「イエスタデイ」は新しい世界を開いてくれた――ミロシュ、“ビートルズ愛”を込めた4thアルバムをリリース

ミロシュ   2016/01/27掲載
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 一昨年に満を持してリリースしたロドリーゴ作曲『アランフェス協奏曲』でこれまで誰も試みたことのない怒涛のテンポに挑み、楽曲そのものの見直しを迫る圧倒的な解釈を聴かせてくれたモンテネグロ出身のクラシック・ギター奏者ミロシュ・カラダグリッチ(Miloš Karadaglić)。2011年のデビューから5周年を迎える今年、彼がリリースしたのは、なんとビートルズのカヴァー・アルバム『ブラックバード』!ロンドン留学中に武満 徹編曲「イエスタデイ」と運命的な出会いを果たし、以来、ビートルズの虜となった彼が、数百曲におよぶ楽曲の中からみずからレパートリーを選び抜いて録音した渾身のアルバムだ。「イエスタデイ」以外の収録曲のソロ・パート・アレンジは、ブラジルが誇る名ギター奏者 / 編曲家のセルジオ・アサド。さらにトーリ・エイモスグレゴリー・ポータースティーヴン・イッサーリスアヌーシュカ・シャンカールら豪華ゲスト・ミュージシャンを迎え、伝説のアビイ・ロード・スタジオ Studio 2でレコーディングを敢行。昨年12月末、多忙なスケジュールを縫ってメール・インタビューに応じてくれたミロシュの“ビートルズ愛”をここにご紹介する。
ミロシュ『ブラックバード〜ザ・ビートルズ・アルバム』限定盤
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ミロシュ『ブラックバード〜ザ・ビートルズ・アルバム』通常盤
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Miloš
photo ©Andy Earl / Mercury Classics
――今回の『ブラックバード』を聴かせていただき、原曲のヴォーカル・ラインとリズム・パートをギター・ソロだけで表現していく絶妙なバランスに驚きました。
 「原曲を聴き直して驚いたのは、音楽的・性格的に同じ曲がひとつとして存在しないこと。そして、どの曲もギターが中心になっているという点です。ですから、今回のカバーでもそれを尊重すべきだと思いました。なぜなら、ビートルズのメンバー固有のギター・テクニックとスタイルが、楽曲の成立そのものに深く関わっているからです。ビートルズの曲を弾くたびに、いかに彼らのギター語法がリアルで無理のないものか痛感させられます。もうひとつ忘れてはならないのは、歌詞の言葉がそれぞれの楽曲に独特の色合いを与えているという点ですね。そのため、今回の録音中も歌心を忘れないよう、絶えず心がけました。ギターとは一種のヴォイスであり、その点において無限の音楽的可能性を秘めていると、つねづね信じています」
――イギリス留学前は、ビートルズにまったく興味がなかったそうですね。
 「モンテネグロで育った頃、もちろんビートルズは知っていましたが、ポップスに時間を割く余裕がなかったんです。ところが2000年にロンドンに留学した時、ギター科の先生が武満 徹編曲の〈イエスタデイ〉を教えてくれました。最初は“ポップスの課題曲としては少々古い選曲なんじゃないか?”と思いましたけど、実際に学び始めると、完全にビートルズの虜になってしまったんです。いろいろな意味で〈イエスタデイ〉は新しい世界を開いてくれました」
――ソロ・パートのアレンジを手がけたセルジオ・アサドとは、どのようにコラボしていったのでしょう?
 「アサドとは以前から互いにリスペクトし合っていましたので、今回のプロジェクトでも緊密な関係を築くことができました。何ヵ月もメールでアイディアを交換し、最終的に15曲のソロ・ギター用アレンジを完成させましたが、アレンジにあたってふたりが重視したのは、可能な限り自然でリアルにサウンドに仕上げ、しかも原曲のエッセンスをしっかりと残すこと。それから、オーケストラに匹敵するようなギター・ソロの自然なサウンドを生み出すためには、どうすべきかという点です。とても大きなチャレンジでしたが、結果的にどの曲のアレンジも有機的な発展を遂げることができました。アサド以上の素晴らしいコラボレーターに巡り合うことは、おそらく不可能でしょう」
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――伝説的なアビイ・ロード・スタジオのStudio 2での録音は、いかがでしたか?
 「Studio 2は、それ自体が特別な雰囲気を持っています。実際にStudio 2の真ん中に座り、スタジオの素晴らしいスタッフたちと仕事をしていくと、ビートルズのマジックにかかってしまうのです。当然のことながら、それが演奏解釈にも大きく影響してきます。今回の録音ではサウンド・デザインを重視しましたので、初日はマイクの位置決めやサウンドの調整だけで丸1日を費やしました。現在のクラシック録音の常識では考えられない贅沢な作り方ですよね。ビートルズが実際に使ったオリジナルのマイクを、現在我々が手にし得る最高の録音テクノロジーと結合させ、アルバムにもっともふさわしいサウンドを作り上げていく過程は本当に興味がつきませんでした」
――収録曲にダブルベースとのデュオが多いのは、ベーシストとしてのポール・マッカートニーへのトリビュートですか?
 「ええ、そうした意味も込められています。それにダブル・ベースは、音域の自然なつながり、弓を使わず指で弾いて演奏するという共通点から、ギターにとって最高のパートナーなんです。つまり、ダブル・ベースが加わることで、ギターという楽器に一種の拡張がもたされます。ダブル・ベースを弾いてくれたクリス・ヒルは、楽曲に厚みと深みを与えながら理想的なサウンドを作っていくうえで、今回の録音には不可欠の存在でした」
――伴奏パートに弦楽四重奏 / 七重奏を起用したのは、ジョージ・マーティンの斬新なストリングス・アレンジを意識したからですか?
 「ストリングスとギターが溶け合って生み出すサウンドが大好きなんです。ご指摘の通り、オリジナルで使われたストリングスは、当時としては革新的なアイディアでしたので、ストリングスに対するリスペクトは今回の録音でも重要な意味を持つと思いました。アレンジを手がけてくれたのは、英国王立音楽院時代からの友人クリス・オースティン。とくに〈フール・オン・ザ・ヒル〉〈ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア〉〈エリナー・リグビー〉では、ごくわずかな少人数で豊かなサウンドとテクスチャーを生み出してくれました。とてもスリリングなアレンジですよ」
――最後に、日本のリスナーへメッセージを。
 「ふたたび日本に伺ってビートルズの楽曲を演奏する日が待ち遠しくてなりません。日本の皆さんにとって、ビートルズが特別な存在であることは存じ上げております。演奏環境に関しても、日本は世界でもっとも素晴らしいホールと、音楽をリスペクトする知識豊かな聴衆に恵まれていますし。そんな日本での演奏ほど、アーティストにとって理想的なことはありません。それにコンサート終了後、各地のレストランで和食をいただくのが、毎回すごく楽しみなんですよ!」
取材・文 / 前島秀国(2015年12月)
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