【上松美香 interview】 無限に広がるアルパの可能性――デビュー10周年を迎えての新譜はカーペンターズのカヴァー・アルバム

上松美香   2009/09/01掲載
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 今年、デビュー10周年を迎えるアルパ奏者の上松美香。10年の歩みを収めたベスト盤『上松美香ベスト Arco iris 〜虹〜』が5月にリリースされ、次いで8月にはニュー・アルバム『青春の輝き〜上松美香 plays カーペンターズ』を発表した。

 アルパとはスペイン語で“ハープ(竪琴)”を意味し、南米パラグアイの代表的な民族楽器である――そんな説明がもはや不要なほどに、上松美香の存在によってアルパという楽器の知名度は上がり、その明るく優しい音色を耳にしたことのある方も多いことだろう。

 これまでに、ラテン音楽だけでなく、ポップスや映画音楽、アニメ・ソング、オリジナル曲など、あらゆる音楽をアルパで演奏し、この楽器の可能性を広げてきた彼女が今回挑んだテーマは“カーペンターズ”。ポップス史に輝く名バンドのカヴァーに込めた思いを訊いた。



――今回、まるごと一枚カーペンターズのカヴァーというアルバムを作った理由をお聞かせください。
上松美香(以下同) 「今年は私がデビュー10周年、カーペンターズもデビュー40周年を迎えるということで、同じアニバーサリーつながりというご縁もありまして。当初、何かのカヴァー・アルバムを作ろうという話があって、それなら同じアニバーサリーを迎えるカーペンターズはどうかと。きっとアルパといい相性なのではないか、ということで決まりました」
――実際、アルパとカーペンターズとの相性はいかがでしたか?
 「カーペンターズの、あの独特の雰囲気、オリジナルの輝きを出せるか、最初はすごくプレッシャーでしたが、最初の曲のデモを作っているときから、アルパで音をとっていくうちに、“あぁ、カーペンターズの曲って、アルパとめちゃめちゃ相性がよくて、素晴らしい出会いが今回のアルバムで生まれるんじゃないか”という希望でいっぱいになりました」
――カーペンターズのどのような部分が、アルパに合うのでしょう?
 「まずはメロディ。カーペンターズは、何と言ってもあの美しいメロディが命じゃないですか。アルパは基本的に、メロディ・ラインがはっきりした音楽に合うんです。やはり南米の楽器なので、明るく、美しいメロディをはっきり弾くのに向いているんですね。

 そして次にリズム。カーペンターズの独特なノリというのは、カレンさんが叩くドラムからきていると思うのですが、アルパであのリズムを出すとき、ウッて押さえて音を消しながら弾くんです。その“消音しながら弾く”という奏法は、もともとパラグアイのアルパの伝統的な奏法でもあったりして。“休符でリズムを奏でる”という感覚には昔から親しんできていたので、“あ、ここで今までのことが活かされたんだ!”という発見があって面白かったですね」
――上松さんは、小さいときにカーペンターズを聴いていたとか、特別な思い出はありますか?
 「はい、小学校のときに『未成年』というTVドラマを見ていて、そのオープニング・テーマがカーペンターズの〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉だったんです。で、この曲が大好きになって、親にカーペンターズのアルバムを買ってもらって。じつは今回の選曲も、昔買ったアルバムを聴きながら選んだんですよ」
――ほかに、“これは絶対入れたい!”という曲はありましたか?
 「〈青春の輝き〉。これはもう、カレンさんの歌声や歌詞、メロディが一番輝いていますよね。この曲を最初に聴いたときの感動や、涙が出るくらい胸がいっぱいになってしまった感情を、そのまま私もアルパで表現したいと思いました。だからこの曲は、ストリングスと別々に録音せずに、みんなで“せーの”って言って一緒に録ったんです。みんなで同じ気持ちで臨みたいというのがあって、テンポも取らずに、ふーって鼻息だけで合わせて(笑)」
――今回のアルバムには、アルパだけでなく、あらゆる楽器が入っていますね。
 「はい、本当にたくさんの素晴らしいミュージシャンとコラボレーションさせていただいて。フェンダー・ローズやドラム、エレキ・ベースといったポップスの楽器と演奏するのは初めての経験だったのですが、アルパという遠い遠い国の民族楽器といろんな楽器が、国やジャンルの壁を超えて一つの音楽を作り上げたっていう、それがすごい感動でした」
――楽器編成だけでなく、アレンジも曲によってさまざまですよね。
 「今回はカーペンターズのみのアルバムということで、一曲一曲をより深く追究できたと思うのですが、やはり突き詰めるほど、曲本来のメロディのよさが浮き彫りになっていきました。そこで“じゃあ、このメロディだったら、こういうアプローチもいいかも”と考えて、一曲一曲すべて違うテイストにしたんです。もちろん、それによって楽器編成もすべて変えています。まったく別のアプローチなんだけど、あくまでカーペンターズの世界は変わらない――そういった部分をすごく考えて、大切にしましたね。一番はっちゃけてるのは〈ジャンバラヤ〉かな(笑)」
――「ジャンバラヤ」は最後に入っている小さな“声”に注目です(笑)。
 「はい! レコーディングは本当に楽しかったです。なんかこう、“真剣に大人の遊びをした”って感じ」
――最後にボーナス・トラックとして収められている上松さんのオリジナル曲「Arco iris 〜虹〜」についてお聞かせください。
 「デビュー10周年を迎える今年のテーマが“虹”ということで入れました。これまでとこれからの懸け橋、それが“虹”。その虹色の中にはいろいろな私の色が詰まっていて、これから先、一生を通して上松美香の色を作り上げていくから楽しみにしててねという願いと、今までありがとうという気持ちが込められています。まだまだ始まったばかり。やりたいことのアイディアはいっぱい。世界中の音楽をアルパで弾いてみたいです!」



取材・文/原 典子(2009年7月)



■上松美香デビュー10周年記念ツアー
アルパ・コンサート Arco iris 〜虹〜
10月24日(土) 13:00 北海道・札幌コンサートホール 小ホール
11月3日(火・祝) 13:30 神奈川・横浜みなとみらいホール 小ホール
11月22日(日) 14:00 東京・東京オペラシティ リサイタルホール
11月27日(金)19:00 東京・王子ホール
12月5日(土)13:00 宮城・電力ホール
※問:サモンプロモーション [Tel]0120‐499‐699(10:00〜18:00)


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