ナカコーが集大成的なプロジェクト“Koji Nakamura”をスタート!

Koji Nakamura(iLL)   2014/04/30掲載
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 ナカコーのソロ・プロジェクト、“Koji Nakamura”がついにスタートした。iLL、LAMAとしての活動に加え、CM、映画、アニメなど幅広いジャンルで才能を発揮してきたナカコー。Koji Nakamuraとしての最初のアルバム『Masterpeace』には、ロック、エレクトロ、テクノ、ミニマル・ミュージックを融合させた、先鋭的かつ普遍的なポップ・ミュージックが体現されている。これまでのキャリアを総括 / 発展させたかのような本作について、たっぷりと語ってもらった。
――まずはKoji Nakamura名義の活動をスタートさせた経緯を教えてもらえますか?
 「最初のきっかけは、“ソロ”というか、その名前(Koji Nakamura)でやってみないか? というお話をもらったことですね。そのときはどういう内容になるか見えてなかったんですけど、おもしろそうだなと思って、じゃあ、やってみようかな、と」
――これまでソロ・プロジェクトをやっていなかったのも、ちょっと不思議な気もしますが。自分の名前で活動するのを避けていたところもあったんですか?
 「“イヤだな”っていうのはありましたけどね。何で?と言われるとアレなんですけど……まず、字が嫌いなんですよ、名前の。音も好きじゃないし、とにかく自分の名前が嫌いで(笑)」
――そういう理由ですか(笑)
 「“ナカコー”には抵抗感がないんですよ、あだ名だから。中学校の頃からそうだし、ずっと“ナカコー”って呼ばれてるから、そっちのほうが自然というか。自分の名前が商品に乗るということに対しても抵抗感が強くて。ただ、最近はYoutubeとかで海外の人が自分の名前をアルファベットで書いてくれてたりして、そのあたりから自然に受け入れられるようになってきたんですよね。本名でやるのはわかりやすいし、“じゃあ、それでいいのかな”と」
――音楽的なコンセプトについてはどうですか? 『Masterpeace』を聴くと、これまでのすべてのキャリアが反映されている印象を受けたのですが。
 「今まで自分がやってきたことも入れたいと思っていたし、あとは、今、自分が興味を持っていること、好きなことも混ぜて、ポップスのなかに落とし込むということですね。ポップスがいちばんわかりやすい形だと思うんですよ。他者との共有を得られるから」
――実際、ほとんどの楽曲が“歌モノ”ですからね。
 「まあ、僕は何でもポップスだと思ってるんですけどね。概念的なことは考えてないんだけど、鳴っている音が好きだと思えて、好きな構成になっていれば、それは自分にとってポップスなので。他の人にとっては難しい音楽であったとしても、僕は“単純に楽しい”と思うこともあるし」
――なるほど。では、歌詞についてはどうですか? 今回のアルバムには、歌詞はすべて提供というカタチを取っていますが、自分で書くという選択肢は最初からなかった?
 「うん、なかったですね。歌詞はiLLでも書いてるし、LAMAでもやってるので――LAMAの場合はみんなで書いてたんですけど――そことの差別化も含めて、人に書いてもらおう、と。歌詞を書いてもらうことになったとき、まず浮かんできたのが京田監督(アニメーション監督の京田知己)と永津さん(脚本家の永津愛子)だったんですよ。ACOさん、内田万里さん、JINTANAさん、LEO今井さんはスタッフからの提案だったと思います」
――京田監督、永津さんに歌詞を頼もうと思ったのはどうしてですか?
 「京田監督とは『エウレカセブンAO』の劇伴をやったときに会ったんですけど、そのときの絵コンテや演出の仕方を含めて、言葉の選び方がすごく良かったし、自分の作品に合うなって思ったんですよね。京田監督が歌詞を書くのはおそらく初めてだと思うんですけど、いろんなことに興味がある方なので、たぶん楽しんでくれたんじゃないかな、と。永津さんは2年くらい前、やっぱり僕が劇伴をやった『エーテル』というNHK FMのラジオドラマの脚本を書いてたんですよね。その脚本の構成、物語もすごくおもしろくて、自分の世界にも合うだろうなって。言葉を扱う方々なので、歌詞に落とし込むこともぜんぜん問題ないと思ったし」
――作詞を担当した方々にはナカコーさんからイメージの提示があったそうですが、アルバム全体のビジョンも見えてたんですか?
 「まあ、それは作りながら考えていったんですけどね。曲をiTunesのプレイリストに並べて……全体像としては“何かが始まる”とか“何かが揺らいでる”という感じですね。あとは再生だったり治癒みたいなイメージもあって」
――そのイメージは新しいプロジェクトのスタートともつながってるんでしょうか?
 「たぶん、心理的にはあると思います」
――キャリアを重ねるなかで“1周した”という感覚もありますか?
 「それはちょっとわからないですね。もしかしたら“1周した”と捉える人もいるかもしれないけど、僕はそういうふうには思ってないので。まあ、“わりとやりやすい状況のなかで作ってるよ”という感じはしますけどね。自分のやりたいことを、素直に、スタイルとして落とし込みやすくなっているというか。年々そうなってるような気もするし」
――ずっと「素直にやりたいことをやってる」という印象ですけどね、ナカコーさんは。すべてを自分でコントロールしているイメージもあるし。
 「いや、そんなこともないんですよ。作品を作るたびに“失敗した”とか“納得いかない”ということが常にあって、それをやり続けてきて。でも、ここ数年は自分の力をコントロールしながら出せるようになってきてるんですよ。それは良いことだなって思いますけどね」
――経験の蓄積によって、さらにスキルが上がってきたと。
 「経験っていうのもあるし、気がラクになって、自由にやってるっていうのもあるし。いろんなことをやるのが好きなんですよ。劇伴もそうだし、CMとか、携帯電話のサウンドデザインとか。そういうふうにやっていると、いろんな分野の人に会えるし、そこのルールもわかってくるんですよ。それを覚えることで新しいアイデアのもとになるし、音楽の捉え方もより自由になってきますよね」
――ここまで幅広いジャンルに関わっているミュージシャンも稀ですよね。
 「たとえばバンドだけやってると、バンドのなかだけで制作が進んでいくんですよね。常に一緒だし、実は外部との接触があまりないっていう。いろんな分野において音楽の関わり方は増えてるし、“やり方はもっといっぱいあるよ”って思いますけどね、僕は。もちろん、人によって何がベストか?というのは違うんですけど、自分にとってはいろいろな分野に関わることがベストなので」
――そういうふうに考えると、視野が一気に広がるような気がします。ナカコーさんはもともと、音楽を使ったコミュニケーション能力が高いんだと思いますが。
 「というより、気に入らない音が多いんですよ。何でもいいんですけど、たとえば“この計算機のスタートの音が気に入らない”とか(笑)。電話の操作音とかもそうですけど、自分の好きな音にしたいと思うので」
――商業ビル全体の音をデザインするとか、どうですか?
 「空間のなかで鳴ってる音にはすごく興味がありますね。それは自分にとって、最高に嬉しいことだと思います」
――曲を作るときも、まず全体のデザインが先になんですか?
 「そうですね。デザインありきで考えてるというか、すごく簡単に言えば“背景はこうで、前のほうはこうなってて……”みたいなところから膨らませて、それが曲になっていくこともあるし。そういうやり方で作ってる人はいっぱいいるから、他とカブってないかチェックするのがいちばん大変なんですよ。とにかくたくさん聴いて、“同じことをやってる”と思ったら、それはやれないわけだから。“これをおもしろくしたら、パロディになるな”ってこともあるんだけど」
――新しい音楽をチェックしまくると言っても、限界があるんじゃないですか?
 「限界あるんですよ(笑)。だから、曲を発表してから“あ、こいつのほうが先にやってた”ってことも結構あって。そういうときは反省しますけどね。知らない俺が悪かったって(笑)。そうしないと、先にやってた人に失礼だから」
――徹底してますね……。そういう作業を続けると、耳が疲れませんか(笑)?
 「まあ、音楽を聴くというより、おもしろいアイデアを探してるという感じなんですけどね。アルバム全曲がおもしろいということはそんなにないし、1分くらい聴いて“ああいうパターンだな”と思えば、それ以上聴かないので(笑)」
――聴くよりも作るほうがおもしろいんですよね、きっと。
 「両方おもしろいですよ。聴くのも作るのも一緒なので、自分にとっては。聴いていて“良いな”と思う音があって、それを構築していった結果、作品になるという感じなので」
――音楽を構築していくうえで、ご自分の声はどんなふうに考えてるんですか?
 「自分が聴いてみて“これだったら気持ちよく聴こえるだろうな”と思いながら作ってますけどね。歌ってみないとわからないことも多いから、とりあえず歌ってみて、後から“もう1回やってみよう”ってなることもあるし。今回はそういう作業がなくて、スーッと行っちゃいましたけど」
――声に関しても客観的に捉えてるんでしょうね。
 「まあ、“そこも自由です”って言われれば、“じゃあ、あの人に歌ってもらいたいな”と思うかもしれないけど。聴いていて“いい声だな”と思うヴォーカリストもいっぱいいるし、一方で、自分の声が好きだって言う人もいて。そこらへんはいつも葛藤してますけど、自分名義の場合は、自分でできることをやりますけどね」
――音源とライヴのバランスについてはどうですか?
 「作品を作るときはライヴのことを考えないんですよ。実際にライヴをやることになってから、“どうやろうか?”って考えるっていう。今回の場合は、“このスタイルだったら、大丈夫だな”というやり方がすぐ見つかったんですよね。(作品のなかで)鳴ってる楽器を抽出していけば、自然とバンドスタイルになったというか」
――Koji Nakamura名義での初ライヴ(3月25日に行なわれたBeady Eyeの横浜アリーナ公演のゲスト・アクト)は、田淵ひさ子さん(g)、345さん(b)、沼澤 尚さん(ds)というラインナップ。メンバーはナカコーさんが選んだんですよね?
 「そうですね。信頼できるミュージシャンであることと、あとは(ステージに並ぶ)見た目のカタチが“男女・男女”がいいな、と。そのほうが平等性があるなと思って」
――その発想もデザイン的ですね。
 「自分の現場には、女性がいるほうがバランスがいいと思うんですよ。男だけのバンドだと、すごく男くさくなるというか、“どうしてこんな考え方になっちゃうんだろう?”ということもよくあって。女性がいれば違う視点も入るし……」
――視点の数が多いほうがいい、と。
 「年齢もそうですよね。自分と近い世代の人だけではなくて、年下、年上の人もいたほうが構造的になるし、重厚感も増すので。世代が違えば、考えてることも経験してきたことも違うじゃないですか。それが混ざり合うほうが、モノづくりのうえでは良いと思うんですよ」
――なるほど。ちなみに男だけで飲むのも好きじゃない?
 「イヤですね! サシ飲みはいいんだけど、3、4人以上になるのはイヤです(笑)」
――(笑)。最後に『Masterpeace』というタイトルの由来について教えてもらえますか?
 「ソロをやらないかって言った人が出してきたテーマが“傑作を作る”ってことだったんで(笑)。で、最初にやったことがパソコンに“masterpiece”というフォルダーを作って、そのなかにデモ曲をブチ込んでいくことだったんです。ただ、普通に“masterpiece”っていう単語で検索するといっぱい出てきちゃうから、少し文字を変えて。まあ、“傑作”って言っても捉え方はいろいろだし、その人が言ったのは“がんばってね”っていうのと同じだと思いますけどね(笑)。でも、傑作を作るっていう狙いのプロジェクトはいいですよね。士気が上がるので」
――実際、傑作と呼ぶにふさわしいアルバムになりましたからね。この後の活動のビジョンもすでにありますか?
 「いや、次に出すものが何なのかはわからないです。他にもいろいろやってるので、そのどれかをやるかもしれないし」
――活動のスタイルを自由に選べるのも、ナカコーさんの強みですよね。
 「うん、選べるようになりました。いちばんは“やってみる”ということなんですけどね。反対されてもやってみる。それで失敗しても、“まあ、良かったんじゃない?”って。それでいいんじゃないかと思ってますけどね、僕は」
取材・文 / 森 朋之(2014年4月)
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