[Live Report]syrup16g Tour 20th Anniversary “Live Hell-See”

syrup16g   2023/06/09掲載
はてなブックマークに追加
※今回のライヴ・レポートはネタバレをふせぐため、エディット・バージョンでお届けします。コンプリート版は7月13日にあらためて公開します。
 6月1日、syrup16gの全国ツアー〈syrup16g Tour 20th Anniversary “Live Hell-See”〉の初日、東京・豊洲PIT公演が開催された。ツアー・タイトルが示しているとおり、このツアーは2003年にリリースされたフルアルバム『HELL-SEE』の20周年を記念したものである。本作がリリースされた当時、このバンドが20年後に自分たちのアルバムのアニバーサリーライヴをやるなんて、想像できた人がいただろうか。見るからにギリギリなテンションで、生き急ぐような活動を展開していた、あのバンドが。
 本当に人生とは想像がつかないことばかりで、未来は、何が起こるかわからない。
syrup16g
syrup16g
syrup16g

New LP
syrup16g
『HELL-SEE』(20周年記念アナログ盤)(UKDZ-0239)

 開演前に会場に入ると、場内BGMにはジョージ・ハリスン『All Things Must Pass』の楽曲が流れていた。メンバーの選曲なのかどうかはわからないが、「すべては過ぎ去っていく」とは、この日のライヴになんとも染みる言葉だ。私事だが、高校生の頃に私が初めて買ったsyrup16gのCDが『HELL-SEE』だった。本当は、リリースされたばかりでラジオでもよく流れていた「My Song」のシングルを買おうと思って地元のHMVに行ったのだが、いざ売り場に行ってみると隣に並んでいた『HELL-SEE』の15曲入り1500円という異様なサイズ感とバランスに惹かれて、こっちを買うことにしたのだ。なけなしのお小遣いでCDを買っていた時代の、10代の少年の選択である。
 家に帰り、CDを自室の安コンポで再生してみる。ソリッドなサウンドに乗せて、倦怠と苛立ち噛んで噛んで吐き出したような歌声が聴こえてくる――“さっそく矢のように/やる気が失せてくねぇ/「あっそう」って言われて/今日が終わる”。当時、ロックやバンド・ミュージックに関しての知識なんてまったく持ち合わせていなかった自分は、1曲目「イエロウ」の下敷きになっているのがザ・ポリスの「Synchronicity 機廚任△襪箸、そういうことはいっさいわからなかったが、まぁとにかく、夢中になって聴いた。その後も、繰り返し繰り返し、聴いた。曲から、歌詞から伝わってくる、たしかな「生」の臭気と触感、孤独の冷たさと温かさ……それは、10代の自分にまったく新しい価値観をもたらした音楽だった。
 そんな時間も過ぎ去って、今。今でも『HELL-SEE』は時折、取り出して聴くアルバムだが、このアニバーサリーライヴで自分がどんな気持ちになるかは、一切想像がつかなかった。きっと、同じような気持ちの人は会場に多かっただろう。
syrup16g
syrup16g
syrup16g
 結果として、ライヴは素晴らしいものだった。まず特筆すべきは熟達した演奏の凄みである。中畑大樹(ds)とキタダマキ(b)によるリズム隊の強靭で饒舌なダイナミズム。そして、「この人は、この人でしかありえないのだ」と強く実感させる五十嵐隆(vo,g)のギタープレイとヴォーカル。syrup16gというバンドは間違いなく、「3ピースバンド」という範疇における最高峰であると体感させられた。
 2023年にライヴで『HELL-SEE』の楽曲を聴くことに感慨深さはあったが、実際のところ、それは思い出の中で迷子なるようなものではなく、「人という生き物は、ずっと迷子なのだ」と伝え続けてきたsyrup16gというバンドの業や普遍性を痛感させられるという点においての感慨深さだった。
 たとえば冒頭、激しく獰猛な「イエロウ」から一転して、「不眠症」の透明なメロディがあふれ出す、あの唐突に視点がスイッチするような感覚。この『HELL -SEE』というアルバムには、“予定調和に愛を”(「イエロウ」)なんて歌いながらも、わかりやすい予定調和なんていうものは存在しない。怒りと安寧が、慈愛と悪意が、絶望と希望が、酩酊と素面が、爆笑と失笑が、眠れない夜と眠りすぎた夕方が、1枚のアルバムの中で脈絡もなく立ち昇っては消えていく。「これが人間だろう?」――そんなことを突き付けるようなそのリアルさは、この2023年にも色褪せることはなく、むしろ、その説得力を増しているようにも思える。
syrup16g
syrup16g
syrup16g
 「(This is not just)Song for me」など穏やかな名曲、曲に描かれた人間の心の動きにどうしようもなく胸を突き動かされる、「シーツ」や「吐く血」……本当に『HELL-SEE』には名曲が多い傑作であるとあらためて感じた。さらに、この6月1日は、五十嵐の50歳の誕生日でもあった。五十嵐が「I'm 劣性」の「30代いくまで生きてんのか俺」という歌詞を「50代いくまで生きてんのか俺」と歌うと、会場は大きな歓声に包まれたのだった。
syrup16g
syrup16g
syrup16g


取材・文/天野史彬
撮影/河本悠貴
Live Information
〈syrup16g Tour 20th Anniversary “Live Hell-See”〉
6月1日(木)豊洲PIT
6月8日(木)仙台Rensa
6月15日(木)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
6月16日(金)福岡DRUM LOGOS
6月20日(火)柏PALOOZA
6月22日(木)札幌PENNY LANE 24
6月28日(水)大阪なんばHatch
6月29日(木)名古屋DIAMOND HALL
7月2日(日)横浜1000 CLUB
7月5日(水)京都磔磔
http://www.syrup16g.jp/
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] Melting pot   パンク経由で鳴らす ソウル・ミュージックとグッド・メロディ[インタビュー] Nina77 YouTube再生回数86万回以上の代表曲 「一人ぼっちの革命」を含む初CDリリース
[インタビュー] ヒビキpiano 超絶ピアノで紡ぐ やさしく心安らぐ楽曲たち[インタビュー] 橋本淳&筒美京平コンビの最後の傑作「ホテル砂漠」でデビューする新人アーティスト「夏海姉妹」
[インタビュー] 山中千尋 その自由さにあこがれるウェイン・ショーターと坂本龍一に捧げられた新作[インタビュー] 色々な十字架   噂の“ヴィジュアル系バンド” 初のフィジカル・アルバムをリリース
[特集] 『コンサート・フォー・ジョージ』ポール、リンゴ、クラプトン…豪華メンバー出演の追悼公演を収録する映像作品が劇場公開[インタビュー] キノコホテル 全従業員退職の試練を乗り越え営業再開、“人間”マリアンヌ東雲が語る新作と現在地
[インタビュー] 松井秀太郎 やりたいことを詰め込んだアルバムを携え、新世代のジャズ・トランペッターがデビュー![インタビュー] akiko / 海野雅威を迎え制作したオーセンティックなジャズ・スタンダード集を発表
[インタビュー] 工藤祐次郎 飄々とした佇まい 注目のSSW、2作同時リリース[インタビュー] 満島貴子 ボーダーレスなフルート奏者 ラグジュアリーで情熱的な新作
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015