついたんだよね。過去のイメージに近づこうと思って曲を作ることは意味がなくて、僕と(柏原)譲さんの中から自然に出てくるものを形にすれば、それがPolarisらしさに繋がるんじゃないかって」
TK 「僕は自分の作品って完成しちゃうと聴かないんですけど、たまに聴き直す機会があると、“こんな曲はもう絶対に作れない”って全曲に対して思うんです(笑)。二度と曲が書けないんじゃないかって。でも、いざ作りはじめると、ちゃんと自分の曲になるんですよね。良くも悪くも自分は変わってないんだなって毎回思うんです」
大谷 「分かるなあ、それ(笑)」
TK 「曲を作るときにどこも目指してないから、ふと思い出そうとすると何も思い出せないんですよ」
大谷 「あまりにも自分過ぎるから、思い出せないのかも」
TK 「そうなんですよね。思い出せないものって、適当なものなのかなって、ずっと思ってたんですけど、最近は、思い出せないようなものの中にこそ、自分自身が隠れているんじゃないかと思うようになったんです」
大谷 「人間が頭で考えて作れるものって、もしかしたら1%くらいなんじゃないかって最近よく思うんだよね。残りの99%くらいって、自分では意識しないけども何らかの力が働いて作り出されてるような気がして。特にいいライヴやいい曲が書けたりしたとき――そういう意味付けができないような瞬間にそれを強く感じる」
TK 「確かに。僕もほとんど感覚でしかないような気がします。アルバムを作るときも本当に瞬間の連続でしか捉えていないので。その積み重ねが作品になっているっていう感覚なんですよね」
大谷 「TKくんは写真も撮るでしょ。やっぱり写真を撮る瞬間も音を導き出す瞬間と共通するところがあるのかな」
TK 「そうですね。ただ写真の場合、瞬間を目に見える形で残すことができるので。音楽って完成系として作品には残るんですけど、何をもってそのフレーズを選んだとか、そのメロディにしたとかって、あまり記憶に残らないんですね。でも写真の場合は残るんです。現像して写真ができたとき、そのシャッターを押した瞬間を僕は全部覚えているんです。それがすごく不思議ですね」
大谷 「フォトブックを見させてもらったんだけど、やっぱり曲の印象と一緒で、“こういうコンセプトの写真です”みたいなものではなくて、TKくんの中にある世界がそのまま写真で表現されてるような気がして。そこがすごくいいなと思ったんだよね。写真はどういうときに撮りたくなるの?」
TK 「普段からカメラを持ち歩いてるわけではないんですけど、旅行で海外とか行って、誰かと共有したいなと思えるような風景を見た瞬間とか感覚的にシャッターを切ってしまう感じですね。写真は撮るのも好きなんですけど、見るのも好きなんです。音楽って完成しちゃうとあまり聴かないんですけど、写真は結構ずっと見ちゃいますね」
大谷 「僕も写真は見ちゃうなー。音楽もなんか、ちょっと作った断片みたいなものをよく聴いたりとか」
TK 「断片、めちゃくちゃ聴きますよね(笑)」
大谷 「すごいよく聴く(笑)」
Polaris
“光る音”
TK 「Polarisの復活シングル(「光る音」)で〈光る音〉のデモ・ヴァージョンが入ってたじゃないですか(※〈光る音〉[Berlin Demo Version])。僕、あのヴァージョンも大好きで。デモ特有のキラキラ感ってありますよね。まだ目指す先が分かってるような、分かってないような美しさというか。作ってるときは、とにかく自分の曲しか聴かないんですよ。どんだけ自分好きなんだ、みたいな(笑)。でも完成した途端、聴かなくなる」
大谷 「あれってなんだろうね」
TK 「自分の場合、ひとつ区切りを打ったことによって、曲として完成するという感覚なんです。ある意味、そこで自分の使命が終わった感じがして」
大谷 「あるある。使命を果たしたものを確認するのは、ちょっとおこがましいというか」
TK 「区切りを付ける作業って妙な体力を使うんですよね。だからマスタリングのときとか、聴くのがちょっとしんどかったりして。完成したときとか、どっと疲れが(笑)」
大谷 「作品のクレジット見て気付いたんだけど、録音やエンジニアリングも全部やってるんだよね。すごいなと思って」
TK 「いやいや、全然。見よう見まねです。昔から“できそうだな”と思うと自分で、とことん突き詰めるようなところがあって。エンジニアをやりたいという気持ちも特になかったんですけど、単純にミックスというのが自分の曲作りの一部だったので、そういった中で、作りたい音のためにノウハウをいろいろ自分で探したりして。大谷さんもソロの作品は自分で録音されてますよね」
大谷 「うん。ソロの場合、録音も曲作りの一部みたいな感覚があって。自分で作業するのって楽しいよね。良くも悪くも自分そのものになるというか」
TK 「自分で録音やエンジニアリングをすることによって、ちょっといびつなものになってしまうんですけど、プロっぽいちゃんとしたものって、もうどこにでもあるじゃないですか」
大谷 「そうだよね」
TK 「自分がどれだけプロフェッショナルなテクニックを習得したとしても、たぶんできあがってくるものは、いびつなものになってしまうと思うんです。そこで面白い化学反応が生まれたらいいなって」
大谷 「でも、そこがやっぱり一番面白いと思う。普通のエンジニアだったら消してしまうようなところが意外と良かったり。自分も、そこでエンジニアの人と意見がぶつかることが多いし。“そこの音と音の間の空気が気持ちいいんだけど”って伝えると、“ミックス上、必要のない帯域なのでカットしました”とか言われたり。“そこが音楽なんだけどな〜”って思う」
TK 「“不要な帯域ってなんなんだろうな?”って思いますよね。でも、そういうところから生まれてくるものが純粋に自分の作りたいものだったりするわけですからね」
大谷 「そこを放棄しちゃうと、最終的には、わざわざ自分で音楽をやらなくてもいいんじゃないかっていうところまで行き着くよね」
TK 「本当にそう思います」
大谷 「やっぱり自分から自然に出てきたもののほうが強いと思うし」
――どこかのインタビューで読んだんですけど、大谷くんはここ最近、作詞をするときも、♪ラララとかデタラメ英語じゃなくて、自分の中から自然に出てきた言葉から歌詞を膨らませていく機会が多くなってきたんですよね。
大谷 「それはここ最近というよりも、この10年ぐらいで徐々に変化してきたことで。僕も最初は♪ラララとかでメロディを作ってたんだけど、あるとき、“何か言ってるな”と気付いたことがあって。それで無理矢理にでも言葉を発するようにして。何かを言い出そうとして出てきた言葉って、時間をかけて頭で考えた言葉よりも、核心を突いてることが多いんだよね。僕はそれを“降り語”って呼んでるんだけど(笑)。今回の作品の歌詞は、ほぼそうやって作ってる。もちろんそれだけだと成り立たないから、多少修正するものもあるんだけど」
TK 「僕もそれに近い作り方をしてます」
大谷 「その感じだよね。歌詞を見てそうかなと思ったけど」
TK 「弾き語りのときとかはもうちょっと言葉にメロディを寄せていく感じなんですけど、バンドでやるときは、ここは絶対にこの言葉だよなって、メロディに乗せて歌いたい言葉がぱっと浮かんで、そこから膨らませていく感じです。突発的に出てきた言葉なので、それこそインタビューで意味を聞かれても答えられないことが多いんですけど、でもその言葉を発した瞬間っていうのは、自分の中でその言葉を歌いたい / 伝えたいっていう気持ちが間違いなく存在しているんですよね」
大谷 「その言葉を変に意味付けしようとして全体のバランスを取りすぎちゃうと、伝えたいものがブレて、別に歌いたくないことになっていっちゃう。歌の届け方っていろいろあると思うし、本当に人それぞれだと思うんだけど、ひとつの音や言葉の意味だけじゃなくて、伝えたいものを曲全体で伝えられたらいいなって思うよね。音と音の隙間とかも含めて。それこそさっきのエンジニアリングの話にも通じるけど」
―― (渡独前に)ちょうどこの対談のお話をいただいたんで、“そういえば大谷さんってベルリン在住だ”と思って…… (TK)
―― ビールを飲む時間も重要だなって。それも音楽というか。リラックスしてる時間も音楽に繋がるんだなって気付いた (大谷)
――TKくんは数日後にベルリンに行くんですよね。
TK 「そうなんです。せっかくなのでベルリン在住の大谷さんにいろいろ聞かせてもらおうと思って(笑)」
大谷 「うん。何でも聞いてください(笑)」
TK 「大谷さんはベルリンに住み始めてどれぐらい経つんですか?」
大谷 「2010年の2月に引っ越したから、もう3年半ぐらい経つのかな」
TK 「作る場所を探していた感じなんですか」
大谷 「そうだね。20代の頃から、別にどこに住んでいても音楽って作れるんじゃないかと思っていて。だけど30代半ばぐらいまで、日本の音楽界のサイクルで活動してると、なかなかそういうのって思い切りがいるというか。でも、たまたまPolarisを休止することになって、比較的、時間の余裕も出来たから、長い期間、いろんな場所を旅することにして。そのとき、いろいろ訪れた場所の中に偶然ベルリンが入っていて。でも、ベルリンに住むことは最初全然考えてなかったんだよね。それこそ何日か滞在する経由地みたいな感じだったから」
TK 「他にはどんな街が候補だったんですか?」
大谷 「他はニューヨークとか。でも、ニューヨークって東京に雰囲気が近くて」
TK 「時間の流れが速いですよね」
大谷 「イライラしてる人が多いし」
TK 「ロンドンとかもそういう印象ですね(笑)」
大谷 「北欧のほうに行くと、のんびりしてていいんだけど、あまりのんびりしすぎてるのも違うかなって。あとはハワイ島もよかったんだけど。いわゆる芸能人が行く“ワイハ”じゃないほうのハワイ」
TK 「本当の自然が残ってるような」
大谷 「うん。自然に囲まれていて、時間の流れもゆったりしてるから住むには最高だなと思ったんだけど、ここで音楽を作るのは不可能だなと(笑)。絶対やらなくなる(笑)」
TK 「曲の長さが今の倍になりますよ(笑)」
大谷 「それこそ6年に1枚アルバム出すとかじゃなくて、6年に1曲ペースになっちゃうかも(笑)」
TK 「でも、適度なストレスとか刺激っていうのは創作活動をする上では、やっぱり必要かもしれないですね」
大谷 「そういう意味ではヨーロッパ特有の適度に田舎な感じと都会っぽい感じがほどよく混ざってるベルリンって、自分にとってはすごくちょうどいいバランスだったんだよね。センスがいいところとダサイところが絶妙に混ざってる感じも好きで」
TK 「そうなんですか(笑)」
大谷 「ベルリンにも代官山みたいにお洒落な地域があるんだけど、そういう場所でも天然でケミカルウォッシュのGジャンの袖をカットオフしてるハルク・ホーガンみたいな人が堂々と歩いてて(笑)」
TK 「ははははは」
大谷 「でも、誰も気にしてないの。そこがいいなと思って」
TK 「ロンドンもそういう感じがありますね。ロングコートでぶらぶらしてる人の横で、タンクトップ着た人が普通にバスを待ってたり。“自分は自分”という感じで、あまり周りを気にしない感じがすごく心地よくて」
大谷 「あの感じ、すごくいいよね(笑)」
TK 「ベルリンに住むまでは割ととんとん拍子だったんですか?」
大谷 「そうだね。2〜3ヵ月準備して、よし住もう!って」
TK 「すごい(笑)」
大谷 「行ったらなんとかなるかなって」
TK 「言葉の問題はどうでしたか?」
大谷 「最初は苦労した。やっぱり住むとなると、住民登録とか公的な手続きをしなきゃいけないから。でも、当然のことながら書類も全部ドイツ語で。役所の人にそれを無表情で渡されて、こっちがドイツ語を喋れないから明らかにイライラしてるんだよね(笑)。だけど、それを見て教えてくれる人がいたり。やっぱり、なんとかなるんだなって。それでアパートを借りて」
TK 「日本に比べて日常での音楽制作に関してはどうなんですか? 住宅事情とか」
大谷 「日本だと、隣りの人の音がうるさいとか、すぐにクレームが来たり、公園でも音楽禁止とか書いてあるけど、ドイツはそういう意味では、すごく寛容。表現をする人に対して、日本だと考えられないくらいリスペクトがあるというか」
TK 「音楽が根付いているんですね。ベルリンに移住して、音楽を作る上で気持ちの変化はありましたか?」
大谷 「音楽を作るスタンスは、すごく変わった。より、自分のペースでいいんだなと思えるようになって。そこが一番大切だということが分かったし。自分がそのとき何を思って、何を感じているのかということを、そのまま出せばいいんだなって。日本にいるときは、やっぱりいろんなことをすごく気にしながらやっていたんだなっていうのがベルリンに引っ越してからよく分かった」
TK 「じゃあ、より音楽に集中できる環境になったんですね」
大谷 「うん。ものすごく集中できるし、でも逆に、今まで突き詰めすぎてたかなとも思ったんだよね。なんというか、ビールを飲む時間も重要だなって。それも音楽というか。リラックスしてる時間も音楽に繋がるんだなって気付いた。割と自分も、ストイックになりすぎちゃう方だったんだけど、ある種の適当さも大事だなって」
TK 「その感覚、僕もちょっと欲しいですね(笑)」
大谷 「だから“作らなきゃ”と思って音楽を作ることは減った。作りたいと思って作ることが増えたから、それが一番よかったかな」
TK 「本来、それが一番いい形ですよね」
大谷 「うん。なんか歩くときの靴の音が前と変わったなというか。すごく前のめりに歩いているときの靴の音と、自然に歩いているとき靴の音が違うように、今は自分の靴音がすごくいい感じで鳴ってるような気がして。音楽を作る上で気持ちが楽になって」
TK 「やっぱり音楽を作る上ではいい環境なんですね」
大谷 「ベルリンには何日ぐらい行くの?」
TK 「今回は10日ぐらいです。旅先で撮影と曲作りをしようと思って」
――曲はソロ用に?
TK 「そうですね。一応弾き語り用です。今まで楽器を持って海外に行ったことがなかったので、今回、小さいギターを持っていって、向こうで自分の声と楽器だけで曲を作ってもおもしろいなと思って。最初はロンドンに行こうか、それともニューヨークに行こうか、いろいろ迷ったんですけど、ちょうどこの対談のお話をいただいたんで、“そういえば大谷さんってベルリン在住だ”と思って、それでベルリンに決めちゃったんです。出発3日前なのに、まだ宿も押さえてないんですけど(笑)」
大谷 「でもね、大丈夫。行っちゃえばなんとかなる」
TK 「ですよね(笑)。さっきのお話を聞いたら、なんかそんな気がしてきました。なんか、すいませんベルリンの話ばかりになっちゃって(笑)」
大谷 「いやいや全然」
TK 「じゃあPolarisに話を戻して(笑)、次の作品のこととか、もう考えているんですか?」
大谷 「実は今もレコーディング継続中で」
TK 「あ、そうなんですか」
大谷 「うん。今回のミニ・アルバムは、今のタイミングで完成してる曲を発表したという感じで。基本的に断片じゃない、ちゃんとした曲のストックって全然持ってなくて」
TK 「僕も基本的にストックがないので、アルバムはできた曲を全部入れるみたいな感じなんです。といってもそんなにできないので、いつも9曲ぐらいしか入っていないんですけど。アルバムにはそのときの自分自身が全部入ってるんですよ。なので曲のストックも難しいんですけど」
大谷 「古くなっちゃうから」
TK 「そうなんです。だから曲が間に合わなかったから次の作品に入れようとか、そういう大人の対応が出来ないんです(笑)。本当に他の作り方をできないんだなというのを痛感しますね。他の人の作り方が全部羨ましいというか。なかなか変えられない」
大谷 「変えられないよね」
TK 「だからこそ大谷さんもPolarisとして作ればPolarisの音楽になるし、ソロで作ればソロの音楽になるんでしょうし」
大谷 「そうね」
TK 「でも、意識しないで、そうなるというのは不思議ですよね」
大谷 「だから、何かを目指して音楽を作るということがますます少なくなってきて。それをやっても結局自分の音楽になってしまうことが多いから」
TK 「架空の物語みたいなものとか、何度か歌詞で書こうと思ったこともあるんですけど、毎回途中で断念してるんですよ(笑)」
大谷 「断念するよね(笑)」
TK 「自分が作り出す音もそうですし、言葉を生み出すということも、無意識の部分から絞り出してるものだから。結局、自分ではコントロールできないんですよね」
取材・文 / 望月 哲(2013年10月)
撮影 / 原田奈々
ヘアメイク(TK) / Kanae
取材協力 / キチム
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