“殻は破る”SALUがたどり着いた、表現者としてすべきこと『INDIGO』

SALU   2017/06/02掲載
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 前作『Good Morning』から13ヵ月。過去最短のインターヴァルで届けられたSALUの“エピソード4”こと『INDIGO』は、日に日にたくましさを増していくMCの現在を刻んだ会心の一枚である。前作に引き続きセルフ・プロデュースで、盟友BACHLOGICとJIGGはもとより、Estra(OHLD改め)、SUNNY BOY、Chaki Zuluほか多彩なトラックメイカーが参画。客演には敬愛する漢 a.k.a. GAMID.O、今をときめくゆるふわギャング、札幌時代の仲間であるFRAME a.k.a FAKE ID for Refugeecampを迎え、いっそうポップに開けつつ同時に深みを増した唯一無二の音楽世界を繰り広げている。
――『Good Morning』から1年、間にはSKY-HIさんとの『Say Hello to My Minions』もありました。創作意欲旺盛ですね。
 「デビュー前はほぼ一日一曲のペースで作ってたんです。音楽が仕事になってからは、それまでと同じような感覚で曲を作らなくなっていたんですけど、去年『Good Morning』の制作ぐらいからわりとデビュー前みたいな感覚に戻って、実はもう現時点でさらに次に向かう楽曲が何曲もできてるんですよ。制作っていうか音楽を楽しむっていうことをまた自然にできるようになってきたのが大きいですね」
――そうなってきた理由は何ですか?
 「自分の中に余裕ができてきたっていうのが一番あるかなと思います。デビュー当時とかインディーからメジャーに行くときとかけっこうあっという間で、心と頭が現実に全然追いついてなかったなと今、振り返って思うんです。その中で置いてけぼりになってた、もともとこういうことがやりたかったっていう初心を取り戻せたみたいな」
――去年お話をうかがったときに、これまでの2年間は夜だったけど『Good Morning』で朝を迎えたって仰っていましたけど、今も外が明るい状態が続いている感じですか?
 「そろそろ夕方が来ないとおかしいぞっていう時間帯ですね(笑)。そうなったらまた感傷的な曲が増えたりするのかもしれませんけど、今回は明るい曲が多いですね」
――僕も明るい印象を受けました。「TOKYO」「東京ローラーコースター feat. FRAME a.k.a FAKE ID for Refugeecamp」といった曲名だけじゃなく、アルバム全体に東京の空気を感じます。
 「東京はずっと苦手だったんですけど、一回、自分で入っていって、いい側面がたくさん見えてきたのが大きいかなと思います。狭い場所にいろんな猛者たちがひしめいていて、そういう人たちと一夜にして知り合うこともできる。チャンスが回りやすい街だと思うんですよ。もうひとつは、厚木で自分自身と向き合いながら創作するだけじゃなく、東京で雑踏の心地よさを感じながら書くのがすごく楽しかったし、今までとは全然違うものになったんですよね。東京をポジティヴに受け止めた自分が書いた作品だなと思います」
――『INDIGO』というタイトルにはどういう意味合いがあるんでしょう?
 「どの曲も一聴すると、別れだったり(〈WALK THIS WAY〉)、ヒップホップだったり(〈LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O〉)、東京の切なさや慌ただしさだったり(〈TOKYO〉)、友達(〈Dear My Friends〉)、デート(〈First Dates〉)、ロボット(〈2045〉)、パーティ(〈夜に失くす feat. ゆるふわギャング [Ryugo Ishida, Sophiee]〉)、自分自身(〈Butterfly〉)……というテーマがあるんですけど、どれも掘り下げていくと愛につながっていくんです。それをLOVEとか愛っていう言葉で表現するのは違うなと思いながらも、タイトルには入れたくて、一番いい表現をずっと考えてたんですよ。一方で『Good Morning』のころからインディゴという色が持つテンションっていうか雰囲気をけっこう感じていて、最初は曲のトピックとして使おうと思ってたんです。あるとき、インディゴが日本語にすると藍染めの藍だって気づいて、“アイに染める”っていうことでこのタイトルにしました」
――愛と藍をかけつつ、聴き手が触れる表向きのテーマと奥底にあるテーマの距離を、染まる、染み込むという事象にかけてあるわけですね。
 「まさにそうです。たぶん過去のアルバムよりもすごく聴きやすいと思うんですけど、核になるメッセージはこれまでと同じようにあって、ただ、そこまで到達するのにちょっと時間がかかるような作りになってるんです。そのメッセージをわかってほしいっていう気持ちがずっと強かったんですけど、今回は、もし到達してもらえなくても、楽しんでもらえればそれでいいやって。徐々に染みていけばいいかなと。だから言ってることはどうとでも取れるけど、今までよりも言い切ってるんですよね。自分は言い切ってるけど、どう受け取ってくれるかは自由に、っていう」
――言い切るけど解釈は聴き手に委ねる。そういう表現に至った理由は何ですか?
 「こちらの意図と聴いてくれた人の受け取り方って、どうやっても完全に一致することはないじゃないですか。それは前提として、じゃあ何が大事かって考えたときに、とりあえず自分はこう思うって自信を持って言い切るってことだと思ったんです。どう受け取られても、聴いてくれてありがとうございます、っていう気持ちしかないっていうのが潔いし、正しいんじゃないかと。自分に自信を持って、殻を破ってどんどん進んでいく。嫌われるかもしれないし怒られるかもしれないけど、殻は破る。ダメっぽいからやんない、みたいなことって、生きてるといっぱいありますよね。見えない壁に阻まれて、そこから上には行けないとか。しょうがない部分もあると思うんですけど、せめて音楽ではその壁を壊せるし、壊さないともったいないっていうか、自分がやるべきことから逃げてるような気がして」
――わかってもらえなくてもいいや、と思うようになったのはなぜですか?
 「たぶん、わかってほしい自分がもういないのかなって思います。承認欲求みたいなものが薄まったっていうか。自分を第一に考えるのか、聴いてくれる人のことを考えるのか、そこらへんが変わってきたかなと」
――利己的でなくなってきた?
 「たぶん本当は利己的なんですよ。ずる賢くなってきたんじゃないですかね(笑)」
――ほしいものがあるなら、それを与えようって考え方がありますよね。お金がほしいなら配りなさい、愛してほしいなら愛しなさい、と。
 「その考え方は知ってたんですけど、なかなかできなかったんです(笑)。でもわりと最近、人のためにすることの大事さになんとなく気づき始めて。日常でもありますけど、音楽でそこを表現できたら、今までと全然違うことができるかなって。過去の自分が表現してきたことはもちろん大事にするけど、さらに外側、さらに先に行きたいっていう思いが強いんです。だから今までの作品とちょっと違うかなっていうのがあるんですけど」
――表現がさらにシンプルになってきたと僕は思いました。説明がましさがなくて、言葉数も少ない。技術を評価されてきた人だからこそ、すごいことだなと。
 「今回は技術的に難易度が高いことはあんまりやってないんです。むしろそのほうが自分にとっては難しかったですね。やってる最中はシンプルにしていこうとは考えてなくて、自分が今聴きたい音楽、好きな音楽をやったときに自然とシンプルになっていったっていうのが実際のところなんですけど。それよりも、こういう表現方法をとろうと思うまでがけっこう大変でした。『Good Morning』ではまだちょっと難しいこともやってたりしたんですけど、そこで表現しきれなかったことを次はやりたいと思ってたんで、もっとやるってなったら何だろう?って考えて、さらに手を離していく、自分の殻を破っていく、みたいな方向に進んでいきました。そういう作業を、作るより前の心持ちの部分でたくさんやったと思いますね」
――制作期間はどれくらいですか?
 「12月に都営大江戸線のPRで公開された〈東京ローラーコースター〉を除くと、去年の9〜10月に〈WALK THIS WAY〉ができたのが最初で、それから3月ぐらいまでやって完成したので、5〜6ヵ月ですかね」
――手離し、殻破りのマインドは着手する前にできあがっていた?
 「徐々にできてはいたと思うんですけど、実際に最後の指一本まで離そうってなったのは11月ぐらいですかね。2017年は殻を破っていこうって目標を立てたので、今の自分のテンションを表現する曲を作りたいと思って、底抜けに明るいダンス・ミュージック的なトラックに、今まであんまりやってこなかった、自分の心情をかっこつけずに書くってことをやって〈Butterfly〉を作りました」
――『Say Hello to My Minions』を聴いたとき、SALUさんのシンプルさとSKY-HIさんの剥き出しのスキルフルさとのコントラストがすごく面白かったんですよ。もしかしたらあれを作ったことも関係あるのかなって。
 「その時期ぐらいからだと思いますね、シンプルな方向への流れができ始めてたのは。『Good Morning』を作り終わって、去年の3〜5月ごろに日高(光啓=SKY-HI)くんとのやつを作ったんですけど、僕、ちょっと感じてたんですよ。日高くんすごく難しいことやってるし、彼のほうがラップうまく聞こえちゃうな、って(笑)。でも、それでいいやって思えて、自分のやり方を変えることは全然しなかったんです」
――ラップって技術を重視する人が多いのに、あえて手離しをしたわけですね。
 「それもやっぱり自分のためにやってる気がしますね。かつては一番うまいラッパーみたいなところにこだわってたんですけど、そこに固執し続けた場合の自分の行き先が見えちゃった部分があって、そうはなりたくないなと思って。自分が表現者としてできること、すべきことはもっとたくさんあるし、だったらどんどん出てくる新しい才能に任せちゃったほうが健全だし、そういう人とうまく付き合っていければ、ラッパーとしての自分を忘れずにいられると思うし。僕が好きなジェイZとかカニエ(・ウェスト)はそれがすごくうまい人たちなんで、むしろそうなれたらいいなって思って。だからゆるふわギャングとも一緒にやれたんですよね」
――ゆるふわが1曲、漢さんとD.Oさんが1曲、かつての仲間のFRAME a.k.a. FAKE IDさんが1曲。客演の選び方も厳選した印象を受けます。
 「今までもずっと厳選してきたんですけど、今回は自分に一番近いところからお願いしていきました。D.Oさんは最初にライヴを見たラッパーで、いつかやりたいなってずっと思ってたんですけど、去年、札幌で漢さんとD.Oさんと一緒になったときに“初めて見たのD.Oさんなんです。お二人と一緒に曲をやりたいです”って話して。ゆるふわも同時期ぐらいですね。去年の夏ごろにYouTubeでRyugo IshidaくんのMVを見て抜群だと思って、絶対お願いしたいって思ってたら、ちょうどその時期にゆるふわギャングを結成して、さらに面白いことになってたっていう(笑)。RyugoくんとSophieeちゃんが厚木のEstraくんのスタジオにしょっちゅうレコーディングに来てたので会いに行って、はじめましてって挨拶したその日のうちに〈夜に失くす〉ができました」
――早い!
 「FRAMEは札幌時代の仲間で、もう12年ぐらいの付き合いなんですけど、いつか必ず一緒にやることになると確信しつつも、タイミングがなかなか来なかったんですね。今、彼はBACHLOGICさんとアルバムを作ってるのと、Refugeecampってクルーも去年の暮れにアルバム(『Raise The Flag』)を出してMVも作って、それがめちゃくちゃかっこよかったんで、いいタイミングだなと。自分のラッパーとしてのストーリーに沿った人選に自然となっていった感じです」
――フィーチャリングのし方も大胆ですよね。ポンと委ねちゃうみたいな。
 「まさに、〈夜に失くす〉はRyugoくんのやりたいトピック、やりたい感じのトラックに僕とOHLDくんが合わせた感じですね。〈LIFE STYLE〉に関しては、明るくてポップな最新のビート感のトラックに、漢さんとD.Oさんのいつも通りのドープなラップが乗ったら面白いんじゃないかと思って、お二人には何も言わずにいつも通りな感じでお願いしたら、それすらも凌駕する、僕とかもっと若い子たちへの先輩としてのアツい言葉みたいなのを入れてくれて、かつストリートのドープな部分も入れ込んでくれて」
――これは絶対訊かなきゃと思っていたんですけど、「LIFE STYLE」のフックはSALUさんが自分で歌っているんですよね?
 「そうです。あんまりしたことない発声ですよね。今回、けっこう歌ってるんですけど、その中で自分の発声を見直したんです。自分が今まで決めつけていた喉の形を一度壊して、柔らかくした上で、今のトレンドも検討しつつ自分の喉に合ったキーや発声を探って編み出したのが、この歌い方なんです。最近、喉を絞って出すみたいな発声で歌ってる人が多いじゃないですか。ジョーイ・バッドアスとかレイ・シュリマーとかフューチャーとか。日本人でそれをやってる人まだいないなと思って、一番にやっちゃおうと(笑)」
――たくさん歌っているのは、歌とラップの境界線が曖昧になっている今のアメリカのヒップホップを意識された結果ですか?
 「自然とそうなったっていうのもありますね。僕、最初にヒップホップに触れたのってオヤジが家で2Pacとかスヌープ(・ドッグ)とかドクター・ドレーを聴いてたのを小さいころ耳にしていたことなんです。当時の曲もファンクに歌っぽいフロウを乗せたりしてますよね。それが原記憶みたいなものとしてあるんで、もともと抵抗はまったくなかったんですよ。それでも今回は今までよりさらに歌に寄ってて、〈Good Bye〉とか〈First Dates〉はほぼラップじゃないんじゃないかって。〈Dear My Friend〉のサビなんてけっこう高いキーで歌ってますし、これもひとつの挑戦ですね。でもやっぱり、僕はどこまで行ってもプロのシンガーの方には絶対にかなわないんですよ。そうして外に行けば行くほど、自分はラッパーなんだっていう原点に戻っていく気がします」
――歌の部分はシンガーにお任せする方も多いけど、SALUさんはそうじゃない?
 「前作ではSalyuさんとか中島美嘉さんにお願いしましたけど、今回ぐらいの歌なら自分で歌えるなって。それでも今までの自分の喉だと無理だったので、ちょっと喉の筋トレみたいのをして、歌ってみたら全然いけるな、みたいな。キーもこれ以上は出ないって決めつけてたんですけど、喉の使い方と歌への自信次第で出せることに気づいて、自分を縛ってただけだなって。僕は歌が歌えないからラップを始めたみたいなところがあるので、歌に対する苦手意識はずっとあったんですよ。それでもメロを考えるのは好きだったので、オートチューンの力を借りて歌ってきたんですけど。今回はそこも外して、オートチューンなしでどれだけ歌えるかやってみました。新しいところに行きたいって常に考えてはいるんですけど、それでもブレーキをかけてた自分がいたので、そのブレーキを外して殻を破っていく方向のアルバムだと思いますね。奇をてらった作品みたいには思われたくないので、耳馴染みはいいけどよく聴くと……っていうバランスをすごく考えました」
――4月、アルバムのリリースを発表するときに、“エピソード3.5”と銘打ってYouTubeに新曲「YEDI」を発表されましたけど、リリックは全編英語で、ビートもフロウもトラップですよね。どういう狙いがあったんですか?
 「『Good Morning』ができてすぐにできた曲なんです。ずっと作りたかった英語の曲で、どうしても出したかったんですけど、このアルバムに入れるのはちょっと違うなって。『INDIGO』を作ってる期間の自分の内側から出てくるものが、この11曲と〈YEDI〉だったんですよね。1曲だけYouTubeに上がってていつでも観れる。そしてこの11曲はCDで残る。そのバランスのほうが互いに際立つかなって。これまではネガティヴとポジティヴとか光と闇とか二極の構図で描いてきて、『INDIGO』には一極しか入れてないけど、愛や光も、憎しみや闇があってこそ見えるものだと思うんですよね」
取材・文 / 高岡洋詞(2017年4月)
SALU LIVE 2017 -INDIGO-
www.salu-inmyshoes.com/
2017年6月22日(木)
東京 渋谷 WWW
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,500円


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