形に残すことの大事さ 輪入道×N0uTY

輪入道   2019/02/21掲載
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 『フリースタイルダンジョン』2代目モンスターとして活躍中、2018年5月には主催イベント〈暴道祭〉をスタートさせ、ライヴで全国を駆け巡るラッパー輪入道。彼が主宰するレーベル、GARAGE MUSIC JAPANではこれまで彼自身のソロ・アルバム2枚(2013年の『片割れ』と2017年の『左回りの時計』)やDOTAMAMU-TONdj hondaとのコラボ・シングル「TAG SHIT」などを発表してきたが、この2、3月はリリース・ラッシュとなる。

 まずは2月20日、輪入道の客演・コラボ曲集『助太刀』。3月20日には彼のサード・アルバム『HAPPY BIRTHDAY』と同時に、先述の暴道祭で所属が発表された西東京の23歳、N0uTY(ノーティ)のファースト・アルバム『悪戯』をリリースする。この3作品について二人に話を聞いた。N0uTYは初めてのインタビューだったそうだが、緊張しながらも堂々の応答ぶり。その様子を眺める輪入道の柔らかい笑顔も印象的だった。
――N0uTYさんをレーベルに迎えることになった経緯からおうかがいできますか?
輪入道 「一昨年かな、千葉のLOOM LOUNGEっていうクラブに後輩のイベントに遊びに行ったときに偶然ライヴを見て、すごいかっこよかったんで僕から声をかけました。ちょうど4月に『左回りの時計』のリリース・パーティを控えていたので、出てほしいなと思って。般若さんとかさんとか十影さんとか、錚々たる先輩方が出てくれることになってたんですけど、その一発目でね。僕はイベントの一発目ってすごい大事だと思ってるんですけど、いざ出てもらったら、アウェイにもかかわらず全然カマしてくれたんです。それでやべえなって思ったのがまずひとつ。もうひとつは、彼は千葉のバトルによく出ていたんですけど、とにかく強くてガンガン優勝しちゃうんですよ。で、去年の5月にbayfmと共同で主催した〈輪入道のSEASIDE HOOD〉っていうイベントでMCバトルをやったときも優勝して、これは入ってもらうしかないな、と僕と裏方とで意見が合致しました」
――N0uTYさんは声をかけられたときどう思いましたか?
N0uTY 「レーベルの仕組みとかにはまったく無知だったんですけど、無知なりに入りたいなって思ってたレーベルのひとつだったので“えっ、ほんとっすか?”みたいな戸惑いもありつつ、喜んで、って感じでした。自分がラップを始める前、MCバトルやライヴの動画を見漁っていたときから、すげえかっこいい人だなって思ってたんですよ。ラッパー以前に男として尊敬できる感が動画越しにも伝わって。初めに会ったのは千葉の〈BROTHER〉っていう野外イベントで、そのMCバトルで優勝したとき、たまたま自分の誕生日だったんで、自分へのごほうびとして一緒に写真撮ってもらいました(笑)。その優勝から千葉でのライヴのオファーをもらって、そこで輪入さんに見ていただけたことがリリース・パーティにつながっていったので、始まりはBROTHERだったのかなって思います」
――輪入道さんはN0uTYさんのどんなところに惹かれましたか?
輪入道 「とにかく言葉が強いんですよ。ビート・アプローチも独特で、世代的にはトラップ基調のアーティストが多いのに、そこじゃないところに影響を受けてる。B.I.G.JOEの『監獄ラッパー』に感銘を受けて始めた、みたいなバックボーンにも共感するものがあったし。僕はずっと千葉を大事にしてきてるので、BROTHERでチャンピオンになってプロップスを得たことも大きいですね。彼自身のフッドは西東京ですけど、そこはあんまり考えないで、直感で。千葉では地元のやつだと思われたりしてますから(笑)。あと単純に、知名度が実力に全然追いついてないんで、できることはしたいなって」
――こいつとはうまくやれそうだ、みたいな予感もあった?
輪入道 「そこはやってみないとわかんない部分もあるんですけど、若いアーティストを入れて次の世代に自分が伝えられることは伝えていこうみたいな話をちょうどしていた段階でもあったので、そこにいちばんハマったのがN0uTYだったんですね」
――次の世代に伝えるみたいなことを考えるのはちょっと若くないですか?
輪入道 「あ、そうですね(笑)。まだギリギリ20代ですから」
――実際、一緒にやってみていかがですか?
輪入道 「『HAPPY BIRTHDAY』の中に1曲フィーチャリングで〈RISK〉という曲が入ってるんですけど、制作はすごくスムーズでした。“自分のヴァースちょっとアレだったんで録り直しますね”みたいなことも含めて、あんまり気を遣わずにその場で言ってくれるんで。後から“やっぱりちょっとあれは……”みたいになるとかえって困るじゃないですか。彼の中でイメージしたものになるまで妥協せずにやれるタイプなんですよ」
――そこはN0uTYさんも遠慮なしに言っていこうと?
N0uTY 「そうですね、やっぱり言っていかないと。いまおっしゃってた通りで、あとあと引きずるのがいちばんダメだと思うんで、そこだけは徹底しようと思ってました」
輪入道 「俺はけっこう言えないタイプでした(笑)。そこはダメだなって自分で思うので、言ってくれるのはありがたいです」
――23歳ですよね。
N0uTY 「8月に24歳になります」
――輪入道さんは29歳でしたっけ。
輪入道 「そうです。早生まれなんで、学年でいうと6つ違いになりますね」
――20代にとっては5コ6コ上だとすごいお兄さんって感じがしませんか?
N0uTY 「しますね。大人!って感じです」
輪入道 「全然ダメやろ俺(笑)」
N0uTY 「でも、18歳のときに思い描いてた23歳といまの自分が違うっていうか、18歳のまんま進んでいってる感じなんですよね。だから自分が29歳になってもあんまりいまと変わんないんじゃないかな、ともちょっと思います」
輪入道 「彼は6コ離れてるとか、そういう感じはあんまりしないですね。すごいしっかりしてるんで。べつに意識してとかじゃなくて、普通に子供扱いしてないんですよ。逆に手加減なしでやれる相手じゃないと(レーベルに)入れないです」
――まず『助太刀』のことからお訊きしていきたいんですが、比較的近年の曲が多い中で、2009年の「チンピラ」が目立っていますね。
輪入道 「自分で聴くと恥ずかしいです(笑)。ほんとは出したくないくらいの曲なんですけど、他にもその時代の曲がいくつか出てきて、いちばん恥ずかしくなかったのがこれ、っていう感じです。やっぱり19歳なんで、声はもちろん言ってることも若いんですけど、それでもこれは世に出しておいたほうがいい曲かもしれないと思って入れました。当時、赤落プロダクションっていうくんのレーベルに入って活動してまして、そのときに作った曲なんですよ。去年の12月に〈THE 罵倒2018〉のグランドチャンピオンシップで優勝したときに、鬼くんがゲストで出ていて、久しぶりにライヴを見て“全然前と違ってすげえ!”みたいに食らって、話もして、“3月20日にイベントやるから出てくれよ”って連絡をもらって、その後に僕から『助太刀』に〈チンピラ〉入れたいなと思って連絡して……っていう流れでした」
――未発表だったんですよね。
輪入道 「はい。もともとファースト・アルバムを赤落プロダクションから出す流れになってたんです。8〜9割完成してたんですけど、いろいろあってお蔵入りになってしまって。その中の1曲なので、これに入れなかったら永遠に世に出なかったと思います」
――貴重ですね。選曲の基準みたいなものはありましたか?
輪入道 「他で出す機会がなかった曲で、このまま埋もれていくのはもったいないな、と思った曲を入れた感じですかね。例えば〈板橋(2018.9.8地域活性化)〉は板橋駅前の商店街で開催された〈板橋JCT Challenge FES〉っていうイベントのために作った曲なんです。板橋の友達や先輩が自分が落ちてるときに――それこそ〈チンピラ〉ぐらいの時期ですけど――“どうした?”とか“飲みに行こうぜ”とか気軽に声をかけてくれて、いまもすごく感謝してるんですよ。クラウドファンディングに出資してくれた人に渡す特典CD-Rに入れた曲なので、それだけで埋もれていくのは惜しいなと思って入れさせてもらいました」
――1曲目の狐火さんのカヴァー「27才のリアル」は、発表した当時もすごく話題になりましたよね。
輪入道 「これはほんと狐火さんに感謝ですね。17歳ぐらいのとき新宿で初めてライヴを見たんです。〈僕に5分だけ時間をください。〉を本当に5分しかないショーケースで歌ってて、すごいなこの人、って思って、初めて現場でCDを買ったのが狐火でした。それから何年か、一緒にライヴに出たり、〈シンドラーズ〉っていうイベントで空也MCと3人でやったりしていく中で、彼があの曲を出して。自分も27歳になったらやりたいなって、ぼんやり思ってたんですよね。いざその歳になったらだいぶ状況が変わってて、当時考えてた27歳とはけっこう違ったんですけど、2017年の締めに絶対にやろうと思って、狐火さんに連絡してトラックをもらって、書いて速攻YouTubeに上げました」
――思っていた27歳とはいいほうに違いましたか? それとも悪いほう?
輪入道 「いいほうです(笑)。狐火さんの〈27才のリアル〉は音楽だけじゃ生活できないっていうリアルじゃないですか。それってやっぱりなかなかみんな歌えないことなんですよ。ポエトリー、ヒップホップ関係なく、狐火にしか出せないメッセージっていうことでみんな食らったと思うんですけど、それを受ける形で空也MCも27歳のときに〈27才のリアル〜空也MCのREMIX〜〉で自分のリアルを歌って、僕も最初そういう方向性で書こうと思ってたんですけど、自分の場合はすごくありがたいことに、2016年の末にそれまでやってた仕事を辞めて、どうにか音楽だけでメシが食えてるなって。じゃあ俺のリアルは何だろうって考えたら、とにかく仕事がほしいなと。それをそのまま書きました」
――客演に呼ばれた場合のテーマみたいなものはありましたか?
輪入道 「人それぞれあると思うんですよ。“邪魔しない”とか“絶対食ってやる”とか。俺の場合は、自分に何が求められているのかを解釈し切ってから書き始める、っていうことをけっこう大事にしてて。何人かいるマイク・リレーなんかだと、絶対に俺の役割ってあるわけじゃないですか。それが正しいか間違ってるかは別にして、明確にしてからやるということを最初からずっと意識してますね。“そうきたか”みたいに言われたこともありますけど、俺の中での解釈はもう絶対にこれだ、っていうのをビシッと決めてから作ることを大事にしてきたし、いまもしてます」
――呼んでくれた方と話して、ですか? それとも自分で想像して?
輪入道 「半々っすね(笑)。訊けないときもあるんですよ。そういうときは現場で出たとこ勝負みたいな感じです。なんでここに俺を呼んだんだろう?みたいなときもあって、まだリリースされてないある音源なんかは、主役のラッパーが先に48小節ぐらいラップしてるんですよ。で、いちばん最後に“カマしてくれー!”みたいにドーンと音が変わって16小節丸投げみたいな。俺は何を求められてるんだ? どうすりゃいいんだ?って(笑)。迷いに迷ってどうにか固めて、当日レコーディングしたら、エンジニアに“よくやったね〜、俺だったら全然わかんなかったよ!”って言われました(笑)」
――18曲すべて自信作だと思うんですけど、あえてどれか選ぶとしたらどの曲でしょう?
輪入道 「1曲選ぶとちょっと弊害があるんですけど(笑)、強いて言うなら……」
――強いてどころか、僕に強いられて言うとしたら、でけっこうです。
輪入道 「裂固との〈Coast to coast〉ですかね。これは自信がすごくあります。俺がやることはこれだ、って本当にはっきりした状態で書くことができたリリックです。自分のヴァースも掛け合う部分も、まったく迷いなくできました」
――二人で一緒に作ったみたいに聞こえます。
輪入道 「もともと裂固のヴァースがあって、それをもらってこっちで書いたんです。彼が主催した〈シャッターチャンス〉っていうイベントで岐阜に呼んでもらったときにレコーディングすることになっていたので、そのとき初めて俺のヴァースは披露しました。そしたら“バッチリです!”みたいに言ってくれて、掛け合いの部分は二人で作っていきました。すごくまとまりのあるものになりましたね」
――DJ Deckstreamさんとの「You Only Live Once feat. 漢 a.k.a. GAMI & 輪入道」も複雑な二人の掛け合いが面白いです。
輪入道 「ライヴだとなかなか再現できないんですよ(笑)」
――さっき「板橋」の話が出ましたが、新作の「函館夢花火」を聴いたときも思ったんですけど、「徳之島」を筆頭に輪入道さんって土地ものが合うというか、いいなぁと思いまして。そういう要請があってきた話だったりするんでしょうか?
輪入道 「いや、そういうわけではないです。梅島の人に“〈徳之島〉の次は〈梅島〉作れよ”って言われて“足立区、近すぎじゃないですか”なんて話したりはしますけど(笑)。でも土地からもらうパワーってすごく大事で、『左回りの時計』を出す前も、これを出したらもっといろんなところに行けるだろうなって思ったし、実際に行ったことのない土地にトランク・ケースにCDを詰めて行って売る中で“ここは優しかったな”とか“ここは厳しかったけどすばらしかったな”とかいろいろ考えるから、書こうと思えばけっこういくらでも書けるんですよ(笑)」
――行ったことのある場所ならだいたい書けると。
輪入道 「書けます書けます。一個一個に全部ちゃんと思い入れがあるので」
――輪入道さんの特徴というか長所だなって思うのが、目や耳にした情報の断片から想像して作り上げた、その向こう側の眺めみたいなものにすごく味があるところです。
輪入道 「ありがとうございます。〈徳之島〉に限って言うと“日記つけてる?”とか言われたことがありますけど、実際にはリリックを書きながらどんどん思い返していくんですよ。その中でたまに自分の中でうまい表現みたいなのが出てきたりして。“黒糖の味がした小型プロペラ機”とか、あー、いいこと言ってんな俺って(笑)。実際に飛行機の中で黒糖のお菓子が出るんですよ」
――あともうひとついいなと思うのが、ひとつの曲の中でもスピードを変えて聴き手の感情を揺さぶれる技術の高さで。
輪入道 「あー、リズムは大事にしてるかもしれないです。フリースタイルでライヴをやってたころ、用意してたトラックがだいぶBPMが下がった状態で出ちゃったりすることがあったんですよ。バックDJのミスというよりは僕からの伝達不足なんですけど、そうなると初めて聴く曲に合わせて歌うみたいになるじゃないですか。それでも途中で止めるのは性格的にイヤなんでそのままやり切って、次の曲からバチッと合って“よっしゃ!”ってさらにいっちゃうみたいな。そういう経験が大きいんじゃないかと思いますね」
――N0uTYさん深く頷いていますけど……。
N0uTY 「“へぇ〜”って思ってました」
――(笑)。納得する部分もあったんじゃないですか?
N0uTY 「確かに、自分もリズムというか聴き心地を大事にしながら言葉はちゃんと選んでるつもりです」
――あと思い入れの強い曲というと何がありますか?
輪入道 「〈TAG SHIT〉ですかね。これは『ダンジョン』の2017年末の特番でチーム・バトルをやったとき優勝した3人で作ったんですけど、その勢いで“一緒に曲やろうよ”“いいね、いいね”で終わるんじゃなく、ちゃんとdj hondaさんにビートをお願いして曲にできたっていうところが、すごく自分の中で大きいんです。『助太刀』ってタイトルですけど、ここでは俺がMU-TONとDOTAMAくんに助太刀してもらってるみたいな」
――新作『HAPPY BIRTHDAY』もまだ全曲ではありませんが聴かせていただきました。過去2枚のアルバムはひとりで歌い切った輪入道さんが、ここで客演を解禁されたことにはどんな背景があったんでしょうか。
輪入道 「自分の作品をワン・マイクで作り切ることにこだわってました。ずっとフリースタイルだけでライヴをやってたんですけど、初めてリリックを書いたきっかけが友達や先輩が客演に呼んでくれたことだったんですよ。なので、自分名義の作品に客演を呼ぶっていうのは俺的には大きいことで、それはまだちょっとできないな、ってことで1枚目、2枚目はワン・マイクで作り切ってやろうって。3枚目になって、N0uTYもレーベルに入ってくれて状況が変わってきたことを受けて、よし、今度は俺が客演を呼んでみよう、っていう気持ちにやっとなりました」
――「RISK feat. N0uTY」の他に「UNDERGROUND ROOTS feat. Zeebra」あり、「YELL feat. eill」あり、「時を超えて feat. 北斗」あり、「ALIVE feat. GADORO & DJ SOULJAH」あり。非常に幅広いですが、選び方はどのように?
輪入道 「ざっくりで申し訳ないですけど、直感ですね(笑)。ジブさんは絶対に呼ばないと、って思ってましたけど、トラックから導かれる部分も大きいんです。BERABOW BEATSっていう秋田のトラックメイカーが作ってくれたんですけど、トラックを聴いたときにすぐジブさんが浮かんで。UZIさんとの〈Knock Out〉(2002年)みたいな感じで、これから何かするぜ、ってときに目を覚まさせられるような曲をジブさんと作れたら最高だな、って思って自分のヴァースを書いて送って、っていう流れでした」
――Zeebraさんのラップはどうでしたか?
輪入道 「食らいました。やっぱりラッパーはラップしてるときがいちばんかっこいいなって、当たり前のことなんですけど、あらためて思いましたね。〈64 BARS LIVE〉(2018年10月)のときも誰よりトラップうめえ!って思いましたけど、ほんっとに進化し続けてるんだなって。ジブさんがブースに入ってマイク・チェックしてるだけで“うおおおお”ってどうしても上がってしまうというか。やっぱり血は争えないですね(笑)」
――eillさんは対照的に、最近メキメキ頭角を現してきている新人シンガーです。
輪入道 「10月の彼女のデビュー・ミニ・アルバム『MAKUAKE』のリリース時にbayfmの番組(『輪入道の暴走ぱんちらいん』)に来てくれたんです。話をして曲を聴いて、すげえいいじゃん! 一緒にやりてえな!って思って、自分からオファーしました。いまのうちに作っておいてよかったみたいな(笑)。それぐらい彼女はドーンといくと思ってます」
――僕も大好きです。「時を超えて」の北斗さんは?
輪入道 「彼は仙台のシンガーなんですけど、ここでギターを弾いてるウエノレイと3人同い年なんですよ。で、一緒に曲作ってみようよって言って名義も決めずにスタジオに入ったら、1日でできちゃって。もともと北斗名義で出そうって話だったんですけど“よかったら俺の3枚目に入れさせてくんない?”って言ったら二人とも“いいね!”って言ってくれました」
――「ALIVE」のGADOROさんもすごいラッパーですよね。
輪入道 「すごいです。最初に見たのは『ダンジョン』で、収録が一緒だったんですよ。存在は知ってたしバトルの動画も見てたんですけど、初めて生で見てなんだこいつは!と。すっげえおっかねえやつだなって。本当にハングリーっていうか、ゼロから来てることが言葉にしなくても立居振舞で伝わってくるんですよね。その後バトルで何回か当たって、僕は結局負け越してるし、3月にはメジャー・デビューもするし、正直悔しいんですよ。けどそれ以上にむちゃくちゃうれしいんですよね。彼みたいなやつが勝ち上がっていくことが。最初に見たとき、こういうやつが来るのを待ってたな、ぐらいに思ってしまった自分がいて。同じプレイヤーとしてはそんなこと考えちゃダメなんですけど。そういう意味では今回この曲をやれて、しかも彼の曲に僕が客演した〈真っ黒い太陽〉とは全然違ったテイストの曲になって、すごくよかったなと思ってます」
――前にCDジャーナルWebに載ったインタビューで、輪入道さんは2018年は正念場になると言っていましたよね。いま振り返ってみてどうですか?
輪入道 「正念場でしたね。ほんと我慢の年っていうか、一生忘れられない年になったのは間違いないです。自分の中での話ですけど、いっぱい勉強させてもらった1年でした。そういうことも〈自業自得〉という曲で全部歌ってますけど、6月に一時レーベルの裏方を換えたんです。その下半期が地獄でしたね。表にはうまくいってるように見えてたかもしれませんし、僕も絶対に見せないって覚悟を決めてカッコつけてましたけど、内情はめちゃくちゃでした。何もかも自業自得です。結果、N0uTYをすごく振り回してしまったんですけど、曲がらずについてきてくれたんで、これから俺ができることは何でもやってあげたいなと思ってます」
――N0uTYさんはそのあたりは?
N0uTY 「自分が入りたいって言って入ったレーベルの上の人がこうするって言うなら、俺はついていくしかないというか。それ以外の選択肢は俺にはない、っていうのがあったんで、あんまり振り回されたっていう感覚はなかったです」
――そういうことは歌にする以外には話さないようにしているんでしょうか。
輪入道 「本当の身内や身近な人間以外には話しませんね。愚痴になってしまうし、何より自分で選んでそうなったという部分が大いにあったし。ただ自分が間違ってるってわかったときに、早く誠意をもって謝るってことを覚えました」
――でもいろいろあった結果、『HAPPY BIRTHDAY』と言えるいまがある?
輪入道 「そうですね。生まれてきてくれてありがとう、って感じです(笑)」
――いよいよN0uTYさんの話に移ります。『悪戯』には「凍京18」という曲が入っていますが、2017年の7月に「凍京17」という曲も発表されていますよね。
N0uTY 「続編って感じですね。『悪戯』っていうのは最初に作ったEPと同じ名前で、曲も録り直してたりするんですけど、そのEPに入れていたのが〈凍京17〉です」
――この2曲を聴くと、なかなかヘヴィな青春時代を過ごしてきたんだろうなと……。
N0uTY 「わりとポジティヴなんで、それはそれで楽しかったなって感じです。“大変だったねー”みたいに言われることもあるんですけど、逆に“いや、俺そんなかわいそうじゃないすけど”って(笑)。そのときはズーンと下がるんすけど、後になってみれば、いまこうやってリリックを書けたりしてるんで、逆によかったなって思います。〈凍京18〉で『監獄ラッパー』を読んだ話をして“俺もこんな風に自分のことを書けたら”って締めてますけど、B.I.G. JOEさんは、何でも曲に書くんですよね。それを見て、これもありなんだ、って思ってたんで、自分が始めるときは逆に、隠しごとはしちゃいけないんだなって強く思いました。カッコつけてきれいなことを書くのは、誰にでもできるっていうか。自分しか経験してないことを書くことが個性なんだ、って思いながら、いつもリリックを書いてます」
――輪入道さんが何かの記事で“自分発のリリックばかりだとネタ切れしませんか?”みたいに訊かれて“トラックがあるから同じ経験からも違う言葉を書ける”と答えていたのがとても印象的でしたが、そういう感覚はN0uTYさんにもありますか?
N0uTY 「あります。自分の言葉よりもビートのほうが意志を持ってるというか、テンポや曲調が求める言葉ってあるんですよね。そういう意味では一対一で対話してるみたいな部分があると思います。リリックを書いてビートを選ぶんじゃなく、ビートを選んでからリリックを書き始めるので」
――ラッパーにはビート先行の人が多いイメージがあったんですが……。
N0uTY 「リリックを書いてからビートに合わせて調整していく、っていう人もいますね」
輪入道 「音が聴けない環境で書かなきゃいけない場合もありますからね。パクられてたりとか(笑)。そうすると必然的にリリック先行になる、という話を前に先輩から聞きました」
――『悪戯』もそうして作っていったんですね。
N0uTY 「最初のEPと同じタイトルにしたことには理由があるんです。俺がラップを始めたときにバックDJ兼トラックメイカーをやってくれてたKweint Houseっていうやつがいるんですけど、途中で理由がわかんないまんま飛んじゃって。そこからはいろんなトラックメイカーの方に提供してもらって作っていったんですけど、なんだかんだでいちばんしっくりきたのが彼のトラックだったんですね。〈Ping〉とか〈Syndrome〉とか〈Boring world〉とか。〈凍京17〉もKweint Houseが作ってくれたトラックでやったし、〈凍京18〉も彼のネタを元に作って、それをMarbyさんが再構築してくれたみたいな感じなんです。このアルバムは全国流通がかかるんで、いつかどこかで目に入って気づいてくれるように、と思ってこのタイトルをつけました。誰かに聴いてほしい、じゃなくて、Kweint Houseにいちばん聴いてほしいんです」
――完全に音信不通なんですか?
N0uTY 「まったく。実家に帰ってるのか、まだ東京にいるのか、はたまた別の県に行ってるのかもわかんないんです」
――N0uTYさんにとってKweint Houseさんはとても大事な人なんですね。
N0uTY 「はい。いまでも思ってます」
――聴いてくれたらいいな、本当に。僕も祈っています。N0uTYさんは〈X〉というイベントも主催していますよね。
N0uTY 「Kweint Houseと似たような感じなんですけど、地元のSONNYっていうラッパーが、よくわからない理由で、ラップやらなくなっちゃったんですよ。2016年のUMBの西東京チャンピオンとして本戦にも出たやつなんですけど、できない状況になったのか、もうやりたくなくなったのか。で、みんな“待ってるよ”“いつでも帰ってこいよ”って言うんですけど、口だけで行動に移さないんですよね。だから俺が帰れる場所を作って、SONNYが戻ってきたときに“じゃあライヴしてよ”って言えるようにしたいって思ったんです。同時に、“あれ? 戻ってきたはいいけど、ちょっとレベル違うな”って思ってもらえるぐらい、俺やまわりの友達――そんなに多くはないんですけど――がカッコよくなってれば、逆にやる気を出してくれるんじゃないかなって。だったらイベントを開くのがいちばん早いのかな、と思って始めたんですけど、やるんだったらちゃんとやろうと思って。俺より下の子たちとかは“ライヴします”ってSNSに書くだけでたくさん来てくれるって思いがちなんですけど、やっぱり名前のある人じゃないと、せいぜい5人がいいとこなんですよ。でも演者が10人いれば、自分が集めた5人以外に9人それぞれが5人連れてきてくれたら、合計45人の自分のことを知らないお客さんに見てもらえるわけじゃないですか。その機会をどんどん増やしていきたくて、毎回違う演者を呼ぶんですけど、レギュラー陣には“俺らは絶対に食われちゃダメだ”って言ってるんです。そうして刺激し合って、でもその中でいちばんやばいのは俺だからね、って証明するというか、闘争心を絶やさないように」
――いつごろからやっているんですか?
N0uTY 「次の5月で1周年になります。2か月に1回、渋谷のUNDER BARのナイト・イベントで、いちばん多いときで120人ぐらい来てもらえました」
輪入道 「キャパ考えるとそうとう入ってるんですよ」
N0uTY 「でも、1月に新年会的なことをやったら20人くらいしか入んなくて(笑)。あ、やっぱりそうなんだ、ゆるくやっちゃいけないんだな、って思いました」
輪入道 「俺、それに行ったんだっけ?」
N0uTY 「そうです(笑)」
輪入道 「週末は地方に行ってることが多いんですけど、そのときはたまたま渋谷にいたんで、よっしゃN0uTYのイベントにやっと行ける!って勇んで行ったらガラガラで、“120人とか言ってたのに全然いねえじゃねえか!”って(笑)」
――次はガッツリ見せたいですね。Xは切磋琢磨の場?
N0uTY 「ですし、クラブで遊ぶ人を少しずつでも増やせれば。あと、別物と言うべきではないと思うんですけど、MCバトルばかりして自分のことをラッパーって言ってる子たちに、リリックを書くことの大切さを伝えたいって気持ちもあるんです。俺は地元の先輩たちに“リリックがない人はラッパーじゃない”って言われてたし、自分がバトルに出始めた理由も、賞金は二の次で、チャンピオン・ライヴがあるからなんですよね。頭を下げて“ライヴさせてください”っていうレベルのことはやってない自負があったんで、バトルに優勝すればチャンピオン・ライヴができるし、そこでかっこいいって思ってもらえれば……って考えでやってました。だから試合中も“ライヴしたい”って気持ちで、絶対おまえよりかっこいい、絶対に負けないっていう闘争心を出してましたね。最近はそうじゃなくなった部分もあって、作品を出す以上、その作品を聴いた上で呼んでもらえるのが一番かな、っていう考え方になってきましたけど」
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――バトルは名前を売るために出ているだけ、音源を聴いてほしい、ライヴを見てほしい、と言うラッパーが多いですが、N0uTYさんの世代だとその線引きはどうなっていますか?
N0uTY 「若い子たちはMCバトルの動画を、それこそ『ダンジョン』とかを見て憧れて、バトルで有名になりたいって思って始める子が多くて、音楽は聴かないって子もわりといます。でも同い年ぐらいの人たちと話してて“えっ、ライヴしたことないの?”とか“リリックないの?”とか“音源作ったことないの?”とか言うと“えっ……”って反応しますね。なきゃいけないものなのかな、みたいな。価値観の押しつけみたいになっちゃってるんですけど、そいつが8小節×2本で語る自分と、1曲で語る自分では、表し方がまったく違うんで。そいつを知るって意味でも、曲を聴きたいなって強く思います」
――輪入道さんはどうですか?
輪入道 「そうですね……でも、僕もずっとフリースタイルしかやってなかったんですよ。ただ自分の場合はバトルじゃなくて、ショーケースを全編フリースタイルでやることに意味を見出してたから、MCバトルのイベントだけじゃなくて、ゴリゴリのローライダーとかウェスト・コーストのイベントに単身飛び込んで、絶対にフリースタイルで全員食ってやるぞ、って気持ちで臨んでた部分があったんですけど、正直言ってファースト・アルバムを出す前は、なんで曲を作んなきゃいけないんだろう、とも思ってました。ライヴでブチかませるんだから曲にする必要ないじゃん、と。でも当時、たまたま沖縄にライヴで行ったときに“もうおまえ帰らんでいいさ”って言われて、他の東京からのゲストが全員帰った後も何日も遊ばせてもらって、いろんな人を紹介してもらって、すっごくよくしてくれたんですけど、帰り際にクルマの中で言われたんですよ。“また呼びたいけど、おまえはCDがないだろ”と。“CDを出せ。CD出したらリリース・パーティでまた呼べるから”。それがファースト・アルバムを作った唯一の理由だったんですよね。またここに来たいな、また来るためにはフリースタイルだけじゃダメなんだ、音源を作って“これができました”って持っていかないといけねえんだな、って思って曲を書き始めたんです。だから僕もその出来事がなければそのままいってたかもしれないんですけど、いま思うのは、絶対に曲は書かなきゃダメです。形に残すことの大事さがいまになってわかるというか。フリースタイルだけでライヴをやると確かに話題にはなるし、そのときはそれが自分のすべてだったんですけど、後に何も残らないんですよ。もったいないです」
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――輪入道さんは何かブレイクスルーを起こすきっかけが旅、土地、人にあるのが面白いです。そういうものから刺激を受けるタイプなんですかね。
輪入道 「昔からずーっと千葉を前面に押し出してやってますけど、本当のド地元は1960年代までは海だったところですから、歴史もないし墓もないんですよ。死んでもそこで眠るやつがいないっていう。みんな育ったら出ていって東京で仕事をして、子供ができて帰ってくるとかはあっても、基本的には出っぱなしのほうが多い。そんなところを全国どこへ行っても“これが俺のルーツ”とか言ってるんですけど(笑)、他の街に行くと何代にもわたる歴史があったりして、どうしてもそういうものに食らってしまうんですよね。徳之島にしても、宜野湾にしても」
――千葉の埋め立て地で育ったことが、土地や人や歴史に刺激を受ける感性を育んだんですね。
輪入道 「そうですね。皮肉にも(笑)」
――いや、すばらしいことだと思います。最後に、2019年はまだ始まったばかりですけど、お二人それぞれアーティストとして、レーベルとして、こんなことをやっていきたい、みたいなことがあればお聞かせください。
輪入道 「とりあえず3月20日に二人とも新しい武器を手にするんで、これを持ってまたいろんな街にライヴしに行こうぜ、っていうことで、すでに何本か決まってます。そこで初めて見るN0uTYが俺は楽しみなんですよ。どんな夜遊びするのかな、とか(笑)。だから今年の目標とかよりも、目の前のことを着実にこなしながら3月20日をきちんと迎える。ツアーを回れば課題はおのずと見えてくると思うし、N0uTYも歌えることが増えていくんじゃないかなと。彼の経験は他の人にはない彼だけのものだし、これからする経験も同じなので、ちょっとでも手助けできたらなって思ってます」
N0uTY 「自分は関東以外でのライヴが少しずつ増えてきているので、はじめましての土地での自分の見せ方が今年のテーマですね。去年、輪入さんに“全国を回るときに本当の戦いが始まるよ”っていうニュアンスのことを言われたんですけど、1月の初めに京都に行ったときにそういう経験をしまして。“どうせ東京モンはこうなんでしょ”みたいな」
輪入道 「そんな言われ方かよ(笑)。おまえ何かしたんじゃないの?」
N0uTY 「普通に立ってただけです(笑)。東京の若いのイコール、トラップみたいなイメージが少しあるのかな、と思って。でも自分はトラップとかできないから、自分が好きな音だけを煮詰めたようなライヴをしたら“すげえよかったよ”って言ってくれて、“これが勝ちなのかな”とか、逆に“いや、これって勝ちなのかな?”とか考えたりしました。俺は輪入さんと逆で、地方で受けた影響を東京に持ち帰って噛み砕いて何かを得るタイプなんです。だから俺はもっともっと地方でやれるようなアーティスト、ラッパーになっていきたいです」
――長時間ありがとうございました。何か言い残したことはありますか?
輪入道 「そうですね。えーと、GARAGE MUSIC JAPANとして初めてのダブル・リリースなので、ぜひ各地に呼んでください(笑)。オファーお待ちしてます」
N0uTY 「よろしくお願いします!」
取材・文 / 高岡洋詞(2019年2月)
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