想像を形にする“宇宙”を舞台とした、Shing02とSauce81の共作アルバム『S8102』

SHING02   2019/03/19掲載
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 SPIN MASTER A-1との共演作となる約11年ぶりの日本語アルバム『246911』のリリースも控えているなど、相変わらず精力的な活動を続けているShing02。彼がもう一枚の新作『S8102』でパートナーに選んだのが、ソウルやファンクの濃度も濃いビート・ミュージックを生み出してきたプロデューサー、Sauce81だ。ここで展開されているのはユーフォニアという惑星を巡る壮大なSF的ストーリー。数年に亘る制作期間を経てついに完成したこのアルバムについて話を伺うべく、ハワイのShing02と逗子のSauce81にSkypeを繋いだ。
――おふたりが初めて会ったのはいつごろだったんですか。
Sauce81 「2012年に仙台でRed Bull Music AcademyのBass Campがあって、そこで初めて会ったんです。自分は過去の出演者としてスタッフ側で関わってたんですけど、そこでシンゴくんがレクチャーをやったんです。僕はもちろんシンゴくんの作品、それこそNujabesさんと一緒に作ったものも含めて聴いていましたし、普通にファンだったんですよ」
Shing02 「僕はフランスのオンラー(Onra)からソースくんの話を聞いてたんですよ。こういう人がいるよって」
――具体的な共同作業は、Shing02さんが脚本・監督を務め、Sauce81さんが楽曲提供したショート・フィルム『Bustin'』(2014年)が最初?
Sauce81 「そうですね。最初は“ありもののトラックを何か提供してくれないか”という話だったんですよ。でも、話し合っていくなかでメインテーマとなる曲を新たに作る流れになって」
Shing02 「風営法をテーマにした映画を作ろうと思って、いろんな人に声をかけてたんですよ。そのなかでDommuneでミーティングをやることになって、そこにソースくんも参加してくれたんですね。そこで宇川(直宏)さんが“ディスコ調のトラックを作ったほうがいいよ”と提案してくれて、実際に作ってもらうことになったんです。期待していた以上のものを作ってくれて、いつかこの恩をきちんとした形で返したいなと思ってたんですよ。その思いが今回のアルバムに繋がっていくわけで」
Sauce81 「『Bustin'』を作り終えたのが2014年の春で、そのあとすぐ、それこそその年の夏には“何かやろう”という話をしていたと思いますね」
――最初の段階でアルバムに向けた具体的なヴィジョンは何かあったんですか。
Shing02 「宇宙的なイメージは最初からありましたね。なんで宇宙にしようということになったんでしたっけ?」
Sauce81 「ふたりとも名前に数字が入っていて、それを組み合わせると“S8102”という並びになるんですよね。その並びがどこか未来的な感じがしたのと、そのころたまたま(手塚治虫の漫画)『火の鳥』を読んでて、その内容についてシンゴくんと話したことがあったんですよ」
Shing02 「僕も手塚治虫さんの大大ファンでして」
Sauce81 「そういう話をするなかで、どちらからともなく“宇宙”というイメージが浮かんできたんじゃないかな」
――これまでのおふたりの作品のなかにも物語的な世界観を持つものは多いですよね。Sauce81さんの別名義であるN'gaho Ta'quiaの『In The Pocket』(2016年)も架空のサウンドトラックという一面も持つコンセプト・アルバムでしたし。
Sauce81 「そうですね。シンゴくんもN'gaho Ta'quiaのアルバムを気に入ってくれてたんで、今回のアルバムを作るにあたって物語的なものは自然とイメージしていたと思います。格好いいラッパーはたくさんいるけど、シンゴくんみたいにストーリーを語れるラッパーはそんなにいない。今回のアルバムもシンゴくんが相手だったからこそできたと思いますね」
Shing02 「N'gaho Ta'quia名義のあの作品はほぼインスト・アルバムですけど、ストーリーもあってすごい完成度だと思うんですよ。ソースくんに言っていいのか分からないけど……あまりに気に入りすぎて、友達にデータを送りまくったんですよ(笑)」
Sauce81 「(笑)」
Shing02 「もちろんプライベートの範囲ですけど、それぐらい好きだった」
――ちなみに、おふたりとも長い海外生活を経験されていますけど、共同作業を進めるうえでのやりやすさもありますか?
Shing02 「厳密にいうと自分はまだ帰国してないですけど、日本を離れているからこその先輩や後輩もないフラットな関係ではありますよね。遠慮なくやりとりできるし」
Sauce81 「シンゴくんと話をするときは日本語のときもあれば英語のときもあるんですけど、日本語のほうが表現しやすいこともあるし、その反面、英語のほうが楽なこともある。そういう意味でのコミュニケーションの取りやすさはあると思いますね」
――では、今回のストーリーはどういうやりとりで構築していったんでしょうか。
Shing02 「まず、宇宙をイメージで語るんじゃなくて、宇宙空間において何が起きるのか、具体的なシナリオとして固めていこうということは考えていました。自分のエネルギーを吸い取るモンスターと出会ったり、惑星から脱出したりという大きなシーンだけじゃなくて、そうした場面に遭遇したときの心理描写、それこそ孤独と戦ったりという地球上でも起きうることをどうストーリーに盛り込んでいくか。アイディアが浮かぶたびにソースくんに提案していった感じでしたね」
Sauce81 「僕のほうでも“宇宙にいったらエイリアンに遭遇するかな?”“どういう惑星に到着するんだろうか?”“ワープするシーンもあるかな?”といった形で想像を広げつつ、その想像をもとに形にしたトラックをシンゴくんに投げていったんですよ。そのなかでシンゴくんのほうから“こういうシーンに合った音を作ってほしい”という意見をもらって作ったり」
――じゃあ、音とストーリーを同時進行で作っていったわけですね。
Shing02 「そうですね。ただ、本気モードに入るまでにはちょっと時間がかかっちゃいましたね」
――具体的な制作はどうやって進めていったんですか。
Shing02 「データのやり取りが基本ですけど、〈SPONGE MONSTERS〉は日本でデモを録りましたけね」
――これまでもShing02さんはさまざまな作り方をしてきましたよね。たとえばCradle Orchestraとの『Zone Of Zen』(2016年)は実際に顔を突き合わせてレコーディングした作品でしたが、データをやり取りするのとどちらのほうがやりやすいんでしょうか。
Shing02 「作品と相手によりますよね。今回のアルバムも制作段階ではいまみたいにSkypeでやりとりすることもあったし、確認作業は常にやってたんですけど、ミキシング自体はRed Bull Music Studios Tokyoで顔を突き合わせながら密にやったんです。やっぱり最終的に同じ場所で聴いてみて、“これでいいね”と一緒に納得することは大事だと思います」
――サウンド面についてなんですが、「STAR DANCE」はファンク度が高かったりと、ファンクやソウルのエキスが濃密に出てますよね。おふたりがルーツとして持っているものが自然に表現されている感じがしました。
Sauce81 「そうですね。『スター・ウォーズ』でもエイリアンが踊ってるシーンでファンキーな曲がかかったりしますけど、〈STAR DANCE〉はちょっとそのイメージがありました。僕自身、ファンクやソウルのアフロ・フューチャリズム感にはすごく影響を受けてますし、そこが伝わったら嬉しいですね」
Shing02 「ソースくんの音ってファンクやソウルみたいにルーツ的なものもありつつ、最先端のビート・ミュージックという面もあって、そこが好きなんですよ。僕も最先端のプログレッシヴなものを追いかけてきたので、今回もそういう作品を作りたかったんですよね」
――今回、Sauce81さんはビートメイキングだけじゃなく、ヴォーカルやコーラス面でも重要な役割を担ってますよね。歌詞はどうやって書いていったんですか。
Shing02 「僕が書いたものをソースくんが投げ返してくれたり、ピンポンの作業で埋めていった感じですね」
Sauce81 「そうですね。ストーリーテラーであるシンゴくんが語ったものに対して、コーラスパートでどう反応していくかという流れが多かったかな」
Shing02 「最初の構想段階ではビートの上でソースくんの歌と俺のラップが乗ってるというシンプルなイメージだったんですよ。でも、作っていくなかでいろんなパターンが出てきて、〈EUPHORIA〉という曲ではソースくんがスケールの大きなコーラスを組んでくれた。ソースくんのマルチな側面もちゃんと表現したかったんですよ」
――ラストにはマデリン・ブロシエとShing02さんのコラボ曲「BRING ME HOME」のリミックスが収められていますが、まさにラスト・シーンという雰囲気ですよね。
Shing02 「タイトルは〈BRING ME HOME〉ですけど、実は地球に戻れない宇宙飛行士の話なんですよ。ラスト・シーンというよりはエンドロールの感覚に近くて、音楽的にいえばボーナストラック。原曲は悲しいムードの曲なんですけど、それを膨らませていくなかで、地球から遠く離れた惑星に住む人が故郷を思う曲になりました」
Sauce81 「ただ、主人公はまだ宇宙にいるわけで、このあと地球に戻るのか、もしくは他の惑星に向かうのか、そこは自分でも分からないんですよね」
――そうやって話を聞いてみると、エンドロールの最後に“To Be Continued”というテロップが浮かび上がってくる感じもしますね。今後もまだストーリーが続いていきそうな……。
Shing02 「うん、続いていったらいいですね。いろいろと計画はあるんですよ」
Sauce81 「そうですね。シンゴくんがストーリーを上げてくれさえすれば、こっちは音を作るだけなんで(笑)」
Shing02 「頑張ります(笑)」
取材・文 / 大石 始(2019年3月)
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