新たなフェイズへの突入を告げるキリンジのニュー・アルバム『BUOYANCY』

キリンジ   2010/09/09掲載
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新たなフェイズへの突入を告げるキリンジのニュー・アルバム『BUOYANCY』
 もし今月、あなたに1枚のCDを買える予算があったとしたら、是非その1枚にエントリーしてほしいのが、キリンジの新作『BUOYANCY』(ボイエンシー、“浮力”の意)だ。ポップ・ミュージックの膨大なアーカイヴから良質の部分を抽出し独自に精錬したようなキリンジならではの美しさを随所にキープしつつ、これまで以上の活力を感じさせるこのアルバムは、彼らが新たなフェイズに突入したことを告げている。「ギアが変わった感じをちゃんと伝えたかったのかもしれない」(堀込高樹)と自ら語るこのアルバムについて、そして現在の立ち位置について、堀込兄弟に訊いてみた。
――新作『BUOYANCY』の最初のプランニングはどういうものだったのでしょう?
堀込高樹(以下、高樹)「プランというか……10年以上やってるとだんだん自分の作る曲の感じやアレンジの方法が定まってくるんですよね。そうなると刺激も減るから、あまりいいことではない。そうやって探りながら曲作りをしつつ、今までのキリンジなりの和声やメロディの良さや美しさも併せて発表できないかな?ということを考えていて、去年、配信シングルの2曲(『BUOYANCY』にも収録の<小さなおとなたち><セレーネのセレナーデ>)を作ったんです。その流れでアルバム用の曲出しをした時に、これまでのようなレイト70'sを基調にしたような音楽がお互いの中にあんまりなかった。比較的、いままで聴いたことのないような曲が多かったんですね。じゃあそういう感じで作っていくのがいいんだろうな、と」
堀込泰行(以下、泰行)「自分が曲を書いている時点では、これまでと変えようとは兄(高樹)ほどには思ってなかったです。ただ、前作『7-seven-』がシングル集のような感じもあったんで、今回はアルバムらしいアルバムを作りたいなと思ってました。曲はヴァラエティに富んでいるんだけど何かしらサウンド面で一貫したものがある、みたいなことは考えながら作ってましたね」
――なるほど。具体的に何か新しいトライはありましたか?
高樹「例えば<夏の光>の場合、ハイな気分を味わってほしい、こちらが演奏してハイになりたい、じゃあそのためにはどうしたらいいか?っていう発想の仕方なんです。だから“あの曲の感じにしよう”という作り方ではなくて、より感覚的なところからアレンジを発想していく。<セレーネのセレナーデ>の場合は“聴いてて酩酊する感じ”や“寝入りばなのあの感じ”ですね。そういう抽象的な感覚や感情を基に曲を書いたりアレンジを組み立てたりするのは、今までやらなかったわけではないけど、意識してやったのは今回が初めてですね」
――そうなるとスタジオで引き起こるマジックも重要になりそうですよね。
泰行「プレイヤーから出てきたものによってこちらがまた新しいアイディアを思いついたりってことは当然ありますね。<秘密>っていう曲はデモでは打ち込みのすごくシンプルなドラムとアコギと歌しかなかったんです。スタジオでドラムとベースを入れて、歌をダビングしたら、それだけでもう音楽としてかなり成立してたんです」
高樹「ドラムとベースの音色でキャラクターが割とできあがったね」
泰行「もちろんエンジニアとプレイヤーと僕らで相談しながら音を決めていくんですけど、<秘密>はおもしろいように転がっていきましたねえ」




――今回のアルバムを聴いた後、デビュー当時のインディ盤を聴いたら驚くほどヴィンテージな感じがしたんですね。あの音を追求していたら今頃は相当マニアックな存在になってたと思います。
高樹「マニアックならまだいいけど、ダサいって思われかねないですよ、“90年代的な視点で音楽を作ってる”っていう意味で。デビューが90年代だからどうしてもその影響はあったし、古い音楽は好きだけど、“視点が古い”っていうのはよくない気がしますね、こういうポップスというか商業的な音楽は」
――90年代の半ばまで確実にあったポスト・フリッパーズ・ギターにハマってもおかしくなかったのに、そうもなってませんし。
泰行「……わからないけど、“顔がかわいくない”とか、そういう感じじゃないかと思ってるんですけど(一同笑)」
――キャリアを考えたら“キリンジ・ファミリー”が形成されててもおかしくないのに。
高樹「なんで友達できないんだろう?みたいなことは(笑)。他のアーティストのようなコミュニティはないんですよね。もちろん矢野(博康 / アレンジャー、プロデューサー。元Cymbalsのドラムス)くんとか郷太(西寺郷太 / ノーナ・リーヴス)とかいますけど、コミュニティってほどでもないし」
泰行「そうだね。みんなでひとつの固まりとしてなにか発信する、みたいなムードとか発想はないよね」
――ファミリー感はないですね。ここ二人でファミリーだけど(笑)。
高樹「それはやっぱりプレイヤー体質じゃないからかも。プレイヤーとしてのキャラが立ってたら、セッションに呼ばれたりってことも発生する気がする。やっぱり“曲を作る”っていうことに二人ともいちばん興味が向いてるから、できることって楽曲提供とかアレンジとか、それくらいだからね」
泰行「うん、そうかもね」
高樹「そうするとコミュニティはできにくいですよね……ホントはそういうことじゃなくて、もっと根源的な、性格的な問題か?(笑)」
――でも作家性が強いということですから、こういうことはないですか?──ある日、録音を終えてスタジオを出たら一人の若者が土下座をしている。彼曰く「弟子にしてください!」──。
高樹「そんなのないですよ(笑)! いたら弟子にするけど、面白いから(一同笑)」
泰行「今時ないから、面白いけどね」
取材・文/フミヤマウチ(2010年8月)
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