ちゃんみな、集大成ともいえる3rdフル・アルバム その名も『ハレンチ』

ちゃんみな   2021/10/18掲載
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 日本語、韓国語、英語を巧みに操るトリリンガル・ラッパー/シンガーのちゃんみなが3rdフルアルバムを完成させた。その名も『ハレンチ』。インパクトある名前を冠した今作には、「ボイスメモ No. 5」「Angel」「美人」などの既発曲や、「Never Grow Up(Acoustic Version)」を含む、ちゃんみなが掲げる“ジャンルレス”な世界観が全開の全16曲を収録。“ちゃんみなの集大成”とも言える今作について話を聞いた。
NEW ALBUM
ちゃんみな
『ハレンチ』

初回限定盤 CD + DVD WPZL-31896/7 
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『ハレンチ』

通常盤 CD WPCL-13326
――『ハレンチ』を通して聴くと、ちゃんみなさんがご自身のある時期に区切りをつけるような、つまり大人になっていくプロセスが刻まれているような印象を受けました。アルバム通して聴くと1曲単位で聴くのとはまた違った言葉の意味が見えてきて、これは恋愛を描いているように見えるけどじつはそうじゃないのかなとか、構造がダブルミーニングのようにもなっているようにも感じます。
 「毎回、意図みたいなものは決めずに作るというのはあって。アルバムのタイトルが『ハレンチ』というのは先に決めていたんですけど、とにかく自分の等身大になるようなものというか。2020年、もしくは2021年のときの自分をそのまま曲にしている感じなんです。もちろん、いまの時代のサウンド感を気にしたりはします。私の曲に対してダブルミーニングが多いというのはいろんなかたがおっしゃってくれるんですけど、私からすると、ダブルミーニングどころか100ミーニングくらいあるほど感情というのは忙しくて、複雑で。ただ、それを言葉で言い表せないというのは私にとってずっと課題としてあるものなんですね。〈太陽〉も、“太陽だ 雨だ 大地だ 風だ”というのは、ただ君が太陽のように大きくて美しいということでもなくて、すべての感情の話なんです。だからそういうふうに捉えることもできるんじゃないかなと。意図的な要素はとくになくて、感じたままに書いてます」
――そもそも感情とはさまざまな要素が入り組んだものだから、それを描けばおのずと単純なものにはならないと。
 「そうです。複雑ですからね」
ちゃんみな
――タイトルを先に決めていたということですが、『ハレンチ』はどんな経緯で出てきたのでしょうか。
 「人はハレンチって言葉にマイナスなイメージを持つと思うんですよ。近寄りがたいというか、そばに置きたい言葉ではないじゃないですか。それと、カタカナで使われる言葉だから英語だと思っている人もいると思うんです。日本語英語というか」
――外来語みたいな。
 「でも、れっきとした日本語ですよね。漢字もありますし、日本にしかない言葉だし。恥を恥とも思わないこと、恥知らずっていうのは英語だとshamelessとかいろんな言葉がありますけど、ハレンチは独特なニュアンスを含んでいると思います。どこ出身かわからないし、意味があるにもかかわらず、それがどういう意味かちゃんと理解してる人は少ない。そしてマイナスなイメージがあるという3点から、私と共通点があるなとすごく感じました。この日本語を背負えるというか、世界でいちばん似合うのが私なんじゃないかと思って、このタイトルに決めました」
――どこかに属せない、属したいという気持ちを持っていたことがある。
 「もちろんあります。いまでもあると思います」
――それは既存のカテゴリーにはまりにくいところがあるからでしょうか。
 「ジャンル感に関しては、いまは別の悩みに変わっていると思ってます。前は〈I'm a Pop〉みたいなものを出したりしましたけど、ラッパーが歌うというのは別に普通のことで、でも私の場合は振り幅が大きいタイプなので。それは自分が好きでやってることだし、間違ってるとも思っていないし、“違う”と思われるとも思ってなかったというか。そういう感覚でやっていたし、そこと戦ってきたところもありました。でも、私はヒップホップでもいたいし、ロックでもいたいし、ポップでもいたい。みんなと仲良くなりたいのにって思っていました。ほかのところにいる人を“そのジャンルの人”というふうにも思ってないけど、でもやっぱりかたまっているじゃないですか。それが羨ましいなと思った時期もあります。仲間に入れてほしいなと思っていたんですけど、いまはありがたいことに“ちゃんみなはちゃんみな”という認識が広がってきているので、やりやすくなったんですけど、同時にやりにくくもなりました」
――やりにくくなった部分もある。
 「自由になりたくて自由を歌ってきたのに、その自由が首を締め始めているというか。自由すぎてなにをしたらいいんだろうとか、いざ、やりたいことをやっていいよという状態になったら、じゃあどこからやればいいんだろうというところに陥ったりもしました」
――その時期を抜けて完成させたアルバムということなんですよね。
 「やっとです。いまはもう抜けましたね。本当に長いスランプがあったんです。〈美人〉を出すのに半年くらいかかって」
ちゃんみな
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――「美人」に辿り着くまでかなりの数を作ったんですよね。
 「いっぱい作ったので、それの賢者タイムがきて(笑)。賢者タイムが長すぎて、なにしてもすごくつまんない、作っても作っても前の私という状態で。自分に飽きたくないんですよ。すごく飽き性なので、だからいろんな音楽をやるんだと思うんです。これも聴いたことある私だな、これも意外性がないな、というのしか作れなくて、一切曲が書けなくなったんです。わりとすぐ書けるタイプだと思ってたのに。どうしようともがいていた最中に「未成年」の頃以来で自分でイチから作ってできたのが〈ハレンチ〉という曲でした。あの曲のもともとのタイトルは〈麻酔〉だったんです。これを作ったおかげで抜けられたので、これは知らない自分だし、今回のアルバムでやりたかった曲がやっとできたので、タイトル曲にふさわしいなと思って〈ハレンチ〉に変えました」
――「美人」はご自身が身をもって感じてきたルッキズムを扱ったもので、ミュージック・ビデオも含めかなり強力なシングルだったと思います。そこには達成感があったわけですね。
 「大きかったですよ、さすがに。あんなに大きいテーマで自分の言いたいことを踏まえて試行錯誤しないといけなかったので、全体のイメージのバランスや曲調が決まらなくて。それこそ感情がごちゃごちゃしすぎてました。4、5年溜め込んでいた思いだったからこそ、どの曲調にしていいかわらなかったんです。だから〈美人〉と〈ダリア〉でバランスを取ったんです」
――そして「ハレンチ」ができて以降、制作が進んでいって。
 「スランプを抜けて一発目に作ったのが〈太陽〉でした。私にとっての音楽を歌っているような感じなんです。“二度と私を離れないで”と言っているのはそれで。歌詞には離れたという描写はないし、別れたきりなのかなとか、一緒にいるのかどうなのかわからないな、という感じにしているんですけどね。一時は音楽を聴きたくなくなっちゃったんですよね。自分の曲も人の曲も。そういう時期があったからこういう歌詞になったんだと思います」
――音楽のことを歌っているという話も出ましたが、アルバム通して聴くと違う意味も見えてきたというのはまさにそれで。恋愛のようにも取れるし、音楽についてのようにも取れるなと思ったんです。「花火」もそう捉えることもできるのかなと。
 「この曲では“若さ”を歌ってます。今年で23歳になるんですけど、とくに女の子はそのことについて考え出す時期だと思うんです。10代とか20歳くらいのときって、自分が年を取るということが幻のように感じるし、私の場合は年上の人と仕事をすることが多いから、その人たちの腰が痛いとか、皺が、シミが、白髪が、みたいな話は別次元のことのように聞こえていたんです」
――リアリティが湧いてこないですよね。
 「20代序盤までは自分にはそんなのは来ないと思ってる人も多いと思うんです。でも、私も最近、シミって本当にできるんだとか、笑った顔に皺が一本増えたなとか気づいて、これは現実かもと思うようになってきたんですね。私のいまの形が変わっていくにつれて、どういう感情を持つんだろうと思って。寂しいのか、嬉しいのか、諦めるのか、どうなるのかはわからない。でも、私がこの時期にこう歌いたいと思って、あなたと恋をした、2人で支え合ったとか、もしくはファンの人が“私は10代のときにちゃんみなというアーティストに夢中だった”ってなることもあると思うんです。その若さの瞬間を保管しておきたかったんですよね。それが〈花火〉という曲です」
ちゃんみな
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――この曲のあとにピーターパンを題材にした「Never Grow Up (Acoustic Version)」が置かれることによって、永遠だと思っていたこと、でも永遠ではないということと繋がっていきますよね。そういった、限りある時間というのを感じさせる部分がこのアルバムにはたくさんあって。
 「〈未成年〉をリリースした頃は、なんとでも言えよみたいな感じだったと思うんです。17歳なんてまあそういうものじゃないですか。でも、17歳の自分が刻まれている。アルバムというのはフォトアルバムとまったく同じ感覚で、私の人生そのものなんですよね。だから、22歳の私はこういうことだったと」
――人生そのものということですが、「君からの贈り物」のストーリーテリングは衝撃でした。タイトルからは想像もつかない展開で。
 「あはは。私、これ大好き。当時は気づかないんですよね。彼が好きすぎてどうしようとかじゃなくて、気づいたら一緒にいることがストレスになっていて、病院に行かないといけなくなったりするということなんですけど。〈Angel〉のときの彼と別れて、ときが経っていって。そういうのって忘れようと努力したわけでもなく、自然と忘れていくじゃないですか。そういえば私が彼からもらったものってなんだろうと考えたときに、瞑想はあのときすごくつらかったから始めたことだよなと思って。人と付き合ったり別れたりすることに影響はあるじゃないですか。たとえば、相手が綺麗好きだったら綺麗好きになって、別れたあとにその習慣が残るか残らないかということがあると思うんですけど、この場合で残ったのがこのふたつだったということです(笑)」
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――アルバムではさまざまなパーソナルな事柄が歌われていますが、それを表現する方法があまりにバリエーション豊かで。曲によってスタイルや発声が相当違いますよね。
 「歌いかたというのが自分としては楽器と一緒で。歌いかたも作曲のひとつじゃないですか。どういう歌声を出すか、息遣いをするか、強弱をつけるかというすべてのものが作曲に入ると思うので。クラシックもクレッシェンド/デクレッシェンドとかモデラートとかがあるように、私の音楽も当然あっていいんじゃないかなって。これは昔からそうかもしれないです。ここはこういう歌いかたをするんだとか、そういう部分が好きで聴いてたりしてきたので」
――「想像力」はポエトリー・リーディングに近いラップになっています。半生を振り返るという内容と語りのようなラップがすごくハマってますよね。
 「やりたいことが常にいっぱいあるんですけど、〈想像力〉みたいなものを私がファースト・アルバムくらいでやってたら、ちょっと違うと思うんです。最初にこれがきちゃうとなぁ、という。曲のなかではすごく自己中心的ではあるんですけど、曲を出すとかMVを出すという点でめちゃくちゃ客観視するタイプなんです。ちゃんみなというアーティストを客観視して、最初に出すのはこれで、2回目はこれかな、みたいなのがある。サード・アルバムだったらこういうポエトリー・リーディングができるなと思ってやったんです。カードは持っていて、それをいつ出すかみたいなことをしている感覚に近いと思います」
――やりたいことというのはすでにいくつもあって、そのタイミングを伺っているということなんですね。
 「そうです。新しいのが出てきたら、これはいつから寝かせてたものなんだろうと思ってもらえればと」
――「ハレンチ」の終盤のがなるような歌いかたも、曲の展開と完璧にフィットしていて。
 「がなってますね(笑)。でも、ライヴのほうがもっといろんな歌いかたをしちゃってるかもしれないです」
――アルバム中盤の展開もスリリングで、セルフボーストの「ピリオド」も印象的です。
 「これ、めっちゃ韻を踏んでるんですよ。私がなぜこの曲でこんなに硬めで韻を踏んだのかは聴いて考えてもらいたいと思っていて」
――韻踏んでないじゃん警察がいますよね。
 「わかります」
――表現に必要であればきっちりやるし、ということですよね。
 「そうです。だからこれは皮肉というか……私、皮肉を言いたがりなんだと思いますね。自分で話してて性格悪い気がしてきました(笑)」
――そんなことはまったくないと思いますよ。「東京女子」もこれまでになかったタイプの曲ですよね。
 「これが『ハレンチ』のイメージでもあるんですよね。私、定期的に海外に行く人間だったんですよ。お仕事でもなんでも、年に2回は行っていて。吸収しやすい性格なので、海外の面白いものを好きになって、それが自分の血となって肉となっていくんです。でも、いまはコロナがあるから日本にずっといるじゃないですか。2年くらいどこにも行かないのが初めてなんです。この活動をする前も、家族が韓国にいたりするのでどこかしら行っていたので。日本にずっといるから、J-POPとか、東京のキラキラした感じとか目を背けたい感じが入ってきたんじゃないかなと思います。〈東京女子〉は渋谷の繁華街とかを歩きながら聴くとめちゃくちゃハマると思いますよ。人情はないけど、あちこちでドラマがあってそれがぶつかりあっているというのが、ずっと日本にいることによってアートとして好きになったんですね。その気持ちがあって、この曲を書きました」
――コロナが影響しているんですね。
 「むしろ超インドアなんでそんな影響もないと思ってたんですけど、あとからきましたね。旅行に行けないというよりも、制限されている生活というのがストレスフルじゃないですか。マスクしないといけないし、友達と会うのも遠慮するし、22時からご飯に行くのとかってもう夢じゃないですか」
――お店自体がまずやってないですからね。
 「私たちの仕事なんて終わるのが夜遅いし、ヘタしたら1時とかすぎるじゃないですか。終わったからご飯行かない?みたいなことは夢物語ですよ、もはや。もともと飲みに行くタイプでもないし、クラブとかに行くわけでもないので生活自体はそこまで変わってないんですけど、それでも“行ける”という選択肢があったことがすごく大事で。多分私は選択肢がないという人生がいちばん苦痛なんです。誘う、誘わないの選択肢すらない。そういうことの歯車が崩れていくことによって影響がありました」
――自粛間もない頃は休めてよかったという話もされていたと思うんです。でもこれだけ長く続くと、という。
 「あのときは3、4ヵ月で終わると思っていたので。もう無理ですね(笑)。いまも忙しくはあるんですけど、ずっと変なんですよね。薄い重りを乗せられてる感じで、長期的につらいというか。私たちみたいな仕事をしている人たちは友達と外出するだけでもいろいろ言われがちですし」
――(笑)。このあたりでそろそろ締めの時間になりますが、本作を仕上げてみてどんな結果になったと思いますか。
 「結果は言わないです。聴いてくれる人それぞれが思ってくれたことが私にとっての結果なので。このインタビューでおっしゃってくれたこともひとつの結果ですし、その人の聴くタイミングによっても違うと思うんです。なので、私は一作一作の結果については聴く人に委ねたいと思います」
――そのときどきのことを切り取っているというお話でしたが、やはりどこか総括しているというか、一区切りというふうにも受け取れました。
 「たしかにそれはそうですね。がっつり一区切りだ、みたいなことでもないんですけど、意識してるといえば意識してます。なんでこういうアルバムでこういう曲調になったのかというのは、そのうちわかるんじゃないかなと思いますよ」
取材・文/南波一海
撮影/持田 薫
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