経験と生き方を歌う。ただ、それだけ――MC KHAZZ『SNOWDOWN』

MC KHAZZ   2017/05/23掲載
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 現場レベルでは以前から噂になっていたものの、2015年の(クラウドファンディングの会員限定盤)『WHO WANNA RAP』、2016年の続編リミックス盤『WHO WANNA RAP 2』という2枚のポッセ・アルバムによって、東海エリアのヒップホップシーンに起こした大きなうねりを顕在化させたRC SLUMクルー。その一員にして、長らく待望されていたアルバム、その名も『SNOWDOWN』をリリースしたMC KHAZZ。並み居る猛者を凍り付かせるスキルやセンス、そして、何よりその存在がもたらす圧倒的な説得力は、冬から春、そして初夏と季節が巡るにつれ、より際立って響く。

 リリースから少々時間は経ってしまったが、いつまでもその衝撃に収まりがつかないアルバムについて、MC KHAZZ、そして、彼と共にM.O.S.(MARUMI OUT SIDERS)としても活動するRC SLUMオーナーのATOSONE、MIKUMARIに話を聞いた。
――プロフィールによると、MC KHAZZのRC SLUM加入は2011年だそうですね。
MC KHAZZ 「そう。RC SLUMのファミリーに正式に加わったのは、2011年に出た『THE METHOD』のタイミングです。不良の先輩にATOSを紹介してもらったのをきっかけに、それ以前からずっと遊んでもらっとって。MIKUMARIとはATOSがやってる服屋でバチバチのにらみ合いになったりもしてたんですけど、いつだったか、2人ともベロベロに酔っ払っていたタイミングで仲良くしてもらって、そこからの付き合いですね」
MIKUMARI 「KHAZZは人見知りということもあるし、社交的じゃないもんで、知らないやつと会うと、最初は“なんや、コイツ”っていうことになりがちなんですよ」
――知り合ったのは、(RC SLUMの前身にあたり、ATOSONE、YUKSTA-ILLHIRAGENらからなるヒップホップグループ)TYRANTが活動していた頃だとか。
MC KHAZZ 「そう。当時、自分はラップから離れてたんですけど、ATOSと会って、もう一回やるようになったんですよ。それ以前は地元の人間とやってたんですけど、結局、流行り廃りで離れていってしまった」
――『THE METHOD』に収録されている「I AM A...」のリリックによると、その地元というのは(愛知県弥富市を流れる木曽川にかかる)尾張大橋の辺りということになるんですか?
MC KHAZZ 「そう。今回のアルバムのジャケット写真がまさにその尾張大橋で撮ったものなんですよ」
――「I AM A...」では、地元には何もないということを執拗に歌っていましたよね。
MC KHAZZ 「そう、その通り何もなくて。夜はひたすら真っ暗で、灰色と黒……そういう街でラップを始めて辞めて。ATOSを紹介してもらうまでは、2、3年のブランクがありましたね」
――MC KHAZZに初めて会った時の印象はいかがでした?
ATOSONE 「TYRANTでライヴをやってた時にオーバーサイズの服を着たやつがステージのど真ん中で仁王立ちしてて、“何だあいつ?”っていう話になったんですよ」
MC KHAZZ 「え、俺、そんなんだった?」
ATOSONE 「そんなんだったよ。で、当時、俺はキム・カーダシアンが好きで……」
MC KHAZZ 「あ、そうだ! その頃、俺もめちゃめちゃ好きだったんですけど、キム・カーダシアンの話で反応する人間が周りにいないなか、ATOSとはその話で盛り上がって、仲良くなったんですよ」
――かたや、MC KHAZZにとって、TYRANTはどんなグループでした?
MC KHAZZ 「EPのタイトル通り、まさに“KARMA”だと思いました。どう考えても跳ねっ返りというか、反抗勢力というか。周りの年上のことはみんな嫌いだったし、俺もそう思っていたんですよね」
――MC KHAZZとTYRANT、RC SLUMは、キム・カーダシアンではなく、レベル・スピリットが繋いだ、と。一旦は辞めたものの、またラップしたいと思っていた?
MC KHAZZ 「要はくすぶってたんですね。でも、ATOSに薪をくべられて……」
ATOSONE 「くすぶってたってことは火が消えてないってことだもんね」
――今回のアルバムでは、RC SLUMを気安く語るなと歌っていますけど、その当事者にとってのRC SLUMとは?
MC KHAZZ 「RC SLUMは、俺にとっての家ですね」
――RC SLUMがやってるイベント〈METHOD MOTEL〉は、スキルの際立ったラッパーたちが唐突に始めて終わるライヴもそうですし、イベントの雰囲気も異様な緊張感があって、居心地のいい家とは対極の場所だな、と。
MC KHAZZ 「まぁ、確かにみんな無意識のうちに気は張ってますよね。初めて、METHOD MOTELに出させてもらった時はぴりぴりを越えて、いきなり刺されそうな緊張感があったんですけど、その空気に完全にヤラれちゃったんですよね」
ATOSONE 「俺から逃げてるやつもいるんだけど、KHAZZはどっしりしてたし、KHAZZがやってるのは、日本語ラップじゃないじゃんね。ただ、ラップが上手いだけ、とか、“僕はこうなりたい”とか、“ギャングってこんな感じでしょ”って、想像して歌っとるやつもおるけど、KHAZZは経験が全ての前提にあって、それをそのまま出してる」
MC KHAZZ 「極論を言えば、存在ありきの言葉なんですよ」
ATOSONE 「僕はこうなりたい、こうあるべきだって。そう歌っとる方が万人には受けるわね。共感されやすいし、まぁ、でも、そりゃ、そうだよね。それも音楽の良いところだし。でも、KHAZZがやってることは、こういう生き方だから、それをそのまま歌うし、それ以上のことは出来ませんっていうこと。それはMIKUMARIも一緒なんだけど、MIKUMARIの場合はファニーな面を出してくるからさ(笑)」
MC KHAZZ 「MIKUMARIは“ちょけ”のプロだよね」
ATOSONE 「そう、天才はこっちなんだけど。KHAZZから出た言葉はKHAZZそのまんま。そこがいいんだよね。俺らは音楽ありきだし、音楽より悪いことは多分しないから」
――音楽って悪いものなんですかね?
ATOSONE 「悪いものだよ。歌を歌うなんて恥ずかしいことだしさ。ヒップホップはそういうものだと思うけどね」
MC KHAZZ 「一番素直な表現だと思う」
M.O.S.(MARUMI OUT SIDERS)
――そして、2011年の『THE METHOD』の「I AM A」でラップしてから、今回のアルバム『SNOWDOWN』まで6年。ずいぶん時間がかかりましたよね。
MC KHAZZ 「アルバムはずっと出したかったんですけど、自分のなかでタイミングもあって。そのタイミングで、自分のなかで一気に畳みかけて録りましたね」
――そのタイミングというのは?
MC KHAZZ 「2016年に一ヶ月という超短期間で作ったSLUM RCの(ポッセ・アルバム)『WHO WANNA RAP』以降、自分のなかで自信が上回って、いい感じのモードに入れたというか。その後、制作を進めるなかで、何度もラップを録り直していた曲があって、それをMIKUMARIにダメ出しされて。“ファーストなんだし、そんなん勢いでやっていかんと一生終わらんよ”って言われたことで、自分が考えすぎてたことに気づかされて、そこから勢いを加速させましたね」
――曲やアルバムのテーマもなく?
MC KHAZZ 「雪や冬の感じを出したかったということくらいですね。リリックも録音の前日に書いてましたし、とにかく今の自分を詰め込みたかったんですよ」
――そうなると、アルバムから伝わってくるアンダードッグ感っていうのはMC KHAZZの日常そのものということになりますよね。
MC KHAZZ 「ビッグドッグとかトップドッグよりもアンダードッグって言った方が自分には合っていると思ったし、ホント、そのままのクソなんで。すみません、生まれてきて(笑)。でも、結局、自分は好きなようにしか出来ないし、上手くも出来ない。シンプルなものが一番格好いいと思ってるし、そういう風にしか生きてきてないですもん。出たいパーティにしか出ないし、他のパーティがぼやけるくらい、名古屋ではMETHOD MOTELが楽しすぎて、朝まで酒飲んで遊んで、昼に車のなかで起きたり、車に乗ってて職質されるのは日常茶飯事なので」
――ヒップホップでは成功を誇示するアイテムとして出てくる車が、このアルバムでは「Ruff Dryver」をはじめとして、楽しくヒドい生活を象徴するものとして描かれています。
MC KHAZZ 「そういう生活をそのまま描いている」
ATOSONE 「遠目から見たら悲劇かもしれないけど、別に女にモテるし、飯も食えるし、何の不自由もない。男は金稼いでなんぼ、みたいな話があるけど、100人、200人おるクラブのステージに立った時、全員がこっちを向いて熱狂する、その時の快楽をどうやって金で買うの?って思うからさ」
――ATOSONEとMIKUMARIの両氏をフィーチャーした「SUNDAY MOTEL」は、ヒドい日々にあって音楽やパーティが救いになっている瞬間を切り取っていますし、ディープに響く「FOR BACK」は過去の回想だったりもします。
MC KHAZZ 「そこに自分の背中を築くのは自分という思いも重ねたんですけどね。自分がヒップホップに全く馴染みがなかった時、地元でスケボーを通じて知り合った先輩がいて、この曲で歌ってる“Stick Up Kid”(“ゲットーで強盗を働く子供”を意味するスラング)というのはその人のことなんです。ホントに悪い人だったんですけど、その人がヒップホップやアイスバーグ・スリムの(小説)『ピンプ』(映画)『Menace II Society』だったり、その後の自分の核となるものを教えてくれたんです」
ATOSONE 「アイスバーグ・スリムはラッパーにとってのバイブルだよね」
MC KHAZZ 「いやぁ、あれは何回読み直したか分からないですもん」
――アイスバーグ・スリム、つまりは街やそこでの経験に育まれた言葉ということですよね。そして、トラックに関しては、硬質なビートを土台に、マリアッチやレゲエ、ジャズやブルース、メロウソウルといった要素がサイケデリックに混在した世界観は、RC SLUMのマナーを踏襲したものになっています。
MC KHAZZ 「トラックはJUNPLANTが核になっていて、MASS-HOLE、KOKINBEATZにRAMZAOWL BEATS……自分の好きなトラックで歌っただけです。〈Start me!!〉は(DJ)HIGHSCHOOLくんがSONETORIOUS名義で出してる『BEDTIME BEATS』で一番気に入っていたトラックに勝手にラップを乗せて、後で本人に聴かせて、オッケーをもらった曲ですね。軸はヒップホップなんでしょうけど、自分は4つ打ちだったり、色んな音楽を聴くし、固定概念にとらわれず、ラップしたいビートでラップするっていう、ただ、それだけ。〈FOR BACK〉で(LADY LUCK名義で)歌うアイデアも前日に思い付いた感じでしたし、自分のやってることがヒップホップじゃないと言われようが、どうだっていい。好きなように聴いてもらえたら、それで構わないですね」
――そうやって完成したアルバムは、MC KHAZZにとって、どんな意味や意義を感じますか?
MC KHAZZ 「結局、周りの人間が喜んでくれることが一番大きいですね。ATOSやMIKUMARI、うちの父ちゃん母ちゃん……周りがみんなアガっとって」
ATOSONE 「俺のところにKHAZZの母ちゃんの写真が送られてきたもん(笑)」
MC KHAZZ 「母ちゃん言ってましたもん、ATOSくんによろしくって(笑)」
――最後にRC SLUMの今後の予定を教えてください。
ATOSONE 「今年出すのは、NERO IMAIのアルバム……遂にアシッドキングが帰ってくるぜ!」
MIKUMARI 「そして、MIKUMARI × OWL BEATSのアルバム」
ATOSONE 「それからうちら3人のM.O.S.(MARUMI OUT SIDERS)とCAMPANELLA。あとミックスCD専門のサブレーベル、ROYALTY CLUBからは、CE$、BUSHMIND、DJ HIGHSCHOOL以降、OBRIGARRDのYANOMI、JUNPLANT、OWL BEATS、……と続けていく予定。個人的には一時期、大切な人の逮捕とか、離縁で落ち込んでたんだけど、元気をつけるには、やっぱり、音楽しかないでしょ。いつだったか、KHAZZが“喜怒哀楽のなかで楽しいっていう感情が全てに勝る”って言ってて、ホントその通りだなって」
取材・文 / 小野田 雄(2017年3月)
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