杏沙子、彼女のパブリック・イメージを爽快に裏切る新作

杏沙子   2020/07/08掲載
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 2019年2月にリリースされたファースト・アルバム『フェルマータ』で“もっと正直になりたい”(〈着ぐるみ〉)と歌ってから1年半。杏沙子が2ndアルバム『ノーメイク、ストーリー』を完成させた。
 全10曲中7曲を作詞・作曲し、2曲では幕須介人と宮川弾の曲に詞を乗せている。両方を外部(幕須)に委ねたのは1曲だけだ。2018年7月のデビューEP『花火の魔法』は5曲のうち自作が3曲、『フェルマータ』は11曲中5曲(作詞のみは3曲)だったことを思えばソングライターとしての成長ぶりは顕著だが、何より変わったのはその中身である。
 アルバム・タイトルからもわかる通り、杏沙子自身の経験や友人の話をもとに、きわめて率直に心象を描いた歌が並んでいる。フィクショナルな曲を作って主人公を演じるように歌う、という彼女のパブリック・イメージを、“ノーメイク”な“ストーリー”の数々は爽快に裏切る。
 COVID-19緊急事態宣言下の自粛期間中は断捨離に精を出していたという杏沙子に、『ノーメイク、ストーリー』についてたっぷり語ってもらった。「話そうと思えば永遠に話せます」と笑っていたが、それだけ強い思いのこもったアルバムなのだ。できれば前回前々回のインタビューも併読されたい。
New Album
杏沙子
『ノーメイク、ストーリー』

初回限定盤 2CD VIZL-1772
※ワンマンライブ〈あさこまとめ2019 〜まとめません〜〉(Veats Shibuya/2019年12月8日公演)ライヴCD付き
――いつごろアルバムを作り始めたんですか?
 「『フェルマータ』ができてすぐなので、去年の2月ごろですね。それから1年ぐらいかけて作りました」
――いちばん古い曲は?
 「〈東京一時停止ボタン〉です。『花火の魔法』を出す前ぐらいだから2年ちょっと前。当時、同郷の親友が夢を抱いて頑張っていた仕事をやめて、この曲の歌詞のまんまみたいな話をよくしてたんですよ。これは曲にしなければ、と思って作ったんですけど、当時は映画や小説みたいに聴ける歌を作ろうとしていたので内容となじまなくて、いわゆるお蔵入りをしてました。今回、モードが変わってノンフィクションなものを書きたくなったときに、“あの曲があった!”って思い出したんです」
――なるほど。『フェルマータ』のときのインタビューで、幕須介人さんの提供曲「着ぐるみ」に刺激されて“着ぐるみ”を脱ぎ始め、アルバム制作の最後の最後に「とっとりのうた」を書いて素っ裸になれた、と話していましたが、そこからノンフィクション志向に振れて、その流れでできたのが『ノーメイク、ストーリー』ということでしょうか?
 「その通りです」
――で、1年前のシングル「ファーストフライト」もその過程にあると。
 「その通りです。“その通り”しか言えない……(笑)」
――僕が聴いてまず思ったのが“声が違う”でした。ほんの少し低く、太くなっている。
 「それもその通りで、〈アップルティー〉なんかからすると全然変わってると思います。ずっとフィクションを好きで作ってきて、歌に関しても物語の主人公を演じてきましたけど、今回はノンフィクションだし、ほとんどの曲の主人公がわたしなので、無駄なものを取っ払って自分まんまで歌った感じですね」
――虚構性の高い曲と演技的な歌は杏沙子さんの看板でもあったと思うんですが、それを封印することに不安はありませんでしたか?
 「あんまり自覚はないです(笑)。やっぱり〈とっとりのうた〉と〈ファーストフライト〉がすごく大きかったです。もう脱ぎたい、さらけ出したいっていう気持ちが先行していった感じで」
――アルバム・タイトルそのままですね。1曲めの〈Look At Me!!〉から威勢よく目立ちたがり屋宣言していて、今回は違うぞ、という感じ。
 「どうしても1曲めにしたかったんです。“わたしを見て!”っていう宣戦布告じゃないですけど(笑)、基本あまり自信がないタイプなので、そこから脱したいっていう気持ちを込めて書いた曲ですね。いま思うと、アルバム全体が本当に自分くさい作品になったので、これからわたしを見せますよ、っていう意味で最初にしたかったのかなと」
杏沙子
――この曲のサビは歌詞カードには“わたしにください”と書いてあるけど、“あたし”と歌っていて、威勢のいい印象がさらに強まりますが、意図的にそうしたんですか?
 「意図的ではないです(笑)。たぶん、ふだん“あたし”って言ってるんだと思います。こうなろうぜ、わたし、っていう、自分に対するおまじないみたいな曲ですね」
――続く「こっちがいい」はとてもよくできた曲だと思いました。“繋ぐ手はいつも左/理由なんてない こっちがいい!”というかわいいこだわりが、“出会えたこと それがもう大正解”だから最終的に“どっちでもいい”になる。オチがとてもきれいですね。
 「偶然なんです。わたしが曲を書くときはほとんどの場合、“このワードいいな”って思ったところから始まるので、“こっちがいい”っていう言い回しにすごい可能性というかパワーがあるなって思ったのがきっかけで。だからいつも通り何も考えずに見切り発車で書き始めたんですけど、考えを深めていくうちにこうなったっていう。でも、この結末になったのは自分の中に確実にその価値観があったからだし、わたしってこう思ってるんだ、って気づかされた曲でもあります」
――どこでゲットした言葉なんですか?
 「実体験です。恋人と手をつなぐときや寝るときに“なんかこっちじゃない、こっちがいい”みたいに感じることを何度か経験して、それって何なんだろうと思ってメモしてたんです。だから書き始めは、直感なのに2人で一致してるのは“面白いな”だったんですけど、選ぶといえば彼を選んだのもそうだし、彼に出会う未来を選んだのもそうだな、っていうふうにだんだんと深まっていきました」
――出てきた言葉に導かれて思考の輪郭が明確になっていったと。「俺の歌詞は俺より頭がいい」という横山 剣さん(クレイジーケンバンド)の名言を思い出しました。
 「自分の曲に気づかされるという体験を初めて明確にしました。一曲できたことによって自分のことを一個知って、価値観が確立されていくみたいな。感じたことを書くことによってそうなっていくんだなって」
――自分の経験がもとになった曲だから、ある種の生々しさがありますよね。そういう部分を出すことに迷いはありませんでしたか?
 「なかったです。〈とっとりのうた〉と〈ファーストフライト〉は迷いましたけど、その2曲で吹っ切れたというか、むしろもっと自分のことを書きたい、もっとぶっちゃけたい、みたいなモードになりました。でも〈見る目ないなぁ〉は最初ちょっと迷ったかもしれないです。今回はこれまで好きでよく使っていた、小説に書いてあるような言葉じゃなくて、LINEで友達に送るような言葉だったりとか、ツイートするような言葉だったりとか、もっとライトな言葉をあえて選んだんですけど、本当にこれでいいのかな、生々しすぎるけど……みたいな」
――僕も文章を書くときに、言い回しが口語的すぎると“バカっぽくないかな?”と不安になることがあります(笑)。
 「ウフフ。でも話し言葉ってすごく強いなって思いました。いちばん届きやすくて浸透力があるっていうか。その可能性もアルバムを作りながら考えてましたね」
――ひねっていないから。従来はひねるところに“杏沙子らしさ”みたいなものを見出していたわけだから、大きな転換ですね。
 「うん。完全にモードが変わったなと思いますね」
――生々しいといえば「変身」もそうで、比喩や押韻など表現は上手だけど、内容的にはなかなかギリギリのところまで踏み込んでいる印象を受けました。
 「出てきたものをそのまんま書いた曲なので、けっこう不安でした。“変身”“前進”“更新”で帳尻を合わせてるんですけど(笑)。幕須介人さんのアレンジがだいぶポップでハッピーなので、ファンタジックな意味での“変身”って響きになってますけど、歌ってる感情はだいぶシリアスだと思います」
――「クレンジング」は杏沙子さんご自身のお気に入りだそうですね。
 「はい。これも実体験ですけど、“落ちる”で展開させていくみたいなわたしの大好きな大好きなかけ言葉とか、韻を踏みながらちょっとずつ変わっていくところとか、技法的にもすごく気に入ってる曲です」
――これも生々しいですよね。
 「この曲がいちばん新しい恋愛なんですよ。だからすごくリアルだなと自分でも思います。欲が出てますね(笑)」
――夜中に書いたラブレターは出しちゃダメだっていうじゃないですか。エモいテンションで書いた文章って恥ずかしいけど、思い切って出すとむしろ整えた文章より伝わるものがあったりしますよね。そのことを思い出しました。
 「あー、〈クレンジング〉はけっこうそのタイプですね。本当に夜中に書いたし(笑)。お風呂に入りながら“あーやばい、作れるこれ!”って思って、お風呂から上がって1時間ぐらいで1番まで書いちゃいました。衝動だからこそかけ言葉もスルスルっと出てきたし、とめどなくあふれ出たものってやっぱり強いなって」
杏沙子
――「outro」と「交点」がメドレーになっていますが、別々に録ったんですよね?
 「別々です。わたし的に〈見る目ないなぁ〉までがA面で、ここからB面ってイメージなんですよ。一個一個の曲が物語ではあるんですけど、アルバム一枚で一個の物語っていうつながりを持たせたくて。ディレクターさんと“この2曲はイメージがつながってるから曲順も続いたほうがいいね”って話はしてたので、マスタリングのときエンジニアさんに“どうにかなりませんかね?”ってお願いして、無理やりくっつけてもらいました(笑)」
――「outro」は作曲が宮川弾さんで作詞が杏沙子さんという、前作の「半透明のさよなら」と同じコンビですね。
 「しかもアレンジは山本隆二さんで、完全に同じチームです。〈半透明〉のときは曲を聴いたら映像が浮かんできて、映画を撮るような感覚で歌詞を書いたって話しましたけど、今回は自分のモードが違ったからか、過去に見た映像が浮かんできたんです。夜、ある部屋にいて、外は雨が降ってて、ベッドが見えて。すごく短いメロディなので、その映像を限られた音数でどう描写するかで苦戦しましたけど、書いてて面白かったです。何かがすご〜く静か〜に終わっていくと同時に何かがすご〜く静か〜に始まっていくイメージが浮かんだので、交響曲ってちびちびボリュームを下げていくみたいな終わり方するよな、って思い出して“長く続いた交響曲の終わりのように”ってフレーズを入れました」
――唯一、幕須さんが作詞・作曲を両方手がけている「交点」は、70年代に女性歌手が歌っていた大人向けの歌謡曲を思い出させるものがありました。
 「幕須さんがそのへんの曲が好きだからですかね。正直、もらったときはわたしが歌ってるところがあまり想像できないっていうか、怖かったんです。つかみどころがなさすぎて、“これ、わたしが歌えるんだろうか?”って思っちゃって。でも、幕須さんがレコーディングのときに、“ちょっと前までは時間や気持ちを濃密に共有していたのに、いまはどこで何をしているかわからない人っているよね”みたいなことをボソッとつぶやいて、この曲の内容だって言ってたわけじゃないんですけど、“あ、それだ”って腑に落ちて、レコーディングに臨めました」
――ちょっと背伸び感があった?
 「すごく難しい曲でした。まだわたしのなかで全然かみ砕けていないし、レコーディングにも正直、語弊があるかもしれないですけど、満足してないです。未完成ですね。これが自分の100点の歌だ、って胸を張れる日がいつかくるのかどうか……」
――もしかしたら前作の「着ぐるみ」みたいに、次のきっかけを生む曲になるかもしれませんね。
 「あー。いまはわからないですけど、この曲だけ別方向の景色が抜けて見えるような感じはすごくあります。未完成だからライヴで歌うたびに変わっていくだろうし、年齢を重ねても変わっていくだろうし」
――「東京一時停止ボタン」はアルバムの中では比較的テクニカルな曲ですよね。
 「実在した気持ちを歌ってるって意味ではノンフィクションですけど、いちばん古い曲ですし、ちょっと書き方が違いますね。当時はモードが違うというか」
――地方出身者の都会への愛憎全開で、「とっとりのうた」と裏表の関係にあるような感じ。早口で歌う箇所が多くて、楽しそうに歌っているなと思いました。
 「できたときはだいぶニヤニヤしてました(笑)。ひとの苦しみを歌っておきながら」
――「Look At Me!!」と「ジェットコースター」にも僕は通じるものを感じたので、9曲めまででぐるりと円環を描いたようなイメージです。「ファーストフライト」はボーナス・トラックというかアンカー(錨)というかエンディング・テーマみたいな。
 「そのつもりで〈ファーストフライト〉は最後に置きました。〈ジェットコースター〉はいちばん新しい曲で、曲ができた経緯が〈東京一時停止ボタン〉と似てるんですけど、実在した気持ちを書きたいモードのときに、ちょうど友人がカラオケボックスで涙ながらにこの話をしてくれたんです。“君とわたしは見えてる色が違うから”って一節がありますけど、嫌いになったわけじゃなくて価値観が合わなかったから別れた、だからジェットコースターに乗って笑顔でバイバイした、って。理解はできても全然共感できなかったんですけど(笑)、彼女の気持ちを知りたくて、曲にしたくて、とにかく言葉をメモして、自分なりに表現しようと思って書いた曲です。レコーディングで彼女になりきって歌ったら、聞いたときにはわからなかった気持ちが、なんかすごくわかった気がしました。そのせいか、いままで出したことのない声が出てますね。やけっぱちみたいな」
――1番と2番で時系列を逆にして、回想から始まっているのが面白いです。
 「〈こっちがいい〉と同じで、まずサビにいちばん爆発させたい気持ちを書いてから、なぜそうなったのかをAメロBメロで書いていきました。ノンフィクションではあるんですけど、やっぱり松本 隆さんのファンとしては、物語に昇華させたいんですよね。『ノーメイク、ストーリー』なので。映画を撮るような感覚で、回想シーンを入れたいなと思って作っていきました」
――『フェルマータ』のインタビューで「とっとりのうた」について“いまの杏沙子さんにしか書けない曲を書き切れましたね”みたいなことを言ったんですが、今回はアルバムまるごとそういう感じがあります。
 「うわー! うれしい」
――26歳ならではというか、たとえばラブソングでもハッピーとサッドだけじゃなくて、もっと複雑で微妙な部分ややるせなさが視界に入っていますよね。
 「うんうん。一種の醒めた感覚というか、軽いあきらめみたいな。それはある程度、年を重ねないと……ってまだ若いですけど(笑)、出てこないものかもしれないですね」
――あとから振り返ったときに一抹のこっぱずかしさを感じる可能性はありますが(笑)、それくらい、いまだけのことをやり切っているというか。
 「すごく納得しました。〈アップルティー〉ってわたし、いつまで経っても恥ずかしさを感じないんですよ。なぜならフィクションだからかな……? って、いま話をしながら思いました。昔の写真を見るのって恥ずかしいじゃないですか。中学のときの写真マジ見たくない、みたいな(笑)。そういう感覚になるのって、それだけ自分に近い曲ができたっていうか、自分まんまだからなのかもしれないから、むしろ将来恥ずかしいって思いたいです(笑)。思えたら勝ちなんじゃないかなって」
――というのが僕の感想ですが、ご自身的にはいかがですか?
 「これまでのどのリリースよりも晴れてます、作り終わったいまの気持ちが。『フェルマータ』は音楽的にはすごく解放感があったし、いまもすばらしいアルバムだと思うんですけど、〈とっとりのうた〉で終わったせいもあって、もっと自分だけにしか書けない曲を書きたいって、すごく強く思ったんですよ。“次は絶対に全曲わたしが書く!”ぐらいの勢いで。そういう意味で自分を解放したというか、もしこれでダメならもうしょうがないな、って思えるぐらいのやり切った感があります」
――僕も『フェルマータ』はいいアルバムだと思いますが、杏沙子さんが“もっと曲を書きたい”と言っていたのをよく覚えているので、非常に納得しています。
 「モヤモヤしていたものをやっと解放できたかなって(笑)。ジャケットも別の人かな? っていうぐらい違うし、歌いたいことがすごく変わったなって思います、この1年間で。自分の負の感情みたいなものが後ろでドロドロ流れている曲が多いんですけど、そういう感情をこの1年間ずっと抱いていたからこそ書けたとも思うし、無駄じゃなかったなって。そういう意味でもすっきりしてます」
――ジャケットといえば、これまでは作り込んだ写真ばかりでしたけど、今回はぐっとナチュラルになりましたね。
 「アルバムが完成したあとジャケットどうする? ってみんなで話して、生っぽい写真がいいよね、って話になったんです。そういう写真を撮ってくれそうなカメラマンさんを探して、花盛友里さんにお願いしました。“脱いでみた。”っていうプロジェクトをやってらっしゃるんですけど、モデルとかじゃない一般の女の子のヌードを普通の部屋で撮ってて、日常のなかのヌードみたいな飾らない感じ、モデルさんのような美しさとはまた違ったリアルな美しさを見せちゃうみたいな感じが、このアルバムの“脱ぎたい”っていうモードとすごく共鳴してるって思って。本心を見せるなら部屋も見せちゃおう、っていうことになって、部屋を借りて私物を持ち込んで、自分の部屋みたいにして撮ってもらいました」
――先日公開された「見る目ないなぁ」のMVもそれに通じますね。ずっと後ろ姿で、これまでのMVが見る人と視線を合わせていたのとは正反対に、見る人と同じほうを向いて視点を重ねている感じ。
 「重ねてほしかったんです。曲の主人公と……っていうか自分なんですけど、見る人とをより近づけるにはどうしたらいいか考えて、わたしが提案しました。顔を見せないほうが見る人が表情を想像するし、それって感情を重ねることでもあるから、後ろ姿をずっと追いかけていくのがいいって」
――『フェルマータ』には「ダンスダンスダンス」「よっちゃんの運動会」など遊びっぽい曲があったじゃないですか。ああいう曲をこれからも1、2曲は入れたいと言っていましたが、今回それにあたる曲は?
 「強いて言うなら〈変身〉ですけど、制作の終盤になって並べたときに“あ、今回はなかったな”って思いました(笑)。“まいっか、書きたい気分じゃないし”みたいな。ここには入ってないですけど、〈ケチャップチャップ〉(〈ファーストフライト〉のシングルに収録)書いたからいいかなって」
――前作がインディーズ以来の杏沙子さんの集大成で、『ノーメイク、ストーリー』は第2幕のスタート、という感じですかね。
 「フィクションも相変わらず好きなので、きっとまた書きたくなるときはくるだろうと思うんですけど、いまはまだノンフィクション・モードですね。先のことは自分でもまだ予想がつきませんけど、いまは“もっと掘れるんじゃね?”って思ってます(笑)」
――さらに深掘りしますか。“脱ぎたい”モードも深まってきていますね。
 「そこをフォローしてくれてるのがストーリー性なのかなって。それがあれば“こいつ、こんなこと思ってるんだってよ”じゃなくて、映画を見るような感覚で聴いてもらえると思うから。技法を使って飲み込みやすいものにしているというか。“もっと掘れるんじゃね?”って言ったのは、そういう部分さえ取っ払ってみたいっていう、怖いもの見たさみたいな感覚が顔を出し始めてるからなんです。“まだいけるぞ、まだいけるぞ”って誰かが耳元でずっと囁いてて(笑)。でもそれってどうなの?っていう不安もあり、そこはこれから迷います」
――感情は赤裸々だけど、技法は凝らしてあると。
 「でもそこはあんまり意識しないようにしてます。なるべくこねくり回さないほうがいいと思うので。こねくり回した曲はもうやめます(笑)。ひと晩で書いた〈クレンジング〉みたいな曲のほうが強いし、歌って元来そういうものだったんじゃないかなって思うし。あんまり考えるよりも、言いたいことを優先させたいなって」
――さっき「クレンジング」には“欲が出ている”と言っていましたけど、杏沙子さんという人の多面性がアルバム全体によく表現されていると思いますよ。
 「自分は本当に平凡な普通の人間だと思っているので、多面性って言われるとうれしいです(笑)。感じていることを正直に記すことによって、自分の……魅力?になっていくのは不思議ですね。ぶっちゃけ話が魅力になっていくっていう」
――そういうことは日常でもありますよね。正直になんでも話してくれたほうが好きになれるし、信頼できるじゃないですか。
 「〈見る目ないなぁ〉のMVが公開されたとき、これまでと曲の書き方が変わったからなのか、“わたしもこういうことがあって、そのときのことを思い出しました”みたいに自分の経験を打ち明けてくれるコメントがすごく多かったんです。そういう感想をもらうのは初めてで、自分の曲が誰かの“ノーメイク、ストーリー”を引き出してるというか、知らない誰かと自分が重なってる瞬間を初めて体験してます、現在進行形で。自分のことを書いてるのに、共感してくれる人がいるのって不思議ですよね。そういうこともあって、早く聴いてもらいたいっていう気持ちが強いです」
――楽しみですね。そろそろ時間ですが、最後に話しておきたいことがありましたら。
 「えーっと、ライヴがしたいです!」
――ですよね。7月のワンマンも延期されちゃいましたし。
 「言ったってしょうがないんですけど。やりたいし、見たいし。あの空間に身を置きたいですね」
取材・文/高岡洋詞
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