それぞれがリアルタイムに反応していく――宮古発インスト・バンド、BLACK WAXの4thアルバム『VIGOR』

BLACK WAX   2015/09/25掲載
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 宮古島を拠点に、ジャズやファンク、レゲエなどさまざまなジャンルを取り込んだ無国籍なサウンドを放ち注目を集める4人組インスト・バンド、BLACK WAX。前3作同様プロデューサーに久保田麻琴を迎え7月にリリースされた4枚目のアルバム『VIGOR』では、ディジー・ガレスピーや宮古民謡のカヴァーを交えつつ、これまで以上に洗練された魅力を放つ「AFRO」や「VIGOR」といったオリジナル曲で濃密な世界を描き出した。8月25日(月)に東京・渋谷 WWWで開催されたレコ発ライヴのため東京へとやってきた彼らに、アルバムについて、そして“天邪鬼”だという宮古の人々について話を聞いた。
――結成に関するいきさつは2ndアルバム『バンガムリ』のときに登場いただいたインタビューでもお話いただいているので、今回のアルバムのことからお聞きしていこうかなと思います。タイトルにもなっている“VIGOR”っていうのは宮古の古語なんですよね。
Mikio Okuhira(ds) 「そうですね。普段は使わないんですけど(笑)」
――“ゾクゾクくる”“鳥肌が立つ”とか、そういうニュアンスの言葉で、タイトル・トラックとなっている「VIGOR」はヤギ刺しを食べて酩酊したときの気分を描いたとか。
Ayano Ikemura(key) 「イメージはそうですね。ヤギ刺しを食べてお酒を飲んだおじぃが鳥肌たてながら、“ヴィゴーヴィゴー”って言ってて」
――ヤギ刺しってこちらではなかなか食べる機会がないんですけど、いわゆる滋養強壮食としても知られているんですよね。普段から食べるものなんですか?
Tetsuya“88”Ogino(b) 「いや、たまにですよ(笑)。血圧があがるんですよね。頭フラフラになって、気持ちいい感じになるかも」
Marino Ikemura(sax) 「飲んだシメにヤギそば食べたりはしてますね」
――今回も久保田麻琴さんをプロデューサーに迎えてますけど、これまでと同様、曲に関して細かい指示があったりしたわけではなく。
Mikio 「そうですね。録音したものは15曲あったんですけど、そこから選んでもらって、って感じで」
――アルバムの構成が、カヴァーとオリジナルの交互になってるじゃないですか。ここに意図ってあったりするんですか?
Mikio 「ぼくはいま初めて知りました(笑)」
(一同笑)
――そうなんですか!?
Mikio 「逆に、そうなんですか?(資料を見る)……ほんとだ。DJとかもやられているP-Booさん(下地“P-Boo”学 / Myahk Records主宰)にお任せなんですよね」
――なるほど。前のアルバムまではそんなことなかったんで、特別にデザインされたものかと思ってました……。
Marino Ikemura 「……すいません(笑)」
――これまではスタンダードなナンバーをこんなアレンジやサウンドでやっている、という文脈で語られることも多かったと思うんですけど、今回はオリジナルの存在感がすごく強いなぁと思って。特に「AFRO」は、BLACK WAXの音楽を洗練させつつ再構築したような、すごく強力なナンバーだなと。
Mikio 「おぉ、さすがです。〈AFRO〉はこのアルバムのなかでも割く時間はすごく多かったですね」
Tetsuya 「録音してるときに泣きそうになりました。最後にキーボード入れてるときなんか、これはもう……って」
――その「AFRO」には全員の名前がクレジットされてますけど、曲はどのように作っているんですか?
Tetsuya 「セッションで作っていくことが多いですね。それでデモを作って、聴きなおして、アレンジしていく。〈AFRO〉はmikioがおもしろいリズムを叩いていたので、自分もずっとやりたかったフレーズを乗せたりして。結局、最初に弾いていたフレーズは全然残ってなかったりするんですけど(笑)」
――「VIGOR」は“酩酊感”、「AWA」は“泡盛と阿波踊り”とか、まずコンセプト作ってからセッションしていく感じなんですか?
Ayano 「いや、それは後付けみたいことが多いですね。もしかしたらこんな方向に行くのかな、みたいな」
――最初はリフやメロディありき、というか。
Ayano 「そこから、繋げていく。こういう感じにいったらおもしろいかな、ってそれぞれがリアルタイムに反応していく感じですね」
Marino 「〈VIGOR〉なんかはメロディとコードだけを作ってて、リズムはこうしたほうがいいって引っ張ってもらって。アイディアをどんどん出してもらって、どんどん違う曲になっていくんです」
――原型はメロとコードくらいで。
Tetsuya 「かすかににおってるな、くらいですかね」
Marino 「こうしてほしいってイメージで作ったものが、どんどん違う感じになっていくのが楽しいんですよね。逆に〈AFRO〉は、リズム隊が作った形に、こういうメロディがいいんじゃない?ってつけていったり」
――ということは、原型ができてから完成まではかなり時間がかかってるんですね。
Mikio 「そうですね。今回は特に、ですけど」
――もちろん今回もカヴァーは多数収録していて。ディジー・ガレスピーが2曲(「MANTECA」「A NIGHT IN TUNISIA」)、ボビー・ヘブの「SUNNY」、ジャッキー・ミットゥ「DRUM SONG」、そして宮古民謡の「AGAIZATO」と、かなり多彩なジャンルから選ばれてますよね。
Mikio 「アルバムに向けてこうしよう、とかいう感じではなかったんですけど、いろいろ聴いて、いいなと思うものに」
――アルバムごとにこういう音楽性でいこう、ってテーマを決めてるわけではないんですね。
Mikio 「そのときに聴いてる音楽とか、そういうものが自然と反映されてる感じですね。『VIGOR』のときは、アフロ・ビートだったり」
Marino 「4人とも聴いている音楽はバラバラなんですけど、お互いで共有したり、貸しあったりしてはいます。おもしろいのみつけた!って」
――そこで交換した情報が、オリジナルも含めたセッションにつながっていくんですね。
Mikio 「そうですね。いまは“エチオピア”というキーワードでやったりしていて」
Marino 「こうやってヒントがひとつでると、そこから派生して、途中でフレンチ・ポップとかになったりしていって。やってるうちに、“これとこれ似てない?”みたいな」
Ayano 「演歌にも似てるよね、とかキャッキャ言いながら」
Marino 「そういうヒントを手がかりにして、メロディを作ったり。兄さん方はいろんなものに精通してるんで追いかけている感じですね」
――「AGAIZATO」は漢字で“東里”と書く地名だそうですが、皆さんにとってはなじみある曲なんですか?
Marino 「2ndに入っている〈バンガムリ〉と同じく子守唄なんですけど、私は初めて聴きました。西里って場所があって、そこは東京でいう歌舞伎町でネオンがあって、みたいなところなんですけど、東里は中心地にある芸能の町なんです。人頭税を納めていた時代に、納税できたらみんなで集まって、っていう場所で。そこで歌われていた曲だって聴きました」
Tetsuya 「映画『スケッチ・オブ・ミャーク』で流れてたりしてたので、けっこう知られた民謡ではあって」
Marino 「宮古のことに関しては、(Tetsuyaが)いちばん詳しいかもしれない」
Tetsuya 「寝るときは、おばあの歌声だけかけて寝たりしてます(笑)」
――大阪出身で19歳になってから宮古にやってきたというぶん、いろいろ新鮮に感じることができるのかもしれませんね。
Tetsuya 「そうですね、それはあると思います。若い人が聴いている音楽も独特で、それがその人だけの趣味かと思うとみんなそうなんですよ」
――あとは印象に残っているカヴァーはありますか?
Marino 「〈DRUM SONG〉はすごく変わったので、今回のカヴァーの中では印象が強いですね。リズム隊に頑張ってもらって、変化をつけて」
Tetsuya 「ハモンドで録音してるんだっけ? その音色もすごくよくて」
Marino 「今回は山梨の小淵沢のスタジオで録らせていただいたんですけど、機材もすごいそろってて、キーボードのバリエーションもすごくて」
――去年開催された〈Peter Barakan's LIVE MAGIC! 〉では、久保田麻琴さんをライヴミックスに迎えて披露されていましたよね。
――先日は〈スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド〉に出演したり、ここ数年はすごくいろんな方とも共演されてますよね。とくに、レコ発イベントにもゲスト出演される梅津和時さんとは、これまでも何度か一緒のステージに上がっていて。
Marino 「今回で3回目ですかね。私のアイドルだったので、毎回すごく刺激をもらってます。宮古島での活動だけだと、管楽器仲間みたいな人がなかなかいなくて、すごく寂しいんですよね。内地に行ってライヴに出たときにいろんな管楽器奏者の方とセッションをさせていただいたりとか、そういう年に何回かしかない。そのなかでも梅津さんは憧れだったので、1年に1回でもこういう機会をあたえてもらって、寂しさを埋めるというか(笑)」
(一同笑)
――今しかない!と(笑)。
Marino 「“こうだろ? こうだろ?”って。普段エフェクターで自分の音とハモってるんですけど、二人だとハモりがあって当然だし。宮古にいると、自分と向き合う時間があまりにも多くて」
――そういう意味では、ベーシストとかドラマーはたくさんいるんですよね?
Tetsuya 「そうですね。やっぱりロカビリーが流行ってるので、とくにウッドベースなんかはたくさんいます」
――何度聞いても不思議なんですが、宮古の若い人たちはロカビリーから入るのがスタンダードなんですよね。
Tetsuya 「でも、最近はちょっと減ってきてるみたいですね」
Marino 「私はいま29歳なんですけど、ひとつふたつ下の世代くらいから、ヒップホップがきてるみたいです。制服とかもダボっと着てて」
Tetsuya 「去年までツイスト踊ってたやつがダボダボのTシャツとか着てて。やめてくれよって(笑)」
――でも、みなさんは全然違うことやってるじゃないですか(笑)。
Tetsuya 「そうなんですけどねぇ。いたらいたで嬉しいというか」
――音楽やってる人自体は多いんですか?
Mikio 「多いですね。でも、前に出たがらないんです」
Ayano 「そうそう、全然言わない」
Tetsuya 「やるってなると、すでにすごいうまい(笑)。こんな人がこんなできるんだ!って衝撃を受けます」
――自分がすごく楽器をできると思っていたら、まわりはもっとできるみたいな。
Marino 「これはカットしていただきたいんですけど、“目立ちたがり屋のひっこみ思案”なんです」
――なぜそれをカットするんですか(笑)。
Marino 「先輩とかに悪いかなって(笑)」
Ayano 「たしかに天邪鬼的なところはあるかもしれない。自分からやりだしたら、とことんやるというか」
Tetsuya 「やってって言ってもやらないんだけどね」
――バンド自体の数はそれほど多くないんですよね?
Ayano 「たぶんみんな家でやってるんだと思う。探究心がすごいんでしょうね」
Tetsuya 「そうそう。全部自分で作ろうとするし」
――BLACK WAXも、もともとはmikioさん1人の音楽活動がスタートですよね。
Mikio 「そうですね」
Marino 「とにかくマニアが多いんだと思います。家からUSTREAMを配信してるDJとかもいて、その配信してる姿の影が見えたり(笑)。ティンホイッスルがめちゃくちゃうまいおじさんとか、かつてスカウトに来た人がいるぐらい歌がうまいおばさんがスナックにいたり」
Mikio 「そのスナックには久保田さんも一回連れて行ったんですけど、ばんばんリクエストしてました(笑)」
――昔からそういう方が多いってことですね。
Mikio 「カラオケがないときにみんなで演奏したりしてたみたいですね。そういうことが仕事にもなっていたみたいで」
Tetsuya 「でもみんなシャイなんで、呑んで仲良くならないとなかなかやってくれない。で、明け方にステーキ食って帰るんですよ(笑)」
――ここまでBLACK WAXとしては4枚アルバムを出してきて、その独自性もかなり知られてきていると思うんですが、音楽的なことでいうと今後の展望みたいなものはありますか?
Mikio 「もっと広げていきたいですね。〈スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド〉でアフリカの音楽にも触れたんですけど、そういうものとかをもっと取り入れたりしてもおもしろいかなって」
――これまで一年に一枚、といういいペースでアルバムをリリースしてますよね。
Ayano 「普段の練習からオリジナルを作ってみたりしているので、アルバムを目指してというわけではないんですけどね。あれ、もうこんな貯まってたんだみたいな」
――そうなったら久保田さんと連絡して、みたいな。
Tetsuya 「いや、貯まってきたころに久保田さんからちょうど電話かかってくるんですよ(笑)」
Ayano 「久保田さんのほうでそういう暦でも作ってるのかな、と思います(笑)」
ライヴレポート(2015年8月25日 渋谷・WWW)
 8月24日(月)、渋谷・WWW。ライヴミックスに久保田麻琴を、そして競演にグッドラックヘイワを迎えて開催された『VIGOR』のレコ発ライヴ。BLACK WAXが東京でライヴを行うのは2015年に入ってから初めてということもあり、会場には多くの人が集まった。
 怪しげなピアノから、1曲目は「AWA」で幕開け。ピアノに絡むサックスのリフ、そして体を揺らすグルーヴを生むリズム隊。そこにプロデューサーでもある久保田のエフェクトが加わり、より強力な魔力を帯びながら観衆を惹きつけていく。「ISLAND BIRDIE」のカヴァーを挟んで、この日最初のゲストとしてステージに上がったのは、アルバムにも参加している在宮古島のブラジル人クイーカ奏者、ダミアォン・ゴメス・デソウザ。おもむろにクイーカで「ジングルベル」を奏でる陽気すぎる登場で会場の心を掴むと、「SUNNY」「A NIGHT IN TUNISIA」を披露。まるで動物の鳴き声のようなクイーカの音色が、むせかえるような南国の香りを一気に増幅させていく。
 再び4人に戻り披露されたのは、新曲「ETHIOPIA」。その名のとおりエチオンピアン・ジャズをキーにしているものの、地域もジャンルも飛び越えながらモーフィング。旺盛な好奇心とセッションによって音楽を紡ぎ出す、彼らならではの世界で会場を包み込んだ。
 そして、二人目のゲストとして梅津和時が登場。宮古で活動しているため、数少ないという管楽器奏者(しかもMarinoにとってのアイドル)とのセッションの機会に、まさに“寂しさを埋める”かのように、ステージ上で濃密かつリラックスした雰囲気に満ちた会話を繰り広げながら「SONG FOR MY FATHER」と「MANTECA」を披露。Marinoと梅津のせめぎ合いに、ほかのメンバーのプレイも一気に熱を帯びていく。
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 スリルと熱気が同居したサウンドとは裏腹に、人懐こい温かみに満ちた“宮古んちゅ”ならではの語り口で笑わせてくれるMCを挟み、彼らの音楽性を洗練した形で昇華させたオリジナル「AFRO」と「GOLDEN TIME」を披露し本編は終了となったが、鳴り止まない拍手を受けて、ゲストの両名に加えグッドラックヘイワの2人(野村卓史 key / 伊藤大地 ds, 口笛)も参加した8人編成でのアンコールがスタート。「JIVE SAMBA」「BIG CHIEF」といずれもよく知られているスタンダードのなか、セッションの熱はさらに加速。心から音楽を楽しむステージ上の8人の会話に思わず顔がニヤけ、“終わってほしくない”と純粋に思わせるほどの魅力に満ちた風景が繰り広げられた。
取材・文・撮影 / 木村健太(2015年8月)
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