「永ちゃんもヒロトもメンタルがバッド・ボーイだと思う。自分もそういうミュージシャンでありたい」――ストリート・ヒップホップの申し子、ANARCHYがメジャー進出!

ANARCHY(Hiphop)   2014/07/07掲載
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ANARCHY。ストリート・ヒップホップの申し子とも言える彼が、avexとのディールを発表し、レーベル「CLOUD 9 CLiQUE」を立ち上げたという発表がなされたのは今年1月。正直、その発表には驚かされたし、彼の持つストリート性や不良性、毒々しさといった部分(勿論それは 彼の中の一側面なのだが)が、もしかしたらスポイルされてしまうのでは、と感じた。しかし、先行リリースされた楽曲「Right Here」、そして今回のメジャーでの1stアルバムとなる『NEW YANKEE』で発露したものは、新たな試みやポップ・フィールドに向けての側面は当然ありながら、同時にブレのない、これまで以上にタフに表現された“ANARCHY節”だった。ここから彼がどのような波を起こすのか、期待せざるを得ない。
――まず、メジャーに進出したキッカケから教えて下さい。
 「インディで4枚アルバム作った後に、次のチャレンジは何かなって考えたとき、メジャーで活動したことはなかったんで、それをやってみたいなって気持ちがあって」
――それはいつ頃に思ったんですか?
 「『Diggin’ Anarchy』を作り終わった後、ですね。それぐらいからメジャーでの活動っていう意識が生まれて、所属しているR-RATEDにもそう話して」
――『Diggin’ Anarchy』の後っていうのが興味深いですね。あのアルバムはMUROのフル・プロデュースによる、サンプリング美学に基づいた作品だったので、その意味では非常にインディならではの作品だったわけで。
 「MUROくんのプロデュースを受けたっていうことも含めて、ひとつ、自分の中で“やり遂げた”っていう気持ちが生まれたんですよね。俺のカラー、俺のヒップホップ、 “ANARCHYっていう音楽”が、形にできたっていう手応えがあった。だから、俺ができるインディペンデントでのヒップホップの決着がついたかなと思って。そこで次の段階が考えられたんですよね」
――今作に『NEW YANKEE』と名付けたのは?
 「アメリカでDIPSET(The Diplomats)のライヴを観たとき、スタジアム・レベルの会場をパンパンにしてるのに、ライヴはまさにヤンキーだったんですよ(笑)。それで“俺らとなんにも変わらんぞ”と思って。見てる連中も、踊ってるのもいれば、ずっとラップをなぞってるのもいて。それで“ああ、これはアメリカのヤンキーの気持ちを代弁してるんやな。だから、みんなの歌になってるんや”って思ったんですよ。そこで、俺も〈ROB THE WORLD〉みたいなヤンキー・シットをメジャーでも形にしたいなって思ったんです。やっぱり永ちゃん(矢沢永吉)も(甲本)ヒロトも、メンタルがバッド・ボーイだと思うんですね。自分もそういうミュージシャンでありたいし、それは感覚の中心に入れておきたいなって」
――「ROB THE WORLD」もそういった新しい価値を提示する作品だと思ったし、『NEW YANKEE』でも、そのバッド・ボーイ的な価値観を、メジャーのフィールドで形にするんだなって。
 「このタイトルをつけても、やっと説得力が出てきたなって。1stでこのタイトルつけたら“え、ヤンキー? ダサっ!”って、俺も聴かへんかったと思うんですよ (笑)。だけど、今までのキャリアがあるからこそ、“ヤンキー”って意味も考えてもらえるようになったと思うんですよね。それに“ヤンキー”の精神って、今の時代に足りひんものだと思うんですよ。だからそういう、ヘッズのヤンチャ心だったり、熱い気持ちに火を点けられたらとも思って、このタイトルにしたんです」
――そういった、心の滾るような部分を刺激するけど、明確にバッドなテーマだったり、ワードは使ってませんね。
 「俺の伝えたいことは、そこ(単純な不良的テーマ)にはなかったというか。1stのときはそういう部分があったけど、それ以降は、人の芯を突くようなことを書きたいって思ってたし、それにはそういう言葉を書く必要はなかったし、それよりも、俺にしか言えへん言葉を書きたかった。やっぱり、どんなにスキルフルなラップでも、心が動かないと、それは“無”やと思うんですよ。だからラップのテクニックやスキルって部分よりも、もっと大事やって思う、人の心を動かすようなラップを形にしたいなってずっと思ってて。今回は、自分の書きたかった本質が表現できたなと思いますね」
――今作は10曲とコンパクトながら、幅は広い作品だと思いました。
 「アルバム全曲が好きっていうのは難しいと思うんだけど、10曲のなかのどれかでも引っかかってくれれば嬉しいし、だからこそ、そういうバラエティのある作品にしたいなと思って。加えて、“シリアスに心に刺す”って部分は、今までできてたと思うんだけど、今回は“ミュージックを楽しむ”って部分を強く形にしたくて」
――楽しんだり、共有するっていう意識が確かに強いですね。
 「すべての曲に自分の気持ちは籠もってるけど、同時に、ストリートの声、誰でも当てはまる気持ちを込めたいって。それは自分にとってもチャレンジだったし、この作品で今まで届かなかった人たちにも届けばいいなって」
――前作『DGKA』も現行のヒップホップを意識した部分が強かったけど、今作の頭4曲は、フロア・ライクな部分が強くて、そういった打ち出しにも驚いて。
 「バランス的にも分散するよりも、固めた方が印象に残るかなと思ったし、みんなを楽しませられるパーティ・チューンをまず聴かせようって。〈The Theme〉 だったり(ダンサブルなモノに関しては)音に引っ張られる部分も強かったですね。〈Energy Drink〉もホントに変なビートで、なかなか手をつけられなかったんだけど、音を聴いてたら、いつの間にかぱっと言葉が浮かんで」
――「Shake Dat Ass feat. AISHA」はHabanero Posseの真骨頂ともいえるビートですが、一方であまりANACHYのイメージには無い曲ですね。
 「このタイトルも、Habaneroのデモの段階からあって、そこからインスピレーションを受けました」
――こんなアホな曲、ANARCHYが書くんだって驚きもありつつ(笑)。
 「モロ感覚が中2ですからね(笑)。面白いし、大好きな曲なんだけど、ここで書かれてることが格好良いとは思えへん(笑)。でも、こういう曲も格好良く書けるようになったんやなって、自分を褒めてますね。夏超えたら書けへんぞ、と思って、暖かくなってから書きました(笑)」
――「VVVIP feat. VERBAL」は ラップ・スター的な概念を形にした曲ですが、その客演相手がVERBALだったのは面白いなって。
 「VERBALくんとは、ずっと一緒に作りたいって思ってたんですよね。一緒にいろんな挑戦ができる人だなって思ってたし、そういう化学反応を起こしたかった。それで、“このタッグだからできることは?”って考えたら、派手さだったり、ラージな部分かなって」
――VARBALは屈託のないパーティ性を出して、ANARCHYは「団地の四畳半」っていうパーティに至る原点みたいな部分が出るっていう、その対比も興味深くて。その意味では、ANARCHYと同じ、団地育ちのKOHHを客演に迎えた「Moon Child feat. KOHH」に繋がるのは意味がありますね。
 「『DGKA』でKOHHと〈Bank 2 Bank〉を作ったときは、そのときのノリで作ったんだけど、その次はお互いに赤ペン入れ合うような、固い作品を作ろうってことは、そのときから話してて。今回は、1曲はゲットー・ソングを入れたかったし、そこには、KOHHがドンズバにはまったんですよね」
――ANARCHYは京都の、KOHHは東京の団地出身ですが、共通する感覚はありますか?
 「KOHHのリリックはすべて共感できるし、この子も俺と同じなんだなって。だからもっと伸びてほしいし、才能を開花させてほしい。加えて、こういうシリアスな内容も書けるから、ノリやパーティって部分でだけでKOHHは消費されてほしくないなって思いますね」
――ではゲットー・ソングを書く理由は?
 「やっぱり、俺らと同じ環境に育った奴らに、ちょっとでも光を見せたり、勇気を出してもらえればなって。俺の音楽って、最初からそいつらのために作りはじめたわけだから、その原点は、これからもやっぱり書き続けるんだと思いますね」
――「Spiral」でポリティカルな内容を書いたのは?
 「あんま頭の良い方じゃないから、こういうことを書けないわと思ってたけど、でも、アホでも考えること、意見言うことは許されるでしょ、って。だから自分の感覚で、国のことを書きたいって思ったんですよね。正直、書くのに何ヵ月もかかったし、その間、アホなりにニュース見まくって。だけど、俺がこうやって歌うことで、国がもしかしたら1ミリでも動くかもしれないじゃないですか。そういう可能性がラップには含まれてると思うんですよね」
――「Cry」もそうだけど、どういった方向であれ、今、政治的なことを意識せざるを得ない状況の中で、こういった曲がANARCHYから生まれたのは、時代をかぎ取ってるんだなって。
 「しかも、俺らみたいな連中が、政治的なことを書くことで、少しでもそういうことへの意識を持ってほしいなって。その人なりで良いから」
――「Love Song feat.AISHA」は、タイトル通り王道のラヴ・ソングですね。
 「男の女々しいラヴ・ソングって今まで書いたことなくて。“別れても好き”だったり“忘れたくても忘れられない”みたいな気持ちは、不良でも真面目な人でも、男でも女でもあると思うんですよね。でも、そういう気持ちは今まで書けてなかった。だから、格好悪いラヴ・ソングを書きたかったんです。その代わりに、AISHAには“もう振り返らない”っていう女の子の気持ちを書いてもらって、女の子には勇気を、男にはちょっとピュアで切ない気持ちになってもらえれば。そういうバランスは考えましたね」
――「Right Here」は先行シングルでもありましたが。
 「“ここまで来た”って部分より、“諦めることなんていつだってできたけど”って言葉の方が、自分にとっては実は重要なんですよね。そこで、“諦めなかったら行ける”ってことを言ってあげたいんです。可能性は無限にあるし、例えば野球少年だったら“プロ野球選手に100%なれるよ”って言ってやりたい。普通の大人は、“プロになれるのは一握りだから”っていうけど、それはなんか変やなって。自分は曇りなく、“100%なれるから、自分も100%なれるって信じろ”って言ってやりたい。それは、俺がラッパーになれたからってことでもあるし、自分がメジャーに行ったからとかじゃなくて、3年前でも4年前でも、そう言ってたと思う。今やから重みはちょっと変わったと思うし、 “諦めなければ叶う”って言ってやりたい」
――最後は、「Good Day feat. JESSE」で閉じられますが。
 「難しいことは考えなかったですね。JESSEのスタジオで、最高な曲を作りましょうって。JESSEが最高な人間やし、スタジオの空気自体も最高で、そのままパックした感じですね。最高な時間を最高に楽しんでってことをメッセージしたくて、ハッピーで素直な気持ちを書きました」
――なるほど。最後に、メジャーへの進出で意識は変わりましたか?
 「変わりましたね。俺一人ではできないことをやるためにメジャーに来たんで、いろんな人を巻き込んで、ヒップホップ・シーンをデカくして、音楽シーンに風穴を空けたいって気持ちで挑んでますね。そうやって、ヒップホップを“進めたい”って思うんです。そのためのチャレンジを与えてもらったんで、今はその刺激を楽しんでますね」


取材・文 / 高木JET晋一郎(2014年6月)
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